次に目が覚めたとき、そこは屋敷だった。記憶にある通りなら平安風な。螺子は崩れ、白く長い髪は徐々に黒くなり元の色を取り戻した。その長さは立っていても腰にまで達している。どう見ても
「『女の子に見えるだろうな・・・』」
髪の長さを戻そうとした時、絵本の様に薄い本が目についた。髪を戻すのを後回しにして先のその本を手に取った。字が読めない。
「『「どんな文章をも解読する力を創る」でいいかな?』」
途端に日本語で書いてあるかのように内容が読み取れるようになった。
書いてある内容はどうにも・・・いや、そもそも要約すると、
【地球からこの地へ皆が引っ越すとき、我々は妖怪の群れに襲われかけた。果敢にもそれをたった一人で食い止めて我々のロケットが上がりきるまで守りきった英雄が居た。月の頭脳の話によると球磨川哿というらしい。その英雄のおかげで今の我々が栄えている。知らぬうちにやってきて最期まで守ってくれた彼に感謝を】
・・・永琳。なぜ名前を出した。しかしこの本があると言う事はこの家の人に素性を明かすのはまずいだろう。死んだ事になっているとはいえ、仮に知られたらどうなるかわからない。
ん?しまった。これでは不法侵入か?ちょっと上から落ちるかな。天井あたりからの高さから・・・
いや、やめよう。寝たふりだね。そして何も知らないふり、と。む、形だけでも封印しておくか。起きる前と同じ状態に。
「あーうっとおしいわ。何度も無理だって言っているのに・・・って!貴方だれ!?」
「『あらら・・・お姫様、か』」
「っ!貴方誰?って聞いているんだけど?」
「『名乗るのは名乗られてからなので』『あ、こっちはしがない普通の人間のつもりです』『封印されてるけど』『あー封印とけたー』」
「普通の人間なら封印されるはずもないと思うんだけど・・・」
「『だって目が覚める前は守矢神社にいたからね』『で、君はだれ?』」
「守矢神社・・・?そもそもこの都で有名な私を知らないっていうの?そもそもさっきのお姫様って私を知っての事じゃないの?」
「『さあ?』『なんのことやら?』」
「はぁ・・・私は蓬莱山輝夜よ」
「『僕は球磨川
「球磨川・・・?あなた、球磨川哿っていう人物を知ってる?」
「『・・・知らない』『親戚にも祖先にもいないけど?』」
もっとも、自分だから。
「そう・・・ならいいわ」
「『その質問をした意図を聞いても?』」
「どうせ信じないわよ」
「『信じないというなら』『スサノオって神様を知ってる?』」
「ええ。あの神話に出て来る人物ね」
「『僕があれと対等に殺り合った、と言っても?』」
「まさか!人間で勝てる・・・相手では・・・ないはず」
「『ヤマタノオロチ、それを僕が使い魔としていたら?』」
「おもしろいこと言うわね!いいわ。話してあげるーーー
ーーーというわけで私は月から来たのよ」
「『ふーん』『話の中に幾つかの疑問があったんだけどいい?』」
「どうぞ?」
「『妖怪の群れを喰い止めるだけの結界を貼っていたんでしょ?』『それに群れを一掃するほどの力もあったんだからあの爆撃の中を耐えきった、って言う可能性もあるんじゃないかな?』」
「無理って否定しきれないわね。確かにあれほどの力があればその時は生き延びたかもしれない。でも人間は人間。寿命には勝てないはずよ」
「『永琳が言っていたというその能力』『寿命くらいどうにでもなりそうじゃない?』」
「なるほど!それはあり得るかもしれないわ!貴方、他のどの従者や貴族さんよりも話ができるわ」
「『それはどーも』『友人としていてもいい?』」
「いいわよ。その方が退屈しなさそうだし」
「『あ、住む所くらいは自分で確保するので』『家くらいこの都の外にでも建てておけばどうにでもなりますし』」
「外には妖怪が居るのよ?普通の人間じゃ太刀打ちできないわよ」
「『封印される人間が何も力を持たないとでも?』『そんな普通じゃない人間ですよ』」
「出会い頭に普通のつもりって言ってたじゃないの」
「『あー・・・仕方がないなぁ』『ならその鱗片を見せてあげますよ』」
「それを言うなら片鱗、よ」
「『仏の御石の鉢、火鼠の皮衣、蓬莱の玉の枝、龍の首の珠、燕の子安貝』『こんなものでどう?』」
僕の足下の床に竹取物語の5つの難題に沿って「創った」ものが置かれた。
