相棒(聖剣)が有能すぎて俺は今夜も眠れない   作:機工

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15.地下6階のボス(2)

 そして再挑戦である。

「ちくしょう、横からちょっかいを出してくる雑魚が邪魔でかなわん」

 タダシがボスを相手に苛立った表情を見せていた。

 ボスに壁を背負わせたいのだが、雑魚が多すぎて思うように動けない。

 タダシの役割はボスと手下を引き離し、作戦を発動すること。そして彩を通してボスの核を破壊すること。責任重大だ。

 プリースト二人は力を溜めつつ、後ろでじっと合図を待っている。

 クリスナーヤと獣人族パーティの魔道士がシールドを張って大量の雑魚を分断し、物理攻撃組を支援していた。

「呪文で雑魚を追っ払いましょうか?」

 フレイが群がる雑魚に手を焼くタダシを見かねて訊ねた。

「いや、いい……プリーストの呪文は温存しておきたい」

 タダシが唸った。

 位置取りが思わしくない。

 このままでは雑魚に呪文の詠唱を邪魔されてしまう。

 作戦を成功させるには、雑魚をプリーストに近づけないことが必須なのだ。

「畜生、昨日より雑魚が増えてないか」

「手伝うぞ」

 雑魚を手当たり次第にぶっ壊して回っていた大男が戻って来るなり、グローブほどもある手でボスをむんずとつかんだ。

 そのまま力任せに壁際に引きずって行く。

「なんて馬鹿力だ」

 タダシが呆れた声を出した。

「このくらい、どうってことないさ。ほらよ!」

 大男がボスの身体を隅っこの壁に叩きつけた。

 そしてすぐに回れ右して、周囲にひしめく雑魚どもを押し戻す。

 頼もしい働きぶりだった。

「サンキュー、これなら何とかなる」

 タダシがフレイを振り返って指を立てた。

 作戦開始だ。

 

 まずは、発動に時間のかかる『蘇生』の詠唱から。

 タダシたちはあらかじめ呪文発動の順番について打ち合わせてあった。

 最初に獣人族のプリーストが『完全回復』でボスの核にヒビを入れる。

 すかさず彩を通して、フレイの『蘇生』とクリスナーヤの多重『小回復』を浴びせて核を破壊。

 タイミングが合わないと、再詠唱に時間を取られて失敗に終わる可能性が高い。

 『核』を破壊しなければすぐに再生してしまうので、一からやり直しになってしまう。

「お前ら、心してかかれよ。ボスを倒すまでは怪我してもヒーリングなしだからな」

 大男の檄に、仲間たちが「応」と声を合わせる。

 物理攻撃組がプリーストと魔道士を真ん中に円陣を組んで、鉄壁の防御陣を敷いた。

 彼らの使命は雑魚の攻撃を一手に引き受けること。

 

「これよりプリーストに合流します」

「はいよ、後はお任せ!」

 クリスナーヤが魔道士の役割を獣人族パーティの魔道士に託して、身体の周りにいくつもの『小回復』を封じ込めた気の塊を浮かべた。

 同時にマナの雲を漂わせてすぐに補給できるように備える。

 マナ長者のクリスナーヤだから可能な技だ。

「そぅれ、ドカーン!」

 獣人族パーティの魔道士が、雑魚の密度の高いところを狙って雷撃を撃ち込み続ける。

 対集団用の魔法はマナ消費量も大きいが、クリスナーヤのマナ雲から魔力伝達の糸を通して補給してもらえるので、マナ切れの心配は不要だ。

 落雷の轟音が間断なく響き、床が振動した。

 雑魚どもは破壊してもすぐに復活してしまう。だから気休めと言えば気休めなのだが、力押しで突破されるのを防ぐ効果は期待できた。

 

「あたしも詠唱に入るわ」

 フレイの横で獣人族のプリーストが『完全回復』の詠唱を開始した。

 彼女の役割はボスの『核』にヒビを入れることだ。

 『大回復』でヒビが入ることは確認済なので、上位呪文の『完全回復』ならばしくじることはないはず。

「よし、絶対に成功させるぞ」

 タダシが詠唱完了のタイミングを見計らって彩を振りかぶった。

「せいやっ!」

 ボスを真っ二つにする勢いで頭部目がけて振り下ろす。

 グワシャッと小気味よい音を立てて骸骨が崩壊した。

「ここを狙ってくれ」

 タダシが散乱した骨をかき分けて『核』を探し出した。

 間髪を入れずに次のステップに入らないとならない。

「完全回復!」

 獣人族のプリーストが両手を拡げてエネルギーを解放する。

 頭上の空間に暖色の大きな光球が現れた。

 降り注ぐ光が『核』を包み込む。

 それはタダシたちには癒やしの光だが、アンデッドにとっては死の刃だ。

 『核』が苦悶するように踊り、固い殻の表面にクモの巣状にヒビが走った。

「いいぞ、オッケー」

 予定通り。

 タダシがひび割れた部分に剣先を突き刺した。

 獣人族のプリーストが万一に備えて次弾の詠唱に入る。

(彩、頼むぞ)

