3+4=   作:けーおー

3 / 6
これで一旦完結です。
もう少し書きたい気持ちはなくはないですが、他の作品にひとまず集中します。

……感想やリクエストがたくさんあれば、続くかもしれません(小声)


密かな三角関係② Declaration_of_War.

 

「……じゃあ、麦野君、頼んだよ。今日中に、簡単でいいからレポートよろしく」

 

 

「分かりました、所長……、……チッ、あの×××野郎が。今度同じことしやがったら、××して××して……×××してやるからな」

 

 

ぎこちなくなっている自覚はある笑みを何とか顔に貼り付けながら、上司である男性に頭を下げる。

ご機嫌取りくらいしかできない、無能上司を焼き消してしまわなかった私は偉い……はず。

 

部屋を出るや否や、自然と罵詈雑言を舌打ちとともに漏らしてしまいつつ、白衣のポケットから携帯端末を取り出し起動する。

メールの送り先は年下の同居人。

 

苛立ちが抑えきれずに髪をかき乱しながら、突然仕事を押し付けられ帰宅が遅くなる旨を文面に起こす。

もちろん、美琴をからかい気持ちを弄ぶような遊び心は忘れず、メールを読んだ美琴の表情を思い浮かべ、不敵な笑みを浮かべながら送信を終える。

 

 

「さて、と……、ちょっとでも早く帰れるように、ちゃちゃっと片付けましょうか」

 

 

自室として与えられた実験室へと戻り、欠伸混じりに伸びをしながら、機械ばかりで無人の空間で自分に言い聞かせるように呟く。

 

私は現在、研究室で最先端デバイスの開発や基礎研究に携わっている。

電子に関連する能力を持ち、電気電子に関する知識は人並み以上に持っている私にとっては、そこまで難しくない仕事。

特に楽しかったり、やりがいがあったりするわけではないが、給料は十分だし満足している。

 

大学に進学するという道もあったが、汚い仕事で稼いだ貯金を使って過ごしたり、ましてや、今更奨学金をもらったりするのは性に合わず、納得できなかった。

真っ当な仕事をして稼いだ金で自立して過ごす……、それが、汚れきった私が美琴と肩を並べて生きていくための最低条件だと思う。

 

……まあ、随分虫のいい、身勝手な考えだとは自覚している。

 

 

「なーんか、静かに作業してると余計なこと考えちゃうわね……」

 

 

もやもやと頭の中に浮かんでは消える過去や雑念を振り払うように、自嘲気味に呟きながら、クソ野郎に押し付けられた作業を進めていく。

 

セクハラされたり、理不尽を言われたり……、以前の自分だったらすべて消し炭にして、跡形もなく吹き飛ばしているところを何とか我慢し、一社会人としてやっていけているのは美琴のおかげなのだろうか、とふと表情が緩む。

 

たまにはプレゼントでも買って行ってやろうか、などと思考していると、嫌な気持ちはどこへやら効率よく作業が終わり、思ったよりも早く仕事から解放された。

 

 

「んじゃ、お疲れにゃーん……っと」

 

 

適当にこしらえたレポートを送り付けてから、研究室を消灯し施錠して外に出ると、夕日がちょうど沈み終えたところだった。

遅くなるとメールしてしまったが、思ったより早く帰って驚かせてやるのも悪くないと、自然と足取りは軽くなり早足になる。

 

まるで恋する乙女のようだと、柄にもないことを考えながら、近道して帰ろうと暗く細い路地に一歩を踏み入れる。

すると、視線の先には男たちに絡まれている一人の少女。

 

 

「どう見ても、同意じゃない、か……誰かさんの正義感が伝染しちまったか?」

 

 

男たちの行為は少女にとって喜ばしいものではないと観察を終えると、人助け、なんていう以前なら考えられなかった選択肢が浮かび嘆息する。

自分も丸くなったものだと苦笑しながら、少女を取り囲む男の背後に素早く忍び寄り、挨拶代りのハイキックを男の頭部に叩き込む。

 

 

「はいはい、ナンパは終了のお時間でーす。……これ以上やるってなら、私の視界に入らないところでやれ、×××野郎ども」

 

 

ちょっとばかり殺気を込めて言い放つと、男たちは一斉に気色を失い、ブーツで蹴り飛ばし気を失った男を担いで脱兎のごとく去っていく。

 

そんなに怖くはなかっただろう……、いや、怖くなかったでしょ?