「信じられない・・・本当に球磨川雪という個人よね?」
「『・・・そーですね』」
「家を作ることくらい手配しておくわよ?」
「『そんなことをしなくても、さっきの能力を見ての通り家くらい造作ないよ』『また近い内に来てもいい?』」
「ええ!」
そうして明るいうちに僕は外に出た。屋敷の周りには兵士が多く、気づかれずに脱出するために時間を「なかったこと」にした。平安時代な雰囲気が見て取れる中、僕の服装は余りにも不釣り合いだ。
「『流石にデフォのままはやめておくかな・・・』」
そう言って服装をその場に合うようにした。なんかこの屋敷の周りを通ってる偉そうな人の。
「お前。今屋敷の中にいたのか?少し話をいいか?」
声のする方を振り向くと長い黒髪の同じくらいの歳の少女が居た。
「『そうだけど?』『構わないよ』」
「私は藤原妹紅。そこの屋敷に住むお姫様が気に入らないんだ」
「『僕は球磨川哿』『髪は長いけど普通のつもりの人間の男子だよ』」
「お前男なのか!?」
「『髪が長いからそう思われても仕方がないよね』『で、さっきの気に入らない理由は?』」
「私の父上がな、あの女に求婚しているのだ」
「『ふんふんそれで?』」
「しかし父上は奴のせいで私の事などどうでもいいと言わんばかりの態度になっているのだ!」
「『なるほど』『そして?』」
「そんな女はどんな奴か、ということを知りたい。教えてもらっても構わないか?」
「『いいよ』『話した所だけどねーーー
ーーー酷い奴、ってわけではないと思うよ?』」
「・・・そうか。少し父上と話をして来る」
「『本気で月から来たと思う?』」
「そんなわけがあるか。どうせお前も落とすための口実じゃないのか?」
「『僕は彼女に自分の性別を明かしていないし偽名も使ったよ』『あ、妹紅に教えたのは本名だから安心して』『この容姿だからきっとうまくごまかせたんじゃないかな?』」
「それもそうだな。よし!ちょっと家に来い!」
「『・・・え?』『ってうわぁぁぁぁ』」
女の子って力が強いですよね。
「ふむ。そちが球磨川哿なる者か」
「『お初目にかかります』『藤原不比等さん』」
「うむ。是非ともお主と話がしたい。妹紅、外してもらえるか?」
「・・・わかった」
いかにも、という貴族だった。妹紅が部屋から出ると彼は思わぬことを言ってきた。
「かぐや姫のに関する余の話は存じておるか?」
「『ええ』『他4人と競って求婚しているのですよね?』」
「その通り。相手方も皆揃って有力な貴族たちなのだ。おそらく出し抜くことなどできないだろうな」
「『それで、どうして欲しいと?』」
「お主、一度話したことがあるのだな?」
「『紛れもなく』」
「一つ聞かせてもらいたい。話した印象はどうなのだ?」
「『うーん・・・友好的、ですかね?』」
「そうか。それは良かった。実はな、妹紅に友人が欲しかったのだ」
「『その意図とは?』」
「どうにも友達ができなくて話し相手がいないのだよ。ちょうど同じくらいの年頃のあの姫を友達にさせてあげたくてな・・・」
「・・・あなたはそれに一生懸命になってしまったと?だとするならそれは間違っている」
「っ!」
「『すいません』『ちょっと感情が・・・』『求婚だなんて遠回しなことをする必要なんてないじゃないですか』」
「しかしだな、それでは他の貴族に取られてしまうのだぞ?」
「『物理的に排除して差し上げましょうか?』『一つ言わせてもらいますけど、僕は特殊な能力があります』『それを使えば無条件に彼らに勝てます』」
「そんなことをしたら余の地位が危うくなるぞ?」
「『だから全員共倒れにするんですよ』『そうすればあなたも妹紅さんも問題ありません』『尚且つ他のエリート共の無様な姿を晒し出してやりますよ』」
「・・・お主、正気か?」
「『気は確かです』『その代わりあなた自身にも多少の負荷はかかりますが』」
「内容によるぞ」
「『輝夜さんの無理難題を無理矢理にでも叶えてください』『その際、僕が出て来ても何があっても騒がず、諦めてください』」
「言いたいことの意味がわからんぞ?」
「『彼女の隣にいるべき人物は誰か』『その役を僕が横から活攫います』『実績を積んでおきたいのでこの近くの最も強い妖怪を懲らしめればきっと十分ですよね?』」