NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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強敵

 ただ、気が急く。

 

 友を死地に置いてきてしまったこと。

 友が死地に連れ去られていること。

 

 ──チョウジ……サスケ。

 

 何もできなかった。

 まだ、何もできていない。

 

 やはり、自分も残ればよかったのではないか? 

 やはり、自分が何かできたのではないか? 

 

 ナルトは自分を責める。

 筋トレをして、力をつけた。山籠りをして、力をつけた。

 忍となり、仲間と出会い、師と修行をし、そして、夢を現実にするために、自らの力を高め続けた。

 

 だが、今、どうだ? 

 後悔の連続だ。

 まだまだ足りなかった。力が足りなかった。

 

「ナルト、集中しろ」

「む!?」

 

 後悔に沈むナルトへと声がかけられた。

 冷静で、されど、相手を思いやる声。ネジだ。

 

「チョウジの判断は間違っていない。アイツはオレたちを先に進ませるために残った。……いや、それだけじゃない。チョウジは譲れない“想い”のために残った」

「それは……そうだな」

 

 ナルトの顔が上がる。

 後悔に苛まれ続けるのは、チョウジに対して礼を失する行為に他ならない。だから、ナルトは顔を上げ、表情を引き締め、そして、大腿四頭筋と腹直筋、そして、大胸筋に力を入れる。

 

 不安を払拭したのならば、後は進むのみ。

 

「ネジ、礼を言う」

「フッ……礼には及ばないさ」

 

 二人は視線を交わし、頷き合う。

 そして、前で走り続けるシカマルとキバ、そして、赤丸に追い付くためにスピードを上げた。

 

「おせーよ、お二人さん」

「済まぬ。キバ、赤丸。そして、シカマルも」

「そんなのは後だ」

 

 シカマルは前を向いたまま、ナルトに答える。

 隊員であり親友であるチョウジを、隊長であり親友である自分が置いていくよう判断した。その全ての責は自分にあることをシカマルは十二分に理解している。

 ならば、班員たちにかける言葉は、(おの)ずと導かれるだろう。

 

「それと、チョウジは心配しなくていい」

「む?」

「アイツは強い。そのことはオレが一番、知ってる。チョウジは勝つさ」

「……然り!」

 

 深く頷いたナルトはシカマルの背を追う。

 

 ──アイツは強い。

 

 シカマルの言葉はナルトの心に深く染み込んだ。

 

「征こう!」

 

 ナルトの声に頷きを返す三人と一匹。

 と、キバの鼻が獲物を捉えた。

 

「近いぜ」

 

 小声ながら、キバの声はよく通った。

 

「……妙だな」

「ん?」

 

 と、敵を見つけて浮き足立つキバへと、ネジが疑問を呈する。

 

「さっきからトラップの一つも仕掛けられていない。シカマル……これをどう見る?」

「警戒されてるんだよ、ナルトが」

「む?」

「アイツら、ナルトの姿を見た瞬間、泡を食って逃げ出す方に考えを変えた。大方、追撃やトラップのことなんか頭にねーだろーな」

「けどよォ、シカマル」

「なんだ、キバ?」

「ナルトと闘いたいって、アイツらも考えそうなもんだが……」

「そう考えるのは、自分の実力を試したいって思ってるオレたちぐらいだ。他の奴は、なるべくナルトとの闘い──勝ち目の薄い戦いは避けるもんだ。ついでに言えば、アイツらは任務中。任務中に自分の闘争心を優先させるような奴が、敵国から忍を拐うなんて高難易度任務を受けさせて貰える訳もねェ。けど……」

 

 シカマルは苦い顔をする。

 

「穴はある」

「穴?」

「ああ。奴らはナルトと闘いたくない。そんで、オレらはサスケを取り戻したい。敵さんは三人。内一人はサスケを背負ってる。そんで、オレらは四人……」

「ワン!」

「……と一匹だ。なら、一人ずつ引き離せばサスケを背負ってる奴に対して、二人で攻撃ができる」

「……」

「……」

「……」

 

