相棒(聖剣)が有能すぎて俺は今夜も眠れない   作:機工

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3.ギルド証の顛末

「だから、俺が倒したんだってば」

「それを証明しろとさっきから言っている」

「信じてくれよぅ」

 翌日。

 冒険者ギルドに出向いたタダシは、衛兵を相手にした時と同じ苦労を味わっていた。

 そしてやはり、何を言っても信じてもらえない。

 ガルフと名乗ったギルドマスターは、髭の衛兵よりもずっと手強かった。

 すぐに手下をザックじいさんの店に向かわせて、確かにグレートパンサーの毛皮を売りに来た若い奴がいたこと、それがタダシに違いないことの裏付けを取った。でもそれだけでは倒した証明にはならないと言うのである。

「いいか、グレートパンサーは駆け出しが簡単に倒せるような相手じゃないんだ。お前が転売屋じゃないなら、パーティで戦ったんだろ? どうしてごまかす必要がある?」

「ごまかしてないよ。俺が一人で倒したんだって」

 話は堂々巡りだった。

 魔物を一匹でも倒せば、最下位のFランクに認定してもらえるらしいのだが……。

「話にならんな。じゃあ訊くが、お前の武器はどこだ? 素手で戦ったとか言い出したら衛兵を呼ぶからな」

「武器ならある」

「どこに」

「ここに」

 タダシは大まじめに自分の胸に手を当てた。

「お前、魔剣士なのか?」

「何それ」

「魔法を使えるのかと訊いている」

「いいや」

「……」

 大変に旗色が悪いと認めざるを得ない状況だった。

 仕方ない。ここで長剣彩空(こいつ)を構えて見せれば、嘘じゃないと分かってくれるだろう。

「ちょっと見せるだけだからな」

 タダシはおもむろに右手を突き出し、剣を構えるポーズを決めた。

(彩、頼む)

(……)

(おーい)

(……)

 彩は沈黙したままだった。

「お前、何してるんだ?」

 ガルフが哀れむような目つきを向けた。

 彼なりに結論が出たようだ。こいつは頭がイカれている、と。

「よし分かった。飯でも食って行け。それから二度と俺の手を煩わせないでくれ。な?」

「ちょ、俺は正気だって!」

 そしてタダシは追い払われた。

 何かのお肉入りのスープは絶妙な塩加減で旨かったが、ギルド証は手に入らなかった。

 

「……考えてみれば、実験失敗以来初めて食事したな」

 収穫は、食事を摂ろうと思えば摂ることが可能だと分かったことくらいだった。

(あはは、前途多難ね)

「彩! さっき、どうして出てくれなかったんだよぅ」

(だって、あたし見世物じゃないし)

「ちくしょう、恥ずかしかったんだぞ」

(……)

 どうしたものか。タダシは頭を抱えた。

 折角宿を借りたのに、町に出入りできないのは困る。

 いや、あの髭の衛兵に限れば入れてくれないこともなさそうだが、毎回甘い対応をしてくれるだろうか。

「やっぱり、この格好じゃ冒険者に見えないよなぁ」

 タダシは社会人としての経験から、時には形から入ることも重要であることを思い出した。特に初対面の相手の場合はそうだ。

「装備くらい整えるか」

(そうだよ。タダシとグレートパンサーの戦いを見ていた人はいないんだから、剣士らしい格好をして狩りの成果を見せた方が早いよ)

「そうするか」

 

 そしてたちまち昨日の稼ぎが半分ほど吹っ飛んでしまった。

 特に鎧が高い。

 新調したのは上から順にワーハット、シーフ用の軽量皮鎧、剣をぶら下げるベルト、厚織の頑丈そうなパンツ、平底ブーツ、それとインナー一式。

 武器は実用用途に無骨な握りの鋼の短剣。これもいい値段がした。

 イメチェン後のタダシのいでたちはそんな感じだった。

(剣士と言うより、ニンジャかシーフみたいだね。似合う、似合う)

 彩の評価もまずまずである。これなら誰の目にも冒険者に見えるに違いない。

 スマホがあれば記念に一枚撮っておきたいところだった。

「格好がついたところで、早速狩りに出るぞ」

 タダシはやる気満々だ。

 何としてもギルド証を手に入れたい。

 