自信を失いつつ、残された少女に声をかけようとすると、制服と長い黒髪の容貌に見覚えがあることに気付く。

 

 

「アンタ……、佐天、涙子……?」

 

 

 

----------

 

 

 

……あちゃー……、しくじった。

美琴さんと偶然を装って遭遇し、二人で食事できたという幸運な出来事に舞い上がってしまい、つい裏道を通ってしまったら、案の定、男たちに絡まれてしまった。

 

自分でいっては何だが、この佐天涙子、裏道を通れば絡まれる確率は学園都市トップクラスだと自負はある。

何の助けにもならない自負の間に、男たちの鼻息はどんどん荒くなり、私を取り囲む輪は小さくなってくる。

 

どうしたものだろうかときょろきょろと辺りを見回し、困ったような笑顔で、男たちの言葉をのらりくらりと当たり障りなく躱す。

万策尽きたかと諦めが頭をよぎった瞬間、目の前の男性の身体が吹っ飛ぶ。

 

 

「……ブーツ……!?」

 

 

まるでブーツがいきなり飛んできたようにしかとらえられなかったのは、どうやら助っ人に来てくれた女性のキックだったらしい。

助かったとはいえ、いきなりの強烈な蹴りに少しだけ男性に同情してしまう。

 

夏から秋に変わりかけの時期にぴったりでおしゃれなファッションと、見事なプロポーションに見惚れながら、下から上へと女性の姿をぽけーっと眺めていると、男たちが蜘蛛の子を散らすように去っていく。

 

どうやら助かったようだと安堵の吐息を漏らしながら、お礼を言おうと、初めて女性の顔を視界に入れると、見知った女性であることにようやく気付く。

 

 

「あの、助かりました。ありがとうございます……って、麦野、さん……!?」

 

 

何度か会っただけだが、その顔は忘れない。

麦野沈利……、私の友人の恋人であり、私の恋敵。

 

 

 

----------

 

 

 

気まぐれな善行で助けたのは、美琴の友人、佐天涙子。

以前、美琴と一緒に何度か会って食事をしたために覚えていた顔と名前を目の前の少女と一致させたかと思うと、そのまま強引に佐天の寮へと連れ込まれてしまった。

 

お礼をしたいということだったが、別にそんなものは望んじゃいない。

さっさと帰って美琴の顔を見たい……なんて考えていると、小奇麗ながら女子らしく可愛らしい装飾がされた部屋の中で、小さな丸テーブルの前に座った私に温かい紅茶が運ばれてくる。

 

 

「麦野さん、コーヒー派でしたっけ? まあとりあえず、紅茶どうぞ」

 

 

「ああ、お気遣いどうも。別にどっちでも構わないから」

 

 

ぞんざいな答えを返しながらカップを持つ私と、佐天が向かい合うように座る。

さっさと飲み干して帰りたいところだったが、熱い紅茶ではそうはいかず仕方なくカップに口を付けると、佐天も同様にカップを手に持ってから口を開く。

 

 

「殺気はありがとうございました、助かっちゃいました。今日はちょっと楽しいことがあって浮かれてたんですよー」

 

 

どうでもいい。

私の脳が佐天の言葉を不要な情報だとカットしかけた瞬間、佐天の楽し気な笑みの種類が変わる。

挑発的で、こちらを観察するような獰猛な笑み。

 

 

「美琴さんと一緒に楽しくご飯食べたんですよ。二人きり、で」

 

 

「へえ……、そうだったの」

 

 

こいつ、明らかに私を挑発してやがる。

この私にこんなことができる度胸を密かに称賛し、忘れかけていた佐天の情報が頭の中に徐々に蘇ってくる。

 

美琴に対して好意を持った様子で、何かと私に張り合ってきた大した奴。

この街の頂点に位置するレベル5に対し、仲間や味方といった立場でなく、純粋に友人としていられる奴はそういない。

 

美琴の友人としては認めている佐天に対し、動揺など悟られるわけにはいかない。

感情をこめない平坦な声で答えてやると、明らかにはっきりと笑みを零す佐天。

 