 それは薄氷を踏むような危険度の高いことだと、ここにいる全ての忍は理解していた。

 キバは嗅覚で、ネジは視覚で、シカマルは頭脳で、そして、ナルトは第六感で。敵である四人衆の実力は自分たちを受け持つ隊長である上忍と同等のレベルであることを理解していたのだ。

 

 だが、ここで臆すれば仲間が奪われる。それは木ノ葉の忍として決して認めることができないこと。

 

 だからこそ、彼らは歯を剥き出して嗤う。

 臆さぬように。退かぬように。そして、昂るように嗤ってみせるのだ。

 

「オレは手が多い音忍と闘う」

「なら、オレは白髪のリーダーを気取ってる奴だ」

「……また女かよ。めんどくせーな」

 

 ネジとキバ、そして、シカマルはターゲットを定める。

 そして、残るはナルト。

 

「己は……己は……サスケを……連れ帰る」

 

 苦渋の選択。

 友だけ戦わせることになってしまった。だが、自分は“忍”だ。ならば、友の心意気に応えるために、任務を必ず成功させなければ、必ず達成させなければ、ならない。

 その口惜しさは如何ほどか。ナルトの表情を見れば、その一端ではあるが、分かることだろう。

 

 だが、シカマルは、キバは、赤丸は、ネジは、ナルトを見ない。

 ナルトを信じているからこそ、彼らは振り返ることはない。

 

 方針は既に定まった。

 ならば、ここから考えるのは戦闘のことのみ。

 

「シカマル」

「ん?」

「作戦は……必要ないな」

「ああ」

「んじゃ、オレらから征かせて貰うぜ」

「頼んだ。キバ、赤丸」

「おう! 赤丸、最初から全力だ。出し惜しみはしねぇ」

「ワン!」

 

 キバはポーチから取り出した兵糧丸を赤丸の口に、そして、自分の口に放り込む。

 変化はすぐに訪れた。キバの瞳孔は縦に、赤丸は全身が赤に染まる。

 

「犬塚流 人獣混合(コンビ)変化」

 

 キバと赤丸の体から大量の白い煙が噴出された。

 白の煙の向こう、影が巨体を映す。

 

「双頭狼!」

 

 それは、中忍試験にてキバがナルトと闘った時に魅せた術。

 人獣一体となり、巨大な双頭の白狼として現出する術だ。そして、その巨体から放たれる全ての攻撃の破壊力は抜群。

 

「牙狼牙!」

 

 ナルトたちを追い抜き、安全を確保した白狼は体を回転させる。その身に纏う風は刃となり、目の前の障害物を細かく破砕する。

 

「!?」

 

 背後から聞こえてくる破砕音に、弾かれたように振り向く左近、多由也、鬼童丸。

 呪印を発動していない上、疲労も溜まっている。そのせいで、後ろからの脅威に気がつくのに遅れてしまっていた。

 

「鬼童丸!」

「分かってるぜよ! 忍法・蜘蛛巣開!」

「!?」

 

 だが、彼らの判断は適切に行われた。

 キバの進行方向に繰り出されたのは網。

 古来より人が獲物を捕らえるために使ってきた人類の叡知の結晶だ。いや、それよりも遥か古代。人間よりも前に、網を使いこなしてきた動物がいる。

 

 蜘蛛だ。

 一本の直径が約6ミクロンという極細でありながら、糸を出した蜘蛛の体重の二倍以上の重さに耐えることができるほどの強さ。それに加え、粘着性もある。

 空を高速で飛ぶ巨狼すらも捕らえるほどに強靭かつ凶悪な性能を持つ糸を、一瞬にして吐き出すことができるのが鬼童丸の特異体質。

 

「捕まえたぜ……チッ! 避けろ!」

「クソがッ!」

「ウザッてぇ!」

 

 網は確かに巨狼の体に絡んだ。確かに回転の速度は緩んだ。だが、問題はその速度。回転がなくとも、猛烈な勢いで突っ込んでくる巨体の質量は驚異的だ。

 身近なもので例えると、スピードがついたダンプカーが縁石に乗り上げた拍子に、車体を回転させながら突っ込んでくるようなものか。

 即死して、おまけに、転生しかねないような代物である。

 だからこそ、彼らは避けるしかなかった。

 

 ──だが、オレの糸からは抜け出せないぜよ。

 

 鬼童丸は宙へと身を踊らせながら、視線を巨狼に向ける。いや、向けてしまった。

 

 ──これで一人。あとは……!? 

