相棒(聖剣)が有能すぎて俺は今夜も眠れない   作:機工

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14.地下6階のボス(1)

 数日かけて、タダシたちはようやく地下7階に降りる階段にたどり着こうとしていた。

 フレイのおかげでアンデッド戦が楽になったとは言え、魔物たちのレベルは高く苦戦の連続である。

 部屋の中は言うに及ばず通路をうろつく魔物も多いので、一時たりとも気を抜けない。

 常に退路を確保しつつの攻略が必須だった。

「これで、やっとマップ完成ですね」

 フレイが手にした地下6階のマップには、メモや注意書きがびっしりと書き込まれていた。

「ああ。結構手間取ったな」

 雑魚どもの『掃除』は終わった。

 後は酒場で聞いたスケルトンのボスとやらの始末だ。

 もはや雑魚という言葉でひとくくりにするのは間違っている気もしたが、ともあれこれで先に進める。

 タダシはクリスナーヤとフレイに、あらかじめ謎のボスの情報を伝えてあった。

 しかし、伝えただけで誰も対処法を知らない。

 なぜアンデッドなのにプリーストの呪文で倒せないのか。そこが分からない以上、しっかりと対策を練る必要があった。

「よし、行ってみるか」

 タダシたちは緊張した面持ちで奥に向かった。

 下に降りる階段は、通路を少し戻った小部屋から伸びる一本道の先にある。

「一回で倒せるとは思わない方がいい。まずは様子見しつつ弱点を探ろうか」

 タダシは長期戦も覚悟するつもりだった。

 

「前方に何かいます」

 まだ階段が見えてこないうちにクリスナーヤが言った。

 フレイが探魂の呪文を用いて、6つの生命反応があることを伝える。

 タダシも何かの気配を感じ取っていた。

「魔物の群れかもしれん」

 警戒しつつ近づくと、骨がぶつかる乾いた音と聞き覚えのある人の声が聞こえてきた。

「何だ、あいつらか」

 その声に、タダシがほっとした表情を見せる。

「他のパーティでしょうか」

 タダシの様子から敵ではないと判断したフレイが警戒を緩めた。

「ああ、この前話した獣人族の連中だ」

 

 小部屋を抜けて視界が開けると、6人編成のパーティが戦っている最中だった。

 全員尻尾の生えた獣人族だ。

 統制が取れており、きびきびといい動きだった。

「ずいぶんと大勢なのですね」

 クリスナーヤは大人数のパーティ戦を経験したことがない。

 中央で目立っているのが酒場で出会ったリーダー格の大男。左右には斧戦士と槍戦士。

 シーフらしき小柄な男が遊撃手として戦士たちを補佐している。

 後衛にはプリーストと魔道士が一人ずつ。キャスター職はどちらも女性だった。

 タダシにしてみれば、羨ましくなるような充実したパーティ編成と言えた。

 リーダー格の大男は「美女を二人も従えているくせに贅沢言うんじゃねぇ」と怒るに違いないだろうが。

 

 小柄なシーフがいい働きをしていた。

「見事なサポートぶりだな……」

 タダシがつぶやく。

 仲間にシーフがいないタダシたちは、たまに宝箱を見つけても罠を解除する手段がなくて大変なのだ。

 諦めて放置するのはもったいないし、罠に引っかかるのも勘弁。

 彩を罠外し担当として使えないかとも考えたが、あっさりと拒否された。

 仕方ないので、タダシは離れた場所からクリスナーヤの魔法で宝箱ごと破壊してもらっていた。もちろん魔法と物理の防御シールドで念入りに囲った上でだ。

 その結果、折角のお宝を灰にしてしまったことも一度や二度ではなかったのである。

 今のところ宝箱の中身は空だったり、干からびた食物だったり、良くても薬草の類いだったりで、実害はなかったが。

 

