相棒(聖剣)が有能すぎて俺は今夜も眠れない   作:機工

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13.アンデッドとの戦い

 タダシたちはクンベの迷宮地下6階に進んだ。

 この辺りまで潜ると、他のパーティと遭遇することもあまりない。

 それだけ難易度が高いと言うことである。

 現れる魔物どもは強くなる一方。さらに数種類が群れになって連係攻撃を仕掛けてくることも多く、片時も気を抜けなかった。

 タダシたちの戦法の基本は先制攻撃だ。

 ()られる前に殺る。それは以前から一貫して変わらない。

 

「この先は探索してなかったな」

「北方面はまだですね」

「じゃあ、今日はそっちを調べてみるとするか」

 地下6階は分岐が多くて面倒な構造だった。

 しらみつぶしに地図の空白を埋めていくしかない。

「また小部屋です」

「細かい行き止まりが多いな」

 足音を殺して扉の陰に張り付く。

 フレイが探魂の呪文を使って、内側に潜む魔物の種類と数を探った。

 得られた情報を声に出さずに、身振りでタダシとクリスナーヤに伝える。

 地下5階以降、タダシたちは出会った魔物すべてに、サインを割り当てて共有していた。

 気付かれて攻撃を食らう前に仕留めるためである。

 フレイが人差し指で口元を指して牙の形を作り、それから指を3本立てた。続いて腕で翼の真似をしてから指先をくるくる回し、手のひらをまっすぐ立てた。

 意味するところは、『動きの素早いリザードの魔物3匹と、炎を吐く巨大コウモリ5匹の群れ』である。

 タダシが頷く。

 ふわっ、と頭上に濃密な気の塊が現れた。彩の魔法シールドだ。

 続いてフレイも魔法シールドを二重に張る。

 これで万一魔物どもに気付かれていたとしても、いきなり火炎放射を浴びて黒焦げにされることはない。

 

 クリスナーヤが初撃の詠唱を開始した。

 タダシが立ち上がり、軽く扉を押して罠の有無を探る。

 そして古びた扉がギィと軋んで開きかけた一瞬で敵の位置を把握し、そのまま中に飛び込んだ。

 タダシに続いてフレイ。次にクリスナーヤがぴたりと後に続く。

 クリスナーヤがコウモリどもの位置を確認するなり攻撃に入った。

 竜巻の呪文が発動し、襲いかかってきた巨大コウモリどもを巻き込む。

 風圧で飛ばされた粉じんが渦巻き、壁に当たってパラパラと乾いた音を立てた。

 タダシとフレイが巧みに粉じんを避けつつ、リザードの魔物に向かって突進。

「フレイ、あいつを」

 コウモリどもがきりきり舞いしながら見当違いの方向に炎を噴くのを横目に、タダシが正面のリザードを指差した。

 こいつらは動きが速いから要注意だ。

 攻撃態勢に入る前に倒してしまうのが望ましい。

 タダシが構えた彩を上段から振り降ろした。

 ズバンと重い音を立ててリザード一匹が真っ二つになる。

 そいつの後ろにいたもう一匹も、突然魂を抜かれたように倒れて絶命した。

 フレイの奪魂呪文の直撃を受けたのである。

 運良く竜巻の渦から逃れた一匹のコウモリが火炎を浴びせてきたが、魔法シールドが完璧に防いでくれた。

 そいつも、フレイに麻痺させられて落ちて来たところをタダシが仕留めた。

 そして間髪を入れずに天井付近に現れて膨れ上がるエネルギーの塊。

 ドカン! と爆発音に似た衝撃と共に部屋全体が揺れた。

 クリスナーヤの雷撃だ。

 落雷に相当するエネルギーの前には、空中にあった残りのコウモリどもなど餌食でしかなかった。

 竜巻に巻き込まれて崩れたバランスを取り戻す間もなく、青白い稲妻に貫かれて次々に落下して転がる。

 どの個体も即死だった。ピクリとも動かない。

 焦げた体毛とボロボロになった羽根が、衝撃の大きさを物語っていた。

「もう一匹のリザードはどこだ?」

 確かにリザードの魔物は3匹だった。

(タダシ、上!)

