NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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I can fly!

「クソがッ!」

 

 次郎坊は毒づく。

 普段であれば、彼の言葉は心の内に留まるのみであった。

 そもそも、彼は寡黙で不用意に言葉を発することはない。確かに、毒舌である多由也と共に行動することが多いため無言を貫かなければならないことが原因の一つであるが、それ以上に大きなウェイトを占めるのは次郎坊の性格。

 無闇矢鱈に、誰彼構わず喧嘩を売るほどに好戦的な性格をしていない。四人衆の中で最も礼儀正しいとも言えるだろう。

 

 その次郎坊が毒を吐く。

 

 他の四人衆を追跡している木ノ葉の下忍たちを後ろから追撃しなければならない。

 そして、何としても、うずまきナルトの拳から仲間たちを逃れさせ、サスケを大蛇丸の元に一刻も早く届けなくてはならない。彼には、自身が一敗地に塗れることも厭わずに、ナルトを含めた木ノ葉の忍たちを、ここに留めておくという覚悟があった。

 

 だが、今の状況は、一人の下忍に釘付けにされている。次郎坊にとって信じることができない現実が目の前にあった。

 自分をこの場所から動かさないようにしている目の前の“デブ”が邪魔だ。

 

 オレとは違う。

 自分は言わば、“恵体”であると、次郎坊は自己評価をしていた。

 

 まだ15そこそこの齢(よわい)にも関わらず、身長は181cmと他と比べても頭一つ分、高い。体重があと少しで三桁の大台に乗るところではあるが、それは高身長故(ゆえ)のことだと自己分析をしていた。

 そして、その体重により、高威力の体術を繰り出すことができる自分の恵まれた体を誇りに思っていた。

 

 だが、目の前の憎たらしい駄肉はどうだ? 

 腹回り、二の腕はもちろんのこと、顎までタプタプとした贅肉に覆われ、実に醜い。ただの脂身の塊だ。

 

 しかしながら、今、次郎坊の体はそのデブによって、押さえつけられていた。しかも、呪印を励起させ、チャクラと身体能力を上げたにも関わらず、押さえつけられていたのだ。

 信じられないという思いを吐き出すように、次郎坊は再び悪態を吐く。

 

「放せッ! このデブッ!」

「放さない! それにボクは……」

 

 その悪態の向かう矛先──チョウジは次郎坊に負けないように声を張り上げる。

 

「ポッチャリ系だァアアア!」

「黙れ! デブ!」

 

 問答は不要。いや、元より言葉を交わす意味はなかった。

 なぜなら、次郎坊にあるのは大蛇丸から下された指令のみ。それに殉じることのみ。

 羽虫の言葉など、豚の糞以下でしかない。

 

「ラァ!」

「くッ!」

 

 チョウジの腹に次郎坊の鋭い蹴りが入る。ただの蹴りではない。

 今の次郎坊が繰り出せる最大限のチャクラを練り込んだ蹴りだ。

 

 確かに、体調は万全とは言い難い。

 音隠れのアジトから木ノ葉の里に急ぎ赴いた。木ノ葉の里では、息を潜めてサスケとの接触、そして、戦闘。不運なことに、木ノ葉の特別上忍との戦闘もあった。その上、土遁で作った壁越しとは言え、先ほどは、このデブと筋肉によって殴り飛ばされた。

 

 彼の疲弊は凄まじい。

 

 だが、次郎坊の蹴りは重かった。

 下忍程度が喰らえば、内臓破裂は必至。

 

 この日、この瞬間まで、次郎坊はそう思っていた。

 

 ──馬鹿な……呪印状態の蹴りで……。

 

 目の前のチョウジは確かに苦し気な顔をしている。だが、これは次郎坊の期待していた反応ではない。

 本来ならば、血反吐を吐き地面に横たわっているハズだ。そうでなくとも、立っていることは不可能なほどの痛みが襲っているハズだ。

 

 それなのに、何故、お前はオレの前に立っている? 

