艦これワンドロSSまとめ   作:sarah_nox

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2016年8月17日『霞』

「まったく! 絶対にゆるさないんだから!」

 

 そう肩を怒らせていたのはつい先程。昼食で同席したとき。

 今は執務室に戻る廊下を沈黙とともに歩む。

 彼女の逆鱗に触れてしまったのはもちろん僕なわけだが。

 

 数歩先を歩む霞のサイドテールが早足のリズムに合わせて不機嫌そうに揺れる。

 窓の外を見ると、昼過ぎにもかかわらず雲が重く立ち込め、今にもひと雨降らしそうだ。

 心なしか足取りも重くなる気がしてくるのは気のせいだろうか。

 

 霞のことは秘書艦にして長く、いつも助けられている。

 こういうのもなんだが、彼女の叱咤激励がないとむしろ気合が入らない。

 

「悪かったよ霞。機嫌なおしてくれ、な?」

 

 執務に戻る前にどうにか機嫌を直してもらおうと努力する。

 涙ぐましいがこの雰囲気のまま仕事ができるほどにメンタルは強くない。

 特に彼女は怒ったらそう。怖いのだ。

 

「うるさいわよクズ司令官」

「ほらこのままだと色々支障が出ちゃうだろ?」

「必要なこと以外は黙っていれば、いつもより処理できる枚数も多くなるんじゃない?」

 

 クールなジョークも冴えてますね。僕のハートはズダズダですよ。

 それはともかく、いつもはなんだかんだ時間を置けば機嫌を直してくれるんだけど。

 今日中に愛想良くなってくれたら御の字といったところかな。

 

「じゃあ始めましょう」

 

 執務室に戻るな早々に執務開始を迫ってくる。

 胃が満たされすぎて少し休憩したいのだが、きっと許してくれないだろう。

 

「ガンガン書類を消化しましょう」

「よろしく頼むよ」

「整理はしてあげるからシッカリやるのよ」

「ガンバラセテイタダキマス」

 

 それから執務に集中すること数時間――。

 

 少々雨を降らしたあとに雲はすっかり晴れ、綺麗な夕焼けに染まっている。

 付き合いが長いおかげで書類の進みは早く、とうにノルマは終わっていた。

 しかし週末にどうしても時間を空けたいので少しの残業。

 

 霞に付き合わせるのは悪いと思いながらも甘えてしまう。

 本当に彼女がいなかったら自分一人で仕事ができるのか心配になるほどだ。

 

 出撃しているときはどうしてるかって?

 帰投するたびに大目玉をくらうのがお決まり。

 むしろそれが癖に――。いやいや。

 

「これで終わりかな?」

「そうね。お疲れ様」

「まだ機嫌なおらないのかい?」

「元々悪くないわ。これが普通よ」

 

 確かに着任したての頃はこれよりもキツかったが……。

 

「残してたからいらないと思ったんだよ。プリン――」

 

 もし音が聞こえてたらプツン、とかなってるんだろうな。

 余計なことを言ってしまったなぁ。後の祭りである。

 

「あれはいらないから置いてあったんじゃなくて! 残してあったの!

 楽しみにしてたのに! あとでゆっくり食べようと思ってたのに!

 なんで! 断りもいれないで! 食べるのよ! このクズ!」

「本当に申し訳なかったと思っている」

「今更もうあのプリンは戻ってこないわ! それに――っ!」

「それに?」

「そ、それに……」

 

 言うのを躊躇ったが、少し息を整えて――。

 

「デ、デレデレしすぎなのよ!」

「は?」

「だから! カウンターで受け取るときに間宮さんと二人で楽しそうに……!」

 

 その顔が赤く染まっているのは羞恥か、はたまた夕焼けのせいか。

 思ってもいなかった言葉が来た。

 なるほど、霞にも嫉妬心というものはあるとは驚きである。

 むしろこれが普通……か。

 

「そりゃ私はまだまだだけど! 少しは気にかけてくれたっていいじゃない!」

 

 その一言で少しは悟る。

 ああ、いつも言葉にしてあげていなかったんだなと。

 気が強くても、ちょっとしたことで不安になる普通の子なんだ。

 そっと霞の頭へと手を伸ばし、優しく撫でる。

 

「いつもありがとう。君が秘書艦でものすごく助かってるよ」

「本当?」

 

 撫でられながら上目遣いにこちらを見上げてくる。

 

「ああ本当さ。それに僕は君が厳しいだけの子じゃないって、知ってる。

 いつも気を張らせてすまない。僕がもうもっとしっかりしなきゃな」

「そ、そうよ」

「まあ、すぐにとはいかないが。もう少しの間頼むよ」

「仕方ないわね……。ガンガン行くわよ!」

「それでこそいつもの霞だ」

 

 僕の手から離れた彼女の目には先程の弱気は見られなかった。

 

「プリンの件はお詫びと言ってはなんだが、週末時間が空くんだ。

 だから二人で外に出かけないか?」

「あんたがどうしてもっていうなら――」

「どうしても。頼むよ」

 

 茶化すように両手を合わせ頭を下げる。

 

「しょうがないわね」

 

 そういいながらつれなそうにそっぽを向くが、きっと喜んでくれているだろう。

 

「それで、だ」

 

 咳払いをひとついれ、ある一点を凝視しながら。

 

「間宮さんと比べることはない。霞は霞で、いいじゃないか!」

「――っ!」

 

 夕焼けの光を浴びながらでもわかるほどに顔を真っ赤にした霞は、こっちとの距離を詰めて。

 パァン――。

 僕の頬を叩く小気味のいい音がなり。

 

「もうっ! 知らないったら!」

 

 渾身のビンタを炸裂させた彼女は執務室をあとにした――。

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