「む」

 見上げると、天井にへばりついて難を逃れた生き残りが飛びかかってきたところだった。

 タダシは咄嗟に身体をかわしつつ彩を突き出したが、間に合わずにザックリ腕を引き裂かれてしまう。

「ちっ」

 相変わらずすばしこいバケモノだ。

 タダシが忌々しそうに半透明になった傷口を押さえる。

回復(ヒーリング)

 傷口は、フレイがすぐに癒やしてくれた。

 やはり本職の回復呪文は段違いだ。このくらいの傷なら、あっという間に塞がってしまう。

 その間にクリスナーヤがリザードを物理シールドに閉じ込めようとしていたが、なかなか捕まらず苦労していた。

「眠らせます。みなさん、壁まで下がって下さい」

 フレイが対集団用の強制睡眠を唱えた。

 部屋全体の広範囲に呪文を展開したせいで効果は薄いが、タダシとしてはそれで充分だった。

 リザードの足がもつれてよろめいた。

 そこへ、『びゅん』と彩の軌跡が迫る。

 次の瞬間には、バケモノの頭部は胴体から離れて床に転がっていた。

 

「こいつはいい稼ぎになるな」

 タダシがリザードの表皮を調べ、玉虫色の鱗を選んで採取した。

 おおむね一体に付き2、3個採れる。

 かさばらないし1個あたり100ゴールドで引き取ってもらえるから、大変効率がいい。

 やはり難易度の高い場所は、見返りも大きいのである。

「奥にもうひとつ部屋があるみたいですね」

 フレイが地図を調べながら言った。

「今日はそこまで調べて引き揚げるとするか」

「了解です」

 

 

 扉の前でフレイが難しい顔をしていた。

 探魂の結果は『異常なし』。と言うことは、普通に考えれば部屋の中は空っぽだ。

 でもハンナの杖が何かに反応しているらしい。

 タダシの勘も、中に敵がいると告げていた。

 現に、複数の足音が漏れ聞こえてくる。

 タダシたちは一旦扉の前から離れた。

 

