NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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辛く、美しい思い出への想い

 ──取引をしませんか? 

 ──お前の愛した弟と男を生き返らせてあげるわ。私の開発した禁術でね。

 

 騒がしい空間でも、はっきりと聞こえた言葉。

 

 ──二人に会いたくないの? 綱手。

 

 ジャラジャラと銀色の玉が消えていく。まるで、現実から逃げ続けている綱手の心の内を示すかのように。

 

 ──その腕を治したら……お前は何をするつもりだ? 

 ──今度こそ完璧に木ノ葉を潰すのよ。

 

 頭の中で響くかつての班員の声は闇の色だった。

 だが……。

 

 ──駄目です! こんな奴らの口車に乗っては……。二人の願いを……アナタの願いを……夢を忘れたんですか!? 

 

 だが、どうしようもなく惹かれてしまう蠱惑的な響きだった。

 

 ──率直に言う。綱手。里からお前に五代目火影就任の要請が出た。

 

 ゆらりと小さく灯った火種は頼りない。夢を忘れた訳ではない。夢は今でも、ここに、この胸の内にある。

 

 ──火影は己の……。

 ──火影はオレの……。

 

 いつしかナルトの顔は最愛の二人の笑顔に変わっていた。

 

 ──夢だから。

 

 玉が釘に当たる音が消えてしまった。

 目の前のパチンコ台に視線を向ける。ロールがこれ以上、回ることはなく、されども、かつての班員の言葉は綱手の頭の中で回り続ける。

 

 ──お答えは今すぐでなくとも結構です。ただし、一週間後にはもらいたい。それと、この禁術には生贄が必要です。それは、そちらで二人、用意してください。

 

 綱手はパチンコ台の席から立ち上がる。

 輝かしい銀色の玉は、もう、なかった。

 

 +++

 

 六日目の夜。

 三日月が照らす中、自来也は一人、短冊街を歩いていた。

 ナルトには術のコツを全て教え、そして、後は結果を待つのみ。

 

 そして、自来也には六日前から心の片隅に引っ掛かっていることがあった。

 

 ──どうも、あの“一週間”ってのが気になるのォ……。ナルトの奴もあれからほとんど宿に帰って来んしのォ。

 

 自来也が引っ掛かりを覚えているのは、賭けの期限の短さ。

 螺旋丸を修めるには、余りにも短すぎる期限。それも一介の下忍が修めるのは輪をかけて不可能な期間だ。

 だが、同じ不可能であるならば、綱手は3日と、いや、1日と期限を定めればいい。それにも関わらず、少し猶予のある一週間という長さ。

 何かがあると自来也は感じていた。

 

 だが、情報が足りない。

 

「綱手の奴にもう一押し、念を押しとくか」

 

 ならば、現時点で出来ることをする。

 そう決めた自来也は綱手を屋台に呼び出したのだった。

 

 屋台の席に二人で着くと同時に熱燗が出された。

 この滞在中、自来也が何度か通った屋台で、店主も自来也の顔を覚えていたのだろう。熱燗と共にお通しも出され、それに舌鼓を打つ。

 

「ん」

「……」

 

 二つの猪口に熱燗を注ぎ、綱手に渡した後、自来也は熱燗をくいっと一口で飲み干す。

 

「親父、大根」

「あいよ」

 

 ただの旧友との呑み。

 それが本題ではないだろうと、猪口に酒を注いでいる自来也に綱手は促す。

 

「今日は何の用だ?」

「……明日はナルトと約束した一週間だのォ」

「……」

「ナルトの奴、どうなったかのォ」

 

 再び、猪口を傾け、熱い酒を嚥下した一瞬、ほんの瞬きの間もないような短い時間の中、それは行われた。

 徳利の口に綱手の手が伸び、そこに薬を入れるのを自来也は見逃してしまっていた。

 

 そして、自来也は猪口に再び酒を注ぐ。

 先と同じ流れで口元に猪口を持っていった瞬間。

 

「お待ち!」

「ん?」

「大根、できたよ!」

「おお! こりゃ旨そうだ!」

 

 綱手の表情は動かない。

 自来也に呼び出された時から不機嫌そうな、それでいて辛そうな表情を崩さない。

 

 かくして、自来也は綱手の裏切りに気づくことなく、猪口を空けるのであった。

 

 +++

 

 休む暇などない。

 この六日間、我武者羅に修行に打ち込んできたナルトであったが、螺旋丸は完成に至らなかった。

 三日月は沈み、地平線の彼方が赤に染まっていく。

 

「致し方なし」

 

 小さく呟くナルトであったが、その声には絶望の色は一欠片も入ってはいない。

 今までは確かにできなかった。過去を翻すことをナルトはしない。ナルトが目指すのは常に一歩先の未来。次はできると自分を信じて進むことのみ。

 

「綱手殿の前では必ずや成功させてみせよう」

 

 震える右手を無理矢理、握りしめたナルトは短冊街へと踵を返す。

 全ては悲しみに沈む、綱手とシズネを救うために。自分の誇りを賭けることにも躊躇わずに。

 

 短冊街への道を歩きながら、螺旋丸を右手に作り、そして、破裂させてしまい、服をボロボロにしながらもナルトは歩みを止めない。

 が、ナルトの集中を掻き乱す光景が宿の前にあった。そこには見知った顔が床に倒れていたのだ。

 

「……シズネ殿!」

「ん……んぅ……」

「シズネ殿! 何があった!?」

 

