翌日。朝練帰りのタダシは衛兵の一団とすれ違った。衛兵たちは、例の現場の手前から町の奥に向かう、ほとんど人気のない小径を戻ってきたところだった。
各々スコップを手にしたり、担いだりしている。
「よう、朝帰りか?」
最後尾の髭の衛兵がタダシを認めて話しかけてきた。
「馬鹿言え、朝練だ。皆勤賞があるなら貰える自信があるくらいだぞ?」
「そいつぁ熱心なことだ」
「ああ……」
そっちの小径の奥にあるのは墓地だけ。
彼らが昨日の後始末をしてきたところだと察したタダシが、ちょっと気まずそうな顔をした。
「すまん、あんたには問題を起こすなって言われてたのにな」
「ん? ああ、そんな事も言ったかもしれん」
髭の衛兵が大きなあくびをした。夜勤明けらしい。
「勘違いするなよ? 俺は『黙って悪党に命を差し出せ』なんて意味で言ったわけじゃねぇからな?」
「分かってるさ」
「正直言うと、俺もあいつらを見た瞬間にピンと来たんだがな。通行証を持っていやがったから通すしかなかったんだ」
「そうだろうと思ったよ」
タダシは連中が自分たちの後をつけて町に入ってきた時の様子を思い出した。
「だが、もう餓狼団とやらを町に入れることはねぇから安心しろ」
髭の衛兵がタダシの肩を叩いた。町の中で実際に悪事を働いたのだから、追い返す理由が出来たのである。
「で、悪党どもはギルドの方で討伐するんだろ?」
「ガルフが情報を集めてくれている。奴らのアジトが分かり次第動くつもりだろう」
「なるほど。じゃあ、あいつらがいつまでものさばることもないな」
「ああ、そのつもりだ。俺も当事者になっちまったし、さっさと解決したい」
タダシは軽く手を振って髭の衛兵と別れた。
「今日は雨かな……」
空を見上げると、どんよりと曇った空が今にも泣き出しそうだった。
「……迷宮行きはやめとくか」
タダシが宿に戻ってクリスナーヤにマナ回復の呼吸法を習っているところに、ギルドから呼び出しがかかった。餓狼団のアジトが特定出来たのだという。
「まだ昼前だぞ。もう見つけたのか」
ガルフの情報収集力に舌を巻きつつ、ギルドに向かう。
「なに、簡単なこと。襲撃事件があった近辺の地形からアタリをつけただけだ」
ガルフが事もなげに言った。
「ここに砦がある」と、机の上に地図を拡げて一点を指差す。
「その昔、北の帝国との戦いに備えて作られたものだが、今はほとんど使われていない」
偵察隊を向かわせたところ、賊どもの占拠を確認出来たそうだ。
「それにしても、よくこんなに早く分かったものだなぁ」
タダシが正直に感心して見せると、ガルフは「状況証拠から推論すれば、そういう答えになる」と胸を張った。
「襲撃事件は全てこの近辺の街道で発生しているのだ。奴らが戦利品を持ち帰るのに手間がかかる遠方からわざわざ出張して来たとも思えない。とすると、この辺りの建物か洞窟が怪しいという結論になる。分かるか?」
「なるほど……」
偵察隊の報告によると、プレートアーマー姿の男がひときわ目立っていたそうだ。他には弓を装備した連中が10名ほど。
「そいつが支部を率いるボスだろう。残りは装備もバラバラな寄せ集めに見えたと言うから、訓練された部隊ではあるまい。実際に被害に遭った隊商の『弓で武装した山賊たちに包囲された』との証言とも一致する」
「じゃあ、プレートアーマーの戦士を倒せば一件落着なのかな?」
「その通りだ」
ガルフが頷いた。
