相棒(聖剣)が有能すぎて俺は今夜も眠れない   作:機工

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12.特訓とレディーたちの新装備

 とある雨の午下がり。

 たまには部屋でのんびり充電でもと考えたタダシだが、そうは問屋が卸さなかった。

「防ぎ切れないものねぇ。ちょっと呪文を浴びただけでコレだし」

 女子中学生(あや)が難しい顔で腕組みしていた。

 ベッドの上には白目を剥いてヒクヒク痙攣するタダシ。

「これでも手加減しているつもりなんですけど……」

 フレイが困ったような顔をして、タダシをヒーリングしてやった。

「ぬおお……」

 復活させられたタダシがゆらりと身を起こす。

「……また失敗か。いっその事、殺してくれと言いたいぞ」

「まあまあ」

 クリスナーヤがタダシをなだめて肩を揉んでやった。

 

 何故こんな事になっているかと言うと、フレイを迎えてプリーストの奪魂系呪文に対するレジスト取得が、急務だからである。

 精神体であるタダシにとって、奪魂系呪文は天敵と言っても過言ではない。

 タダシ本人に魔法を防御する手段があればいいが、それは無理な話だ。なのでここで言うレジスト取得とは、彩のシールドの庇護下に入ることを意味する。

 以前、彩がタダシのヒーリングに対する過剰反応を処理した際に、ついでに同系統でマイナスベクトルを持つ奪魂系呪文も防御出来るようにしてはいたが、それはフレイのような高レベルの術者が放つ呪文を想定したものではなかった。

 しかもフレイの呪文はハンナの杖のブーストによってさらに強化されることになるから、タダシにしてみれば生命に関わる脅威なのである。

 彩がそのことを思い出して、試しに呪文を唱えてもらったところ、タダシは一撃で悶絶してしまったのだった。

 これは対策が必要というわけで、目下特訓中なのである。

 

「ぐはぁぁぁ……」

「失敗かぁ。もう一回」

「もっと力を弱めましょうか?」

「駄目。シールドも弱くなっちゃうから」

「お、お前ら鬼だ」

「タダシも出来るだけ耐えてよ。その方が結果的に早いんだからさ」

「無茶言うなよ」

 タダシも必要性は認めているので、真面目に取り組んではいた。

 しかしフレイの呪文が強力すぎて、耐える以前に瞬殺なのだった。

 彩によると、奪魂系のベクトルの他にも何か別のエネルギーが乗っているらしい。

 それがはっきりすれば、防御できるはずだと言うのだが。

 

「ノォォォォ……」

「あ~、何となく当たりはついたかも」

「はい起きて下さい。ヒーリング~」

「なんか悪寒がしてきたんだが……」

「それなら私におまかせ下さい」

 タダシが訴えると、クリスナーヤが火球を浮かべて暖めてくれた。

「うう……クリスナーヤが天使に見える」

「甘えてないで、とっとと起きる。フレイ、ちょっと杖なしでやってみて。それなら大丈夫なはず」

「分かりました」

「畜生、少しは俺の身にもなってくれ」

 フレイが詠唱すると目の前に真っ黒な気の塊が現れた。

 ああ、コイツを見るのは何度目だろう。

 コイツにやられたら最後、意識が吹っ飛んでいくんだ……。

 みんな、おやすみ。タダシが覚悟を決めて呪文を浴びる。

「あれ?」

 今度は大丈夫だった。

 多少の気持ち悪さはあったが、ちゃんと立っていられる。

「なるほど、やっぱりそうか。じゃあ、杖ありバージョンでお願い」

 彩が何かつかんだようだ。

 頼むぞ彩。もう悶絶するのは嫌だよ……。

 

「うぇぇぇぇ……」

「あ~、そういうことか」

 そういうことも糞もあるか。

「ぶくぶくぶく……」

 目が回って視界が暗転し、フレイの「ヒーリング~」という脳天気な声と共に意識が浮上する。

 もう起きたくなかった。

「ヒーリング酔いしちゃいましたか? 熱は……ないみたいですけど」

「お?」

 いい匂いがする。タダシが薄目を開けると、思いもかけず絶景が目の前にあった。

 屈んでタダシの様子を見ているフレイの胸元が開き、メロンみたいなオッパイの上半分が覗いている。

「おおお」

 こういうご褒美付きならば、特訓も悪くない。

 いくらだって頑張って見せようじゃないか。

 タダシはたちまち復活した。

「タダシさん、今度は暑いですか」

 クリスナーヤがのぼせた頭をミニマム版ブリザードで冷やしてくれる。

 とても気のきくいい子だった。

 