 獣人族パーティが戦っているのは、スケルトンのボスが率いる一群だった。

 大量の雑魚が群れており、真ん中でひときわ大きな魔物が指揮を執っている。

 タダシたちが以前戦ったことのあるスケルトンとは違って、そいつらは手に粗末な武器を持っていた。

 獣人族パーティの戦法は基本的にタダシたちと同じだ。

 魔道士が攻撃呪文を駆使して雑魚どもを攪乱し、斧戦士と槍戦士が手当たり次第に叩きつぶして回る。

 床が崩れた骨で一杯になった頃合いで、プリーストが呪文を浴びせて消滅させる。

 そこまでは一緒だ。

 しかし、何故か肝心の『核』の部分を残したままだった。

「……」

 フレイが腑に落ちない様子で見ていた。

 プリーストならば、アンデッドは『核』を始末しなければ消えてくれないことくらい承知しているはずだからである。

 だから雑魚どもは時間がたつと次々に復活してしまい、もとの木阿弥なのだった。

 駆け出しならともかく、ここまで辿り着けるレベルのプリーストがそれを知らないなんてあり得ないことだ。

「消したくても消えないのではないでしょうか」

 クリスナーヤも首をかしげていた。

 だとすると、敵の数が多いだけに厄介だ。

「普通のスケルトンとは違う種類なのかもしれませんね」

 フレイが難しい顔でつぶやいた。

 

 ボスと対峙しているのは大男とシーフだ。

 こちらも苦戦していることが明らかだった。

 物理ダメージが入ったタイミングでプリーストが呪文を浴びせても、崩壊には至らずあっという間に回復してしまう。

「あまり戦況は良くなさそうだな」

「そうですね……」

 特に、負担が集中するプリーストの疲労の色が濃かった。

 雑魚どもとボスの両方に呪文をかけ続けなければならないのだ。

 マナを大分削られているようだった。

 

「お~い、加勢するぞ?」

 タダシが邪魔をしないように気を使いつつ声をかけた。

「おう、いいところに来てくれた!」

 大男が振り向いて笑顔を見せる。

「クリスナーヤ、早速で悪いがマナを分けてやってもらえるか」

 タダシが小声で言った。

「分かりました」

 クリスナーヤの頭上に魔力伝達の糸が現れて獣人族のプリーストと接続した。

 たちまちマナが満タンに回復した獣人族のプリーストが、信じられないと言いたげに目を見張る。それから「あなたは大丈夫なの?」とクリスナーヤを気遣った。

「問題ありません」

 クリスナーヤは涼しい顔をしていた。実際、ちょっとくらいマナが減ったところで何の影響もないのだ。

「気にしなくていいぞ。クリスナーヤのマナは無尽蔵みたいなものだから」

 タダシが苦笑した。

 

「大変みたいだな」

 タダシはボスの相手を手伝うことにして、大男の横に立った。

「試しにしばらくこいつらと戦ってみるか? 嫌になってくると思うぞ」

 大男はげんなりした様子だった。

 汗だくで文字通り身体から湯気が立っている。

「見たところ、プリーストの呪文が効かないようだが」

「ああ。ぶっ潰してもぶっ潰しても復活しやがる」

 ここのスケルトンどもは他とは明らかに違うらしい。

「大した攻撃力がないことだけが唯一の救いだよ」と、斬りかかってきた雑魚に太刀を浴びせる。

「際限がないとは正にこの事だ」

 大男が崩壊した骨を腹立たしげに蹴飛ばして足元を掃除した。

 それから散らばった骨が集まって再生し始めるのを横目に「クソが」と毒づく。

「ずっとこの繰り返しなんだ。やってられんよ」

「これじゃ、どれだけ忍耐強いやつでも音を上げるだろうな」

 タダシが見渡したところ、ボスを中心に群がる手下共は100匹を下らないと思われた。

 こいつらが無限再生しながら向かってくるのだからたまらない。

 

「アンデッドの『核』が破壊できないの。こんなの初めてだわ」

 元気を取り戻した獣人族のプリーストが、ひたすら呪文を唱え続ける作業に戻りつつぼやいた。

「何故なんだろうな。フレイ、ちょっと試してみてくれ」

 タダシが振り返って言った。

「それじゃ、大回復を使ってみますね」

 フレイの呪文はハンナの杖のブーストがある分、強力なはずだ。

 タダシはもしかしたらと期待したのだが……

「……たしかに、『核』が残ってしまいますね」

 フレイの呪文で周囲の雑魚が一斉に崩壊した。

 獣人族の連中はその威力に驚いていたが、フレイは首を横に振るばかりだった。

 『核』を始末出来ていないせいで、倒した先から骨がカタカタ鳴りながら復活し始めたからである。

「いや、数は少ないが消えてるな」

 大男が床に目をやって言った。

 見ると、わずかではあるが床に散らばったまま取り残された骨がある。

 『核』を失って再生できなかった個体がいる証拠だ。

「全く効かないわけじゃないってことか」

 タダシが考え込んだ。

 確率は低くても始末することは可能……。

 しかしマナ長者のクリスナーヤならともかく、フレイは上位魔法を連発し続けるのは無理だ。

 それに、大回復は詠唱に時間がかかるので連発に向いていない。

「魔法でゴリ押しは無理だな……」

 