「奴らが昨夜の3人が戻って来ない理由に気付く前に決着をつけるぞ。さもないと、復讐と称して無関係な旅人や隊商を処刑し始めないとも限らんからな」
昨夜のことがそういう方向につながっていく可能性があるのか。
タダシは想像しただけで嫌な気持ちになった。
ならば、自分とクリスナーヤが出よう。それが一番手っ取り早いのではないか。
クリスナーヤのシールドで矢を防ぎつつ、彩で斬りかかってプレートアーマーもろとも真っ二つ。あるいはクリスナーヤに雷撃を撃ち込んでもらってもいい。
ボスが倒されれば手下共は逃げ出すだろうから、簡単に支部を壊滅に追い込むことが出来る。タダシはそう思った。
「明日にでも、俺たちで討伐してくるよ。乗りかかった舟だし」
「……」
タダシが作戦を提案すると、ガルフは腕組みをして何か考えているようだった。
「念のためにプリーストを一人連れて行け。もちろんこちらで手配する。それと、明日ではなく、今夜だ。夜討ちをかける」
今夜って……雨降ってるんですが。
タダシはどうしてわざわざ雨の中をと思ったが、ガルフが真面目に言っているようなので、異を唱えるのはやめておいた。
「いいか、どんな場合も敵を侮るな。そして備えを怠るな。先のことは誰も知らないんだから」
「ああ、分かっているつもりだが……」
「いいや、俺は分かってないと思うぞ」
ガルフが厳しい顔を見せた。
「夜討ちをかけるのは、弓兵に狙われないため。雨が好都合なのは、闇に加えて敵に発見されづらくするため。プリーストが必要なのは、ヒーリングはもちろん、敵にキャスター系がいた場合に備えるため。これだけで生存確率がぐんと上がる。異論はあるか?」
「……いや、ない」
ガルフが正しい。タダシは認めざるを得なかった。この男はそうやってこの年になるまで死ぬことなく生き延びてきたのだから。
「99パーセントは成功するだろう。1パーセントだけ失敗する恐れがある。その1パーセントをどこまで下げられるか。それがこの世界で生き抜くコツだ」
ガルフがニヤリと笑った。
「そうだな……肝に銘じるよ。特にパーティを組んでからは調子が良いから、いい気になっていたのかもしれない」
「ああ。天狗になりかけた時に思い出せ」
タダシたちは午後遅くにガルムンドの町を出発して砦の手前まで進み、森に潜んで雨宿りしつつ日没を待った。
「完全に本降りだなぁ」
タダシが空を見上げる。
傘なんかあるはずもなく、ずぶ濡れの装備が重く感じられた。
「降り続いてくれた方が、我々には好都合でしょう」
ガルフがつけてくれたザハと名乗るプリーストは、以前豚の魔物退治で一緒になった男だった。無口だが淡々と役割を果たすタイプだったと記憶している。
「はは、ガルフと同じことを言うんだ」
「そりゃ、弓矢で狙い撃ちにされるのは勘弁願いたいですからな」
確かにこの雨では、日が落ちて闇に包まれたら敵からこちらの姿は見えないだろう。
それに、雨は足音も一緒に消してくれる。
「プレートアーマーを装備した戦士がいますね」
クリスナーヤが黒一色の頭巾に長い髪を包み、絡んだ枝の合間に覗くやぐらを見つめていた。
「多分そいつがボスだ。ところで作戦は聞いているよな」
タダシがザハに確認した。
「ええ。サポート役は私にお任せを」
暗くなるのを待ってタダシたちは砦の裏手に移動した。正面から柵を越えるよりも、裏から急襲した方がやぐらに近かったからである。
積み上げられた廃材の陰に身を潜めて敵状を窺う。
「やぐらに登っているのは3人だな。プレートアーマーの戦士と、他に二人」
