ソードアート・オンライン Tracer   作:夜型人間

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 今回で九話目になります。プロローグを入れれば十話です。毎回このような駄文を見ていただきありがとうがさいます。

 


あぶれ者

 十二月四日の日曜日。迫り来るクリスマスに世間が活気付き、世の子供たちがサンタクロースからのプレゼントをあれこれと考え始める頃。

 

 俺は、いや俺たちは木々生い茂る森の中を歩いていた。

 

 迷宮区へ続くその森はレベリングのために何度も通り、もはや見慣れてしまって何の新鮮味も無い。

 

 見渡す限り緑と茶色の景色を時々木々の間から飛び出してくるモンスターに警戒しつつ眺め、目線を前方へ向ける。

 

 目線の先には赤いフードを被った少女と少し怯えた様子で少女の隣を歩く黒髪の少年がおり、その様子は端から見ても気まずい。

 

 俺はそんな雰囲気の二人を見て、ため息をつき頭上の木々の枝からわずかに見える迷宮区を見つめ、昨日の会議の続きを思いだした――

 

 キバオウの一件の後、会議は何事もなく進み、攻略についての話し合いが再開された。

 

 本来こういった攻略は何度か偵察をするのだが、今回はそれはディアベルの取り出したある物のお陰で省かれることとなる。

 

 それはキバオウの一件時にも使われたあのガイドブックだ。

 

 ガイドブックの中にはHPの推定からボスの使う武器など、細かく情報が記載されていた。

 

 これだけでずいぶんと驚かされたが、何よりも驚いたのがガイドの表紙裏に書かれていた文字――

 

 『情報はSAOベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります』

 

 多くの者がこの一文にある可能性を考えただろう。《鼠のアルゴ》は元テスターなのでは? この注意書きはそう思われても可笑しくない物だ。

 

 ずいぶんと無茶な真似だと思う。この一文だけでは今はまだ、アルゴを元テスターと決める証拠にはならないが、今後、さらにテスターたちへの不満が強まれば真っ先に狙われるのは確実に彼女だ。

 

 幸いこの場はディアベルが納めたが、おそらくそれも一時的なものに過ぎない。

 

 俺は脳裏にアルゴが新規プレイヤーによって処刑台へ上げられる姿を幻想し、すぐにそれを振り払った。

 

 そうしている内に話は進み、どうやらレイドを組むためにパーティーを作ることになったらしい。

 

 だが、ここで一つ問題が発生する。それはパーティーを組める奴がカナしかいないのことだ。

 

 本来であれば他のプレイヤーたちと何の気兼ね無くパーティーを組めるのだが、こちらには元テスターのカナがいる。

 

 キバオウの一件の時に確認できたが、この広場にいるほとんどプレイヤーはテスターに対していい感情を抱いていない。唯一パーティーを組めそうなのがエギルだが、それでも三人。SAOのパーティーは六人一組、最低あと一人は欲しい。

 

 そうこうしている間にどんどんパーティーが組まれていき、とうとう唯一の頼みであったエギルもパーティーを組んでしまった。

 

 誰かいないか辺りを見回し、諦めかけた時、視界の端にある二人組が映った。

 

 赤いフードを羽織り腰にレイピアを携えたプレイヤーと、《アニールブレード》を背負った黒髪の少年が、広場のプレイヤーたちからわずかに離れた場所に座っている。

 

 様子を見るに、他にパーティーのメンバーはいないようだ。

 

 可笑しい、まず最初にそう思った。デスゲームとなったこの世界でボスに挑むのにパーティーメンバーが二人しかいないのは明らかに可笑しい。

 

 そんな状況でたった二人だけでパーティーを組むのは筋金入りの一匹狼か、もしくは――

 

 元ベータテスターか。

 

 「カナ、ちょっとここで待っててくれ。直ぐに戻る」

 

 「え、アルトどこいくの? 早くパーティーを組まないと、もう人がほとんどいないよ?」

 

 「ああ、だからパーティーを組んでくれるように頼みにいくのさ」

 

 困惑するカナはそう言い残し、二人組のプレイヤーたちの元へ足を進める。カナ置いて来たのは保険だ。おそらく彼らはパーティーを組んでくれると思うが、仮に断られた場合、俺たちは二人だけでパーティーを組まなくてはならない。

 

 少し話が変わるが、このSAOは男性プレイヤーと女性プレイヤーの人数差が大きく、女性プレイヤーはわずかしかいないのだ。

 

 つまり、カナにあそこで待っててもらえば、男性プレイヤーからパーティーに誘われる可能性があり、もし彼らとパーティーが組めなければ、そちらに入れてもらおうという考えだ。