「次こそ大丈夫だよ。分かったから」

 彩が自信たっぷりに言った。

「ほ、本当だろうな。と言うか、なんでお前は平気なんだ? お前だって精神体の一種なんだろ?」

「あたしはいいの」

 そんな馬鹿な話があるか。

 タダシは大いに不満だった。

「う~ん……例えるなら、子供ってたいてい猫舌でしょ。段々熱いものも平気になる。そういうこと」

「分かったような、分からんような」

 大昔から数え切れないほどの戦いを経験してきた彩に比べたら、自分なんぞ子供みたいなものだ。魔法耐性なんかないに等しい。だからいちいちダメージを受けてしまう。

 一応、納得できないこともなかった。

「あや様はそれでいいのです」

 クリスナーヤみたいに、無条件に信じることが出来れば楽なのだが。

 

「フレイ、またお願い」

「は~い」

 特大の真っ黒な気の塊が現れた時、タダシはとっとと悶絶するつもりで、背後にベッドがあることを確認した。

 フレイが早くも結果を予想してヒーリングの詠唱を開始している。

「ぬおおおっ」

 呪文を浴びた瞬間にぐらりと来た。しかし踏ん張ることは可能だった。

 さっきまではここでぶっ倒れていたのだが。

「おおぉぉぉ」

 そしてタダシは耐え切ることに成功した。

「あ~、やっぱりこっちだったね。オッケー」

「ガン、と来たけど何とか耐えられたぞ。どうなってるんだ?」

「シールド取得完了。もう大丈夫だよ、次からは完全防御できるから」

「おお、やったか」

 下手な魔物と戦うより、はるかにきつかった……。

 タダシは腰が抜けたようにベッドに座り込んだ。

「この種のリンクは初めてかな。あたしも一つ賢くなったよ」

 彩がにっこり笑って指を立てた。

「よし、これで心置きなく探索出来る。味方の呪文でやられたんじゃ、笑い話にもならんからな」

 さすがは俺の相棒だ、今度好きなだけナーチェの実を食わせてやろう。

 タダシは上機嫌で約束するのだった。

 

 

 次にタダシたちが向かったのはギルドだ。

 フレイは数年前にギルド証を取得してはいたが、『F』ランクのまま放置中ということで、この機会に更新することにしたのである。

「私たちはエルド・マール教団の証明があるし、衛兵さんたちとも顔馴染みなので不便はないんです」

 フレイが言い訳した。

 何年も机の引き出しに放り込んだままのフレイのギルド証は、新品同然にピカピカだった。

 まあそうだろうな、とタダシは思う。

 教団所属のプリーストは専業冒険者とは立場が異なる。だからギルドとのつながりもお付き合い程度で事足りるのだろう。

 ザハみたいに、積極的にギルドの依頼を受ける方が少数派なのだ。

 もちろん教団に所属しないプリーストも大勢存在する。他所から流れてきた者たちや、最初から冒険者としてプリーストを目指す者たちだ。数としては、こちらの方が多いだろう。

 

「……一体どういう風の吹き回しなんだ?」

 フレイがタダシたちのパーティに加わったと聞いたガルフは、信じられないと言いたげな顔をした。

 もちろんガルフはフレイが大司教の孫娘であることくらい百も承知だ。

 だから一時的な手伝いならともかく、パーティメンバーとして行動を共にすると聞いて驚いたのである。

「ご心配なく。私が自分で決めたことですし、御爺様の許しもいただいてます」

「そうか。それにしても、よく大司教が許したものだな」

 ガルフがちらとフレイが持つハンナの杖に目をやった。

 ハンナの杖が放つオーラは、キャスター系じゃなくてもそれと分かるほど強力だ。

 これだけの装備を手にしていることだけでも、フレイが本気でタダシたちのパーティに加わる決意をしたことは明らかだった。

「……ま、何か事情があるのだろう」

 ガルフはそれ以上問わずに、フレイのギルド証の更新手続きに応じた。

 直近の戦闘について訊ね、クンベの迷宮地下5階のスライムであると聞いて、黙って『D』ランクのメダルを取り出す。クリスナーヤと同格だ。

「ありがとうございます」

 フレイが嬉しそうにメダルを受け取った。

 

「お前は、最初に会った時からわけの分からん奴だったが、何か美人を惹きつける能力でもあるのか?」

 ガルフがタダシに顔を向けて半分真顔で言った。

「そっちといい、こっちといい、半端じゃないぞ?」

 そう言ってクリスナーヤとフレイに交互にあごをしゃくる。

「し、知らん、知らん」

 別に意識して美人を集めたわけじゃない。タダシがとぼけた。

 そして心の中で「本当はもう一人いるけどな!」と呟くことも忘れない。

「まあ、暗い夜道で刺されないように気をつけろ。たいていの野郎はお前に殺意を抱くだろうからな」

 ガルフが身体を揺すって笑った。

「それとひとつ言わせてもらえば、お前もそろそろ中堅どころだ。お嬢さんたちに専用装備でもあつらえてやったらどうだ? そのくらい稼いでるんだろ?」

「専用装備か。考えたこともなかったが……」

 言われてみると、もっともだと思った。

 クリスナーヤは何の変哲もない旅人のような服装のままだし、フレイが着ている服もあまり戦闘向きとは言いがたい。

 キャスター系は身軽で動きやすい方がいいのだけど、まるで防御能力がないのも考え物だった。

 丁度いい機会かもしれない。

「前向きに検討しようじゃないか」

 タダシが言った。結構乗り気だ。

 