「おう、昨日のあんちゃんじゃねぇか。毛皮は売れたか?」

 門に向かうと、髭の衛兵が立っていた。幸いタダシのことを覚えていて、あちらから声をかけてきた。

「うん。おかげで宿に泊まれたし、装備もそろえることが出来た。サンキュー」

「そいつぁ良かったな。ほほう、冒険者に転職か? まあ危険は伴うが、転売屋よりはいい稼ぎになるだろうよ」

 彼の認識では、タダシはあくまでも文無しの転売屋なのだった。

「冒険者になるなら、忘れずにギルドに入っとけよ。弱くても何とかなる仕事を回してもらえたりするからな」

「そのギルドだけどさ……」

 タダシはギルドマスターのガルフに追い払われた顛末を愚痴った。

「お前アホだな。ガルフさんにまで同じ嘘をついたのかよ。見破られるに決まってるだろうが」

 髭の衛兵はまったく同情してくれなかった。

「嘘じゃないんだけどなぁ……」

 タダシがため息をつく。

 でもこれ以上こだわっても仕方ない。グレートパンサーの件は忘れた方が良さそうだ。

「まあいいや。これから狩りに出ようと思うんだけど、お勧めの狩り場はあるかな。早いとこ魔物を一匹やっつけて、Fランクでいいから登録してしまいたいんだ」

「そういうことなら、東の丘だな。東は分かるか?」

 髭の衛兵はそう言って、山のふもとに広がる低木が生い茂った一帯を指し示した。

「あの辺は駆け出しの薬草集めにもってこいだ。間違っても弱いうちは逆方向に行くなよ。死ぬるぞ」

 彼の言う逆方向とは、昨日タダシが抜けてきた森のことだった。

 俺、そっちから来たんだけど。でかい魔物を一匹やっつけたんだけど。タダシは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 どうせほら吹きの評価に追い打ちがかかるだけに決まってる。

「分かった、行ってみる。戻ったらまた入れてくれるよな?」

「ああ、お前の顔は覚えた。生きて帰ってこい」

 髭の衛兵に手を振って門を出ようとした時、大きなねずみ色の袋を運び込む男たちとすれ違った。

 重たそうな、丁度人ひとりが入るくらいの大きさの荷物だった。

「……切ねぇな」

 髭の衛兵が呟いて頭を垂れる。

「おい、ヤバいと思ったらすぐ逃げるんだぞ。ああなるんじゃねぇ。いいな?」

「あ、ああ……」

 簡単には死なない身体だ。でも油断は禁物。何が起こるか分からないのだから。

 タダシは気を引き締めた。

 

 髭の衛兵が言う東の丘まで、タダシの足ならば10分あれば余裕だった。つまり駆け足で10分だ。

 ずっと上り坂だったが、平地を走る感覚と何も変わらなかった。

 途中で先行する3人組のパーティに出会い、軽く挨拶して追い抜いた。

 何だあいつの体力はと驚く声が聞こえて、ちょっと気分がいい。

「ついでに薬草も集めて稼ぐか」

(そっちは期待しない方がいいわよ。正直)

「そうなのか」

(ええ。張り切ってるところを悪いけど)

 彩は現実的だった。

 高く売れる特効薬クラスの原料は、簡単に採れる場所にはないそうだ。

 ある程度の怪我ならヒーラーの治療呪文で癒やすのが普通だし、こういう場所で採れる薬草から作られたポーションを買い求めるのは初心者だけらしい。

 ゲームで言えば、HPがちょっとだけ回復するポーションって感じだろうか。タダシは想像した。

(大体合ってるわ)

「じゃあ魔物を狩ってさっさと引き揚げよう。そっちがメインだし……って、なんか噛み付かれてるんだけど」

 いつの間にか、タダシのかかとに毛むくじゃらのヘビみたいな魔物が食らいついていた。

(気をつけて、そいつ猛毒よ!)

「げえっ」

 慌てて彩を実体化させて真っ二つに切って捨てる。

「くそっ、油断も隙もないな」

(噛まれてない?)

「ああ、大丈夫だ。新調したブーツは鉄板入りだからな」

 彩によると、生身の人間がそいつに噛まれた場合、麻痺毒が回って5分持たずにお陀仏だそうだ。

 以前のスニーカーのままだったらヤバいところだった。

 髭の衛兵に気をつけるよう言われたばかりなのになんてザマだ。

「精神体だからと気が緩んでいたのかもしれないな」

 タダシは自分で頬にビンタを食らわせた。

「……取りあえず、1匹確保したぞ」

 絶命したヘビの頭部を拾い上げて獲物袋に入れる。

(それ、薬草よりも高く売れるわよ)

「こんなのが?」

(毒針や罠の材料になるらしいわ)

「そっか。よし、ならば報復戦だ」

 タダシは彩を構えたまま地面に目をこらした。

 するとあっちに一匹、そこにも一匹。よくこんな所でのんびり気を抜いていたものだと呆れるほど、周りは毒ヘビでうじゃうじゃだった。いわゆる保護色で気付けなかったのだ。

 手当たり次第に首を跳ねて回るタダシ。

 ヘビどもは威嚇音を発して時折噛み付いてくるだけで動き自体は鈍かった。

 グレートパンサーとの死闘を経験したタダシにしてみれば、戦いと言うよりも一方的な屠殺だった。

 用心さえ怠らなければ問題ないレベルだ。

 他にもでかいハリネズミみたいな魔物が飛びかかってきたが、一撃でやっつけた。

「こんなものかな」

 用意した獲物袋はすぐに毒ヘビの頭で一杯になった。

 

