・ちょっとした流血描写があります。
・現代技術で不可能なことも妖精さんの手にかかれば可能です。
<今回の主なターゲット>
工作艦明石
<仕掛けるドッキリ>
死んだふり
Case1:とある工作艦
こちこちと時計の針の音だけが響く早朝の執務室、男が一人真剣な表情で何かを見ていた。カーテンを閉め切った部屋の中で、男の手にあるタブレット端末の光だけが辺りを淡く照らし出す。
食い入るように見つめる視線の先に映るのは一本の動画。大本営からの命令で撮影された
だが、男としては至極真面目に考えた上での行動だった。万が一、これから行おうとしていることを艦娘の誰かに感付かれてしまえば、全てが台無しになってしまう。最前線ではないが、それでも毎日深海棲艦との戦いがあるような環境では娯楽と呼べるものは少ない。故にこの企画を実行前に気付かれれば、あっという間に鎮守府銃に噂が広まってしまうのは想像に難くなかった。
加えて何よりも、鎮守府のパパラッチこと重巡洋艦青葉を忘れてはいけない。何せあいつには執務室に盗聴器を仕掛けたという前科がある。新聞のネタになりそうなものには人一倍嗅覚が鋭くなる奴だ、飛龍ではないが慢心はダメ絶対。青葉の殊勝な態度に反省したと勘違いをして、居眠りをした姿を新聞の一面にすっぱ抜かれたことは記憶に新しい。
そんなこんなで周囲の警戒を怠ることなく数十分の映像を見終えた男は、何かを悟ったかのような表情で天を仰ぎこう一人ごちた。
「ドッキリ、やるか」
1
工作艦明石。
開発、建造、改修と工廠に関することを一手に引き受けている彼女は、大淀と同じく鎮守府に着任した当時から艦隊運営をサポートしている最古参の艦娘である。正式に艦娘として着任した時期は遅いものの、まさしく縁の下の力持ちとして常に提督を支えてきた。長い付き合いになる提督とは友人のような良い関係を築けているが、その近すぎてしまった距離は明石の目下の悩みである。取り立ててということはないものの、女心には鈍い提督が自分の好意に気付くなんてことはあり得なかった。金剛のように態度で明確に表したところで、冗談だと思われるのが関の山。
そんな複雑な乙女心に悩む彼女は今日も今日とて工廠内の端の方、いつもの位置で艤装をいじくりまわしていた。妖精たちが慌ただしく行き来する中で、明石の耳は聞きなれた軍靴の音を捉える。聞き間違えるはずはない、だってこれは大好きなあの人の――
「おはようございます、提督」
「おう、おはよう」
くるりと後ろを向いた明石はこっそりと乱れた着衣を正しながら、ゴーグルを外すと報告書を受け取る。好きな人にはなるべく綺麗な姿を見て欲しい、そんな女心に気付く素振りなど微塵も無く大きな欠伸をした男は眠たげに目をこすると小脇に抱えていた箱を作業台に置いた。がちゃりと鳴った音に思わず明石も目を通していた報告書から顔を上げると不思議そうに箱を覗き込む。
「提督、これってもしかして新しい装備品ですか?……可笑しいなぁ、そんな予定は無かったんだけど」
「突然大本営から送られてきてな。何でも従来の主砲に改良を加えた試作品らしい」
「へぇー……」
まじまじと観察してみるが至って普通の20.3cm連装砲にしか見えない。さらに良く見ようと伸ばした手は提督に叩き落とされる。
「あ・と・で。報告書が先だろ」
「分かってますよぉ……ったく、提督のケチ」
「聞こえてるぞ」
いつものように何処か心地良い軽口を叩きながら明石は再び報告書に目を通し始めた。新しい兵装が気になってはいるが、自分の我が儘で他人に迷惑はかけられない。近くにあった椅子を引っ張り出して座ったであろう提督に向かって、お決まりの注意を口にした。
「危ないからあんまり触らないで下さいよ?」
「了ー解……まあ、お前の代わりに俺が最初に試作品を見ておいてやるよ」
「あー!ひっどーい!後で間宮さん必ず奢って下さいよ」
棒読みで返事をした提督に再度念を押すと、明石の意識は完全に書類に向かう。その様子に男は眠たげな眼をさらに細め、
そして、ついにその時はやってきた。
◇◇◇
背後で鳴っていた音がぴたりと止んだ。
艤装同士がぶつかる金属特有の少し甲高い音、あまりにもうるさいものだから流石に注意しようと思っていた明石だったが、完全にタイミングを逃してしまったらしい。それでも文句の一つくらいは言ってやろうと心に決めて報告書の最後にサインを書く。そしてそれを手渡そうと椅子ごと後ろを振り返り――
ぱんっと乾いた破裂音が耳に届くと同時に目の前にいた提督の上半身が消し飛んだ。
「へ……あ……」
自分の顔に降り注ぐ雨以外の生温かい液体が何であるのか明石は最初理解できなかった。どうして提督の顔が見えないのか、どうして自分の視界は真っ赤なのか、どうして。そんな意味の無い疑問ばかりが脳裏をよぎった。ただ、何かしなくてはいけないような衝動が明石を突き動かす。何故か震える体を押さえ、目の前に手を伸ばした。