 

 そこで、自分の顔に影が過っていることに鬼童丸は気がついた。

 彼が注目してしまったのは、巨体(巨狼)。そして、注目していなかったのもまた、巨体であった。

 

 危機感に従い、鬼童丸は目線を狼から右に動かす。

 限界ギリギリまで動かした眼球の先。そこに居たのは、拳を握りしめ、腕を引き絞る巨体(ナルト)だった。

 

 ──ヤバい……なんてもんじゃないぜよ! 

 

 瞬時に呪印を励起させ、状態1──体中に紋様が刻まれた状態──となった鬼童丸は全チャクラを防御に回す。同時に、担いでいた棺桶を放り、全ての手を胸の前で交差させた。

 

「蜘蛛粘金!」

「フンッ!」

 

 ──重いッ! 

 

「鬼童丸!」

 

 殴り飛ばされた鬼童丸へと左近が叫ぶ。多由也も続いて、首を鬼童丸が飛ばされた方向に向ける。

 木々をへし折りながら、森の深くに飛ばされた鬼童丸をフォローするために、膝を曲げた。

 

「影真似の術!」

「クソッ!」

「またか!」

 

 ナルトと、彼に抱えられた棺桶に、左近と多由也の注意が向けられた隙をシカマルは見逃さない。

 

「ネジ! キバたちを!」

「ああ!」

 

 キバと赤丸が変化した巨狼の拘束を優先するように、ネジに声をかけたシカマルは理解していた。

 

「おぅら!」

「らァ!」

「グッ!」

 

 現在のチャクラ量では、左近と多由也、二人の拘束は短い間しか持たないことを。

 だが、場は整った。

 

 左近が血走った目でシカマルを見つめ、クナイをどこからともなく取り出す。

 

「死ね!」

「させねェよ!」

「左近! 上だ!」

「チッ!」

 

 シカマルに向かおうとしていた左近は多由也の声に反応し、その場から横っ飛びで離脱した。

 一秒でも判断が遅れていた場合、彼の体は巨大な爪に引き裂かれてしまっていただろう。

 

「ナイスだ、キバ!」

「おう!」

 

 左近を襲ったのは、鬼童丸の網の拘束から解かれたキバだった。

 

「助かったぜ、ネジ!」

「そっちは任せたぞ。キバ、シカマル」

 

 木の上から頷きを返したネジは鬼童丸が吹き飛ばされた方向へと瞬身の術で姿を消す。

 

「させねェよ」

 

 ──マズイ! 

 

 多由也が懐から取り出した、およそ戦場には相応しくない獲物を見たシカマルは額に汗を流す。

 

「間に合え!」

 

 咄嗟に投擲したクナイ。だが、多由也はヒラリと軽くステップを踏むことで避けた。

 

「魔笛・夢幻音鎖」

「全員、耳を塞げ!」

 

 ──遅ェんだよ。

 

 多由也の笛から音、いや、術が発された。

 そして、シカマルの指示は、多由也の心の呟き通り、ほんの少し遅かった。

 

 その術は瞬時に、この場にいる全ての者の感覚を奪う。敵味方の区別なく、多由也の術に囚われた。

 

 ──左近と鬼童丸は……仕方ないか。やはり、“状態1”だと術のコントロールが甘くなる。だが……。

 

 術者である多由也以外は動くことができない。

 演奏は止めず、多由也は木の上で佇むナルトを見遣る。

 

 ──うずまきナルトを幻術にかけることができた。……というか、アイツ。幻術、効くんだ。助かった。

 