 

「あれからこれだけ倒して来たと言うのか!?」

 満杯の獲物袋を覗いて、ギルドマスターのガルフは目を剥いた。

 一度はタダシの姿を見るなり「飯を食わせたのは失敗だったか」と天井を仰いだのだが、すぐに評価を改めたようだ。

「これなら問題ないでしょ」

 タダシが胸を張る。

「にわかには信じがたいが……」

 ガルフは毒ヘビの頭を取り出して並べ、目を細めて断面に注目した。

 プロの目で見れば、それが同じ剣によって斬られたものなのか一目瞭然なのである。

「ふむ、見事な切り口だ。その短剣か?」

「いいや」

「ちょっと見せてもらえるか」

「ああ」

 タダシは言われるままに、腰の短剣を抜いてガルフに手渡した。

 しかしガルフは刃に目をやっただけで、失望したような表情を見せて返してよこすのだった。

 それから蒸し返すつもりはないがと前置きした上で、「今朝の変なポーズと、毒ヘビを斬った剣が関係していると言い張るつもりか?」と訊ねた。

「そうだよ。ちょっとご機嫌斜めで現れてくれなかったけどね」

「やれやれ。大法螺吹きなのか、頭のネジが緩んでいるのか」

 ガルフは他にも何か言いかけて口をつぐんだ。

「さてさて、どうしたものだ」

 毒ヘビの頭が拾い物だろうと言いがかりをつけるには無理があった。なぜなら、全て恐ろしく切れ味の良い剣で一刀両断にされていたからである。

 そんな代物をタイミング良く大量に拾うなど、あり得ないことだ。

 だがガルフにしてみれば、タダシの言い分も同じくらい荒唐無稽である。

 悩ましげに眉を寄せるガルフ。

「待てよ……まさか……いや、そんな馬鹿な……」

 急にガルフが立ち上がり、本棚から年季が入って茶色く変色した本を持ってきて開いた。

「ううむ……」

 ページをめくりながら、赤くなったり青くなったりを繰り返すギルドマスターを前に、タダシは大人しく立って待っていた。

 この様子なら、今度こそギルド証を発行してもらえそうで一安心である。

 

「駄目だ、分からん」

 やがてガルフは本を閉じた。求める情報は見つからなかったらしい。

「あのー、ギルド証」

「ああ、分かってる」

 ガルフが顔を上げてタダシを見た。

「……俺は物心ついた時から冒険の世界で生きてきた。だから、底知れぬ力を持つ『いにしえの剣』について耳にしたことはある。あくまで噂だが」

「はあ……」

 このオヤジはいきなり何を言い出すのだろう。いぶかるタダシだが、ガルフの機嫌を損ねるのは得策ではないと分かっているので、大人しく聞くことにした。

「神剣、魔剣あるいは聖剣と呼ばれ、人格を持ち、己が認めた(あるじ)以外は触れることすら叶わぬそうだ。普段は姿を隠し、あるいは生き物の形に化けているが、主が念じるや実体化すると言う」

「……」

「お前の話が本当なら、お前が持っているのはまさにそれだ」

 ガルフの目は真剣だった。

(おい。だそうだが?)

(そう。うふふ……)

「なんか、『うふふ』とか笑ってる」

「そうか……」

 

 信じてやるしかあるまい。

 ガルフが息をついて引き出しを開け、書類を取り出した。

「いいだろう、ここにサインしてくれ。駆け出しはFランクからと決まっているが、これだけの力があるのならEランクで問題ない」

「そいつはありがたい」

「ヤマモト……タダシか。変わった名前だな。どこの出身だ?」

「東の果ての島国さ。ニッポンって言うんだ」

 タダシがちょっと嬉しそうな顔を見せた。

 話がややこしくなるので『異世界』というキーワードは伏せておく。

「毒ヘビの頭は購買に持って行けば買い取ってくれる。そっちの入り口だ。オオハリネズミは俺が買おう。こいつの肉は旨いんだ。ほれ、お前も今朝食ったやつだ」

「げ、こいつって食えるのか!」

 驚くタダシ。確かにビーフとラムを合わせたみたいで美味だった。

「なくすなよ」

 そしてタダシは念願のギルド証を受け取った。

 想像していたカードみたいな物ではなく、首にかけるメダルだった。Eランクの刻印が燦然と輝く。

「そっちでメダルに名前を彫ってもらえる。名無しのままだと無効だから忘れるなよ」

「分かった。サンキュー」

 別れ際にガルフが「お前は大物になるか、馬鹿野郎のまま終わるか、二つに一つのタイプだな」と肩をすくめた。

 

 




2016/10/12 ルビ編集
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