(任せて)

 隣ではフレイがまさに『蘇生』の詠唱を終えようとしていた。

 ハンナの杖から立ち上るオーラが、フレイの身体全体を包み込んで揺らぐ。

 同時にクリスナーヤが浮かべた『小回復』群が、一斉に彩の周りに集まった。

 

 その刹那。

「クケッ」

 タダシの視界の隅を茶色っぽいものがよぎった。

 サルのような、人のような。

 視線だけ動かして確認すると、図鑑に出てくる類人猿にそっくりの魔物だった。

 どこから入り込んだのか知らないが、味方であろう筈がない。

「何者だっ!」

「くっ、こんな時に……」

 物理攻撃組が動揺してざわめく。

 中止か続行か。タダシが唇を噛んだ。

「クソがっ」

 タダシが答えを出すよりも早く、獣人族の大男が跳んだ。

 天井近くまで跳躍した巨体が雑魚どもの頭上を越え、一直線に敵に斬りかかるのが見えた。

「続けろ、こいつは俺が引き受ける! お前たちも持ち場を動くな!」

「任せたぞ!」

 タダシが顔をボスの『核』に向けたまま叫んだ。

 あの男ならば大丈夫。タダシは再び意識を剣先に集中させた。

 

 彩の刀身が直視できないほど真っ白に光り輝いていた。

「蘇生!」

 フレイがエルド・マール教団秘伝の最強呪文を開放した。

 パァッと辺りが真夏の戸外よりも明るくホワイトアウトして、タダシの目の前に巨大な光球が現れた。

 先ほどの『完全回復』とは比較にならないほどの大きなエネルギーの塊だ。

 フレイの長く垂らした額当ての先が、エネルギー風を受けてひらひら揺らぐ。

「はぁっ!」

 フレイが光球に向かって手をかざした。

 光球から断続的にシャワーのように光が降り注いで刀身に吸い込まれる。

 更にそこに幾筋ものクリスナーヤの『小回復』が合流した。

(うっわ、すごい力だわ)

 彩の興奮した声が聞こえた。

「ぬおおっ!」

 タダシの身体が感電したかのように反応した。

 渾身の力で剣先を押さえつけていないと、膨大なエネルギーに身体ごと飲み込まれてしまいそうだ。

「行けぇぇぇっ!」

 『核』の近くに散らばっていたボスの身体を構成していた骨など、一瞬で白いカルシウムの粉になってしまった。

 物理攻撃組と対峙している最前列の雑魚どもまでが、とばっちりを受けて消え去る有様だ。

(タダシ、もっと押さえつけて)

(お、おう)

 ただでさえ強力な呪文を、彩がレンズ効果で増幅しているのだ。

 そのエネルギーたるや半端じゃない。

 身体が勝手にビクンビクン震えてしまう。

 タダシは痙攣が止まらないまま、必死で剣先がずれないように押さえ込んだ。

 こんな呪文を食らったんじゃ、死者も安らかに死んでなんかいられないだろう。強引に霊と身体を叩き起こされるようなものだ。

 タダシは舌を巻きつつ、エネルギーの奔流に飲み込まれまいと脚を踏ん張った。

「いやはや、ここまですさまじいとは」

「ザックリやられたはずの傷が跡形もないわい」

 雑魚どもとのせめぎ合いで多かれ少なかれ負傷した物理攻撃組も、光球を取り巻いて回転するダイヤモンドダスト状の光の恩恵により、傷が癒やされていた。

 最前列の一群が消滅した雑魚どもに至っては、近くにいる奴ほど半身が欠けたり頭蓋骨が半分なかったりで、まともな状態にある個体は少なかった。

 

 ボスの『核』に入ったヒビがみるみる拡がり、内部が沸騰したかのように泡立つのが見えた。

 アンデッドの本体である霊体が逃れようともがいているのだ。

 しかしどうあがいたところで、強力なエネルギーの磁場から脱出することはかなわない。

(もう少しだから耐えてね)

(もちろんだ、行けっ!)

 ボスの『核』が小刻みに振動し始めた。

 それがボスの断末魔であると察したタダシが、いよいよ気合いを入れて押さえつける。

 そして、ついにパキーンと『核』が割れて弾けた。

(まだ手を離したら駄目だよ)

(任せろ!)

 光は塵一つ見逃さない。

 蘇生のエネルギーが飛び散る『核』の破片の一つ残らず捕らえ、完全消滅させていく。

 打ち上げ花火が夜空に吸い込まれて消えるが如く、やがて『核』は跡形もなく消え去った。

 

(ふう、もの凄いエネルギーだったな……)

 タダシがゆっくりと息を吐き出す。

 彩の刀身が、触れないほどに熱かった。

 ともあれ、無限再生を繰り返すスケルトンどもは滅びた。

(今のでまたひとつ技を使えるようになったわよ)

 彩が何か習得したようだった。

(ん。どんな技だ?)