 

「ウオオオオ!!!」

「!?」

 

 思考に捕らわれていた次郎坊の反応は遅れに遅れた。

 チョウジの雄叫びと共に、次郎坊の体が宙に浮く。次いで、来るのは衝撃。

 

「ぐわっ!」

 

 次郎坊の体は宙に投げ出され、地面を削り、大木に当たり、そして、動きを止めた。

 だが、動きが止まったのはチョウジも同じ。

 

「くっ……」

 

 ──ホウレン丸だけで、こんなに痛むなんて……。

 

 チョウジは思わず腹に手を当てる。

 だが、痛みは治まることなくチョウジへと、がなり立てる。危険だぞと、食べたものを吐き出せと、これ以上、同じようなものを食べたら……命に関わると。

 

「……」

 

 だが、チョウジはその警鐘を無視した。

 荒い息を細かく吐き出しながら、痛みを緩和しようとする。目は大きく開き、次郎坊を挑発するかのように好戦的な笑みを浮かべたチョウジは印を組み上げた。

 

「肉弾戦車!」

「土遁 土陸返し!」

 

 チョウジの特攻を真っ向から迎え撃つのは、次郎坊が得意とする土遁の忍術。地面を捲り上げ、盾とする術だ。

 だが、チョウジは止まらない。さらに、自らの回転を速め、土の盾に突っ込む。

 

 かくして、土の盾を粉砕したチョウジの前に佇むのは、腰だめに掌を構えた次郎坊。

 

「図に乗るな……カスが」

「!?」

「崩掌!」

 

 土の盾を壊したことで、回転が僅かながら緩んでいた隙を次郎坊は見逃さない。彼が繰り出した掌底は、綺麗にチョウジの腹に決まり、彼の重い体を吹き飛ばすことに成功した。

 

「フン……」

 

 転がるチョウジを見下ろしながら、次郎坊は言葉を吐き捨てた。

 

「知ってるか? 人間、五人も集まるとな……必ず一人はクズがいる。そういう奴はいつも馬鹿にされてよ……いざという時にゃ、真っ先に捨て駒扱いがお決まりだ」

「ハァ……ハァ……ハッ……」

 

 息を荒げながら睨むチョウジの眼光を意に介さず、次郎坊は言葉を続ける。

 

「お前のことだよ」

「……」

 

 次郎坊の言葉を呼び水にして、チョウジの頭の中に映像が流れ出す。

 それは、修行後の自分の姿を映した映像だった。

 

 ──チョウジ。お前は食い気ばかりだな。少しは体を絞れよ。それに、油ものばかり取るんじゃなくて野菜も食え。

 ──アンタ、少しは痩せなさいよ。いざという時に動けなかったら、後悔するわよ。野菜を買ってきたから、これを食べなさい。

 

 そして、流れ出すアスマといのの言葉。自分を心配した言葉だ。そして、自分の力を当てにしてくれていない言葉だった。

 

 思わず、俯いてしまうチョウジへと、次郎坊はさらに言葉を続ける。

 

「どうやら、図星のようだな。フン……木ノ葉は余程、人材不足らしいな。お前のようなカスを追撃チームに選ぶとは」

「……」

 

 黙るチョウジ。

 しかし、心の中では言葉を紡いでいた。

 

 ──いや、シカマルは……シカマルはずっとボクのことを信じてくれてた。本当に強いって信じてくれてた! 

 

 思い出すのはシカマルの言葉。

 

 “絶対、後から追い付けよ……チョウジ”

 

「だから……」

 

 ポーチから再び取り出したピルケース。その中の黄色の丸薬をチョウジは口に含み、そして、噛み締めた。

 

「……ボク一人に任せてくれたんだ!!!」

 

 チャクラが腹から全身へと行き渡る。

 チョウジの体から出たチャクラは突風を伴い、次郎坊へと吹き荒れる。

 だが、チョウジの圧を受けても、次郎坊の表情は変化することはない。

 

「大したチャクラだ。だが、メインディッシュにゃ程遠い」

 

 すでにチョウジの底は見えた。

 パワー偏重型の忍。丸薬を摂取することでチャクラを大幅に増加させることができるが、ただそれだけだ。自分とは比べ物にならないほどに、弱い忍だ。

 

 だが、その弱い忍が自分に噛み付く。

 

「行くぞ、デブ!」

「テメーが言うな!」

「部分倍化の術!」

 

