死の森の中心に位置する塔。その一室で三代目火影は呟いた。
「どうじゃ? 呪印はまだ痛むか?」
三代目が見つめる先はアンコの首元、そこにある三つ巴の模様の呪印だ。この呪印はアンコがまだ少女の頃に大蛇丸によって付けられたもの。一種のドーピング剤としても機能する呪印であるが、そのドーピングは肉体に多大な負荷がかかる。下手をすれば、付けられた者の命を奪うことにも成り兼ねない代物だ。
実際、アンコに付けられた呪印は本人の意思とは無関係にチャクラを練り込ませている。が、今の呪印の状態は大蛇丸と会った時に比べて沈静化している。
アンコは指で呪印を抑えながら三代目に向かって頭を下げる。
「いえ、お陰で大分良くなりました」
呪印の活性を失わせる一種の封印術を三代目が用いたことにより、アンコの呼吸が正常に戻った。落ち着きを取り戻したアンコが語った内容は実に驚かされるものだった。
その内容を反芻しながら、一人の中忍が口を開く。
「それにしても、大蛇丸って木ノ葉伝説のあの“三忍”の内の一人ですよね? 暗部すら手が出せなかった
中忍試験、その試験官の一人であるコテツが疑問を呈する。
「何故、今更この里なんかに?」
コテツの言葉を引き取るようにイズモもまた疑問を口にした。
「多分……」
二人の疑問の答えというべきものをアンコは持っていた。アンコは大蛇丸との邂逅した忌まわしき出来事を思い浮かべる。
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「さっき、それと同じ呪印をプレゼントして来た所なのよ。……欲しい子がいてね」
「くっ……勝手ね。まず死ぬわよ、その子」
「待ちなさい! 死なないから、サスケくんは死なないの! だから、話をさせて頂戴、ナルトくん!」
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「サスケじゃろ?」
アンコは俯いた顔を上げた。
全てを見通したように三代目は呟く。
が、何故、大蛇丸がサスケを欲しがっているのかをコテツとイズモが三代目に聞き返そうとした時、テレビから声がした。
『アンコ様! “第二の試験”通過者、総勢21名を確認。中忍試験規定により、“第三の試験”は5年振りに予選を予定致します。“第二の試験”終了です』
監視カメラが映すリアルタイムの映像だ。
試験官の一人が監視カメラによって、第二の試験の終了をアンコに宣言した。アンコの目線を受けた三代目は重々しく口を開く。
「取り敢えず、試験はこのまま続行する。大蛇丸の動きを見ながらじゃがな」
「……はい」
それにしても、と三代目は足を進めながら自らの思考に没頭する。
──よもや、ナルトが大蛇丸と戦い、戦う気がなかったとはいえ奴を退けるとは。
アンコを安全な塔まで運んだのもナルトだという話を三代目は試験官たち、そして、木ノ葉の暗部の忍から聞いていた。
大蛇丸に立ち向かい、呪印で動けなかったアンコを守り、そして、第二の試験を突破する。火影である自分でも、そのようなことはできないだろう。筋肉をつけ始める前にナルトが言っていた“火影になる”という言葉が現実味を帯びているように三代目は感じたのだった。
だが、三代目は首を横に振る。
「時間じゃな……」
第二の試験、その終了の時刻となり中忍試験は次のステージへと進む。アンコやコテツ、イズモを率いながら三代目は自分の考えを否定した。
──今のナルトが火影にでもなろうものなら、筋肉をつけることを里の者に広めかねん。
三代目にとって、そのようなことは認められなかったのだ。
右翼代表とされる四代目雷影の
そのような三代目が考えを変えるのはいつになるだろうか? 世間の認識が変わった時か、彼個人の認識が変わった時か。どちらにしろ、時間が必要だ。何事も理解されるためには、多大な時間と悪魔とも天使とも神とも言えるカリスマを持つ指導者が必要となるのだから。
+++
「まずは第二の試験、通過おめでとう!」
死の森の中心に位置する塔の内部には闘技場があった。大体、忍者学校の体育館と同じほどの広さである。
そこに第二の試験を突破した21名の下忍と、彼らの担当上忍7名、そして、運営の忍が9名、立っていた。その中央には木ノ葉隠れの里のトップである三代目火影が堂々と立つ。
──いい予感はしねーな。
彼らを見て、サスケは気を引き締めた。
「それでは、これから火影様より“第三の試験”の説明がある。各自心して聞くように!」
第二の試験の突破者に向かって声を上げるアンコ。
「では、火影様。お願いします!」
「うむ」
アンコに促され、三代目火影が一歩前に出る。
「これより始める“第三の試験”……その説明の前に、まず一つだけ……はっきりお前たちに告げておきたいことがある」