 

 自分で考えたことだが、我ながら酷いと思う。だが、これならカナを誘ったパーティーに俺が参加させてもらえなくても、カナはパーティーが組める。

 

 そう考えながらしばらく歩き、広場の端にいる二人組の近くまで辿り着いた。

 

 「ちょっと聞きたいんだが、あんたらのパーティーは二人だけなのか?」

 

 「あ、ああ、そうだけど……」

 

 二人組へ話し掛けると黒髪の少年がこちらへ振り向き、俺の質問に答えた。

 

 「なら、俺たちとパーティーを組まないか? 俺たちも二人しかいなくてな」

 

 黒髪の少年にパーティーを組もうと誘う。彼は隣に座っているフードを被ったプレイヤーを一度見た後、再びこちらへ向き直った。

 

 「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」 

 「そうか、なら少し待っててくれ仲間を呼んでくる」

 

 少年にそう言ってカナの所へ急ぎ足で戻る。遠目から見るにカナの方はプレイヤーが来なかったようだ。

 

 「カナ、パーティー組んでくれるってさ」

 

 「本当! よかったぁー、このまま二人だけでパーティー組むことになるかと思ったよ」

 

 俺の話を聞くとカナは安心した様子で返事をした。やはりボス相手にパーティー二人だけというのは不安だったのだろう。

 

 カナを連れ再度、彼らの元へ行く。

 

 「すまないな、待たせて。こいつが俺のパーティーメンバーだ」

 

 「いや、大丈夫だ。それよりも早いとこパーティーを組もう」

 

 少年は言い終えると同時にカーソルに触れ、パーティー参加申請を出した。黒髪の少年が直ぐさまOKを押すと、視界の左にHPゲージと《Kirito》の文字が現れる。

 

 《キリト》これが彼の名前なのだろう。数秒ほどその文字を見た後、カナの方を確認すればフードを被ったプレイヤー、視界の端に表示されている《Asuna》というネームの持ち主と何かを話しているようだ。

 

 最後にちゃんとパーティーが組めているか一応確認した後、視界に表示されたカーソルを眺めている少年へ顔を向ける。

 

 「本当助かったよ。いくらレイド戦とはいえボス相手にパーティーが二人ってのは心許ないからな」

 

 俺が礼を言うとキリトは左右に首を振り、言った。

 

 「いや、それはこっちも同じだ。いくら安全マージンをとっていても不安要素はいくつでもあるからな。メンバーは多い方がいい」

 

 キリトは真剣さを帯びた声色でそう語り、カナたちの方へ視線を向ける。

 

 「ずいぶんと明るいな。あんたの仲間は、こんな状況であそこまで明るく振る舞えるなんて」 

 

 キリトが少し驚いた様子で呟く。

 

 「ああ、ちょっと前まではあんまり元気なかったんだが、ついさっきあいつの知り合いと再開できたんだ」

 

 「そうか、やっぱり知り合いがいるってだけでも心持ちが変わるんだろうな」

 

 俺の言ったことにキリトはなるほどといった感じで腕を組む。

 

 「そういえば、まだ名乗ってなかったな。カーソルを見ればわかるだろうけど一応。俺はアルトだ。よろしく」

 

 言い終えると共に右手差し出す。キリトは俺の方をポカンとした顔で見ていたが、しばらくしてニヤリとニヒルな笑み浮かべ俺の右手とった。

 

 「改めて、俺の名前はキリト。今回のボス戦は頼むぜ。アルト」

 

 キリトと互いに自己紹介を終えると丁度ディアベルが各パーティーに役割を伝え始めたようだ。

 

 彼の立てた作戦は七つのパーティーを分担し、それぞれ(タンク)役が二、攻撃(アタッカー)役が三、槍などの中距離武器を持った支援(サポート)役を二に分けて、壁役がボスと取り巻きのタゲをとり、攻撃役の二パーティーがボスわ攻撃し、残りが取り巻きの相手をする。支援役はボスや取り巻きの行動を阻害するというものだ。

 

 単純だが、だからこそバランスがとれている。これならそう簡単に全滅ということは起こらないだろう。

 

 さて肝心の俺たち四人パーティーだが、他のパーティーに役割を伝え終えたディアベルがこちらへ来て、少し悩んだ仕草をした後、相変わらずの爽やかさで話しだした。

 

 「君たちは、取り巻きコボルトの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いしていいかな」

 

 だいぶオブラートに包んだが要するに、ボス戦の邪魔をせず、大人しく取り巻きのコボルトの相手をしてろ、ということだ。

 

 キリトたちもそれに気づいてるのだろう。フードを被った《アスナ》というプレイヤーに至ってはディアベルへ食いかかりそうなオーラを出しているが、直ぐさまキリトがそれを制した。