 チョウジは自分の体ほどに肥大化させた右腕を、次郎坊に向かって上から叩きつける。

 

「!?」

 

 が、そこに次郎坊はいなかった。

 

「ど、どこに……?」

「遅ぇんだよ、デブ」

「!?」

 

 再度、次郎坊の回し蹴りがチョウジの腹に入る。先ほどの焼き直しのように、吹き飛ばされたチョウジは腹を押さえることしかできない。

 喰らった回し蹴りの痛み、そして、先ほど摂取した黄色の丸薬──カレー丸──の副作用のせいだ。

 

「動けないデブはただのデブだ。お前はどうだ?」

「……」

「頭の悪いデブはただのデブだ。お前はどうだ?」

「……」

 

 動くことができないチョウジを次郎坊は詰(なじ)る。

 

「オレは違う。オレは結界・防壁の忍術、そして、呪印・封印術のエキスパートである四人衆に選ばれたエリートだ。お前のような馬鹿にも分かるように言うと……」

 

 次郎坊は薄く唇を捲り上げる。

 

「……オレは頭が良い」

「……」

「そして、オレは速く動ける。さっきのお前の遅い攻撃を軽いフットワークで避け、後ろに回り込み、そして、蹴りをお前に叩き込んだ。お前のような馬鹿で、お粗末で、食べることしか能がないような奴にも分かるように言うと……」

 

 次郎坊は自信に溢れた声を出す。

 

「オレは強い」

 

 チョウジは、何も、何一つも言い返せなかった。

 基礎的な忍術を除けば、秋道一族の秘伝忍術しか使えない。中忍試験では、中忍に選ばれるどころか、本選にも出場できなかった。

 そして、次郎坊のように素早く動くことはできない。

 

 ──けど……。

 

 奥歯を噛み締める。

 

 ──ボクは……負けられないんだ! 

 

 痛みを押して、チョウジは空中へと飛び上がった。

 

「喰らえ!」

 

 動けなくとも、頭が悪くとも、ただ一つ(秘伝忍術)を磨き上げれば、エリートにも届き得る。

 

 ──何ィ!? 

 

 次郎坊の顔に陰が差した。

 いや、顔だけではない。体全体、それ以上の範囲の日が遮られる。

 

「超倍化の術!」

 

 一瞬にして、自身の体、その全てを巨体へと変貌させたチョウジのボディプレス。

 巨体によって、木々が薙ぎ倒される。

 その質量は如何ほどか? 考えたくもないほどの重量が次郎坊へと襲いかかった。

 

 ──これで……なに!? 

 

「こんな奴を相手に……」

 

 巨大化したチョウジの腹の下。そこに小さな空間が空いていた。

 いや、小さいと言うのは語弊がある。あくまでも、チョウジの巨体と比べればという話だ。

 

 そこにあった空間は約2m。人、一人が収まることができる空間だ。

 その空間に立つのは、およそ人なる者の姿ではない。

 

「……“状態2”になるとはな」

 

 だが、その異形の者の声は、次郎坊の声と同一のもの。

 

「昇撃掌!」

「うッ!?」

 

 そして、繰り出した攻撃もまた、次郎坊と似通っていた。

 

 支え上げたチョウジの腹へと掌底を放つ。

 その攻撃は巨大で大質量のチョウジの体を空へと吹き飛ばした。

 

 術が解け、チョウジの体は小さくなり、そして、地面に向かって落下する。

 受け身も取れず、大地に叩きつけられたチョウジの体は動かない。

 

 なんとか首を動かし、自分を吹き飛ばした相手に顔だけを向ける。

 

 ──何だ……あの姿は!? 