 中忍試験、本選にてカブトが発動させた幻術がナルトに効かなかったことを多由也は記憶していた。そのことから、ナルトを警戒していた多由也だが、あの時とは状況が違うことに気がつく。

 そもそも、あの時のナルトは仇敵(大蛇丸)を見つけ、彼を攻撃するためにカブトの幻術の効果範囲外である大蛇丸の側まで移動していた。

 だが、今は自分の幻術の効果範囲内にいる。術が効くための条件は整っていた。

 

 多由也は笛を咥えながら、薄く唇を歪ませる。

 

 木ノ葉の忍たちは全員、まな板の上の鯉。彼らの生死、いや、死に方を決めるのは自分であるという高揚。そして、一番、警戒していたナルトでさえも、今は動くことができない。

 

 ──あとは、左近と鬼童丸の幻術を解いて……。

 

 そこまで考えた多由也は足を一歩前に出した瞬間。

 

「グハッ!」

 

 後ろから猛烈な風と轟音が響いた。

 多由也の小さな体が地面に投げ出される。

 

「な……何が……?」

 

 ジンジンと痛む体。耳は何度も起こる轟音で聞こえづらいが、何とか周りの情報を取ろうと耳にチャクラを集める。

 体を起こし、多由也は辺りを見渡した。

 

「!?」

 

 先ほどまで自分がいた場所、その後ろ。そこにあった大木の幹が抉れていた。

 まるで、発破をかけられたかのように。

 

 ──まさか、あのクナイ……! 

 

 思い出したのは、その大木に刺さったクナイ。先ほど、シカマルが牽制のために投げたクナイだ。

 

「起爆札をつけて……」

「ご名答」

「ッ!?」

 

 前から聞こえてきた声。その声の主がこの状況を作り出した。

 それを理解し、多由也は憤怒で顔を歪ませる。

 

「テメェ……!」

「お前らを一人一人に分断する。サスケが入れられた棺桶を、お前らが一番、警戒しているナルトに取り戻させる。どーにか、作戦成功だ」

「このクソヤローが!」

 

 怒りを込めた目で、目の前の声の主──シカマル──を睨むが、当の本人はどこ吹く風。多由也のことを歯牙にもかけない様子が多由也の逆鱗に触れた。

 だが、多由也の冷静な部分が告げていた。

 

 先ほどの轟音。

 その一つ目は、シカマルが投げたクナイについていた起爆札。

 その後に続いた轟音は、巨狼に変化したキバの攻撃を左近が避けた音だろう、と。

 

 現状は目の前のクソヤローの思惑通りに進んでしまっている。なら、と多由也の冷静でない部分が告げていた。

 

 “状態2”でこのクソヤローを血祭りにあげる。そして、ナルトも幻術にかける。

 さっきは幻術が効いた。なら、今度も……。

 

「多由也」

 

 スッと血の気が引いた。同時に体を取り巻いていた呪印も引いていく。それは、他の二人も同じであった。

 怒りによる闘争心も、コケにされたことによる屈辱感も。全て、全ての感情が一色に染め上げられる。

 

「何をしている?」

「な……なん……で……?」

 

 ──何者だ、コイツ……!? 

 

 多由也と同様に、シカマルも動きを止めた。いや、シカマルだけではない。変化が解けたキバも赤丸もネジも、左近も鬼童丸も、そして、ナルトも動きを止めていた。

 

 冷たく、どんなものにも興味を覚えることのなさそうな目線。強者だ。

 気づかない内に、これほど近くまで寄ってきていたこと。強者だ。

 醸し出す、静かながらも芯がある強者の雰囲気。強者だ。

 

 そう、格上の忍だった。

 痩身で白髪。多由也と同じような意匠を凝らした服と腰に回した注連縄(しめなわ)。首元には、離れ三つ巴の呪印。

 顔つきは、まだあどけなさが残っている少年でありながらも、彼が醸す雰囲気は歴戦の強者のそれと酷似していた。

 

 ごくりと多由也の喉が鳴る。

 

「き……君麻呂」

 

 勝手に震え出す体。恐怖などという生温いものではない。全ての意思、意識が押し潰されるかのような絶望に感情が染め上げられていた。

 いや、それは到底、言葉で言い表すことなど不可能な感情だ。

 

 ──重い……! 

