どなたか、リクエストか感想をください……
<追記 2016.10.14>
なかなかネタが思いつかないので、一旦完結とさせて頂きます。
もし新たなシチュやカップリングが思いつけば、更新することもあるかもしれません。
「ねえ……、もう一回だけしない? まだまだいけるでしょ?」
「ちょっ……、私の話聞いてた? 今日はこれから友達と……、……んっ……」
カーテンの隙間から一筋差し込む朝日が、ベッド上で絡み合う二人の女の白い肌を照らす。
何も纏わぬ姿で、正面から向き合い御坂と抱き合っている麦野は、わざとらしい猫撫で声で告げると、御坂が顔を赤らめつつ反論する。
御坂の抗議の言葉を、強引な口付けで封じる麦野だったが、御坂は麦野の身体から離れ、ベッドから降りて立ち上がる。
「今日はこれから友達と勉強会なの。……また、帰ってきたら……ね?」
「はぁ……、降参、分かったわ。その約束、忘れないでよ?」
麦野と堕落した時間を過ごし続けるという、魅力的なシチュエーションへの未練を断ち切るため、自らに言い聞かせるように告げる御坂。
諦めたように肩をすくめる麦野もベッドに腰掛け、近くに脱ぎ捨ててあったガウンを纏い、立ち上がる。
「約束なんてなくても、毎晩するくせに……」
「よく分かってるじゃない。朝ご飯用意しとくから、シャワー浴びてきなさい」
軽口を叩き合うと、麦野は朝食の準備のためキッチンへ、御坂はシャワーを浴びに浴室へと向かう。
外出用に御坂が服装を整えてリビングへと戻ると、サラダやコーンフレークなど、簡単な朝食メニューがテーブルに並んでいた。
「ちょうどこっちも準備完了。じゃ、食べましょ」
「ありがと、沈利。……いただきまーす」
ガウン姿のままで朝食の準備を終えた麦野が席に着くと、御坂も椅子に座って二人揃って食事を始める。
手の込んだ料理は不得手な麦野らしい簡素なメニューだが、朝食としては十分以上であり、テレビ番組をBGMに食事を進める二人。
「今日は、高校のクラスメイトと勉強会だっけ? わざわざ休日にお勉強だなんて、学生も大変ねー」
「一応試験も近いしね。まあ、勉強会って言っても、途中から遊びになると思うけど」
「そんなモンでしょうね。別に、アンタは勉強する必要なんてほとんどないでしょ?」
そんなことはない、と苦笑する御坂だったが、通っている高校の授業レベルはそこまで高くないのは確かであり、言葉に詰まる。
談笑を楽しみつつ食事を終えると、御坂は軽く身支度を整え、出発しようとする。
「行ってらっしゃい。私は一日家にいるつもりだから、何かあったら連絡しなさい。あと……、万一、浮気でもしたら――」
「私を殺してアンタも死ぬ、でしょ? 分かってる。じゃあ、行ってくるわ」
玄関先で毎度お決まりの挨拶を終えると、御坂と麦野は軽く唇が触れ合う程度の口付けを交わし、御坂は軽やかな足取りで友人の家へと向かう。
束縛し過ぎてはいけない、依存し過ぎてはいけないと頭では分かっている麦野だったが、自分の元から離れていく御坂を見ると、つい悪癖が出てしまい嘆息する。
「まったく、私もまだまだってことかしらね……」
力ないため息を漏らした麦野は、ガウンをするりと体から落とし、シャワーを浴びに向かう。
御坂のいない一日をどう過ごそうかとぼんやり考えながら、シャワーの温かな水流を頭から浴び始める麦野だった。
----------
「さて、やっぱり暇ね……」
シャワーを浴び終えた麦野は、部屋着の地味なワンピースに着替えて、ソファーにだらしなく寝転がり、興味のないテレビ番組をぼんやりと眺めながら呟く。
自宅に仕事を持って帰るほど仕事熱心ではないし、特に趣味はない麦野は、御坂がいないと時間を持て余すのが常だった。
何か趣味でも作ろうかと、その都度考えることはあったが、麦野の飽きっぽく細かい作業が嫌いな性格が災いし、結局すべて頓挫してしまっていた。
「あー……、腹減ったと思ったら、もうこんな時間か……」