やぐらの周囲には小屋がいくつかあって、それぞれ明かりが漏れていた。
風に乗って野卑なわめき声や物音が聞こえてくる。
「全部で15、6人ってところでしょうかな」
「だろうな」
この雨の中で夕涼みしようなんて物好きはいないだろうし、そう見積もって問題なさそうだ。
「さて……どう攻めるか。みんなでやぐらに登ったら、さすがに気付かれてしまうぞ」
タダシが思案顔で呟いた。
「無謀な行動は避けた方がよろしいかと」
「だよな。向こうが降りて来てくれたらいいんだがなぁ」
「私が下から雷撃を放ちましょう。この距離なら充分に届きます」
クリスナーヤが提案した。
「やぐらの死角にいる相手を討ち漏らすかもしれませんけど、混乱させることは出来るはずです」
クリスナーヤはほとんど間隔をあけずに魔法を連発することが可能だ。
不意打ちを食らった敵は動くこともままならないだろう。
「状況によっては物理シールドで捕捉します」
「そうするか……」
タダシとザハもそれが妥当だと判断して頷いた。
対集団魔法で複数の敵を同時に攻撃できるアドバンテージを利用しない手はない。
「では私は、小屋から出て来る敵に目くらましを」
「……そして俺がやぐらに駆け登ってボスの首を刎ねる、と」
「決まりですね」
各人の持ち場が決まった。
「行くぞ」
タダシが立ち上がり、身を低くして突撃しやすい位置に移動しようと動いた。
右手には彩が握られている。
彩も空気を読んだのか、刀身の光を消していた。
(この状態のあたしは、いつもより性能が落ちるから注意してね)
(ああ、了解)
すぐに決着を付ける。
「ん?」
タダシがゆっくりと数歩進んだ時、何かが足に引っかかった。
「何だ?」
暗くて確認出来ないが、ワイヤーのような感触だった。
ざわっと嫌な予感が胸をよぎる。
次の瞬間、心に外部から圧力がかかるのが感じられた。
何が起こったんだ?
慌てて足元に目をこらすと黒い紐が絡まっており、その先がやぐらに向かって伸びていた。
「しまった!」
タダシは原始的な罠に引っかかってしまったことに気がついた。
誰かに肘をつかまれ、振り向くとザハが必死の形相で「下がれ」と合図していた。
クリスナーヤは唖然として棒立ちだ。
タダシは咄嗟にクリスナーヤを担ぎ、向きを変えて森の闇の中に身を投じた。
おぼろに霞むザハの輪郭を追って全力で走る。
「賊だっ、てめぇら捕まえろっ!」
すぐに背後が騒がしくなった。叫ぶ声、ドアが開く音、ぬかるんだ地面を走り回る音。
山賊に賊呼ばわりされるのは心外だが、それどころではない。
タダシは何度も枝に引っかかり、木の根っこに足を取られつつもひたすら走った。
ちくしょう、何ということだ。
クリスナーヤに声をかけようとしても、口は開くけど何故か舌が動かない。
「どっちだっ!」
「撃てっ! 撃てっ!」
威勢のいいわめき声に追い立てられながら走る、走る、走る。
闇と雨が幸いして、タダシたちが追っ手に見つかることはなかった。
しばらくは連中が当てずっぽうで放った矢が近くまで飛んできたが、じきに届かなくなった。
立ち止まったザハが背後の気配を探り、今度は横方向に進路を変えて進み始める。タダシも後に続いた。
振り返ると、やぐらのてっぺんがかすかに見えた。
取りあえず逃げ出すことは出来たようだ。
タダシは安堵の息をついて、担いでいたクリスナーヤを降ろしてやった。
大木を盾に、幹の根元に身を伏せる。
聞こえてくるのは葉っぱを打つ雨音だけ。
どう……なっ……て……るん……だ?