「アンデッドか……」

「恐らくは」

 パーティでアンデッド系を葬ることが出来るのはフレイだけだ。

 クリスナーヤも1匹や2匹なら何とかなるかもしれないが、そちらははまだ試していない。

 タダシは退路を確認した上で、部屋に踏み込むことを決意した。

「敵の数が分かればいいんだがな……」

 再び扉の陰に立って感覚を研ぎ澄ませる。

 複数いることは間違いなさそうだけど、正確な数までは分からない。

 まずはクリスナーヤの先制攻撃で攪乱するのがいいだろう。

 それからフレイに……。

「うおっ!?」

 作戦を考えているところに、いきなり扉が開いてスケルトンがぬっと顔を出した。

 顔というか、正確にはされこうべなのだが。

 扉の向こう側にスケルトンの大群が見えた。数十匹はいる。

 見た目は肝試しでお馴染みの骨格標本そっくりで、武器は手にしていなかった。

 タダシの目の前でされこうべの顎がくわっと開いた。

 脅かすつもりなのか噛み付こうとしているのか、それは分からない。

「くそったれが!」

 タダシが反射的に彩を振り下ろす。

 グシャッと乾いた枝を踏みつけた時のような音と共に、骸骨が崩壊して床に散らばった。

「シールド!」

 クリスナーヤが扉ギリギリに物理シールドを張って、殺到する骸骨の群れを押しとどめた。

 ひしめく骨が互いにこすれてキシキシ嫌な音を立てる。

「集団用の大回復を使います! 発動するまで足止めして下さい!」

「分かった、任せろ」

 フレイが一歩下がって詠唱を開始した。

 大がかりな魔法は、それだけ発動に手間と時間が必要だ。

 何故、敵に回復呪文なのか。それは、アンデッド系にはプリーストの回復呪文がマイナスに作用して、ダメージを与えるからである。

 スケルトンの圧力で、物理シールドが押し戻されそうになる。

 そいつらは理性を備えておらず、最前列のシールドに接した個体が押し潰されようと、お構いなしで殺到してくるのだった。

「シールドは持ちそうか?」

「はい、大丈夫です」

 これだけのスケルトンに群れに出くわすのは初めてだ。

 タダシたちにとって幸運なことに、敵は数が多いだけで動きは緩慢、統制も取れていなかった。

 クリスナーヤが様子見でブリザードを唱えた。しかし、目立った効果はない。

 渦巻く炎と雷撃のコンボでは半数ほどの骨が崩れたが、見る間にカタカタ鳴りながら再生していく。

「しつこいバケモノだ」

 タダシが足元の骨を踏みつぶした。

 最初にぶっ壊した奴が、何度でも蘇って攻撃してくるのである。

 クリスナーヤが小回復を浴びせるとグシャリと崩壊するものの、動きを停止するには至らない。

 そこへフレイの詠唱が完了した。

 語尾を長く伸ばした韻律がフェイドアウトすると同時に、部屋の内部が暖かな光に満たされる。

「おお」

 何て気持ちよさそうなんだ。

 ヒーリングが大好きなタダシは、思わず中に飛び込みたくなった。

 

 目を見張る威力だった。

 光の中で、スケルトンどもが一斉にバラバラに分解する。

 骨の一本一本が、見る間に枯れ果てて崩れていくのだ。

 まるで、砂像が崩壊するかのような眺めだった。

 部屋中の骨が、音もなくカルシウムの白い塵となって床に散らばる。

 さらに、身体を失って塵の中から浮かび上がるスケルトンの『核』を光が取り込み、分解して消し去った。

 完全消滅である。

 

「フレイ様々だな」

「私たちではどうしようもありませんでした」

 あれだけ大量にいたスケルトンが嘘のように消滅し、辺りは静寂を取り戻した。

「ふふ、アンデッド戦はプリーストの晴れ舞台ですから」

 フレイが笑った。

 プリーストをパーティに加えて正解だった。アンデッド戦は言うまでもなく、普通の魔物相手の時もサポートの有無で効率が段違いだ。

 タダシは認識を新たにするのだった。

 

 

 ガルムンドの町に着くとフレイは寺院に戻り、クリスナーヤはフレド爺さんに訊きたいことがあると言ってギルドに向かった。

 タダシは寺院に誘われたが丁重に辞退した。

 やっぱり大司教なんて立場にある人物には気を使うし、精神的に疲れる。

 出会わなければいいのだが、会ってしまったら相手しないわけにも行かない。

 宿と寺院は結構な距離があるので、フレイもいつもは宿の一室を借りてそこで寝泊まりしていた。

 時々「あれがない」「これがない」と、実家である寺院と宿を行き来しているのである。

 当初は宿にはあまり荷物を持ち込まないつもりでいたようだが、クリスナーヤによると顔を出す度に賑やかになっていくとのことだ。

「俺はどうするかな。まだ早いが、一杯やっていくか」

 タダシはまっすぐ部屋に戻る気にもならなかったので、酒場に寄ることにした。

 息抜きだけが目的ではない。

 冒険者仲間から得られるナマの話は、貴重な情報源なのである。

 