無為に過ごしていると、いつの間にか時間は午後二時過ぎ。
昼食を食べるべき時間がとっくに過ぎていることにようやく気付いた麦野は、ソファーの上で軽く伸びをしてから、嫌々といった様子で立ち上がる。
「冷蔵庫に何かあったかな……、鮭とか鮭とか……、あと、鮭とか……」
買い物は御坂と二人で行くこともあったが、基本的に家事は御坂の領分になってしまっており、冷蔵庫の中身など把握していない麦野。
気だるそうに呟きながら冷蔵庫の前へと到着したと同時に、来客を知らせるチャイムが鳴る。
「あァん……? ったく、この麦野様の食事を妨害するとは、いい度胸だな。せっかくだ、歓迎してやろうか」
いつもなら居留守を決め込むか、インターフォン越しに凄んで見せる麦野だったが、ほんの気紛れで応対することを決め、玄関へと移動する。
好戦的な笑みを浮かべながら、麦野が玄関ドアを開けると、思わぬ来客の姿を視認した瞬間、ドアを素早く閉めようとする。
しかし、ドアを強く掴み返しながら、足を入れてドアを閉まらないようにする訪問客によって、ドアを閉める麦野の行動は阻止されてしまう。
「ちょっと、いきなりドア閉めは酷すぎるんじゃないですかー? 観念して、さっさと美琴さんに会わせて下さいよ」
「チッ、しぶとい奴め……、けど、残念だったわね。美琴は友達との勉強会で留守よ」
「あ、そうなんですか。では失礼します、お邪魔しましたー……」
思わぬ訪問客の正体は、佐天涙子。
目当ての御坂がいないという発言に嘘はないと看破したのか、佐天は踵を返し退却しようとする。
しかし、麦野は佐天の首根っこを掴んでそれを阻止する。
「お前に用事はないが、お前が持ってるものには用事がある。歓迎してあげるから、さっさと上がりなさいよ」
「見抜かれたか……、麦野さんの歓迎って、物騒な意味にしか取れないんですけど……、まあ、このまま帰ってもつまらないですし、せっかくですからお邪魔しますね」
御坂をめぐるライバルである麦野と佐天が憎まれ口を叩き合った結果、佐天は麦野に招き入れられ、麦野と御坂の部屋に入る。
二人で暮らすには十分以上に広く、豪華な部屋には以前も訪れたことのある佐天は、特に驚くこともなくリビングへと通される。
リビングに到着した佐天は、手に持っていた白い箱をテーブルに置く。
「この前オープンした人気のお店のケーキです。せっかく、美琴さんのために買ってきたのに……麦野さんの分もありますから、美琴さんのは取っておいてあげて下さいね?」
「はいはい、ありがとさん。ちゃーんと後で渡しといてやるよ。……うっかり、買ってきたのは誰か忘れそうだけど」
「さすが、大人げないですねー」
ぱちぱちと乾いた拍手を送る佐天を尻目に、ケーキを二つの皿に分けて載せ、残った御坂へのケーキは冷蔵庫へとしまう麦野。
三つのケーキのうち、御坂のためのケーキはどれなのか一目瞭然だった。
歓迎するという麦野の言葉には嘘はなく、二人分のコーヒーを準備して、麦野がリビングに戻ってくると、佐天によって、ケーキがそれぞれの席の前に置かれていた。
「まさか、麦野さんしかいないとは計算外でした……美琴さんだけというのがベストだったんですけど、肝心の美琴さんがいないなんて……」
「それを私の目の前で堂々と口にできることには、尊敬してやるよ。消し炭にされないだけ、ありがたいと思いなさい」
オーソドックスなショートケーキにフォークを入れる佐天がため息とともに呟くと、麦野はその内容に青筋を浮かべる。
自分の前に置かれたチョコレートケーキを一口食べた麦野は、甘さが控えめになっていることに気付く。
「甘さ、控えめになってるのね。それについては素直に礼を言わせてもらおうかしら」
「いえいえ。美琴さん関連の情報は、ちゃんとチェックしてますから。麦野さんの好みも、おまけ程度に頭に入れてますし」
「礼を言った五秒前の私をぶん殴ってやりたくなる気分だわ……」