そう言おうとしたが、もどかしいほどに舌が回らない。
ザハが口を指差してから首を横に振り、困ったように唇をゆがめた。
タダシと同じように声が出ないようだ。
クリスナーヤは事態が把握できていないらしく、呆けた表情のままだった。
(やられたわね。呪文封じの魔法よ)
彩の声が聞こえた。
(ああ、それで言葉が出ないのか)
山賊に魔法の先制攻撃を食らうとは考えもしなかった。
プレートアーマーの男を倒すことしか眼中になかったのだ。
作戦は大失敗である。
しかもタダシには、呪文封じの魔法を解く手段がない。
こんな経験は初めてだから、いつまで言葉が出ない状態が続くのかも分からなかった。
「……」
体勢を立て直すことは可能だろうか。
最悪、魔法が使えないクリスナーヤとザハは戦力として期待できないだろう。
そうなったら自分一人で突撃するか、それとも撤退するか。
タダシは悩んだ。
敵がばらけている。これは都合が悪い。
弓矢で狙い撃ちにされる。これも都合が悪い。
いくら精神体だからと言っても、寄ってたかって標的にされて平気なはずがない。
頼みの綱の衝撃波はマナ切れの危険があって何度も使えないから、敵が密集してくれないことには効率が悪いし。
「……」
タダシの隣では目を閉じたザハが、ゆっくりとした周期で呼吸法を行っていた。
出直すしかないか。
考えがそちらに傾きかけた時、ザハの低い詠唱が聞こえた。
すっ、と舌を押さえつけていた圧力のようなものが消える。
「やれやれ、敵に先を越されてしまいましたな」
「お……声が出る」
「ええ、解呪の法を使いました」
「あの、どうなったのでしょうか?」
我に返ったクリスナーヤが不安げに訊ねた。
「敵に呪文封じの魔法をかけられたのですよ。私にせよあなたにせよ、キャスター系が呪文を封じられたらお手上げですな」
「すまん、罠に引っかかったのは俺だ」
タダシがきまり悪そうに言った。
「呪文封じの魔法……」
クリスナーヤがショックを受けていた。初めて一瞬で無力化される体験をしたのだから無理もない。
「まあ仕方ないでしょう、私にもあの罠は見えませんでしたから。でも幸い、敵の術者レベルは高くないことが分かりました」
「そうなのか?」
「はい。高レベルの呪文封じをかけられたら、半日は声が出ませんので」
ザハが「敵には本物の呪文封じをお返しいたしましょう」と不敵な笑いを浮かべた。
「レジストをあらかじめ展開しておきますので、あの程度の呪文はもう私に通じません。仮にあなた方に向けられても、すぐに解呪して差し上げます。ご安心を」
タダシは初めてこのプリーストを心強いと感じた。
やはり経験の差は大きいのだ。
「……じゃあ、問題は敵の放つ矢だけだな」
「でしたら、私が物理シールドを張ります。タダシさんはやぐらの敵の殲滅に専念して下さい」
クリスナーヤが言った。
「妙な動きをする奴は私の目くらましで封じましょう」
ザハが付け加える。
「よし、決まったな。呪文封じをかけるのに、どのくらい近づけばいい?」
「なに、敵の姿が見えればそれで充分ですよ」
「分かった……」
タダシが立ち上がった。
クリスナーヤとザハも続く。
(彩。呪文封じに成功したら、思い切り光っていいぞ)
(そう来なくっちゃ)
タダシたちは再びゆっくりと砦に接近した。
薄闇の中を動き回る人影がいくつも確認出来る。山賊たちはまだ捜索を諦めていないようだ。
「魔物が引っかかっただけだろうよ」
「まったくこの雨の中、勘弁して欲しいぜ。お頭は人間だったと言うけどなぁ」
すぐ近くを、やる気のなさそうな二人組が通り過ぎた。
木の幹の裏側に隠れたタダシたちに気付かずに歩いて行く。
多分、命令された通りに動くだけの下っ端だろう。
タダシたちは彼らが遠ざかるのを待って柵を越え、やぐらの下に移動した。
見上げると、先ほどと同じ位置にプレートアーマーの男が立っているのが見えたが、呪文を使った男を特定するにはもう少し場所を変える必要があった。
やぐらの上部は屋根付きの見張り台になっており、敵の立ち位置によっては床の死角に入って隠れてしまうのである。
あまり動くと見つかる危険が ―― いや、別に見つかっても構わないのか。
タダシは作戦を変更しようかとも考えたが、その必要はないと思い直した。
「そっちはもうレジストは効いているのか?」
タダシがささやくと、ザハがやぐらを見据えたままで頷いた。
「それなら、ひとつわざと見つかってやろうと思うんだがどうだ」
「ほほう?」
「そうすれば、敵はまた俺たちを魔法で攻撃しようと姿を見せるだろ」
「なるほど」
ザハがニヤリと笑う。
タダシがクリスナーヤに、シールドを発動するよう合図した。
「おぅい、俺たちを探しているんじゃないのか?」
タダシが進み出て大声で呼ばわった。
その時にはザハはすでに呪文封じの詠唱を終えている。
「何だとぅ!?」
見張り台から3人の男が身を乗り出してタダシたちを見下ろした。
プレートアーマーの男と、ローブ姿の男二人だ。
ザハが「くくく」と喉の奥で笑う。
「こいつら、いつの間に!」
「どこの手の者だ!」
ローブ姿の男が二人同時に詠唱開始の動きを見せた。呪文を使えるのは一人ではなかったのだ。
しかし、その顔はすぐに恐怖に引き攣ることになる。
呪文を封じられ、口を動かすこともままならないことに気付いたのだ。
(彩、出番だぞ)
(はいよ!)