「タダシさん、ボスが手下の復活をコントロールしているようです」

 後ろでクリスナーヤがじっと敵の動きを観察していた。

「やはりコイツか……」

 そんな気はしていた。そのボスはタダシの目の前にいる。

「はい。何か特別な能力を持っています」

「ああ、そうだろ。コイツは自分ではほとんど攻撃してこない。その代わりに手下の骨どもを操っているんだ。分類するなら召喚師になるんだろうな」

 散々戦ってボスの動きを熟知している大男も同意した。

「……ってことは、コイツを倒せば手下を無力化出来るんじゃないか」

 タダシが試しに彩を振りかぶって真っ正面からボスを斬り下ろした。

 グワシャ、と派手な音を立てて骨が散乱する。

 小柄な人間の剣士が見せた攻撃力に、大男が「おおぅ」と身体をのけ反らせた。

 獣人族の他の戦士たちも、タダシが持つ不思議な光る剣をチラチラ見ている。

「フレイ、『回復』だ。クリスナーヤも『小回復』を連発してみてくれ」

 タダシが床に残ったボスの『核』を指さした。

「了解です」

 雑魚でも駄目だったのだから、倒すのは無理だろう。でも何かヒントが見つかるかもしれない。

 見ていると、ボスの『核』は二人がかりの呪文にも耐えた。

 しかしわずかだが『核』の外殻にヒビが入ることが確認出来た。

 破壊するには至らなくても、ノーダメージではないようだ。

「確かにしぶといな」

「だろ?」

 大男が肩をすくめた。さすがに疲労を隠せない。

 今日で5回目の挑戦だそうだ。

「いくら俺たち獣人族がタフでも、体力には限界がある。朝からこれじゃいい加減にしやがれって感じだ」

「ああ、気持ちは分かる」

 タダシが同情して見せた。

「何とかして『核』を破壊できればいいのですが……」

 フレイが思案顔で呟く。

「方法はあると思う」

 タダシは目の前で再生を果たしたばかりのボスにもう一太刀浴びせて、バラバラになってもらった。

 手下どもを操られると鬱陶しいからである。

「取りあえず、今日のところは撤収だ。こっちの体力が持たん」

 大男がパーティに合図した。

「戻って作戦を立てよう。いいか?」

「ああ、分かった」

 タダシたちも呼応して、ボスが再生する前に退却にかかった。

 

 

 ガルムンドの町に戻ったタダシたちは酒場に直行した。

 もちろん作戦会議のためである。

 大男をはじめとして、獣人族パーティは疲れ果てた様子で言葉少なだった。

「ぷはー、生き返る」

 元の世界のビールに似た飲み物を一気にあおった大男が、少しだけ元気を取り戻した。

「早速だが……」

 タダシが謎のスケルトンについて分かっていることを整理した。

 プリーストの呪文がほとんど効かず、とどめを刺せないこと。

 ボスが手下共を操っていると思われること。

 単体レベルの攻撃力は低く、動きも鈍いこと。

「そして唯一希望を持てるのが、『回復』呪文連発でボスの『核』にヒビが入ったことだ」

「ああ。ボスを倒せばおそらく手下共も動かなくなる。だから何としてもボスをやっつけないことには疲れ果てて終わりってことだ」

 大男が頷いた。

「作戦的には、僕たち物理攻撃系と魔道士で雑魚どもを引き受けている間に、プリースト総掛かりでボスの核を破壊してもらうって感じになるのかな」

 獣人族パーティのシーフが言った。

「破壊可能かどうか、そこが問題なんだけどね」

 女プリーストは懐疑的だった。これまでどれだけ呪文を浴びせてもほとんど効果がなかったのだ。

「『核』に殻があるってことは、魔法シールドみたいなものだろ。それって他の呪文で無効化できないのかな」

 タダシが思いつきを口にすると、女プリーストが首を横に振った。

「とっくに試したわよ。強制睡眠、呪文封じ、目くらまし、その他諸々。全部無効だったわ」

「魔導系の呪文も効果なしよ」

 女魔道士が付け加える。

「そうか……」

 タダシが肩を落とした。

 