甘すぎる物は少し苦手な自分の好みに合ったケーキだ、と佐天に感謝の気持ちを伝えた麦野だったが、すぐにその言葉を後悔した。
コーヒーとともにケーキを食べていると、空腹が徐々に紛れてくるのを感じ、満足げに麦野は微笑む。
「アンタのおかげで、昼飯関連の問題はオールクリアね。あとは夕飯か……」
「まさか、このケーキが昼食代わりってことですか!? 美琴さんがいないとダメなんですね……」
「ダメじゃねェよ!」
「だらだらテレビ見て、お昼すらまともに食べてない人間がダメじゃなかったら、一体何なんですか?」
佐天の正論ド直球な言葉に麦野は言い返すことができず、悔しげに呻く。
ちなみに、私はちゃんと料理も洗濯も家事は一通りできる、という佐天の言葉にさらにダメージを受ける麦野を尻目に、やれやれといった様子で肩をすくめる佐天は、もう一口ケーキを口に運ぶ。
「そんな自堕落な生活で、そのプロポーション保てるなんてどんな手品なんですか? それとも、何か能力使ってるとか?」
「フッ、教えてやろうか……、秘訣は鮭、これだけよ! 鮭さえ食べていれば何も問題なし!」
「少しでも真面目な答えを期待してしまった私が馬鹿でしたごめんなさい」
真剣に答えたにもかかわらず、無表情で淡々と謝られ納得のいかない麦野は憮然とした表情を浮かべつつ、口元にカップを運ぶ。
そんな麦野の表情や反応を楽しむように目を細める佐天は、ケーキを完食してフォークを皿に戻す。
「……その様子だと、美琴さんとはうまくやってるみたいですね。残念です」
「そうね、お生憎様。お前の入り込む余地はないってことでよろしく」
「今のところは……、ですよね? 私はいつも虎視眈々と狙ってるってことをお忘れなく」
佐天の軽口に対して、麦野が嘲笑に似た笑みを浮かべつつ答えるも、佐天は動じず、麦野に対して宣戦布告を返した。
佐天の図太さと度胸を認めつつも気にくわない麦野は不満げに鼻を鳴らすも、不機嫌そうな表情は長く続かず、苦笑を零す。
「ったく……、この私にそんな口の利き方出来る奴なんて、お前くらいだよ」
「それはどうも。私はレベル0だから……、なんて、つまらない言い訳をするのは辞めたんです。やりたいことはやる、それができないなら努力する……、それだけですよ」
一見単純な原理に聞こえる佐天の言葉。
しかし、それを宣言し、実行できる人間がそういないことを麦野は知っている。
かつて、暗部にしか居場所はないと思い込み、足掻こうとしなかった麦野は身を以って知っている。
「それが言えるだけで、大した奴だよ。仕方ないから、お前を認めてやるよ……美琴の友達、としてな」
「麦野さんがどう思おうと関係なく、私は美琴さんの友達ですから。あ、もうすぐ恋人になっちゃうかも」
「上等だ、やれるもんならやってみろ」
遠慮なく殺意と敵意をぶつけ合いながらも、御坂を思う気持ちを持つ者同士でどこか共感しながら、笑顔で会話を続ける二人。
佐天は空になったカップをテーブルに置くと、そのまま席を立つ。
「じゃあ、私はそろそろ帰りますね。麦野さんからかって遊んでても、美琴さんには会えないみたいですし」
「遊びに付き合ってやった私に感謝しな。まあ、ケーキ代替わりってことにしといてやるよ」
「そうですか。じゃあ、麦野さんをからかいたくなったらまたケーキ買ってきますねー」
「この小娘、っ……!」
口の回る佐天に押されっ放しの麦野が苛立ちを露わにすると、佐天はひらひらと手を振り、そのままマンションを後にする。
御坂に会えなかったのは残念だが、それなりに楽しめたと感じる佐天は、夕暮れの中、足取り軽く帰路につく。
「今度はどういう作戦でいこうかなー……、麦野さんに内緒でデート、は難しいか……」
佐天が楽しげに呟いた、御坂を籠絡する作戦は、雑踏の中にそっと消えた。
――余談だが、佐天が残したゲコ太の限定デコレーションケーキを見た御坂は、珍しいほどに喜び、麦野を苛立たせるとともに、その光景を予期していた佐天は自室で不敵に笑った。