 

「何をしている?」

「はッ……はッ……はッ……」

 

 空気が重く感じる。そのせいで呼吸が難しくなっている。

 どうしても、息が、荒く、なってしまう。

 

「左近」

「……」

「鬼童丸」

「……」

 

 君麻呂は他の二人にも呼び掛ける。

 だが、二人は口を開くことができない。生物として上の位階に位置する存在に下手に口を開こうものならば、殺されると彼らは理解している。

 

 そして、現在の君麻呂の機嫌は(すこぶ)る悪いことが見て取れる。

 その理由は彼が崇拝する者にとって、都合が悪いことが起こったからだ。

 

「君たちは遅かった。すでに大蛇丸様は転生の儀を終えてしまった」

「ま、待てよ! オレたちは大蛇丸様の指示通りにサスケ自ら里抜けをさせるように誘導して……」

「黙れ」

「!?」

 

 一言。

 それだけで抗議の声を挙げていた左近の全ての動きが止まる。瞬きも、呼吸も、何もかも。

 

「大蛇丸様の期待に答えられない忍はこの世に必要ない。目の前の木ノ葉の忍たち(ゴミ)も」

 

 君麻呂はどこからともなく取り出した、白い刀を振り上げる。

 

「そして、ゴミに足止めをされている君たちも……?」

 

 そこで初めて君麻呂は不思議そうな表情を浮かべた。

 振り上げた刀を振り下ろせない。目線を上に向ける。それを認識し、君麻呂は大きくため息を吐いた。

 

「大蛇丸様から聞いてはいたが、ここまで愚かとは思わなかったよ」

「……」

「君からすれば、敵の同士討ち。敵が一人減るのは、君にとって喜ぶべきものだが?」

「……否」

 

 掴んでいた君麻呂の刀から手を離し、ナルトは拳を握り締める。

 

「信じるべき仲間。それを裏切ることは、誠に恥ずべきこと。例え、敵であろうが“道”に背く行為は見捨てて置けぬ」

「これがボクの“道”だ。大蛇丸様の邪魔になる全てのものを(なら)し、整える。大蛇丸様の覇道は邪魔させない」

「譲らぬならば、“道”は一つしかない」

「ああ。君の言う通りだ」

 

 君麻呂とナルト。

 二人の交わることのない道が重なった。

 

「来い」

「応ッ!」

 

 握り締めた拳が全力で突き出される。

 拳は君麻呂の胸に当たり、彼の華奢な体を大きく吹き飛ばす。

 

「!?」

 

 そうなるだろうと、木ノ葉の忍たちは思っていた。

 

「ただの一撃が次郎坊の全力と同じ威力とは……大した奴だ」

「む!?」

「重吾以来かな。ここまでの人間は」

 

 ナルトが突き出した拳のエネルギー。それは君麻呂の胸から突如、生えた白いものに和らげられ、止められていた。

 

「これがボクの血継限界……屍骨脈。君のような直情的な人間に対しての効果は絶大だ」

「くっ!」

「遅い」

「ぐっ!」

 

 退いて体制を立て直し、再度、攻撃を行う。

 ナルトの考えを放置するほど、君麻呂は甘くなかった。

 

 ナルトが拳を引いたと同時に、君麻呂は前に出て前蹴りをナルトの腹に叩き込む。

 華奢な体から放たれるとは、信じることができないほどに重い蹴り。ナルトの体が地面に転がる。

 

「多由也、左近、鬼童丸」

『!!』

 

 言葉を発することができない仲間(ゴミ)に向けて、君麻呂は話しかけた。

 

「挽回のチャンスを与える。そいつらを“必ず”殺せ」

 

 そもそも、先ほどの蹴りの際に足裏から鋭く尖った骨を出していれば、ナルトは殺せた。

 だが、それを君麻呂がしなかった理由。それが、音の忍たちに対する名誉挽回のチャンスだ。

 ここで、君麻呂の期待通り、三人が木ノ葉の忍たちを止めることができたのならば、彼らの失態──三人にとっては理不尽なものであるが──を不問にするつもりであった。

 だが……。

 