飛び出したタダシが一直線にやぐらを駆け上る。
「逃がすな! 奴らはお頭を狙ってやがるぞ!」
騒ぎに気付いた手下たちが一斉に矢を射かけるが、全てクリスナーヤの物理シールドに弾き返された。
「3人だけだ! ぶっ殺せっ!」
喚きながら剣を抜いて突進してくる敵には、ザハが目くらましを食らわせた。
「ぐわぁっ、見えねぇっ!」
「ひぃぃ、助けてくれっ!」
視界を失ってへたり込む者、四つん這いでわれ先に逃げ出す者、武器を捨てて降参を叫ぶ者、味方の矢に当たって倒れる者などでたちまち阿鼻叫喚の騒ぎである。
「今度はこっちの番だ」
タダシは見張り台に姿を現すと同時に、目の前にいたローブ姿の男を一人斬り捨てた。
慌てて打ち掛かってきた戦士の大剣を、彩を横に構えて受け止める。
その太刀筋は、朝練で様々なレベルの剣士の技を経験したタダシには、単なる力任せの大振りにしか思えなかった。せいぜい『FF』ランクの実力だ。
おそらく奪ったプレートアーマーを着込んだだけのならず者だろう。こんなのが頭であるはずがない。
「うおりゃっ!」
タダシはそいつをプレートアーマーごと袈裟斬りに葬った。
ローブ姿の男のどちらかが頭なのだろうが、片方は倒したし、もう片方も逃がす気はない。だから、どっちだろうと同じことだった。
あと一人。
物音に振り返ると、残ったローブ姿の男がやぐらから真っ逆さまに落ちるのが見えた。
逃亡を図ろうとして足を滑らせたようだ。
タダシは見張り台の端に立って下を見下ろした。男は首を『くの字』に曲げて倒れ、ピクリとも動かない。
「勝手に死んでくれたか。まあいいや」
あちこちから「お頭がやられた」と叫ぶ声が上がった。
敵は文字通りの総崩れである。
目くらましで動けない者を除き、餓狼団なる山賊どもはクモの子を散らすがごとく逃げ去っていなくなった。
ちょっと手間取ったけど任務完了だ。
タダシは悠々とやぐらから降りた。
ガルムンドに戻る道すがら、クリスナーヤが熱心に解呪の呼吸法について質問していた。
呪文封じの恐ろしさが身にしみたのだろう。
ザハがそれならばと、呪文封じの魔法についても伝授してやっている。
呪文封じと解呪は、一体で習得すべきものらしい。
魔法を扱う能力があれば、プリースト系、魔道士系などの制約なく使えるとのことだ。
「ほほう、素晴らしい。たった一度でこの韻律を覚えてしまうとは」
ザハはクリスナーヤの才能に感心することしきりだった。
タダシも一緒に聞いていたが、残念ながらキャスター系の才能には恵まれていないようで、さっぱり理解できなかった。
(大丈夫、呪文封じをあたしのブロックスキルとリンクしたから。今後はよほどレベル差がない限り無効化できるわ)
心の中で彩が得意気に言い出した。
(お、さすがだな。転んでもただでは起きないってか。だけど俺、魔法は使えないからなぁ)
(ナーヤも近くにいれば守ってあげられるわよ。それなら役に立つでしょ)
(マジか。有能すぎる)
(だからまたナーチェの実を買ってね)
(お、おう……)
「タダシさん、何をにやけているのですか」
クリスナーヤに怪しまれたタダシは、笑ってごまかすしかなかった。
降り続いた雨は、ようやく小降りになろうとしていた。