 素早く駆け付け、苦悶の表情を浮かべるシズネを優しく抱き起こしながら、ナルトは顔を近づける。

 

「ん……んんん!?」

「シズネ殿!」

「ひゃん!」

 

 意識を取り戻したシズネは思わずのけ反る。

 彫りの深い顔が意識を取り戻したと同時に近くにあれば、どのような人間でも驚愕を隠すことはできないだろう。

 

「ナ……ナルトさん!?」

「然り。だが、己には敬称をつけずとも……」

「そ、そんなことより、今、何曜日ですか!?」

「月曜日だが?」

「月曜日の何時ごろですか!?」

「朝方だ」

 

 シズネの狼狽した様子に、ナルトの警戒が更に上がる。

 道端に倒れ伏し、そして、矢継ぎ早に現在時刻を確かめるシズネの様子から何か良くないこと、それも飛びっきりに良くないことが起きたのだとナルトは感じ取った。

 

「まだ……間に合う! ……ッ!」

「シズネ殿。深呼吸だ」

「え?」

「深呼吸をするのだ」

「は、はい!」

 

 大きく息をしたシズネは自分を取り戻した。

 

「ナルトくん」

「然り」

「一緒に……一緒に来てくれますか?」

「無論」

 

 シズネに手を貸し、立ち上がらせたナルトはキッと彼方を睨む。その方向は一週間前に訪れた場所の方向だった。

 

「綱手殿は大蛇丸と会うつもりか?」

「知って……」

「いや、勘だ。今の己では気配を感じることはできぬ故に」

「ナルトくん。もうチャクラが……」

「然り。されども、放ってはおけぬ」

「ナルトくん……ありがとう」

「礼には及ばぬ。では、急ごう」

「待て……ナルト、シズネ……」

「む!?」

 

 後ろから声がかけられた。

 

「師よ! 如何なされたというのだ!」

 

 声の主はナルトの言うように自来也だった。だが、ふらついている上に、顔も青白い。

 

「綱手の奴にちょっと、な。今のワシは上手くチャクラが練れねー上に、体が痺れてハシもろくに持てねー」

「満身創痍ではないか!」

「うるさい」

 

 自来也の声にはいつものような覇気はなかった。

 だが、自来也には策があった。しかしながら、その前に聞くべきことが一つ。

 

「シズネ」

「はい」

「大蛇丸と何の話をした?」

「……綱手様を信じていたかった。だから、今まで言い出せなかった。でも、時間がありません。走りながら説明します!」

「先に言え」

「しかし!」

「いいから。話した時間は、すぐに巻き返せる」

「……」

「シズネ」

 

 言葉に詰まってしまったシズネを自来也は促す。

 

「……わかりました。大蛇丸が持ちかけた条件。それは奴の腕を治すことと引き換えに……綱手様の大切な人を蘇らせるというものでした」

「縄樹と……ダンか」

「はい。そして、腕が治った後、大蛇丸は……大蛇丸は……」

「……」

「木ノ葉を潰す、と」

「たっく……ろくなことを考えねーのォ、奴は」

「なれば、そのろくでもない考えを矯めるのが我らが役目」

「……ナルト。お前、たまにキッツいとこを突くのォ」

「む? 失礼した」

「いや、いい。それに……」

 

 自来也はふらつく体をナルトに預けた。

 

「奴を止めるのは同じ“三忍”のワシの役目だ」

 

 そう言って、自来也はシズネに向かって、ナルトの方に近づくよう合図をする。

 

「てな訳でワシらは一刻も早く綱手のとこに向かわなきゃあならん。……ナルト」

「うむ」

「はぁー。ナルト、シズネを抱えて走れ。そして、シズネ。お前はナルトに道案内をしろ」

「承知!」

「はい!」

「そして、ワシは……ワシは……」

 

 自来也はナルトの後ろへと回り込む。

 

「お前の背中に乗る」

 

 白い顔を更に白くさせながら、自来也はそう宣言した。

 

 +++

 

 大蛇丸によって壊された古城。かつての威容は見る影もない。

 綱手の後ろに音もなく姿を現した大蛇丸。彼と綱手の距離は20mほど。

 

「……答えは?」

 

 大蛇丸の声は小さかったが綱手の耳にはっきりと届いていた。

 

「……」

「腕は治す。その代わり、里には手を出すな」

「クク……いいでしょう」

 

 ゆっくりと大蛇丸へと、逃れることができない甘い囁きへと、限りない闇へと振り返る綱手の脳裏には、忘れることなどできない大切な思い出が、暖かい光が流れていた。

 

 笑顔の弟。

 かつて、共に買い物に行った日のこと。

 修行中の怪我を手当てしたこと。

 失敗した料理を嫌そうな顔をしながらも完食してくれたこと。

 

 どれも大切な思い出だ。

 

 笑顔の恋人。

 かつて、共に木ノ葉を歩いたこと。

 墓参りで同じ傷跡を優しく癒してくれたこと。

 湖畔で沈みゆく美しい夕焼けを見たこと。

 

 どれも大切な思い出だ。

 

 その全てが大切で、失いたくても失うことができなかった大事な大事な思い出だった。

 

 ──二人に……もうすぐ会える。

 

 思い出の中の縄樹とダンに、会える。

 

 涙を堪えることなどできなかった。

 

「さあ……」

 

 大蛇丸の腕を治せば、二人に会える。

 そのことを理解し、綱手はゆっくりと瞼を持ち上げる。

 

 目尻から流れる涙は、もう止まった。

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