 

 「了解。重要な役目だな、任せておいてくれ」

 

 キリトは笑いながら青髪の騎士へ友好的に接する。

 

 「ああ、頼んだよ」

 

 ディアベルはそう言うと噴水の方へ歩いて行った。直後に不満そうな女性の声が耳に響く。

 

 「どこが重要な役目よ。ボスに一回も攻撃できないまま終わっちゃうじゃない」

 

 刃物の切っ先を連想させる声色がフードの奥から聞こえてくる。

 

 「俺たちは他の連中とは違って四人しかいないからな。スイッチしたPOTローテするなら六人パーティーのほうが断然、効率がいい」

 

 俺がフードのプレイヤー、アスナへそう答えると彼女はじっとこちらを黙ったまま見た。

 

 「あ、ああ、すまない。そういえば挨拶がまだだったな。今回パーティーを組ませてもらうアルトだ。よろしく」

 

 彼女へまだ挨拶をしてなかったことを思いだし、軽く自己紹介をする。

 

 「そう。よろしく」

 

 アスナは短く返事をしただけで、キリトのように名乗りはしなかった。だが、生憎とその程度のことで腹をたてるほど子供でもないので特に気にはしない。

 

 「……ところで、スイッチとポットって何?」

 

 アスナの疑問に満ちた呟きにキリトがまたか、といった顔をする。どうやらアスナMMO初心者のようだ。そんな知識など一切無い状態でトッププレイヤーが集まる会議に参加できるほどの強さを手に入れたのならきっと俺には想像も出来ない執念があっただろう。フードを被ったレイピア使いへと密かに敬意の念を送る。

 

 たった四人しかいないパーティーだが彼らとならボスを倒し、第二層の土を踏むことができるだろう。アスナへスイッチとポットについて説明しているキリトとそれをカバーしているカナを見て強くそう思った――

 

 筈だったのだが現状はどうだろう。明らかに機嫌の悪いアスナと彼女のことをチラチラと気まずそうに見ているキリト、それを見てあたふたした様子のカナ。

 

 あの後、俺とカナは二人に明日集合の約束をして別れを告げ宿へ戻った筈なのだが、いざ今日になり会議に集まった四十六人でレイドを組み、森を移動するため彼らと合流すればこれだ。たった一夜であの空気になるとは、一体どういうことだろうか。

 

 仮想世界なのに胃が痛くなる感覚を覚る。空気を変えるため彼らへ話しかけようとした時、横から俺の言葉を遮る聞き覚えのある。今一番聞きたくなかった濁声が鼓膜に届いた。

 

 「おい」

 

 明らかに敵意のある声、声の方を見れば思った通り、サボテンのようねトゲ頭の男――キバオウがキリトのことを睨んでいる。

 

 「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな」 

 なんて上から目線な奴だろうか、それに元から悪かった空気がさらに重くなっていく。

 

 ――やはりコイツと相容れない。いや、むしろ顔すら見たくない。

 

 早くどっかへ消えてくれないかと祈りながらも奴はその耳に付く声で続ける。

 

 「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルトの相手だけしとれや」

 

 言い終わると共にキバオウは自分パーティーであるE隊の元へ帰って行った。

 

 今のキバオウの発言で確信したがキリトは多分、元テスターだと思う。会議の時も思ったがあの状況で二人だけでパーティーを組むのは可笑しい。そして昨日確認できたが、アスナはスイッチを知らなかったのでビギナーで間違いないと思う。

 

 それにキバオウは先ほど話すときにアスナや俺たちを見ず、ずっとキリトの方を睨んでいた。奴は元テスター嫌いだ。おそらく何処かでキリトが元テスターだと知ったのだろう。

 

 そんなことを考え、キバオウに対するイラつきを誤魔化すが耐えきれずに愚痴をこぼした。

 

 「ちっ……本当、一々無駄に場を乱す奴だ。どうして集団を造るとああいった余計なのが入り込むんだろうな」

 

 俺がキバオウを罵るとパーティーメンバーは皆驚いた顔で俺を見た。なんと、あの何もかも興味ないといった感じのアスナすらわずかに驚愕した気配が見える。

 

 「お、おい。流石にそれは言い過ぎじゃないか?」

 

 「そっ、そうだよアルト。確かにあの人、感じ悪いけどさ……」

 

 キリトとカナが多少、萎縮した様子で言い、アスナも無言のままコクコクと頷く。

 

 「いや、ああいった要らない問題を持ち込む奴がいると周りの奴等全てに悪影響を及ぼすんだよ。まったく、気にいらないなら話しかけるなよな」

 