 

「何がおかしい?」

 

 

「麦野さん、動揺が隠しきれてないですよ? 美琴さんにメロメロなんですね……、他の女と食事したってだけで嫉妬を感じちゃうくらいに」

 

 

先ほど男たちに向けた以上の殺気にもまったく怯まず、佐天は強気な雌の笑みを見せてくる。

まったく大した奴だと評価を上方修正していると、次の言葉で場が凍り付く。

 

 

「……そのわりには、美琴さんの扱いが雑すぎるんじゃないですか?」

 

 

「言っていいことと悪いことの区別もつかないのかにゃーん? 消し飛ばすぞ、このビッチな牝猫」

 

 

理性や感情より先に、目の前の標的に能力の照準を合わせてしまう。

言葉通り、人一人を跡形なく消してなお余りある威力の攻撃。

それを鼻先に突きつけられても、佐天の表情は崩れない。

 

それどころか、佐天が優位に立っているかのような場の雰囲気すら感じられる。

そんな状況に舌打ちして、次の佐天の言葉を待つ。

 

 

「美琴さん、言ってましたよ。自分が麦野さんに釣り合ってるのか分からない……、からかわれてるばっかりで、自分はちゃんと隣に並び立てているのか不安……なんて」

 

 

「なっ……!?」

 

 

得意げな笑みを見せながら、蔑みと嫉妬の色を隠そうともしない佐天の言葉に、私は心臓をぎゅっと掴まれたような感覚に陥り、息を飲む。

 

決して私には零そうとしない本音、弱音を佐天には話したという事実……

そして、その内容がどうしようもなく嘘偽りのないものだと察してしまったから。

 

私は二の句が継げず、反論できない。

無防備に腹を晒し降伏する犬のように、佐天に対してなすすべなく弱点を晒してしまっている。

 

隠し切れない動揺を見逃さなかった佐天は、深いため息で場の空気を元の和やかなものに戻す。

 

 

「まったく、せっかく諦めかけてるところだったのに……、絶好のチャンスを目の前にぶら下げられたら困るんですよ」

 

 

「佐天……」

 

 

押しつぶされるような重圧は消え去ったものの、淫靡で強気な笑みはまだ失わずに佐天が告げる。

大して、私は弱気で喘ぐような声しか出せない。

 

圧倒的な彼我の戦力差に絶望すら感じるものの、屈するわけにはいかない。

 

美琴の恋人は、この私……麦野沈利なのだから。

 

 

「今回だけは、美琴さんとの楽しい時間に免じて見逃してあげます。私、まだ、美琴さんのことを完全に諦めたわけじゃないですから。油断し過ぎてると、痛い目見ますよ?」

 

 

「……ハッ、上等だ。私にそんな口きくのは数万年早いってこと、思い知らせてやるよ」

 

 

明らかな宣戦布告に、心臓の鼓動が高まり興奮してくるのがはっきり分かる。

その戦い、受けて立ってやる。

 

いつも通り、普段通りの調子で強気な笑みで言葉を返すと、いつの間にか適温になっていた紅茶を一気に飲み干し、立ち上がる。

 

 

「ご馳走様。今日はこれで失礼するわ」

 

 

「今日は本当にありがとうございました、麦野さん。また一緒に遊びに行きましょうね。……美琴さんも一緒に、ね」

 

 

強敵の存在を再認識しながら、佐天の言葉を正面から受け止めて部屋を後にする。

近頃、少し涼しさを感じるようになってきた夜風に身体が冷まされていくと、感情の高まりが落ち着いてくるとともに空腹感を感じ始める。

 

そういえば、夕食がまだだった……

美琴が何か用意してくれているか、考えを巡らせながら若干駆け足で帰路につく。

 

 

どんなに飢えようが、夕食の前に美琴を頂くのが先だ。

たっぷり抱いて、鳴かせて、乱れさせて……、耳元で飽きるほどの愛を囁いてやろう。

 

近いうちに、美琴が満面の笑みで私にべったりと甘える様子を佐天に見せつけてやろうと決意しながら、待ちきれない足が歩く速さをさらに上げるのだった。

 

 

 

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