 ──失敗したら、君たちを殺す。

 

 君麻呂の言外の思い。それを嫌になるほど受け取った三人の表情が引き締まる。同時に、左近と鬼童丸は多由也の隣に瞬時に移動した。

 

 最後に彼らを一瞥した君麻呂は、サスケが入った棺桶に近づき、一息で持ち上げる。

 

 ──つくづく、愚かだ。

 

 多由也に対する斬撃を止めるために、サスケの入った棺桶を一旦、置いたナルトを愚者だと断じた君麻呂は踵を返した。

 

「待て!」

 

 ナルトの制止する声は君麻呂に届かない。瞬身の術で姿を消したため、耳に入ったかすら怪しい。

 だが、どちらにしろ、彼がこの場から姿を消すことは確定事項。

 

「クソが」

「死に損ないめ」

「アイツ、嫌いぜよ」

 

 そして、立ちはだかる三人の音忍から放たれる殺気は、先ほどとは別物と呼べるほどに、濃密で鋭い。

 

 だが、それはこちらも同じこと。

 

「お前ら、さっき言ったことは覚えてるな?」

「ああ」

「ワン」

「当たり前だ」

 

 ナルトの前に降り立つのは、木ノ葉の三人の勇士と一匹。

 仲間を取り戻したと思ったら、今度は目の前で拐われた。そのことが、彼らに火を着けた。

 

 それはナルトにも、だ。

 

 地面から身を起こし、頭を下げる。腰は高く、左足は曲げ、右足は伸ばす。

 ナルトは前を、君麻呂が去った方向を見据える。

 

『……』

 

 風が吹いた。

 頬を撫でた風。その正体についても、音の三人は十二分に理解していた。

 

「……一つ、いいか?」

「何だ?」

「なんで、ナルトを見逃した?」

 

 横を通り過ぎた風。それはナルトが移動した時に起こした風だった。だが、三人は君麻呂の命令通りにナルトを止めようとはしなかった。

 

 それに対する疑問。

 シカマルの質問に、左近は唇を歪ませる。

 

「オレらじゃ、君麻呂には逆立ちしても勝てない。うずまきナルトでも、な」

「だが、うずまきナルトなら、君麻呂の体力を減らすことはできる」

 

 左近に続いて、多由也が言葉を繋ぐ。

 

「君麻呂の余命は少ない。今、動けているのが奇跡のようなもんぜよ。その状態で、うずまきナルトと戦えば、アイツの少ない寿命も切れるか、死ぬ寸前まで追い込まれる。そしたら、オレらを殺すことができなくなるぜよ」

 

 鬼童丸が言葉を締めた。

 

「……」

 

 ネジは何も言葉を返さない。

 

「イヤな里だな」

 

 キバはため息を吐く。

 

「やることは変わんねーけどよォ……」

 

 シカマルは冷たい目で音の三人を見返した。

 

「……アンタらには死んでも負けられねぇ」

 

 木ノ葉とは違う音隠れの里の“道”は認められない。

 交わることがない“道”が重なった時、人は、いや、忍はどうするべきか。

 

 闘争だ。

 チョウジに続いて、彼らの闘いが、今、始まる。




君麻呂の登場が原作より早いのですが、これもナルトさんのせいです。

綱手捜索編での、カブトに喰らわせたパンチの傷が深く、カブトの治療を優先させたため大蛇丸の病状が悪化しました。
そのため、原作よりも早いタイミングで大蛇丸は不屍転生を行っているので、君麻呂が出るのも早まった形になります。

リーと我愛羅(砂の忍)については、残念ながら今回、出番はありません。
リーの手術の成功率を上げるため、綱手は時間を取っているので、現在、彼は手術中。
我愛羅たちは、筋肉痛のため動けないためです。

少し前の更新で、リーと我愛羅たちの現状を取り上げたのは、このためです。
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