 タダシとしても攻撃手段が増えるのは大歓迎だ。

(攻撃に回復系呪文を乗せる事が可能になったわ。つまりタダシにもアンデッドを倒せるって事)

(へぇ。もう突っ立って見ていなくてもよくなるんだな?)

(そうね。素早さや魔法耐性を備えた、厄介なタイプのアンデッドと戦う時は役に立つと思うわよ)

 彩によると、元になるエネルギー源が必要なので、プリーストとのコンボ攻撃が前提らしかった。

(ってことは、事前に打ち合わせしておく必要があるな)

(難しく考えなくてもいいわ。フレイに大回復みたいな広範囲の呪文を唱えてもらうか、クリスナーヤに回復玉を接続してもらうだけ。簡単でしょ)

(ほう、それなら使い勝手が良さそうだ)

 タダシが頷く。

 

 司令塔を失った手下共が混乱に陥っていた。

 ある個体は隣の骨に斬りかかり、別の個体は何をするわけでもなくさまよい歩く。

「大回復!」

 そこへ獣人族のプリーストがとどめの呪文を放った。

 広範囲に降り注ぐ光のシャワーが、残党に容赦なく襲いかかる。

 再生能力を失ったスケルトンなぞ、いくら数が多くても紙くずのようなもの。

 有象無象どもは一時も持ちこたえることなく崩壊し、踏みつけられるだけの塵となった。

 

 

 スケルトンどもが消滅すると同時に、獣人族パーティが一斉に階段の方向に向かった。

 タダシたちも後に続く。

 どの顔も真剣だ。

 大男がいきなり襲いかかってきた魔物をみんなから引き離しつつ戦っているはずなのだが、声も剣戟も聞こえない。

 階段付近はくの字に引っ込んでいて、状況を見通すことが出来なかった。

「おう、無事だったか!」

 大男が肩で息をしながら、背中を向けて立っているのが見えた。

 戦士たちが安堵の声を上げる。

 サルに似た魔物は、大剣に身体を壁面に縫い付けられて息絶えていた。

「終わったならさっさと戻って来い。心配させやがって」

「心配だと? へっ、こんな雑魚。俺様の敵じゃないさ」

 大男が振り返ってニヤリと笑い、「ま、そこそこ強かったけどな」と付け加える。

「見たことのない魔物ね。どこから入り込んだのかしら」

 獣人族のプリーストが魔物の死骸を観察しながら言った。

 確かにこの階にはいなかった魔物だ。

「地下7階から上がってきたんじゃないか? 憶測だけど」

 タダシも近付いて魔物の毛皮を撫でてみた。

 毛足が短くて手触りも良くない。残念ながら、売り物にはならないだろう。

「そんな所だろうな。で、そっちの骨退治は終わったのか?」

「うん。『蘇生』の発動をナマで見る貴重な体験をさせてもらったわ」

「作戦成功か。ま、邪魔は入ったが、一発であのしぶといボスを仕留めたなら上出来だ」

 ようやく皆の顔に笑顔が浮かんだ。

 しかし……。

「ちょっと、手を上げてみていただけます?」

 フレイが一歩進み出た。

 大男の脇腹を押さえた指先から血が滴っているのを見つけたのである。

「あ? こいつか? いや、こんなのどうってことないさ」

 大男が悪さを見つかった小僧みたいな表情を見せた。

「何をやせ我慢してるんですか。これだけ血が出ているのに」

 どうってことないはずがない。フレイがため息をついて詠唱を始めた。

「いや、俺様がこんな雑魚に傷を負わされたとあっちゃ格好が……」

「全く……」

 フレイが有無を言わさず『中回復』を唱えて傷をふさいでやった。

「はは……こいつはどうも」

 大男が頭をかいて照れ笑いする。

 それから「おい、これって自慢になるよな」と横のシーフをつついた。内心では嬉しかったらしい。

「もちろんさ。フレイさん直々にヒーリングしてもらった人なんて、滅多にいないだろうからね」

 シーフが傷が塞がったばかりの脇腹を軽くつつき返した。

「すげえな、完治してる。まるで痛くないぞ」

「ふっ、この幸せ者が」

 戦士がちょっと羨ましそうだった。

 

 

「ようし、今夜は祝勝会だなっ!」

「おおおっ!」

 大男の声に、獣人族パーティが歓声を上げた。

 何故かフレイが「朝まで行っちゃいましょうよ」と煽っている。

 クリスナーヤはちょっと小首をかしげて黙って立っていた。普段と変わらないようだが、タダシが観察したところでは、それは乗り気な場合に見られる仕草だった。

(参ったな。またこいつらのノリに付き合うのか~)

(醒めたふりしちゃって。誰かさんの胸の谷間に埋まりたいくせに)

(いや、アレは回避不能の……)

(はいはい、分かった分かった)

 彩に見抜かれつつも、期待が膨らむタダシであった。

 

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