Re:ゼロから始める内政官生活   作:町屋ハチロー

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第二話

 朝日が昇り始めた早朝。

 窓を開けて新鮮な空気を目いっぱい吸い込み、吐く。

 肺の中と脳に血液がいきわたる感覚を味わいながら、オットーは大きく体を伸ばす。

 

「ふあぁぁあぁ~……さすがに部屋に泊まり込んで仕事はきつい……。ちょっと仮眠しないと」

 

 ロズワールは最近あちこちに顔を出して精力的に働いている。

 それはスバルとの契約があってのことであり、エミリアを本格的に王へとするための根回しなど様々だ。

 しかしそうなると内政などの仕事をする人間が必要になる。自然オットーにしわ寄せがいくので結果として夜遅くまで働く羽目になっていたのだった。

 

 ロズワール邸には大雑把に分けて、2種類のメンバーがいる。書類整理ができるか、できない組かだ。

 武闘派でそもそも書類とは縁遠いガーフィール。

 読み書きが苦手で常識に疎いスバル。

 王選を勝ち抜くために鋭意勉強中だが、世間知らずでまだまだ仕事は任せられないエミリア等々。

 

 そういったできない組を省くと実は3、4人程度しかロズワール邸では書類仕事を任せられない。

 うち2名はメイドであり、書類仕事よりも炊事洗濯掃除等々と通常業務をこなしているので、やはり仕事を任せるには荷が重い。

 そうして残った仕事ができるメンバーの片方は当主であるロズワールであり、

 

「――そして残りは僕、と。なんでこの屋敷は碌に人材を雇ってないんですかねえ」

 

 なし崩し的にエミリア達の助けをすることになったオットーであった。

 溜息まじりにボヤくオットー。

 そんな彼の姿を見咎める人物がいた。

 

「あら? それは本来なら当主ロズワール様がいらっしゃれば全ての業務が滞りなく終えられるからよ」

「うわぁっ!? あ、あぁラムさんですか。お、おはようございます」

「おはようございます。オットー様」

 

 いきなり背後から声を掛けられたオットーは驚いた様子で背後を振り返り、動揺しながらも挨拶を返す。

 声をかけた少女の方は特に気にした素振りも見えず、背筋をピンと伸ばして丁寧にお辞儀をした。

 メイド姿に身を包み、どこか愛らしさの残るラムと呼ばれた桃色の髪をした少女は冷静な表情を崩さない。

 

「あーっと、さっきのことはですね。あれですよ。ちょっとした呟きといいますか、疲れてたので口を滑らしたといいますか、ああっいえ! 別に本音とかじゃないんですよ、ただ素朴な疑問といいますかねっ!?」

 

 先ほどのボヤきを聞かれたバツの悪さを誤魔化すかのように早めの口調でまくし立てる。ただし、誤魔化すというよりは白状同然の言動だった。

 オットーという人物はからかわれてる場面は多いものの、基本的には冷静沈着である。

 こと商談に関しては商人らしい面持ちで相手と舌戦を繰り広げることもできるし、それなりに場数も踏んでいる。

 ただ彼は脇の甘さや青二才な部分があること。

 ラムという人物が使用人という立場であるものの、雇い主であるロズワールの腹心的立場の人物であることも察しているので変に悪い情報が伝えられると、いずれエミリア陣営から離れた際の商売に影響するという先の先まで考えた末の狼狽えっぷりであった。

 それに対する彼女――ラムは、

 

「……ロズワール様とてお一人では限界があります。どうしようもない場合は人を雇う場合もあるでしょう」

 

 彼の杞憂などどこへやら。気に障った様子もなくラムはいつもの調子で話を続していた。

 オットーはほっとしつつも彼女の言動に首をひねる。

 

「あれ、なんかさっきと言ってること違ってませんか?」

「いいえ別に。ただどこぞの馬鹿なバルスが勝手に約束した油をちゃんと買い取って貰って、内政官としての前金と給金と待遇面込みで契約し、コネや後々の支援まで取り付けた強欲商人崩れの方が何かおっしゃっているな、とは夢にも思ってません」

「耳が痛い痛い痛い。なんで勘弁してください」

「ハッ」

 

 気を付けているつもりでも思わずしてしまったツッコミを鋭く返される。

 苦笑い混じりで即座に白旗を上げるオットーにラムは短く溜息を吐いた。

 適当なことを言うスバルと違って、彼女は正論や相手の弱点を的確に見極め、抉るように会話してくるのでペースを持っていかれるとまず敵わない。

 オットーとしてはただの仕事終わりのテンションで吐いた愚痴で、待遇にケチを付けたいわけでなく。

 ラムとしては主に咎はないのだと指摘したいだけでチクチクと苛めたいわけでなく。

 お互い不幸な遭遇だったのだという空気で会話を一旦仕切りなおす。

 

 そこで会話を終わらせてもよかったのだが、

(でもせっかくなのでいくつか確認しておきたいこともありますし)

 とオットーは「時間があればよろしいですか」と言うと、その言葉に何か察したのか気持ち鋭い目つきのままラムは頷く。

 

 腹に一物があるロズワールを除けば、現在エミリア陣営の頭脳担当はオットーとラムの両翼にかかっている。なので話し合いをする機会も必然多い。

 オットーはただ金を貰えるから、真面目だからという理由だけで動いてはいない。

 下手を打てば自分の命が危なくなる可能性もあり、事実何も知らないままだったら、彼の命は魔女教や聖域での出来事で密かに潰えていただろう。

 