「?」
「……この試験の真の目的についてじゃ」
「!?」
「何故、同盟国同士が試験を合同で行うのか? “同盟国同士の友好”“忍のレベルを高め合う”……その本当の意味を履き違えて貰っては困る。この試験は言わば……」
「……」
「同盟国間の戦争の縮図なのだ」
「ど、どういうこと?」
「歴史を紐解けば、今の同盟国とは即ち、かつて勢力を競い合い、争い続けた隣国同士。その国々が互いに無駄な戦力の潰し合いを避けるために敢えて選んだ戦いの場……それが、この中忍選抜試験のそもそもの始まりじゃ。皆も分かっていると思うが、敢えて言う。この試験が中忍に値する忍を選抜するためのものであることに否定の余地はない。だが、その一方で、この試験は……国の威信を背負った各国の忍が命懸けで戦う場であるという側面も合わせ持つ!」
「国の威信?」
「この“第三の試験”には、我ら忍に仕事の依頼をすべき諸国の大名や著名な人物が招待客として多勢招かれる。そして、何より各国の隠れ里を持つ大名や忍頭が、お前たちの戦いを見る事になる。国力の差が歴然となれば、“強国”には仕事の依頼が殺到する。“弱小国”と見なされれば、その逆に依頼は減少する」
「……」
「そして、それと同時に隣接各国に対し、“我が里はこれだけの戦力を育て有している”という脅威、つまり、外交的、政治圧力を掛ける事もできる」
「だからってなんで! 命掛けで戦う必要があんだよ!」
「国の力は里の力。里の力は忍の力。そして、忍の本当の力とは……命懸けの戦いの中でしか生まれてこぬ!」
「……」
「この試験は自国の忍という“力”を見て貰う場であり、見せつける場でもある。本当に命懸けで戦う試験だからこそ意味があり……だからこそ、先人たちも“目指すだけの価値がある夢”として中忍試験を戦ってきた」
「では、どうして……“友好”なんて言い回しをするんですか?」
「だから、始めに言ったであろう! 意味を履き違えて貰っては困る、と。命を削り戦うことで力のバランスを保ってきた慣習。これこそが忍の世界の友好なのじゃ」
「……」
「第三の試験の前に諸君に、もう一度告ぐ。これはただのテストではない」
「……」
「これは己の夢と里の威信を懸けた……命懸けの戦いなのじゃ」
シンと静まり返る会場内。
だが、三代目の言葉を聞いても心を動かさない者が一人、そして、三代目の言葉を聞いて更に闘争心が燃え上がった者が一人いた。
「了解した……」
「それより早く……」
「その闘いにおける規定を……」
「その命懸けの試験ってヤツの……」
「聞かせて貰いたい」
「内容を聞かせろ」
三代目火影の言葉を正面から受け取り、されども、一歩も引くことはない忍。ナルトと我愛羅だ。第二の試験が始まる前にアンコが強者と考えた二人だ。
気負うこともなく自分を真っ直ぐに見つめる二人を見つめ返しながら三代目は微笑む。
──怖いのォ……。
愛を、幸せを、平和を愛する三代目だ。戦いを求める彼らの気持ちが分からなかった。迫力があり過ぎるナルトと我愛羅に対して本心は見せないものの、三代目の心の内は理解できないという気持ちで一杯だった。
だが、理解できないというだけで動きを止める三代目ではない。
「フム……では、これより“第三の試験”の説明をしたい所なのじゃが……実はのォ……」
「恐れながら火影様」
説明を再開しようとする三代目の前に一瞬で移動した忍がいた。
「ここからは“審判”を仰せつかった、この月光ハヤテから……」
三代目は“月光ハヤテ”と名乗った忍に一つ頷く。
「任せよう」
「皆さん、初めまして。ハヤテです」
忍は立ち上がり、受験生たちへと振り返った。白い肌、濃い隈、こけた頬。
振り返った彼は今にも魂が抜け出そうなほどであった。
「皆さんはじめまして。ハヤテです。えー、皆さんには“第三の試験”前に……やってもらいたいことがあるんですね。えー……それは本戦の出場を懸けた“第三の試験”予選です」
「予選!?」
「予選ってどういうことだよ!!」
「先生……その予選って……意味がわからないんですけど……。今残っている受験生でなんで次の試験をやらないんですか?」
「えー今回は……第一・第二の試験が甘かったせいか……少々人数が残り過ぎてしまいましてね……。中忍試験規定にのっとり予選を行い“第三の試験”進出者を減らす必要があるのです」
「そ、そんな……」
「先程の火影様のお話にもあったように“第三の試験”にはたくさんのゲストがいらっしゃいますから……だらだらとした試合はできず時間も限られてくるんですね……。えーというわけで、体調の優れない方、これまでの説明でやめたくなった方、今すぐ申し出て下さい。これからすぐに予選が始まりますので」
受験生たちを見渡したハヤテは一拍置いて、手を打った。
