NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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弱さ

 サクサクとサスケの足元で落ち葉が音を鳴らす。

 

「……」

 

 木枯らしが吹く中、サスケは歩いていた。

 

 あの後……カカシに諭され、ナルトとサクラに謝った後、いつものように帰路についた。しかし、自宅には帰れない。

 あの家は、あの厳しくも暖かかった家には……帰ることができなかった。

 

「……」

 

 つい思い出してしまう。

 

 ──サスケ。またドロドロになって! 

 ──う! ごめん、母さん。

 

「……」

 

 ──サスケ。筋トレか? ほどほどにしておけ。

 ──違うよ、父さん! 修行だよ! 

 

「……」

 

 ──兄さん。手裏剣術を教えてよ。

 ──許せ、サスケ。また今度だ。

 

「…………」

 

 帰れない。

 あの家は、もう、ないのだから。

 仮に、あのままの家があったとしても、帰ることはできないだろう。家族に顔向けができない。うちはの家紋を汚すような行為をした自分は、帰ることなど許されない。

 

「………………」

 

 サスケが足を止めたのは、先ほど第七班の三人と別れた場所。第三演習場だ。

 

 いや、先ほどと言うには語弊がある。

 すでに日は沈み、秋月は空高くにある。

 

「月……」

 

 否応にも思い出してしまう。

 あの赤い月を。あの惨劇の日を。あの裏切りを。

 

「メルヘンな気分のところ、悪いなァ。うちはサスケ」

「!?」

 

 ぬらりと、蛇を思わせる声が後ろからした。

 素早く身を返したサスケは、後ろに立つ四つの影を睨み付ける。

 

「……何者だ?」

「西門の左近」

「北門の多由也」

「東門の鬼童丸」

「南門の次郎坊」

 

 “左近”と名乗った少年は唇を歪ませた。

 

「『月……』って見りゃあ分かんだろ! アホか、お前は?」

「インテリ気取ってんじゃねーぞ、クソガキ」

「RPGの主人公みてーな奴ぜよ」

「お前たち。そこまで言うな。流石に可哀想になる」

「口、閉じろよ、デブ。くせーんだよ」

「……」

 

 “多由也”と名乗った少女の言葉で、次郎坊と名乗った大柄な少年が黙らせられた光景を見て、サスケの毒気が抜かれる。

 

「……!!」

 

 が、鬼童丸と名乗った少年の額宛てを見たサスケの目が鋭くなる。

 

「テメェら……“音”の……大蛇丸の部下か?」

「気づくのが遅ぇ」

「クソガキな上に、無能とか救いようがねーな」

「こいつ、フラグを見逃すタイプぜよ」

「……」

「おい、デブ! お前は何もこいつに言わねーのかよ!」

「……無能」

「ああ、お前がな! ウチの言葉をパクってんじゃねーぞ!」

 

 しゅんとした次郎坊が視線を地面に向けた瞬間。その瞬間をサスケは見逃さなかった。

 

「!?」

「らァ!」

 

 ──ちッ! 

 

 一瞬の隙を突き、次郎坊に肉薄したサスケは回し蹴りを次郎坊に叩き込んだ。だが、次郎坊もさるもの。咄嗟に上げた両腕でサスケの蹴りをガードしていた。

 

「次郎坊! って、ウチにかよ!」

 

 しかし、サスケの蹴りは重く、彼よりも体重の重い次郎坊を地面に転がしていた。そして、陣形が乱れた隙を見逃すサスケではない。地面に転がる次郎坊を無視し、隣にいる多由也へと右拳を繰り出す。

 

「グッ!」

 

 ──一先ず、置いておくしかねぇか。次の奴から仕留める。

 

 サスケは頭の中で今後の戦闘を組み立てていく。と、同時に多由也の姿が丸太に変わった。変わり身の術だ。

 拳の感触で違いを感じ取ったサスケは、変わり身の術で姿を眩ました多由也を探すよりも、目の前にいる左近に照準を合わせる。

 

 サスケの足の裏にチャクラが青く灯った。

 

「!?」

 

 サスケの姿が瞬身の術によって掻き消えた瞬間、サスケの左足は左近に捕まれていた。

 

「はい、ざ~んねん」

 

 ──コイツ、オレの前蹴りを……! 