「よう、調子はどうだ」

 注文した飲み物が届くよりも早く、顔見知りの剣士が声をかけてきた。

 タダシが子供に見えるほどの獣人族の大男で、同じくクンベの迷宮地下6階攻略中との事だ。

 地下6階の構造について事前情報をくれたのもこの男だった。

「まあまあだな。今日はスケルトンの大群に出会ったよ」

「勝ったか? ああ、お前のところにゃフレイがいるんだったな」

 剣士があからさまに羨ましそうな表情を見せた。

 何でも、フレイはこれまで誰にパーティに誘われようと、決して首を縦に振らなかったそうだ。

 フレイをパーティに迎えてしばらくの間、タダシは酒場に入る度に質問攻めに遭って閉口したものである。

 一体どうやって口説き落としたのか。

 一体どうやって大司教に認めさせたのか。

 何故、あれほどの美女が二人もパーティにいるのか。不公平ではないのか。

 返答次第では共通の敵として首をあげられそうな勢いだったこともある。

 タダシは『使命』の件以外については、ある程度話してやった。

 しかしそこを省略すると話がつながらなくなってしまい、誰にも納得してもらえないのだった。

 タダシは適当にとぼけておいた。

「はっきり言って、フレイの独壇場だったな」

「だろ? プリースト抜きであの先に進むのは自殺行為だ」

 今のところ、地下6階を攻略しているのは、彼のパーティとタダシたちだけらしかった。

「ところで、下に降りる階段は見つけたか?」

「いや、まだしばらくかかりそうだ」

 タダシは頭の中でマップを思い浮かべた。

 今日でようやく半分と言ったところだ。

「そうか。実はな……」

「何かあったのか?」

 気になる態度だった。

「スケルトンのボスだと思うんだがな。地下7階の階段前に陣取っていて倒せないんだよ」

 剣士が渋面を作ってグラスをあおった。

「そっちにもプリーストはいるんだろ? そんなに強いのか」

「もちろんいる。それでも駄目なんだ。強いと言うか、しぶといと言うか……」

「ふぅむ……」

 タダシが首をひねった。

 アンデッド系のしつこさは経験済みだが、フレイにかかれば紙くず同然だった。

 プリーストに倒せないのであれば、魔法に対するレジストを持っているのかもしれない。

 ボスは当然、雑魚よりも能力が高いとみるべきだろう。

「ものすごくHPが高いのかもなぁ」

 剣士の言っていることからあれこれ想像してみるほかない。しかし、こういう情報は大歓迎である。

「ガルフにも訊いてみたが、そんな魔物は知らんと言われた。新しいタイプなのかもしれん」

「そうか。ガルフも知らない魔物が出るのか」

「まあ、色々試してみるさ」

 剣士はちょっと憂鬱そうな表情を見せて、自分の席に戻って行った。

(何だろうな。分かるか?)

(う~ん、プリーストがいても手こずるなら、スケルトンの変異体か何かじゃないの)

(変異体?)

(想像だけどね。あれじゃ情報が少なすぎるよ)

 彩もはっきりしたことは分からないようだった。

 

 

 しばらく情報収集にいそしんで酒場を出ると、石畳の小径を歩いて行くメイドさんの後ろ姿が目に入った。

 恐ろしく夕暮れの町並みに似合っている。

 誰か絵心のある者がこの瞬間を描いたなら、間違いなく傑作が誕生するに違いなかった。

「おーい」

「あ、タダシさん」

 メイドさんが立ち止まって振り返った。

 たおやかな身のこなしだ。

 言うまでもない。丁度ギルドから戻ってきたクリスナーヤである。

「攻撃魔法に回復魔法の属性を乗せることが出来ないものか、相談してきたのです」

 ああ、アンデッドの件か。タダシはすぐに気がついた。

 クリスナーヤの対集団魔法にアンデッド対策が合わされば、大幅な戦力アップになる。

「フレド爺さんなら何でも出来そうだが……どうだった?」

「はい。習ってきました」

 クリスナーヤがあっさりと答えた。

 きっと彼女だから簡単に習得出来たのだろう。

「効果が乗ったところで小回復ですから、威力は弱いです。でも、連発すれば役に立つと思います」

「いいぞ、攻撃手段は沢山あった方がいい」

「それから、フレドさんの弟子にしていただきました。これからはお師匠様です」

 クリスナーヤが嬉しそうに報告した。

「マジか!」

「はい」

 フレド爺さんは長いこと弟子を取っていないとガルフに聞いた覚えがある。

 どういう風の吹き回しなのか知らないが、クリスナーヤがフレド爺さんの技を身につけてくれたら、こんな素晴らしいことはない。

 タダシは我が事のように喜んだ。

 

 

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