「あ、言い忘れてましたが、これからは個人戦ですので、自分自身の判断でご自由に手を挙げてください」
再度、ぐるりと受験生たちを見渡すハヤテ。だが、受験生たちに動きはない。
「いないみたいですね。あ、あと、先に言っておくと、不戦勝の方を抽選で選びます」
「抽選?」
「ええ。第三の試験、それに加えて予選は一対一の個人戦ですので一名、抽選で選ばれた方には不戦勝で次の本選に上がって貰います」
「ちょっと待て! そんなの納得いかねェ!」
「納得してください。納得できないのならば、犬塚キバくん、アナタを落とします」
「くっ……」
「それでは、気を取り直して……。上をご覧ください」
ハヤテは上を指す。
彼の指が向く先には、壁からせり上がってくる電光掲示板があった。
「あちらの掲示板に二名ずつ名前が表示されます。ルールは一切なしで、どちらか一方が死ぬか倒れるか、あるいは負けを認めるまで闘って貰います。死にたくなければすぐ負けを認めてくださいね。ただし、勝負がはっきりついたと私が判断した場合、えー、むやみに死体を増やしたくないので、止めに入ったりなんかします。ちなみに、不戦勝の方は名前が最後まで表示されなかった方としますので」
「目の前の敵を倒せ。そういうことであろう?」
「ええ。うずまきナルトくん。君の言う通りです。これでルールの説明は終了します。何かご質問は?」
再び受験生たちを見渡すハヤテだったが、受験生たちは先ほどと同じく動きは見られなかった。数人の受験生を除き、唯一、先ほどと変わっていたのは彼らの顔色。いいとは言えない。ハヤテほどではないが、その顔は緊張感と不安感で青く染められていた。
そのような彼らを意に会することもなく、ハヤテは淡々と進行を続ける。
「では、早速ですが第一回戦の二名を発表しますね」
電光掲示板に光が灯る。
ウチハ・サスケ VS アカドウ・ヨロイ
そこに表示された名前を持つ二人は目を細めた。
──いきなりとはな。
──フッ……願ってもない。
「では、掲示板に示された二名、前へ」
ハヤテに促され、前に出たのはサスケ。そして、頭巾と口布、そして、目に付けた黒レンズで表情を窺い知る事が出来ない木ノ葉の忍だった。
彼の名は赤胴ヨロイ。カブトと同じ班の忍だ。
「第一回戦対戦者。赤胴ヨロイ、うちはサスケ両名に決定。異存ありませんね?」
「はい」
「ああ」
「えー、ではこれから第一回戦を開始しますね。対戦者二名を除く皆さん方は上の方へ移動してください」
上の観覧する足場へ上がる階段へと移動する人に紛れ、カカシはサスケに近づく。
「サスケ、写輪眼は使うな」
小声で話し掛けるカカシへとサスケは驚いた表情を浮かべながら小さな声で言葉を返す。
「……知ってたのか」
「その首の呪印が暴走すれば、お前の命に関わる」
「だろうな」
「ま、その時は試合中止。オレがお前を止めに入るからよろしく」
「!?」
カカシの言葉は認められなかった。
サスケが強者と目し、闘いたいと心から思うライバルたち。それが一堂に会する中忍試験だ。これを逃せば、これから先、このような機会はないだろう。
リー、ネジ、我愛羅、そして、ナルト。
サスケは何が何でも呪印を抑え付けなければならなかった。
──この呪印とやらは、どうやら、オレのチャクラに反応してやがる。うかつにチャクラを練り込めば、オレの精神を奪い、体中のチャクラを際限なく引き出してしまう。つまり、この試合、写輪眼はおろか、普通の術でさえ、早々使えないって訳か。
そこまで考え、サスケは肩の力を抜く。
「それでは、始めてください!」
ハヤテの合図をどこか遠くに聞きながらサスケは自分の意識が研ぎ澄まされていくことを感じていた。
「行こうか」
「ああ」
まずはヨロイの牽制のための三枚の手裏剣の投擲だ。それを弾き返すため、サスケはクナイを手に持つ。
「ラアッ!」
サスケがクナイを振り切ると、軽い金属音を立てながら手裏剣はヨロイに向かって弾き返された。
「クッ!」
それと同時に身体能力を上げるためにチャクラを練り込んだのが呪印に反応した。首筋に激しい痛みが奔る。
サスケが痛みで動きを止めた一瞬を見逃すヨロイではない。彼は実は大蛇丸の部下だ。木ノ葉に忍び込んでいるスパイの一人。そのため、スパイとしての技量は高く、下忍では到底、勝てないほどの実力を持つ。大した汚れもなく第二の試験を突破することができたことからも、ヨロイの実力を推し量ることができるだろう。
一瞬にして、サスケとの距離を詰めたヨロイはサスケの頭に手を伸ばす。この赤胴ヨロイという忍はそれなりに強いだけではない。特異な才能を持つ忍だ。
チャクラの吸引能力。対象に掌を宛がうことでチャクラを吸い取ることができる能力こそ、ヨロイの最大の武器。
──取った!