 

 が、驚きで動きが止まったのは、短い間。

 左足を強引に左近の両手から引き剥がしたサスケは、右手を握りしめ拳を繰り出す。

 

「おらァ!」

「なッ!?」

 

 だが、サスケの拳は届かない。

 

 ──足を振りほどく時、奴の両手は弾いたハズだ。どうやって攻撃を防いだ? 

 

「!?」

 

 左近の防御に考えを割く時間はない。彼ら四人の連携攻撃は止まっていなかった。

 するりと左手が糸に絡み取られていた。

 と、サスケの体が空へと持ち上げられる。糸により、上方向に引っ張られた結果だ。

 

「……」

 

 同時にフラストレーションが溜まっていく。

 これ以上、勝手はさせない。サスケは写輪眼を使うことを決意した。

 

「火遁 龍火の術」

 

 サスケの口から飛び出した小さな炎。それは、左腕に絡みつく糸にまとわり付き、勢いよく糸の射出口──鬼童丸の口──へと向かっていく。

 

「チィ!」

 

 慌てて糸を噛み切る鬼童丸であったが、それは悪手。攻撃のチャンスをサスケに与えてしまっていた。

 

 ──ここだ! 

 

 サスケの写輪眼が場を見極める。

 

 次郎坊。

 地面から立ち上がったものの、様子見に徹している。

 多由也。

 茂みに身を潜めているが、チャクラを練り上げていない。

 左近。

 距離は近いが、同時に動き出した場合では届かない距離。

 

 全速力で一人ずつ潰す。

 サスケの方針は決まった。サスケの姿が再び掻き消える。獲物は燃える糸の先。それを見据え、サスケは駆けた。

 狙い通り、何の障害もなく、鬼童丸の懐に飛び込んだサスケは敵を空に打ち上げるべく、左足を鬼童丸の顎に向かって放った。

 

「借りは返……ッ!?」

 

 他三人を置き去りにし、蹴りを鬼童丸の顎に放ち、空中に飛ばした鬼童丸の背を取り、後ろから回し蹴りと殴打を何度も喰らわせ、そして、腹に踵落としを叩き込むことでフィニッシュを決める。

 そう、サスケは獅子連弾を鬼童丸に放とうとしていた。

 

「弱ぇーぜよ」

「!?」

 

 だが、サスケは弱い。

 正確に言えば、ここにいる五人の中で最も弱い。

 

 信じられないといった面持ちで視線を上げたサスケの目に写ったのは、呪印が浮かぶ鬼童丸の顔。

 

「お前……それ……グッ!?」

 

 疑問を口に出した瞬間、サスケの体が吹き飛んだ。鬼童丸の蹴りだ。

 地面に転がるサスケの耳に、地面を削る音が後ろからした。

 

「大蛇丸様のお気に入りはお前だけじゃねーんだよ」

「グアッ!」

 

 次いで、腹に響く衝撃。左近の蹴りだ。

 

「カスヤローが」

「ガハッ!」

 

 また地面に転がされる。多由也の蹴りだ。

 

「フンッ!」

「ガッ!」

 

 地面を弾む。次郎坊の蹴りだ。

 流れるような連続攻撃。四人の連携は確実にサスケの体に大きなダメージを残した。

 

「フン。こんな奴が何で欲しーのかねェ……大蛇丸様も。これじゃ“君麻呂”の方が良かったぜ」

 

 動けないサスケに向かって、左近は口を開く。

 

「まぁ、こんなクズみたいな里にいても、お前は今のまま並みの人間止まり。強くはなれねー。仲間とぬくぬく忍者ごっこじゃ、お前は腐る一方だぜ」

「ウチらと一緒に来い! そうすれば大蛇丸様が力をくれる!」

「……」

 

 幻視した。

 かつて会った、全てを欲していた者の顔を。冷酷無比で、最も力を持つ忍の顔を。

 大蛇丸の顔を。

 

「ぐっ……」

 

 ズキンと首筋が痛む。

 

「どうすんだよ? ハッキリしよーぜ! グズグズしてんじゃねェよ! 来るのか? 来ねーのか?」

 