 

 髪は伸び、そして、白に染まっている。

 額と腕には瘤が出来ており、顔からは眉がなくなっている上に厳めしい顔つきだ。

 そして、何よりも違うのが目だ。反転したかのように、白目が黒くなっている。

 鬼を想起させる姿だ。

 

「こうなったら終わりだ。これまでの10倍以上の力を出せる“状態2”に敵はいない」

 

 足元の瓦礫を蹴り飛ばしながら、鬼は──次郎坊は──チョウジへと近づく。

 

「だが、この状態はやたらとチャクラがいる」

 

 チョウジは動くようにと体を急かすが、体は言うことを聞かない。

 辛うじて動く手をポーチの中に入れる。

 

 ──残りは赤のトンガラシ丸。でも、あれを飲んだら、間違いなく死ぬ……。でも、コイツはここで倒さなきゃ……。

 

「さて、と……」

 

 今度はチョウジの顔に陰が差す。

 

「いただきますか」

 

 猛烈な勢いで伸ばされた次郎坊の手。

 喉笛を押さえつけられ、地面に押し付けられ、そして、チャクラを吸い盗られる。

 

「フン……もうチャクラも大して吸い取れねー。全然、食い足りねーな」

 

 衝撃でポーチから手が出たせいだろう。地面にばらまかれたチョウジの荷物の一つに、次郎坊の目が向く。口が開けられたポテトチップスの袋だ。

 それは、任務が終わった後に食べようと残していた一口分のポテトチップス。

 

「何だ、最後の一口だけか」

「ぐっ」

 

 次郎坊はポテトチップスを食い、そして、呻くチョウジを見下す。

 

「やっぱり、テメーは捨て駒扱いのカスだったな。だが、安心しろ。お前を殺した後は、薄情で薄汚い他のゲス共も食らってやる。うずまきナルトでも、オレたちが一丸でかかれば、奴に勝ち目はない。残念だったなァ」

 

 ニタリと嗤った次郎坊は、チョウジに言葉を吐き捨てた。

 

「死ね……仲間外れの哀れなデブ」

 

 ──シカマル、ごめん。みんな、ごめん。

 

 中忍試験、本選の予選の際に、チョウジはドスに負けた。そのため、まだ誇りは取り戻せていない。

 ここでトンガラシ丸を摂取すれば、次郎坊にも勝てるだろう。そして、誇りを取り戻すことができるだろう。

 だが、その先は? 

 

 アスマに、いのに、そして、シカマルに認めてもらえるだろうか? 

 

 ──貴殿は優しいな──

 

 そう言ってくれた、優しく強い漢(ナルト)に認めてもらえるだろうか? 

 

 そのようなことは断じてない。勝ったとしても、自分が死ねば、彼らは涙を流すであろうことをチョウジは理解していた。

 

 ──ボク、まだ死ねないや。

 

 赤い丸薬を指で弾く。

 

 それを、チョウジが弾いた丸薬を、次郎坊は見逃さなかった。

 青い丸薬、そして、黄色の丸薬を摂取した瞬間、チョウジのチャクラは跳ね上がった。二度も同じ場面を見てきた次郎坊は、丸薬を警戒していた。

 そして、黄色の丸薬をチョウジが口に入れる時に、ピルケースに残された赤い丸薬の存在を認識していた。

 つまり、丸薬を飲ませないようにする必要がある。

 

 だが、それだけで次郎坊の分析は終わらない。

 チャクラを大幅に上げる丸薬など、次郎坊の知識の中にはない。となれば、秘伝の丸薬であることは簡単に想像がついた。そして、秘伝になっており、効果が絶大である以上、避けては通ることができない副作用についても、次郎坊は見抜いていた。

 だからこそ、チョウジを観察していた次郎坊は、チョウジが動けないほどの痛みに耐えていることに気がついていた。

 

 そして、三色に別れた丸薬。その中で警戒色である赤色に、わざわざ着色している理由など、一つしかない。重篤な副作用、それこそ、死亡するような副作用があってもおかしくはないと考えられる。

 つまり、丸薬を飲まないようにする必要がある。

 

「フンッ!」

 

 チョウジには食べさせない。そして、自分も食べない。

 次郎坊は腕を振り切ることで赤色の丸薬を破砕した。

 

「もう終わりだ」

 

 次郎坊はチョウジへと視線を向ける。

 

「!?」

 

 が、チョウジの喉が動いている。

 それはまさに、ものを飲み込む時にする仕草。

 

「圧掌!」

 

 反射的に掌底を繰り出す次郎坊だが、手応えはない。危機感を覚え、その場から瞬時に飛び退く次郎坊。

 正面からチョウジを見た次郎坊の喉がなる。

 

 ──コイツ……体型が変わるまでチャクラを!? いや、それだけじゃない。

 

 次郎坊は変化、いや、変身と言えるほどに変貌したチョウジの背中を見て、警戒を強める。

 

 ──今までとは……まるで別人! 