だが、ヨロイは甘かった。自身の実力、そして、チャクラ吸引能力。加えて、敵であるサスケは下忍で呪印により動きが鈍っていると見える。
ヨロイは油断してしまっていた。
そもそも、呪印が作る痛み程度、サスケは経験している。筋肉痛だ。
幼少の頃、ナルトの異常な筋トレを目にしたサスケは一度、ナルトに負けないように異常な量の筋トレをした。言葉にできないほどの量の筋トレ。本来ならば、子どもがしていいような量の筋トレではない。
当然なことだが、体が出来上がっていないサスケ少年には、それは辛かった。だが、ナルトに負けないように筋トレをしたサスケだ。一日でサスケの筋組織はボロボロになってしまった。
その次の日。予定調和と言うべきか。筋トレをしたら、筋組織が破壊される。その後の回復により、筋肉は強くなるのだ。破壊と回復。これが筋肉を大きくするための絶対のメソッド。
そう、つまり、筋トレをした次の日に筋肉痛で寝込んでしまったサスケだ。
寝込むサスケを見て、今は亡き父と母、そして、今は無き兄によって無茶な筋トレは止めるようにサスケは誓わされたのだった。
サスケにとって、呪印の痛み程度など、あの時の筋肉痛に比べれば何の壁にもならない。
痛みを堪えながら、サスケの拳はカウンターでヨロイの腹に突き刺さったのだ。
「……勝者、うちはサスケ。予選通過です!」
倒れたヨロイから離れようとしたサスケはふらつく。痛みに耐えられたと言っても、それはただの痩せ我慢でしかない。気が緩んだ瞬間、我慢の反動でサスケの体は思うように動かなくなってしまった。
「ま、よくやったな」
それを支えるのはカカシだ。瞬身の術でサスケの後ろに姿を現したのだろう。
「フン」
鼻を鳴らし不満をアピールするサスケだったが、その顔は裏腹に得意気であった。
サスケを支えながらカカシは考えを巡らす。
──カウンターでの攻撃時、一瞬でチャクラを練り上げて右手に集めるとは。
刹那の間にチャクラを練り上げて、最大に上げたパンチ力で以って敵を砕く。あまりにも短い間のため、呪印が反応する暇もなかった、と。
サスケが取った方法は単純だった。チャクラを練り込めば、呪印が反応する。ならば、チャクラを練り込む時間を短くして呪印が反応する前に、チャクラをあまり使わない体術で敵を沈めればいい。
──恐ろしきはうちはの血という訳……か?
自分の考えに疑問を覚えたカカシにサスケが声を掛ける。
「おい、カカシ。先に上がってるぞ」
「ん? ああ、そうだな。オレも行く」
体勢を整えたのだろう。サスケはいつの間にかカカシの支えから離れ、先へと歩き出していた。カカシはサスケの背中を見て、一度、笑った後、サスケに続いて階段を上がっていったのだ。
「サスケくん! おめでとう!」
「ああ」
サスケが階段を登った先にいたのは、満面の笑みでサスケの帰りを迎えるサクラだった。
「あの……」
と、一転して真面目な表情になったサクラは小声で尋ねる。
「大丈夫だった?」
「心配いらない」
サクラに薄く微笑みかけたサスケは、次いで、自信に溢れた顔付きで斜め上を見上げる。
「サスケ、見事だ」
「当たり前だろ」
サスケの視線の先にいたのは、彼が目標としていたナルトだ。
──やっとだ。
拳を握ったサスケは獰猛な笑みを浮かべた。
「ナルト……オレはお前と闘いたい」
「ああ……己もだ」
サスケの言葉を聞いたナルトもまた笑顔を浮かべる。
ナルトがサスケに向ける笑顔は猛禽類の如し。その迫力を前にしてもサスケは一歩も引かない。
「本選で待っている」
「承知」
しかしながら、事はとんとん拍子には進まないもの。
ザク・アブミ VS アブラメ・シノ
続いて、電光掲示板に表示された名前はナルトのものではなかった。