 ギリギリと歯が音を立てる。

 

「とはいえ、無理矢理、連れてっちゃあ意味がねーらしいからな。大蛇丸様もめんどくせー……。こんな弱ぇー奴、あんまりグズりゃあ殺っちまいたくなるぜ」

「殺ってみろ……」

 

 憎悪が身体を蝕む。

 呪印がサスケの体を取り巻いていた。

 

「てめー……呪印を……」

「ウォオオオ!」

 

 左近に向かうが、その体は至極、簡単に止められた。

 

「!?」

 

 右腕は鬼童丸の、左腕は多由也の、そして、腰には次郎坊の腕が回されていた。

 

 ──こいつらも……。

 

 動きを完璧に止められたサスケだが、眼の動きは止まらない。

 呪印が体を取り巻いていたのは、サスケと鬼童丸だけではない。多由也も、次郎坊も、そして、目の前に佇む左近も呪印を解放させていた。

 

 つまり、状況は先ほどと変わりはしない。

 呪印を解放させていない状況でも押されていた。全員、呪印解放状態であるならば、底上げされた力も同じであるならば、状況は変わらない。

 

 ──動けない。

 

 唇を噛み締めるサスケをジッと見つめていた左近の唇が皮肉げに動く。

 

「呪印をあんまりホイホイ使うもんじゃねーぜ。つーより、テメーは呪印をコントロール出来てねーみたいだが」

 

 呆れたように肩を竦めた左近は言葉を続ける。

 

「“解放状態”を長く続けていれば、徐々に身体を呪印が侵食していく。テメーはまだ“状態1”だけみてーだから蝕まれるスピードも遅いが……侵食され尽くしたら……」

 

 左近は自身の頭を親指で指し示した。

 

「自分を無くすぜ……ずーっとな」

「呪印で力を得た代わりに大蛇丸様に縛られている。ウチらにもはや自由など無い。何かを得るには何かを捨てなければならない」

 

 サスケが動くことはないと判断したのだろう。左腕を離し、サスケに話し掛けながら多由也は左近の隣に並ぶ。

 

「……」

「お前の目的は何だ? この生温い里で仲間と傷の舐め合いでもして、忘れて暮らすのか?」

 

 多由也の言葉がサスケの一番痛い所を射す。

 

「うちはイタチのことを……」

 

 解放される右腕と腰。鬼童丸と次郎坊も、左近と多由也の元に移動していく。

 左近はやるべきことは終わったと判断した。ゆっくりと染み込む毒を浸らせるかのように、彼は言葉を選んでいく。

 

「目的を忘れるな。この里はお前にとって枷にしかならない。下らねェ繋がりもプチンとすりゃいいんだよ。そうすりゃ、お前はもっと素晴らしい力を得ることが出来る」

「……」

「目的を忘れるな」

 

 そう言い残して、一瞬にして四人は姿を消した。

 

「……」

 

 風が残った砂ぼこりを吹き散らす。

 一人残されたサスケに秋風が吹き荒ぶ。

 

 ──オレは……弱い。

 

 だが、それでも、力を求めることは止めてはならない。

 これまでの修行。手裏剣術。忍術。体術。勉学。そして、筋トレ。

 

 全て、凡て、総て。足りなかった。心技体、その尽くが、足りなかった。

 

 弱いから敵に負けた。

 弱いから仲間を傷つける。

 弱いから大切な人を守れない。

 

 ──足りないからだ。憎しみが。

 

 何度も何度も何度も、頭の中で反響する言葉。

 

 そう、足りなかったのは修行ではなかった。

 足りないものは、心の奥底で燃え続けている復讐の二文字。

 

「……」

 

 口に出し、体に刻み、心に留める。

 それが薄れていた。この闇が薄れていた。

 “仲間”という光によって。

 

 サスケの前に木の葉が過る。

 意識しないまま伸ばされたサスケの左手が、それを掴み取る。

 

「……」

 

 くしゃっと軽い音がした。

 握り潰した木の葉。サスケの顔が上がる。

 

 その(かお)は木ノ葉の忍でも、うちは一族の末裔でもない。

 

 その(かお)は誇りなき復讐者の(かお)であった。

 

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