べちゃりと指先に赤い液体が触れるのと同時に、重力に従って提督の下半身が地面へと倒れ込む。
「あ……ああ………」
油が切れてしまった機械のように顔を上げた視線の先にあるのは今日送られてきたばかりの艤装。僅かに煙が漂う砲身の照準は吹き飛ばされてしまっただろう提督の体に向けられていた。
「ああぁぁぁ!」
ようやく明石は現状を理解した。いや、理解せざるを得なかった。目の前の現実をどんなに否定したくとも、今自分が置かれている現状がそれを許さない。作業着が汚れるのも構わず、椅子から転げ落ちるように地面に座り込む。
「あ、あ……そうだ、あつ、集めなきゃ……」
茫然自失とした様相で明石はただただ手を動かした。床に溜まった赤い液体を掬うのでもなくかき集める。無論流体である血液を手で集めることなど、穴の開いた器に水を注ぐように意味の無い行為であった。それでも明石は手を動かし続ける。一欠けらも残すことなく集めて早く直さないといけない、そんな思いだけが今の明石を支配していた。
「ふ、ふふっ、本当にもう、提督ってば……おっちょこちょいなんだから……私がいないと、駄目なんだから……」
体を真っ赤に染めたままびちゃびちゃと一心不乱に液体をかき混ぜる姿は、さながらホラー映画のワンシーンのようである。今の明石の目には何も映ってはいない。だからだろうか、明石はこの事態の不自然さに気づかなかった。
これだけの悲鳴を上げても人どころか工廠にいるはずの妖精が誰一人として傍にいないこと。
上半身を吹き飛ばされたはずなのに血液しか飛散していないこと。
そして、誰かが自分の背後からこっそりと近付いてきたことにも勿論気づいていなかった。
2
入渠施設の入り口、硬いコンクリートの上に男は正座させられていた。その右頬は真っ赤に腫れており、頭頂部に鎮座するたんこぶが痛々しい。じりじりと日差しが照り付ける中、風呂上がりの明石は首元にかけたタオルで汗を拭いながら改めて提督に話しかけた。
「で、この『本営主催、艦娘ドキュメンタリー映画の映像募集』のためにあんな質の悪い悪戯を仕掛けたと」
「そうです」
「今回協力者として手伝っていた大淀と青葉のお二人には、もうすでに同じようなことをやったと」
「はい」
「提督……馬鹿ですか?馬鹿なんですか?」
にっこりと笑みをを浮かべてはいるものの、その目は全く笑っていない。
当然だ、死んだと思っていた提督が笑顔で『ドッキリ大成功!』何て書かれた看板片手に突然現れたのだから。おまけにこれが最初から仕組まれていた「死んだふりドッキリ」だ何て聞いた日には、明石の怒りが爆発するのも仕方ない。
見事なビンタをお見舞いされ痛む頬をさすりながら男はばつが悪そうな表情で懐から何かを取り出した。
「いやー、でもね明石さん。この景品を見たら万年資材不足の我が鎮守府としてはやらない理由はないわけでして……」
ほらここと男が指さす先にはでかでかと優勝賞品には各種資材二十万をプレゼントの文字が躍っている。確かに所属している艦娘が多いこともあって鎮守府の財政は慢性的にかつかつであるものの、あんなドッキリを仕掛けられた側としてはたまったものじゃない。
本気で死んだと思ったのだ。目の前が真っ暗になる何て言葉では言い表せないほどの絶望感。あの時の光景を思い出すだけで、今も体の震えが止まらない。
「心配、したんですから……」
明石はしゃがみ込むと滲み出してくる涙を誤魔化すように男の肩に顔を押し付ける。涙というものは不思議なもので、止めようと思えば思うほど出てきてしまう。服に染み込むのも気にせず抱き寄せると声を押し殺して泣く自分の肩に男の手が触れた。
「悪かったな明石。……まあでも、いい画が撮れたからノーカン――」
「ぶん殴りますよ」
「すいません」
「で司令官、次はどの娘を毒牙にかけるんですかぁ?青葉的には衣笠とかお勧めですよ」
「お前の中で妹の扱いはどうなっているんだ……」
提督の後ろからひょっこりと青葉が顔を出す。正座させられている姿が余程面白いのか未だカメラのシャッターを切っていた。その横に立つ大淀は手に持つ資料を捲りながら、でもと疑問を口にする。
「この妖精さん特製の『提督人形(血も吹き出るよ)』だけでは少しレパートリーが乏しいような気がしますね」
「そう言えば、青葉がやられた時も司令官の死体で脅かすっていう内容でしたし……うーん、もう一捻り欲しいような」
「案外ノリノリだなお前ら」
「まあ何というか吹っ切れた感じです。こうなったらとことん凄いやつを撮って、資材をがっぽりいただきましょう!」
「さあ、司令官!次の
「次のターゲットは――」
艤装が爆発する良くあるドッキリで、明石さんも立派な初期艦だよねっていう話。
当分はこのドッキリ編をメインに書いていく予定です。
なるべく早めに上げられたらとは思ってます。
次回のターゲットはあの提督Love勢筆頭のあの四姉妹か皆大好き第六な駆逐隊です。