 「そ、そうか。でもアルト、なんでそこまでキバオウを嫌うんだ? その様子だとあいつの態度だけが原因って訳じゃないだろ」

 

キリトの訪ねてきたことに俺は瞬時に答えることが出来なかった。理由が無いわけではない。理由にカナが関わっているからだ。

 

 俺が返答に困っている間もキリトは、いや、彼の隣を歩くアスナもこっちを見て俺の答えを待っている。

 

 視線に耐えられなくなった俺はカナの側へ行き、二人に聞こえない声でカナへ話しかけた。

 

 「カナ、すまないが俺がサービス初日にお前にレクチャーしてもらったことを二人に話してもいいか? もちろんお前の名前は出さない」

 

 「うーん、まあ名前を言わないなら別にいいけど、それがどうかしたの?」

 

 カナから承諾が貰えたのでさっきからずっとこちらを見ている二人へ向き直った。

 

 「すまないな、遅くなって、俺がキバオウを嫌う理由だったか。少し長くなるけどいいか?」

 

 そう訪ねるとキリトたちが頭を縦に振った。カナも気になるのかこちらをじっと見つめている。

 

 「俺、SAOのサービス開始日、まだこのゲームがおかしくなる数時間前にソードスキルの練習をしてたんだ」

 

 キリトとアスナが黙ったまま話を聞く。カナの方は俺と会った時を思い出しているのか少し懐かしそうな顔をしている。

 

 「しばらく練習を続けてたんだけど全然上手くいかなくてな。どうしようか困ってた時にテスターの人がレクチャーしてくれたんだよ」

 

 アスナは先ほどから変わらず無言のままだが、キリトは何やら驚いた様子だ。

 

 「その後は二人も知ってる通りデスゲームが始まったんだけど、それからもしばらくそのテスターの人が色々と面倒を見てくれてたんだ。こんないつ自分が死ぬかも知れない状況でだぜ? そんな中、俺を助けてくれたあの人には感謝してもしきれないよ。だからあの人と同じテスターを悪く言う奴はムカつくんだ」

 

 少しの間を空け、続ける。

 

 「それに、大半のビギナーたちは二千人が死んだのは元テスターがビギナーの面倒を見なかったのが悪いとか言ってるけど、あの状況で千人いるかもわからないテスターたちにそれを言うのは間違ってると思う」

 

 キリトとカナが驚愕に満ちた表情でこちらを見る。二人の視線を受けながら俺は再び口を開いた。

 

 「だってそんなの八つ当たりだろ。あんなことになったら普通第一に自分を優先するさ、俺だってテスターだったら多分そうしたと思う。キバオウや他のテスター嫌いの奴等は自分がそうだったらどうなのか、ちゃんと考えて無いから俺は奴等が嫌いなんだよ」

 

 アスナが納得したという感じで頷き、キリトとカナはそれぞれ物物思いに更けっている。

 

 「まあ、だからこそあの人に会えた俺は相当運が良かったんだろうな」

 

 最後まで言ってキリトたちに気づかれないようにカナへ目線を送る。

 

 「そうか……それが理由なんだな」

 

 キリトが思い悩むように呟いた。

 

 「なあ……アルト、その人って今も会ったりするのか?」

 

 「あ、ああ、今でもたまに連絡を取ってるよ」

 

 キリトの質問に咄嗟に答える。カナとは基本的に一緒に行動しているがメッセージはたまに使っているので嘘は言ってないはずだ……多分。

 

 「そっか、その人は凄いんだな……」

 

 キリトが顔を俯けて自虐的な笑みを浮かべる。

 

 「どうしたんだキリト? なんか顔色が悪いけど、俺の話が原因か?」

 

 心配になり声を掛けるとキリトは直ぐさま顔を上げ、首を左右に振る。

 

 「いや、何でもないよ。それよりあんまり話し込み過ぎると前にいる連中に置いてかれるぜ」

 

 そう言うとキリトは歩くスピードを上げ、アスナとカナもそれを追いかけ先に行ってしまった。

 

 俺は遠ざかっていく黒髪の剣士の背中をしばらく見つめた後、少し遅れて先に進んだ彼らを追いかけた。

 

  

 

 

 

 




 
 九話にしてようやく原作主人公とヒロインを出せました。キリト君の登場を待っていた方お待たせしてすいません。

 キリトとアスナの話しかた可笑しかったらすいません。

 それから前回も後書きでかいたのですがアルトはキバオウと他のテスター嫌いのプレイヤーたちのことが大嫌いです。キバオウが好きな方がいたら申し訳ありません。

 今後ともこの作品をよろしくお願いします。
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