 

「何者だ?」

 

 そう問わずにはいられなかった。

 次郎坊の質問を聴いたチョウジの背から、大量のチャクラが噴出され、青く巨大な羽を形作る。

 

 そうして、今、新生したチョウジは──羽化した蝶は──大地へと降り立ち、ゆっくりと振り向く。

 そして、彼の問いに、こう答えた。

 

「I am “Butterfly” CHOJI(私は”蝶”チョウジです)」

 

 次郎坊は目を大きく開ける。

 口を少し広げる。

 そして、ワナワナと震える。

 

 次郎坊の言葉を待つことなく、チョウジは言葉を続けた。

 

「I am so strong and so smart (私はとても強く、とてもスマートです)」

「癖が強い!」

 

 次郎坊は叫ばずにいられなかった。

 

「なんなんだ? いきなり! なんなんだ、お前は!」

「Butterfly CHOJI(蝶チョウジ)……This is the real me(これが本当の私です).Nice to meet you(よろしくお願いいたします)」

「さてはお前、話が通じてないな?」

「That is different too(それは違います).Because(なぜなら)……」

 

 チョウジは引き締まった胸を張る。

 

「I am very intelligent NINJA(私はとても賢い忍者だからです)」

「だから! なん! なん! だよ! お前は! 今! 何を! 食って! どう! なって! 何が! 起こって! どう! して!」

 

 次郎坊は腹の底から声を出した。

 

「そうなったっていうんだ!?」

「……Pardon(もう一度、お聞かせ願えますか)?」

 

 ──通じていない。

 

 ブチブチと頭の血管が切れる音がする。『“R”の発音、すっげぇ』という至極どうでもいい感想を頭の隅に追いやり、情報を集めるため、質問を繰り返した。

 

「あなたは今、何を食べましたか?」

「I get it! I understand,Jorobo(理解できました、次郎坊さん).You taught me the question! I do not just hear your words now.I feel them in the depths of my heart!」

 

 チョウジは次郎坊に頷く。

 

「I ate royal jelly.(私が食べたのはローヤルゼリーです)」

「……何て?」

「Oh,s**t(なんてこったい)! では、改めてご説明いたします」

 

 ──最初からやれや。ボケがよぉ……。

 

 ギリギリと歯を食いしばる次郎坊を知ってか知らずか、チョウジは話を始める。

 

「私が食べたのはローヤルゼリーです。ローヤルゼリーとは女王蜂にのみ与えられる餌です。この餌を食べる女王蜂は寿命が働き蜂の約40倍、大きさが約3倍にもなります。含まれる栄養素は、糖質、脂質、たんぱく質に加え、ビタミン、ミネラル、さらに言えば、必須アミノ酸など40種類以上にもなります。その効果は多岐に渡り、免疫力の向上、老化防止、更年期障害の改善、高血圧予防、コレステロール値の低下、肝機能の向上、糖尿病予防、筋力低下の抑制、骨密度の減少抑制、冷え性の改善、肌水分量の向上、口内炎の抑制、耳鳴り改善、抗酸化作用、自律神経の調整などがあり、現在も研究が進められています。その中でも、私が注目したのは10 -ヒドロキシ-2-デセン酸です。デセン酸と縮めて呼ばれるこの成分は、運動前に摂取することで骨格筋のミトコンドリアの増加を増強させる効果があります。ミトコンドリアというのは細胞内に備わる小器官。筋肉が収縮するのに必須であるアデノシン3リン酸、通称ATPの生産に関わっています。つまり、運動能力を向上させます。また、ローヤルゼリーにはERK1/2およびCREBを活性化させる機能もあり、学習・記憶などの高次神経機能の向上に寄与します。そして、秋道一族の栄養吸収促進体質によりローヤルゼリーの成分を余すことなく吸収。運搬を可能にするために乾燥粉末にしたローヤルゼリーは機能が落ちますが、秋道一族の体質によりこの弱点をカバーいたしました。先に摂取したホウレン丸、カレー丸の効果も同時に高めることで肉体をよりシャープに、頭脳をよりスマートにすることができました」