「あや様なら何とかしてくれそうな気がします」

 クリスナーヤが言い出した。彼女にとって彩は絶対的な存在に等しい。

「どうかなぁ……一応、訊いてみるけど」

「ん、お前の不思議な光る剣のことか? そう言えばどこにやった?」

 大男が今更のように気付いて、机の下まで覗き込む。

「ああ、普段は俺の心の中にいる。いろんな特技を持っているんだ。信じられんかもしれないけど」

 何だそれは。どういうことだと、獣人族パーティが大騒ぎになった。

「ひょっとして古代の魔法の剣……なのか?」

 大男も『伝説の剣』について耳にしたことくらいはあるようだった。

「まあ、そんなところだ。俺も詳しいことは分からんよ」

「ううむ、神話の類いだろうと思っていたが、実在するとは。驚きだ……」

 絶句する大男。

 まあ、混乱するのが普通の反応である。

 タダシはそれ以上余計なことを口にするのはやめておいた。

 

(おい、期待されてしまってるぞ。何とかなりそうか?)

(う~ん、『気』を集中させることは出来るわよ。効果の程は分からないけど)

(集中?)

 タダシが問い返した。漠然としていてイメージが伝わってこない。

(ほら、レンズで光を集めると紙が燃えるでしょ。回復呪文のエネルギーを一点に集中させると、それと同じ効果が期待できるってこと)

(ほほう……)

 タダシはこれは使えそうだと思った。訊いてみるものである。

(具体的にどうすればいいんだ?)

(簡単よ。ボスの『核』のヒビが入ったところに剣先を当てるだけ)

(それで剣先をターゲットに回復呪文を連発か。なるほど……)

 

 作戦をみんなに説明したところ、たちまち賛成票が集まった。

 誰も他に起死回生の秘策などないので飛びつくしかなかった事情は別にしても、充分に試す価値はありそうだった。

「思いも寄らぬ作戦を思いつくものだな」

「ああ。だが、唯一有効なプリーストの呪文をブーストってのは理にかなってる。俺は上手くいくと思うぞ」

 獣人族パーティの戦士たちが感心していた。

「殻を破壊することさえ出来ればこっちの勝ちだ。フレイ、最強の回復系呪文って何だ?」

「やはり『蘇生』でしょうか。大量のマナを必要とするけど、力は桁違いです」

 フレイが即答した。

「よし、そいつで行こう。クリスナーヤは『小回復』の多重発動を頼む。そっちはどうだ?」

「あたしは『完全回復』が最高レベル。残念ながら『蘇生』は使えないの」

 獣人族のプリーストが言った。

 冒険者としてプリーストを目指した口なので、『蘇生』に代表されるエルド・マール教団の秘術に触れる機会がないそうだ。

「上等だ気にするな。三人がかりでエネルギーをぶち込めば、いくらしぶとい骸骨野郎だって耐えられないだろうよ。わははははっ」

 大男がすっかり元気を取り戻していた。

 早くも勝ったつもりで「ざまあみやがれ」と酒のおかわりを頼んでいる。

 獣人族の特性なのかたまたまなのか、リーダーの大男が元気になるとパーティメンバーも一斉に陽気になるのだった。

 

 そして……。

「タダシちゃ~ん、もっと飲んで~」

「うぉぉ、息が出来んだろうがっ」

 フレイはアルコールが入ると抱きつき魔に変身した。

 その横でクリスナーヤがスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。

 彩がタダシの心の中で羨ましそうにぶつぶつ言っていた。

「うはははっ、これでやっと地下7階に進めるぜぃ」

「お、お前らっ! 喜ぶのは倒してからにしろって!」

「しけた顔してないで飲みなさいよぉ」

 エンジンのかかった獣人族に対抗するのは、タダシには困難であった。

 

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