数年前、突如として出現した深海棲艦。各国の海軍はこれの迎撃を行うも、抵抗も出来ずに壊滅...。日に日に激しさを増す内地への攻撃。そこに突如として現れた「艦娘」という存在。彼女らの奮戦により、深海棲艦を押し戻すことに成功した。____教科書にも乗っているような当たり前のことが、ふと頭をよぎる。もちろん「深海棲艦」や「艦娘」と言うくらいだから主戦場は海であり、俺のような陸軍の兵士が活躍することなんてほとんど無い。...そんな事はどうでもいい。俺は頭を左右に軽く振り、目の前の問題に集中しようとする。
そう、俺の今の問題は____
「それでは、判決を言い渡す。」
静まり返った法廷に、裁判長の声が響く。軍法会議で裁かれるなんて可哀想なヤツ。きっとまた無茶な判決なんだろうな。
「被告の階級を少佐に降格。」
降格処分か、今回は結構あま____
「また、被告を新技術の被検体とし、海軍への転属を命じる。」
うひょう!こりゃまたキツい内容だ。前線送りはともかく、新型技術のモルモットとはね。
「____以上。わかったな、新高」
「了解で、あります。」
新高 武 (にいたか たけ)...つまり俺に向けられた言葉に、ほぼ反射的に返事をする。
そう、俺の今の問題は____
____軍法会議にかけられた可哀想なヤツが、俺であるということだ。
軍法会議から数日後、俺は荷物をまとめる傍ら、海軍の新技術について調べていた。最も大部分は軍機密であるため、情報はほとんど公開されていないのだが。心構えは大事だろうなどと誰に話すでもなく呟き、分かったことをメモにとる。
・艦娘は「艤装」とよばれる兵器で攻撃を行う。
・艦娘の艤装は人間が身につけることは出来ない。
・新技術とは人間用の艤装の事である。
...三行。箇条書きで三行分の情報しかない。そもそも陸軍と海軍で情報を共有してないってのが理解出来ん。やり場のない怒りに打ち震えているところに、ドアをノックする音が響く。
「新高少佐、武田少将殿がお呼びです。」
「すぐに行く。」
あと俺は大佐だ!...今は少佐だった...。などと1人で更に怒りをヒートアップさせつつ、俺は少将どのの元へ向かった。
部屋の前についた。武田少将は俺の直接の上官で、気さくなオッサンである。部下からの信頼も絶大であり、例に漏れず俺も少将殿が好きだ。...上官として。
「新高少佐、ただ今参りました!」
ドアの前に立ち、報告を行う。
「入りたまえ。」
重々しい音とともに扉を開け、部屋の中へ進む。シャンデリアに、大きなソファが向かい合うように2つ。その間にはテーブルがあり、上には蝋燭台が置いてある。少将殿はそのさらに奥にある椅子に座っていた。
「来たか。まあ、こちらへ来なさい。」
軽く手招きし、俺を奥へ入るように促す。命じられるままに進み、少将殿の前で止まる。
「まずは、今回の判決だが...残念だったね。」
もしかすると、判決が取り消されたとかいう報告なんじゃないか...などという淡い期待は粉々に打ち砕かれた。
「そう気を落とすなよ新高君。海軍は陸軍よりも給料はいいしさ。新技術は...どうなるか分からんがね。」
やはり新技術については、少将殿も詳しく知らないらしい。
「おっと、別にこんな慰めを言うために君を呼んだわけでは無いんだよ。むしろ私を慰めてほしいくらいだ。」
何言ってるんだこのオッサン...などとは口が裂けても言えないので、少し訝しむ表情をする。
「何言ってるんだこのオッサン...みたいな顔をしてるね。まあいいや...入りなさい。」
背後のドアが、ギィと開く。振り返るとそこには、1人の少女がいた。
「陸軍所属艦娘あきつ丸、ただ今参りました!」
...あまりにもこの場に不釣り合いな見た目に、俺は言葉を失った。ここは陸軍の司令所の中であり、基本は軍人しかいない。もちろん女性兵士もいるにはいるが、みんなゴリ...筋骨隆々な頼もしい女性ばかりだ。それなのに目の前に立つ少女は、兵士というにはあまりにも華奢である。しかし...あきつ丸と名乗るこの少女は、一応軍服を着ている。何処となく凛々しい雰囲気もあるし、まあ軍人ぽいと言えばそうである。
「まあ、色々思う事もあるだろうがね。2人とも入りなさい。」
少将殿の言葉に従い、彼女はこちらへと向かってくる。
「少将殿、これは...?」
「苦労したんだよ?君が海軍に転属になるって聞いてね、1人は寂しいと思って。わざわざ頼み込んで、彼女を君とともに海軍に編入させて貰えることになったんだ。」
ほんとになにやってんだこのオッサンは...。話の流れから彼女は艦娘、それも陸軍所属である。それを海軍に左遷させられる俺のためにつけるなど、普通は有り得ないことだ。
「わざわざ俺のために...ありがとうございます。」
自然と目頭が熱くなる。たった1人の部下のために、この目の前の上官は、各方面に頭を下げ、色々と手配してくれたのだろう。想像もつかない苦労だったに違いない。
「気にすることは無いよ。これから大変だと思うが、遠くから応援しているよ。用件は以上だ。戻って良いぞ。」
「...ありがとう、ございます...!」
零れそうになる涙を堪えつつ、俺は少将殿の部屋をあとにした。
〜sideあきつ丸~
新高殿が去ったので、少将殿の部屋には自分と少将殿だけになりました。
「...少将殿、気になる事があるのであります。」
自分には、どうしても気になることがありました。それはつまり少将殿が、どのようにして自分を新高殿と共に海軍へ転属させるように仕向けたのか、ということであります。私の質問に、少将殿は少し困った顔をしました。
「実はそんなに大したことはしてないんだよ。強いていうなら、相手の趣味につけ込んだってとこかな。」
相手の趣味につけ込む...。弱みを握るという事でありましょうか。少将殿は続けます。
「新高君、なかなか整った顔立ちだろう?実は君の上官が彼のファンでね。」
...自分の上官といえば、中年の殿方であります。えーっとこれは...。
「新高君の写真をね、ちょーっと...彼には内緒にしてくれたまえよ。」
何を言ってるんでありましょうかこのオッサンは...。つまり、上官殿は写真で自分を海軍に渡した事になるのでありますが?
「そうなんだよ。いや、もちろんそれだけじゃ無いがね?ああほら、この写真と同じものなんだが。」
なんという事でありましょうか。...こんな際どい写真を何処で...。
「いやぁ、万事上手くいって良かった。そうだ。親睦を兼ねて今からでも新高君のところに行ったらどうかね。」
「そうするであります...。」
まだ良く知らない新高に同情しつつ、あきつ丸は新高の部屋へと向かった。