 

 一息吐いたチョウジは次郎坊に尋ねる。

 

「お分かりになられましたか?」

「……分からん」

「Really? (それ、本気で言っていらっしゃいますか)」

 

 バカだと思われている。

 そう感じた次郎坊は、ありったけの罵倒をチョウジ……いや、目の前の変人にぶつけることに決めた。

 

「このデ……随分、痩せたな、お前!」

「Thank you very much(お褒めいただき、誠にありがとうございます)」

 

 チョウジの変化。

 それは体型だけではない。性格だけではない。

 

 ──コイツ……画風まで変わってやがる! 

 

 目が大きく、線が細く。例えるならば、少女漫画か。

 至極どうでもいいメタフィクションな感想も、これまた頭の隅に追いやり、次郎坊は拳を握りしめた。

 そうして、チョウジを殴り殺す意思を固めた次郎坊は呪印・状態2で底上げされた全チャクラを右腕へと集めていく。

 

 数多くの強敵を屠ってきた拳だ。数えきれないほどの敵を冥土に殴り飛ばした拳だ。

 その凶器とも言える拳に、彼が持ち得る全てを乗せたのが今の拳だ。

 

 一撃決殺。

 先の掌底とは訳が違う。相手の骨を砕き、肉を歪ませ、血を飛び散らせる。それは唯の一撃、然れど、致命的な一撃だ。

 

 過去、この拳を止めることができたのは一人だけ。

 

「君麻呂以外にコレを使う日が来るとはな」

 

 次郎坊は呟く。

 今から放つ技は、自分の中で最高峰の攻撃。自身が強敵であると感じた者にしか使うことがない技だ。

 それを、一介の下忍に放つなど今までの彼の常識では考えられないことだった。

 

 だが、今、彼は自分の最高のカードを切ることに決めた。

 

 次郎坊の姿が掻き消える。

 それは先のスピード以上の瞬身の術。瞬きの間にチョウジの後ろに回った次郎坊は右腕を引き絞り、そして、最高の攻撃を繰り出した。

 

「岩撃!」

「No use(無駄です)」

「!!!?」

 

 止められた。最高の攻撃がいとも容易く止められていた。

 

「ボクは……さっきの1 million times stronger(100万倍、強いです)!」

「ぶっ!?」

 

 チョウジの、いや、蝶チョウジの肘が次郎坊の腹にめり込む。

 吹き飛ばされ、地面に横たわる次郎坊。先ほどとは逆の構図となった。

 

 動けない次郎坊へと、チョウジはゆっくりと近づく。

 そして、口を開いた。

 

「A grudge over food will not be forgiven easily(食べ物の恨みは恐ろしい)ということは知っていますね?」

「!」

「今のBlow(一撃)は、Chips(お菓子)の最後の一口を食べられた恨みの分です」

「ま……」

「そして……One more blow(もう一発)! この一発はVery hard(とても重いです)」

「待て!」

「ボクのことを捨て駒だ、デブだと馬鹿にしたのは許せません」

 

 チョウジの頭の中に響くのは、次郎坊の先ほどの発言。

 

 ──馬鹿な隊長を持つと苦労するなぁ……下っ端は。

 ──影好きな陰気なヤローの下についているようなカス共は苦労を感じる前にオレが殺してやるがな。

 ──お前を殺した後は、薄情で薄汚い他のゲス共も食らってやる。

 

 チョウジはキッと表情を引き締める。

 

「ですが! それ以上に! ボクの親友を馬鹿にすることは! どんな高級な料理の一口を横取りされることより! デブとバカにされることより!」

「ゆ、許してくれ」

 

 次郎坊の懇願は虚しく森の広間に響くのみ。

 チョウジの右の拳が青に光る。

 

「Sorry is not enough(許せない)!」




英語の訳は意訳となっているので、言葉ではなく心で理解していただくようお願いします。
TOEIC、300点だし英検3級で日本語だって怪しい私にはグローバリゼーションは早かったかもしれません。
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