「せいっ……てやぁ!」
掛け声に合わせ右手に握った短剣を振るう。
それは青いイノシシの眉間を正確に捉え切り裂いた。ぷぎっ! と短い叫びと共に、眉間から血のような鮮紅色の光が舞い散る。
今俺は浮遊城アインクラッド第一層、その南端にあるスタート地点、《はじまりの街》の東側のフィールドで青いイノシシ、正式名《フレンジーボア》と戦っている。
《はじまりの街》で短剣を買ったあと、俺はすぐ街を出て東側のフィールドでレベリングを開始した。
すでに数匹イノシシを倒し、戦闘にもだいぶ慣れた。
最初の頃は全く攻撃が当たらず、反撃され何発被弾してしまっていたが、三匹目辺りでコツをつかみ被弾は減り、攻撃も命中するようになってきた。
だが、肝心のソードスキルの発動が難しく、今も戦いながら何度か挑戦しているのだが、なかなか上手くいかず、仕方なく普通に短剣を振るい戦っている。
眉間を切り裂かれたイノシシが、ぶきぃー! という鳴き声を上げ、怒り露にする。
「よっと……ぜりゃあ!」
こちらに猛烈な勢いで突進してくるのを左へ転がって避け、そのままがら空きの横腹へ勢い良く飛び込み、短剣を突き刺す。
眉間を切り裂かれ、減少していたイノシシのHPが消し飛ぶ。
ぷぎゃという断末魔を上げ、イノシシの体が四散する。
「ちょっ、待っ、ぐふぅ!?」
だが飛び込みの勢いは止まることはなく、俺はそのまま顔から地面へ激突することとなった。
「……ぷっ」
小さな笑い声が聞こえ、地面から顔を上げ、辺りを見回すと、笑い声の主と思われる少女が、俺から数メートルほど離れた後方にいた。
俺は笑われたことに腹が立ち、むっとした視線を少女へ向ける。
「あはは、ごめんごめん。フレンジーボアを狩に来たら君がいて、倒したと思ったら顔から地面に突っ込むんだもん」
俺の視線に気ずき謝罪を入れる。どうやら少女は俺が戦闘をしている間にここへ来たらしい。
「しっかしキミ強いね。もしかしてベータ経験者? でもそれなら何でソードスキル使わなかったの?」
少女が俺をベータ経験者と勘違いし、なぜソードスキルを使わなかったの聞いてくる。
「俺は初心者だ。ベータ経験者じゃない。ソードスキルは……発動の仕方がわからん」
少女から顔を背け、いまだに不機嫌な調子のまま質問に答える。
「初心者!? 動きが慣れてる風だったからベータ経験者かと思ったよ!」
俺の言ったことに少女は心底驚いた様子で言う。そして何かを思いついた様子で顔を明るくさせた。
「キミ! ソードスキルのやり方知らないんだよね?」
「あ、あぁ、そうだ」
食いつくように顔を寄せ尋ねてくる少女にたじろぎながらも、俺は返答する。
「じゃあ、私が教えて上げるよ!」
少女がそう言うが、俺は理由がわからず怪訝な顔で、少女を見る。
「いいのかよ、お前レベリングに来たんだろ。 第一お前には何のメリットもないだろ、何でそんなことをするんだ?」
少女が言ったことの理由を尋ねる。今日はサービス開始日、他人に構っている暇などないだろう。それなのに少女は俺にソードスキルを教えるというのだ。
俺が言ったことの意味を理解したらしく、少女は腕を組み考えるような仕草を仕草をとり、口を開いた。
「何でと言われたら特に理由はないけど、強いて言うならさっきキミのことを笑ったお詫びかな」
少女はそう言って微笑む。俺は先ほどの醜態を思いだし、少し恥ずかしくなるが話を続ける。
「でも他にやりたいことだってあるだろ? お詫びとかで無理に付き合わせる訳には行かない」
少女は俺の話を聞いたあと、少し悩むような素振りをし、再び口を開く。
「キミの言う通りしたいことは沢山あるよ。でも別に今すぐって訳じゃないし、なら今しかできないことをやった方がいいと思うんだ」
話を聞き納得はできたが、やはり少女に悪いと思い、断ろうとするが、少女が先に話出した。
「キミにソードスキルを教えるのは今しかできない、私はそれをしたいと思ってる。なら断る理由はないよ」
少女はそう言って一呼吸置き、その言葉を放った。
「だって――ゲームは楽しむものでしょ?」
その言葉に唖然としたが、確かにその通りだと思い、喉の奥まで出かかっていた言葉を飲み込む。これ以上は逆に少女に失礼だろう。そう思い、少女の提案を受けることにした。
「確かにそうだな。じゃあ頼むよ。俺はアルトだ。よろしくな」
