バレンタイン、フルボイスだってよ!!!!
皆さん、聞きたいキャラはちゃんと自カルデアにいますか?
自分はアルジュナもエドモンもいません(血涙
藤丸立香とエジソンが決別した、その瞬間。
ドゥリーヨダナとカルナはそれぞれの得物を手に、互いへと一歩踏み出した。
「マスター、機械化歩兵をどうにかしてここから即刻脱出しろ!」
ドゥリーヨダナはカルナのことを良く知っている。生前カルナに抵抗できるのは、神の子であるパーンダヴァ兄弟達ですらアルジュナしかいなかったことも、身をもって知っていた。例え己が生前の身で、カルナがサーヴァントだったとしても、勝てる見込みはないだろう。カルナはそれだけの実力を持った、英雄だった。
―――故に、ドゥリーヨダナは『カルナをこの場にとどめる』ということだけを目的に戦う。
「すまんが、魔力を回してもらうぞマスター…!」
神性特攻―――『災いの子』発動。
必中を自身に付与―――『王者の見識』発動。
カルデアの英霊召喚システム下で召喚された以上、サーヴァント一人ひとりに回される魔力は限られているため、スキルを無尽蔵に使うことは出来ない。それでも戦闘開始と共に使用しなければ、カルナと戦うことすら出来ない。故に迷うことなくドゥリーヨダナは、マスターから魔力を吸い上げた。
「無用だ、友よ」
「ああ、無用な足掻きだとも、わが友よ。だがカルナ、オレの最大の守り手であった人。オレがいまだかつて、オレのやりたいこと以外のことをやった覚えがあるか?」
「ないな。あったらお前の周りの苦労も減っただろう。才能だ、誇りに思うといい」
「…今のは、『それでも赦されるのはお前の人としての魅力があってからこそだろう。それはもはや才能だ。誇りに思うといい』であってるよな?」
「?そう言っただろう」
「言ってねーよ!」
互いの得物が起こす衝撃音や火花に負けないよう、声を張り上げて目の前の男に突っ込む。「ふむ、ジナコ…かつてのマスターに言われて以来、出来るだけ言葉を増やすようにしているのだが…」と困ったように僅かに眉根をよせたカルナにドゥリーヨダナは柳眉を上げた。
「ほう?お前ほどの大英雄が、なんて言われた」
「オレは、どうやら一言足りないらしい」
「………あー…あー…なるほど…。確かに言われてみれば…あー、なるほど…」
思い当たることがありすぎたドゥリーヨダナは、思わず手をとめて唸った。生前のカルナの言動を思い返せば、確かに一言が足りなかった。一言多いと思っていたが、逆だったか。ドゥリーヨダナは顔も見知らぬ、かつてのカルナのマスターの観察力に舌を巻いた。
「待て、その様子は薄々気づいていたのか」
「いやたまーに、なんかこいつ一言多いとは若干違うよーな、とは思ってたが…。なるほど…そうか、一言足りてなかったのか。カルナ、お前は良きマスターに恵まれたんだな」
「ああ。生前含めて、俺のマスター運は高いらしい」
「あーカルナ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどな?生前に限ると、多分、お前世間一般では最悪レベルだと思うぞ…」
心なしか誇らしげにするカルナにドゥリーヨダナは小声で訂正を入れた。なにせドゥリーヨダナの評判は、生きていた頃も、『マハーバーラタ』でも悪かった。勿論愛する家族や一部の人間は慕ってくれたが、基本的に良く言われることは少ない。むしろ陰口悪口ばかりだった記憶しかない。
ちなみに一番世間の評判が良かったのはアルジュナだったりする。おのれアルジュナ、許すまじ。
―――そう、ドゥリーヨダナが思考を飛ばした時。
「っマスター!!!!」
不意に上がったマシュの緊迫した声にドゥリーヨダナはカルナの背中越しに、立香が捕らえられたのを見た。
「…マス、ター…?」
みて、しまった。
「『人々は、文明により発展し、神々のもとから巣立つ―――』」」
薄く整ったドゥリーヨダナの唇から言葉が紡ぎ出されるごとに、彼から編み出される魔力によって室内にも関わらず風が舞い上がり、機械化歩兵を切り裂いていく。「ドゥリーヨダナさん、駄目です!!!今ここで宝具を展開しては、マスターにも危害が及びます!!!」と制止の声をマシュが上げたが、その声ももはやドゥリーヨダナには届いておらず。
大輪の花の如き美貌に据えられた両の瞳から輝きが、ついに消えた瞬間。
ドゥリーヨダナは、妖艶に微笑んだ。
「『故に人は選ぶ。オレは選ぶ。神々によって与えられた二つ名、『災いの子』として相応しく選んで見せよう――――
***
――――カリ・ユガ。
それは、神であるクリシュナが地球を離れることで訪れる暗黒時代。人間の文明によって、人々が神から遠ざかり、神秘を失う時代。神の干渉はなくなり、人は自らの手によって生きていかなければならなくなる。故に、神から与えられた力は振るえることは出来ず、神秘に頼ることも出来なくなる。
そして、それこそがドゥリーヨダナの宝具。
あらゆる神秘・呪い・祝福すらを打ち消し、全てのものを―――神ですらも、地に貶める。
―――それは、悪魔カリの化身と呼ばれた独りの男の、物質化した奇跡であった。
「な、なんなのこれは…!」
エレナは呆然と、ドゥリーヨダナで”あった”ものと、その周りを渦巻く黒焔を見て、恐怖に満ちた声を上げた。神秘を尊ぶ彼女だからこそ、ドゥリーヨダナの宝具の恐ろしさが分かった。
アレは、何。
とても許容できるものではない。
あれは、間違っているもの。
―――あれは在ってはならないものだ。
ドゥリーヨダナが棍棒を一振りするごとに、室内にも関わらず風が吹き荒れ、闇が満ち、黒焔が宙を舞う。
その姿はまさしく―――破壊を好む、悪魔そのもの。
生きている者であれば、誰もが怯え恐怖し、存在を否定するだろう”モノ”が、泣きながら笑い、暴虐の限りを尽くそうと棍棒を振るう。
だが、その状況下でも動く者がいた。
「令呪をもって命ずる―――!ドゥリーヨダナ、『止まれ!!』」
その中の一人である立香は、声を恐怖で震わせながらも張り上げた。カルデアの令呪は、通常の令呪とは効果が異なり、絶対的な命令権を持たないことは彼も知っていた。それでも令呪を使用することを選んだのは、ドゥリーヨダナと絆を育んだからこそ出来たことであった。
そして、その慟哭にも似た叫び声は奇跡的にもドゥリーヨダナ”だったもの”の動きを、止め。
その契機を、ドゥリーヨダナの唯一の友と称された男は見逃さなかった。
「感謝する、藤丸立香よ」
カルナは神から与えられた槍を捨て、拳を握った。「だめカルナ、あれに近づいてはいけない!」と悲鳴交じりの忠告の声が上がるが、それでもカルナの足は止まらなかった。
―――友が、泣いている。
それだけで、カルナが動くには充分だった。
「…悪く思え、生涯唯一の友、ドゥリーヨダナよ」
呟きと共に繰り出された拳が、無慈悲にドゥリーヨダナの胸を貫く。
「…だが、流石の俺もこんなことは二度はごめんだぞ、ドゥリーヨダナ」
苦悶の声を上げその場に崩れ落ちるドゥリーヨダナを支えながら、カルナは一人ごちた。