ソードアート・オンライン Tracer   作:夜型人間

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 今回初めてハーメルンで小説を書かせていただきます。つたない文ですが、みてもらえれば嬉しいです。


プロローグ

 ――とある森の奥地。

 

 月明かりに照らされ、青くなった森で一人の男が立っている。

 

 いや、男と言うにはまだ顔立ちは幼く、身長もせいぜい中学生くらいだろう、見ようによっては少女にも見えなくもない、その華奢な体つきは男と言うより少年と表現するほうがあっている。

 

 月の光に照らされ、森に佇んでいる彼の周りには、《青く輝くガラス片》のようなものが舞っていて、その姿はまるで一枚の絵のように幻想的で美しい。

 

 だが、この光景を見た者はそう思わないだろう。

 

 まるで少女のような顔立ちで華奢な少年だが、よく見れば目付きは鋭く、右手には短剣が握られている。

 

 少年が短剣などという凶器を持っている時点で十分恐ろしい光景だが、今気にするべきなのはそこではない。

 

 短剣など、《この世界》では別段珍しくもなくごくありふれたものだ。問題なのは少年の周りに舞っているガラス片のようなものの方だ。

 

 なぜそんなものに恐怖するのか、それはこの《青く輝くガラス片》がこの世界ではある時だけ発生するからだ。

 

 そう――

 

 この世界、《ソードアート・オンライン》では、この、《青く輝くガラス片》こそが恐ろしい。

 

 《ソードアート・オンライン》ではこの、《青く輝くガラス片》は何かが破壊されて消え去る時に発生する。

 

 《青く輝くガラス片》の正体はポリゴン、アイテムや武器が壊れた時、モンスターを倒した時、そして――

 

 《プレイヤーを殺した時》にポリゴンは発生する。

 

 そう、《ソードアート・オンライン》はVRMMORPG、ゲームなのだ。VRMMORPGは現実のようなリアリティーだが、あくまでもゲームだ。

 

 それならなぜゲームで恐れることがあるのか、そう考えるだろう。

 

 VRMMOである《ソードアート・オンライン》は現実感があって、確かに人がポリゴンになったら驚くかもしれないが、しばらくすればまた生き帰るのだから恐怖など抱く必要がない。

 

 しかし、それは普通のゲームならの話だ。このゲームは普通ではない、《HP(ヒットポイント)》が尽き死ねば現実でも死ぬこととなるデスゲームなのだから。

 

 前置きが長くなったが、今少年の周りにはポリゴンが舞っている。つまりこの場所で彼が何かを消し去ったということになる。

 

 アイテムを壊した? 違う、ポリゴンは少年周りにかなりの数が舞っている。デスゲームである《ソードアート・オンライン》でこれほど多くのポリゴンが発生するほどアイテムを破壊することは自殺行為だ。

 

 ならモンスターを倒した? それも違う、彼のヒットポイントはギリギリでグリーンゾーンになっている状態で、あと少しでもダメージを受ければイエローゾーンに入るだろう。

 

 モンスターはしばらくすれば同じ場所に再度出現する。こんな危険な状態でじっと佇んでいるのはおかしい、すぐに安全な主街区に戻るだろう。

 

 ならプレイヤーを殺した? しかし彼のカーソルはグリーンだ。この世界でプレイヤーを殺す行為、《PK(プレイヤーキル)》を行ったものはカーソルがグリーンからオレンジになる。

 

 なら彼の周りにはなぜポリゴンが舞っているのか、通常PKを行うとカーソルはグリーンからオレンジに変わるが、そうならずにPKをする方法が二つほどある。

 

 一つはモンスターにプレイヤーを襲わせる方法、《MPK(モンスタープレイヤーキル)》しかし彼の周りには一向にモンスターが出現しないことからこの方法ではないことがわかる。

 

 つまり残されたもう一つの方法――

 

 PKプレイヤーをPKする手段、《PKK(プレイヤーキラーキル)》を行ったということだ。

 

 カーソルがオレンジになったプレイヤーは多くのペナルティを伴うことになる。

 

 主街区への侵入禁止、移動手段の制限、そして仮に正当防衛で彼らをPKしてもカーソルがグリーンからオレンジに変わることはない。

 

 そう少年はPKKを行ったのだ。それもポリゴンの多さから一人や二人ではない。

 

 少年一人を殺すのにこんな大勢でPKプレイヤーがパーティーを組むことはない。つまり彼はPKプレイヤーの集団を正当防衛ではなく故意に襲ってPKKをしたことになる。

 

 普通のゲームであれば、その行為は正義の味方を演じてプレイしていることになるのだろう。

 

 しかし、このゲームはHPが尽きれば本当に死ぬデスゲームだ。そんなことをすれば、いかにデスゲームで多くの人々を殺しているPKプレイヤーだとしても、殺してしまえば彼らと同じく殺人者となり多くの人々から非難されることは誰にでもわかることだ。

 

 ならばなぜ彼はこんなことをしたのか、面白いから? 楽しいから? 人を殺すのが好きだから? そのすべてが違うだろう、彼はそのどれも感じていない。

 

 彼の顔はどこまでも無表情で、そのような喜びや、楽しいという感情を一切抱いていないことが見てわかる。

 

 その内しばらくして、彼はゆっくりと顔を上げ空を見上げた。

 

 データで造られた空はすっかり夜の闇を纏って、あちこちに、まるで砂粒をまぶしたかのような無数の星が光っている。

 

 その中に作り物の満月が静かに、だがしっかりと自身の存在を主張するかのように、その身を輝かせ浮かんでいる。その月明かりはまるで本物の満月ように明るく、青色の輝きで優しく地上を照らしている。

 

 少年は空の上で静かに浮かぶ満月の姿を眺めている。

 

 月を見つめる瞳は先はほどまでとは違い、鋭さはなく、和らいでいて、彼の少女のような顔立ちに違和感なく合っていることからこちらが本来の顔つきだとわかる。

 

 月を眺めながら、少年はこの世界の始まりを思い出す。

 

 すべてが始まった日、この世界へ足を踏み入れた日、《ソードアート・オンライン》がゲームから地獄へ変わった日そして――

 

 彼女と出会った日。

 

 あの日、彼女と出会ったあのときからすべてが始まった。

 

 長い時がたった今でも、はっきりと脳裏に焼き付いている彼女と過ごした日々を思い出し、彼は静かに目を閉じて懐かしむようにそっと笑った。

 

 そして彼が目をゆっくりと開ける。その瞳にはすでに和やかさはなく、先ほどのように鋭さが戻っている。

 

 彼の周りに舞っていたポリゴンもすでにほとんどが消え去り、森はポリゴンの発していた輝きを失って満月と星の輝きだけとなり、闇が深くなっていく。

 

 少年は右手に持っている短剣を満月へ向け、何かを誓うようにしばらく見つめた後、短剣を、汚れを落とすかのように左上から右下へ降り下ろし、腰裏に着けた鞘へとしまい、満月へ背を向け歩き出した。

 

 その刃のように鋭い瞳の奥に――

 

 激しく燃え盛る憎悪を宿しながら。

 

 




 ここまで見てくださってありがとうございます。
 今後も見ていただければ嬉しいです。
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