 彼にだって夢はあるのだ。

 王都でも有名な商人ラッセル・フェローや王選候補者アナスタシア・ホーシンのように国を代表する商家を構える、というのは商人なら一度は夢見るもの。

 農家なら大牧場の主、騎士ならば近衛団長等々、誰だって上を求めたがる普通の願い。

 寄り道こそすれ次期王候補の一人であるエミリアやその協力者であるスバルたちと知り合った先に輝かしい未来が待っている可能性はある――目的を達するまでに死ぬわけにはいかない。

 だからこそ最善を尽くす。一度しかない人生を生き抜くために。

 ギラギラと密かに闘志を燃やすオットーに対してラムは、

 

「はぁっ……」

「? どうかされましたかラムさん?」

「なんでもないわ。話を続けましょう」

 

 どこか呆れたような、頭の痛い問題が増えたとばかりに静かに溜息を吐くのだった。

 

 ☆★

 

 

 そうして話が一区切りついたあと、こつこつと足音共に一人の女性が姿を現す。

 

「あら、ここにいましたのねラム。ちょっと休憩するのはいいけれど、さすがに長すぎはしませんか」

「あ、おはようございますフレデリカさん」

「はい、おはようございますオットー様」

 

 金髪に長身。獣を想起わせる鋭い歯とメイド服の上からでもわかるガタイの良さ。

 フレデリカと呼ばれたメイドは朝日に輝く金色を髪を揺らしつつ、オットーに頭を下げる。

 そして顔を上げながらラムに批難のこもった目線を向けるが、

 

「別にラムは通常業務をしていただけよ。滞りなくね。ただそこの商人が呼び止めて話をし続けるから戻るのが遅れただけだわ」

「え、ちょ、ラムさん!?」

 

 しれっとオットーに罪をかぶせるラム。

 

「あらそうでしたの。オットー様、仕事中のメイドを呼びつけるのはよろしくないですわ。旦那様の手前、強くは言いませんがあまり業務に支障が出ると叱られてしまいますし、朝食の品数が寂しいことになってしまいます。主に特定人物だけ」

「いやいやいや! 確かに気づかなかった僕が悪いんですけど、なんか全てこちらが悪いって風になってませんか!? あとさらりと個人攻撃はやめてください」

「ふふふ、冗談ですわ。本気度はほんの9割程度ですのでメイドの戯言だとお思いになって流してください」

「それ物凄く怒ってますよねぇ!? いやほんと謝りますんで胃袋を攻めるのは勘弁してください」

 

 がっくり肩を落とすオットー。

 そんな様子を悪戯っ子がイタズラを成功させたような、笑みを浮かべるフレデリカだった。

 実際のところ別段怒っていないのだが、あまりにも良い反応をしてしまうのでたまにからかいたくなってしまうのだ。

 その様子にラムは呆れ気味に話す。

 

「……こういってはなんだけど、フレデリカもほんと良い性格してるわね」

「当主からして独特、いえ風変わり、まあアレな御方ですからメイドもそうなります」

「ロズワール様はロズワール様よ。それ以上でも以下でもないわ」

「貴女も褒めているような、褒めていないような物言いですわね」

「なんかとりあえず許してもらえたってことでいいんでしょうか?」

「はい、メイドの戯れにお付き合いいただきありがとうございました」

「バルスほどでないないけれど、なかなか良いピエロっぷりだったわよ」

「ほんとここの屋敷の方々は良い性格してますねぇっ!?」

 

 そんなオットーの叫びが朝のロズワール邸で響き渡るのだった――

 

 

 ☆★

 

「それでラム。問題が発生しているなら教えてくれると嬉しいのだけれど。こういっては何だけどスバル様やうちの弟に対してからかうのはいいのだけれど、無暗やたらにそれをやる子だったとは記憶していないですわ」

 

 オットーが去った後、探るような目でフレデリカはラムを見つめる。

 ラムは使用人としてできた少女だ。

 もちろん手を抜くときは積極的に手を抜くが、それは元々体力の無さが起因する。

 鬼族である彼女は昔、ある出来事のせいで角を失ってしまった。角は大気中のマナを集める機能を有しており、それを失うと最悪衰弱死してしまう。

 現在はロズワールのおかげで健康に過ごしてはいるものの、かつての体力を無くしてしまった彼女はほど良く手を抜きながら仕事をするのが常だった。

 

 そんな彼女ならオットーと話すにしてもほどほどに留めてゆっくり体を休めるはずだ。

 付き合いの長いフレデリカだからこそ、ラムの様子を不思議に思うのは無理もなかった。

 

「まあフレデリカなら気づくわよね。……そうね、ちょっとした作戦を考えているの」

「聞いてもいいかしら?」

「ええ」

 

 ラムは一旦言葉を止めたあと、フレデリカを見上げながら、

 

「ロズワール様を除いたうちの馬鹿男3人組が、聖域から帰ってきてからずっと辛気臭い雰囲気を漂わせながら毎日を過ごしているから、その湿っぽい屋敷内の空気を吹き飛ばそうと思っているのよ。いい加減、何かに急かされるように行動しても良いことがないわよって張っ倒したくてたまらない」

 

 難し気な表情のまま、ラムは己の胸の内を話し始めるのだった。




一話完結にしようとしたら結局できなかったという
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