そう言うと、少女は今までより良い笑顔で頷き、自己紹介を始める。
「私はカナ、よろしくね!」
少女――カナは俺へ右手を差し出す、俺は少し照れながら左手を出し、握手を交わす。カナはそれを見てまた微笑み、話始めた。
「これでもベータ経験者だから、色々教えてあげられると思うよ」
俺はカナの言ったことに驚く。カナはあの限定千人のみ募集されたベータテスターだと言う。それに当たったカナは運が良いのだろう。俺は願掛けまでして当たらなかったのに……。
「よく当選できたな。あれ千人限定だろ、運が良いよな」
そう言うと、カナは少し困ったような顔になった。
「う、うん、そうなんだけど、一生分の運を全部使った感じで後が怖いんだよね……」
カナはそう言って項垂れる。わからなくもない、そんな幸運なことがあれば、後で何か悪いことが起きないか不安にもなる。
「ま、まあ、気を取り直してレクチャーを始めよっか。準備するからちょっと待ってて!」
そう言うとカナは再び元気を取り戻し、右手の人差し指と中指を揃え、真下へ振る。《メインメニュー・ウィンドウ》を呼び出す動作だ。
カナが装備を整えている間にモンスターが襲って来ないように辺りを見張る。そうしてる内に準備は終わったらしく、カナの右手に片手剣が出現し、ウィンドウが閉じられた。
「じゃあ、レクチャーを始めるよ」
カナが片手剣を持ちながら言う。俺は一言一句逃さぬよう、話を聞く体制に入る。
「まず、ソードスキルを発動させるにはモーションが大切なんだ。試しに私がやって見せるね」
言い終えると同時に、カナは剣を顔の横で垂直に構える。すると片手剣の刃が青い輝きを放つ。
「せやぁっ!」
カナの掛け声と共に片手用直剣基本技《バーチカル》が発動する。地面を蹴り、しゅぎゅーん!と効果音が響き、空中を青い線が過ぎ去った。
その光景に見いっているとカナが声をかけてくる。
「今のがソードスキル。私がモーションを教えるから、その通りに動いて」
短剣を握り、カナの言う通りに体を動かし、短剣を首より少し下の辺りで垂直に構える。するとシステムがモーションを検出し短剣の刃が輝き始めた。
「であっ!」
俺の声と同時に体が自然と動き出す。小型刺突武器基本技《アーマー・ピアース》が発動し、短剣を持った右腕が前方へ鋭い突き放った。
「よっしゃあああ!」
初のソードスキル発動に思わず叫びを揚げる。振り向くとカナが笑顔で拍手をしている。
「ソードスキル初成功おめでとう。アルトは筋が良いね」
「いや、カナのおかげだよ。ありがとうな」
称賛を受けるが俺は否定し、カナへ感謝を伝える。
「何か礼をしたいんだが、何か俺にできることはないか?」
「いいよ。お礼なんて、私がしたかったことだから」
礼をしたいと伝えるが、カナはそれを断り、自分がしたかったことだと言う。
「カナへ礼を返すのは今しかできない、俺はそれをしたいと思っている。ならしない理由はない、だってゲームは楽しむものなんだろ?」
さっきカナが言ったことをそのまま言うと、カナは観念した様子で笑う。
「それを言われたら断れないね。じゃあ、レベリング手伝ってよ」
「ああ、任せてくれ。ソードスキルも実戦で使いたいしな」
そうして俺たちはレベリングのため、モンスターを探しにフィールドの奥へ歩みを進めた。
主人公のプロフィール作りました。
年齢 14歳
身長 156.4cm 中学二年男子の平均身長より少し低い
体重 57.1kg
アバター名 アルト
武器種類 短剣
家族四人暮らしで一歳年下の弟がいる。
顔立ちは中性的で、幼い頃はよく女の子と間違われることが多く、美容院で髪を短く切って欲しいと頼んだときに、美容師から「女の子なのにそんなに短く切って大丈夫なの?」と、言われたことがある。
人付き合いはまあまあで、クラスにそこそこ仲のいい人が数名いる程度。
あまり笑うことがないがそれは普段退屈なため。常に無表情というわけではなく、どちかというと表情豊かで面白いことが有れば笑う普通の少年。
趣味はゲームと読書で、ライトノベルや有名な小説などを好んで読む。得意教科は歴史、マイナーなものからマニアックなものまで知っている。
母親の代わりに台所に立つことがあり、料理はそこそこできる。レシピがあればある程度は作れるので、レパートリーは多いがプロレベルではない。