 宿に戻るなり、ノートと鉛筆を準備する。

 さあ、楽しいお絵かきの時間だ。

「早速、クリスナーヤから行くか。そうだな……」

 クリスナーヤの見かけをタダシの元の世界の分類に当てはめるなら、北欧系美人に近い。

 エルフ族は長身の者が多いが、クリスナーヤは比較的小柄な方である。

 スレンダーな体型で流れるような銀髪が特徴だ。

 それならば洋風のコンセプトで……。

 さらさらと鉛筆を走らせるタダシの周りにみんなが集まって、感嘆の声をあげた。

「タダシさんって、絵が上手いのですね」

「あや様の服もデザインしたと聞きました。とても器用です」

「いや、下手の横好きというやつでな」

 タダシがまんざらでもなさそうな顔をする。

 実際のところは、可愛い女の子の絵を上手く描けるようになりたくて、暇な時に練習しているうちにそこそこの腕前になっただけだ。

 別にデザインの専門知識があるわけじゃない。

 

「これは……」

「うむ、メイド服というものだ」

 タダシが描き上がったイラストを示した。

「あまりフリフリのヒラヒラにしない方が似合うと思ったので、ちょっとシャープなイメージに仕上げた。どうだ?」

 ベースはダークグレイで、ブラウスは白。スカートの下に控えめなフリルが覗いており、動きやすい膝丈だった。これに胸当てとアームカバーを組み合わせ、ハーフサイズのマントで魔道士らしさを演出する。

「素敵です!」

 クリスナーヤは大変気に入ったようだった。

 よし、この路線で行こう。

 フレイと彩も加わってわいわい口出ししながら微調整して完成だ。ベルトやらブーツやらと言った追加装備もこの時に決定した。

 

「次はフレイだな」

 こっちはフェロモン全開のナイスボディだが、だからと言ってあまり色気路線で攻めても、大司教に睨まれそうだ。

 下手すると「君たちに孫娘を預けるわけにはいかない」なんて展開もあり得る。

 それは何としても避けなければ。

 品格があって似合う服。ううむ……。

 フレイの髪は肩より少し長い程度で、色は色素の薄いダークブラウン。瞳の色も同じ系統だ。

 案外和風が似合うのではないか。

「彩さんが着ているみたいな制服ってあこがれます」

 そう思ってアイデアを練っていると、フレイが言い出した。

 その身体でミニスカートか……いや、俺は大歓迎だけど。

 タダシは本人の意向を尊重して、いくつかバリエーションを示してやった。

「こいつはセーラー服と言われるものだ。彩が着ているのがブレザー型。他にもジャンパースカートってのもあるぞ」

「わぁ、目移りしてしまいますね」

「可愛いが、難点は防御力だな。プレート類を追加しようにも、デザインを選ぶ」

「なるほど……」

「そこで、俺のお勧めだが……」

 タダシが描いたのは巫女装束だった。

「こういう装備は初めて見ました。とてもいいです。着てみたいです」

 フレイも興味を持ってくれたようだ。

 身を乗り出してタダシの描いた絵を見つめている。

「俺の……その、出身地に神社ってのがあって、そこの女の人が着る服なんだ。分類で言えばプリースト系だし選択は間違ってないはずだ」

 タダシは神社について知っている範囲で説明しつつ、袴は緋色で小袖は白で、と詳細を描き込んでいった。

 そのままでは防御力が足りないのは明らかなので、弓道の胸当てに似たプレートを追加して、足元も脚絆(きゃはん)をベースにアレンジした。

「和風で決めるなら、譲れないのがコイツだ」

 最後に額当てを書き加える。

「鉢巻きみたいに後ろに長めに流すところがミソだな」

「何だか、凜々しく見えますね。御爺様がびっくりする姿が目に浮かびます。腰を抜かさないといいのですけど」

 フレイがイタズラっぽく笑った。

 

 よし、これで決定だ。

 後はガルフにでも腕のいい防具職人を紹介してもらって、採寸に来てもらうなり出向くなりすればいい。

「タダシさんはそのままでいいんですか?」

 クリスナーヤが訊ねた。

 タダシの装備は、最初に毛皮を売った金でそろえた状態から何一つ変わっていない。

「俺の場合は下手に防御を厚くして動きが鈍る方が怖いから、このくらいで丁度いい。身軽に動けることが一番重要なんだ」

 まあ、軽くて良さげな装備でも見つけたら、その時に考えればいいさ。

 タダシは口笛を吹きながら描き散らかした紙をまとめた。

 

 

 フレイが言う『使命』については、まだ何も分からない。

 もし自分たちがそうであるならば、いずれ動きがあるだろう。

 だからタダシは、今まで通りの行動を続けるつもりでいた。

 場数を踏んで力をつけつつ、来たるべき時に備える。

 

 さしあたっての目標は、クンベの迷宮制覇である。

 

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