ソードアート・オンライン Tracer   作:夜型人間

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 投稿遅くなってすいません六話目です。
 
 今回から新しい章になります。


1章 彼と彼女の記録
一ヶ月と旧友


 ゲーム開始日から約一ヶ月、すでにこの世界での死亡者の数は二千人にも昇った。しかし、それだけの犠牲者が出ていながら、今だに《ソードアート・オンライン》は一層すらも攻略出来ていない。

 

 俺とカナはあの日《はじまりの街》を出た後、第一層で入手できる片手剣の中で最高クラスの性能を持つ《アニールブレード》を求め、《ホルンカ》と言う村へ向かった。

 

 カナは最初、俺が短剣を使っているので自分の装備のために村へ行くのを断っていたが、「パーティーの装備を強化するのは無駄なことじゃない」と俺が言うと申し訳なさそうにお礼を言い、村へ行くのに賛成してくれた。

 

 村へたどり着いた時にはもう辺りは真っ暗になっていたので、その日は宿を取り翌日から《アニールブレード》を手に入れるためのクエストをすることになった。翌日起きるとクエストを受けるつもりであろう、村には数名ほどすでにプレーヤーが来ており、昨夜より人気が多かった。

 

 だが、デスゲームになった影響だろうか、全員どこかはりつめた様子で村の空気が重く感じられた。

 

 カナはその空気に耐えられなかったのだろう。その日の内にクエストを終わらせ、ある程度レベリングを済ませるとすぐに村を出ようと言ってきた。俺も村の空気は重苦しく嫌だったのでカナの提案に乗り、わずか一泊しただけで俺たちは《ホルンカ》を後にした。

 

 その後カナの知っている安全な近道を使い北へ進み、今は迷宮区最寄りの街、《トールバーナ》を拠点にしている。

 

 などとこの一ヶ月を回想したが、自分のことながら思い出すだけで気が重くなる一ヶ月だった。

 

 しかし、回想から意識を戻した所で気が軽くなることはない。息苦しさを感じさせる石造りの壁や天井や床、明かりが少なく暗闇が広がる視界、時々聞こえてくる獣が唸るような低い鳴き声。

 

 気が軽くなるどころかますます重くなっていくばかりで、思わず溜め息が出そうになってしまった。

 

 そう、今俺たちは第一層の迷宮区にいるのだ。

 

 「やっぱり迷宮区のモンスターは手強いな。俺一人だったら危なかった……」

 

 「うん……私も何回かヒットポイントがイエローに入りかけたからね」

 

 迷宮区のモンスターは外の奴らとは違い、恐ろしく強く苦戦を強いられた。俺もカナも戦闘が出来るのはあと二、三回が限界だろう。

 

 仮想世界では息切れは起きないが、俺たちの現実の体は今頃心拍数が上がり、呼吸が乱れているはずだ。

 

 お互いに少しの間休息を取っていたが、不意にカナがメニューウインドウを開き、こちらへ顔を向けた。

 

 「武器の耐久値はまだ大丈夫だけど、ポーションの数が心許ないかな……あと一回位戦って今日は街に戻ろうか」

 

 俺もさすがにきつくなって来たので特に何も言うことなく頷く。

 

 カナは俺が頷くのを見たあとウインドウを閉じ、索敵をしながら来た道を引き返し、俺も数歩遅れてそれについて行く。

 

 コツ、コツと一定の規則性を持った二つの足音が石の壁に鳴り響き、時折聞こえるモンスターの唸り声と混ざり、俺たちの精神を少しずつ削っていくように感じられる。

 

 そうして歩いていると来たときに倒したはずのモンスター《ルインコボルド・トルーパー》が行く先に二体ほどうろついているのが見えた。来た時と数が同じなのでおそらく再びリポップしたのだろう。

 

 「私が手前にいるやつに攻撃をするから、アルトは奥にいるほうのタゲを取って!」

 

 「了解、一、ニの三でいぐぞ」

 

 分担を即座に決め、戦闘の態勢へ移り、腰裏の鞘から短剣を抜き右腕で順手に構える。

 

 「一、ニの――」

 

 二で深く息を吸い、そして続く言葉を放った。

 

 「三! 行くぞ!」

 

 弾け飛んだかの如くコボルドへ俺たちは飛びかかる。カナに至っては《バーチカル》を発動させている。コボルドたちは今だに俺たちにきずいていない。

 

 そうしている間に、俺たちとコボルドの距離はどんどん縮まっていく。そして、コボルドを一番早く切りつけたのはカナの剣だった。

 

 《バーチカル》の縦方向の斬撃によってコボルドは肩口から切り裂かれる。瞬間耳を塞ぎたくなるような醜い悲鳴が上がった。

 

 その悲鳴を聞いたもう一体がカナへ走り出すが、事前にそうなることはわかっていたので俺は飛びかかった勢いのままコボルドの体へ短剣を突き刺す。

 

 コボルドは短く悲鳴を上げるがすぐさま手に握った無骨な斧を振りかぶり俺へ降り下ろして来る。

 

 後ろへ飛びぶことで短剣を引き抜くのと同時にコボルドの攻撃をギリギリでかわす。態勢を建て直しコボルドを見れば怒り狂ったように唸りを上げ、こちらを威嚇している。

 

 コボルドのヒットポイントを確認するとまだグリーンで短剣のソードスキルで削るには多すぎる。俺は短剣を構える直し、唸りを上げるコボルドの隙を探る。

 

 数秒ほど硬直が続き、先に動いたのはコボルドだった。

 

 顔へ向けて横凪ぎの一線、風を切りながら向かって来る凶刃をしゃがむことでよける。そのままコボルドの左足を切りつけ背後へ回る。コボルドのヒットポイントはイエローに入りだいぶ少なくなった、これならソードスキルで削りきれるだろう。

 

 足を切りつけられ悲鳴を上げるコボルドに間髪入れず背中に《アーマー・ピアース》を叩き込む。裂けるような断末魔を上げコボルドの体が四散する。

 

 カナの方を確認すればどうやら向こうも無事に終わったようだ。片手剣を鞘へ納め、こちらに手を降っている。俺も短剣を腰裏の鞘へ戻し、カナの方へ歩いて行った。

 

 その後も索敵をしながら出口へ向かったが、運が良かったのか特に敵に遭遇することもなく外へ出ることができ、街へも危険なくたどり着くことができた。

 

 迷宮区の周りに生い茂る森を抜け、《トールバーナ》の北門に到着した。

 

 安全区に入ったことを知らせる《INNER AREA》の文字が視界に映しだされる。その瞬間に全身を覆っていた緊張感がなくなり、深い溜め息がこぼれた。カナのほうも肩の荷が下りたといった様子で安堵の表情を浮かべている。

 

 迷宮区の中にも安全地帯はあるが、街のように落ち着いて休息を取ることはとてもじゃないが出来ない。あんな薄暗くてモンスターの声が常に聞こえてくる場所でゆっくり休めるはずがない。

 

 そういう点において街というのはこの世界においてプレイヤーたちの最も落ち着ける場所なのだろう。現に俺たちも、先程まではりつめていた緊張が緩んでいるのが自分でもわかる。

 

 だが少し緩み過ぎたのかも知れない。歩いているプレイヤーとぶつかってしまった。普段ならこんなことはないが、今は迷宮区から帰ってきたばかりだ。集中力が途切れたのだろう。

 

 すぐにぶつかってしまったプレイヤーに謝罪するため声をかける。

 

 「す、すいません!? 大丈夫ですか? 俺迷宮区から戻ってきたばかりで気が抜けてしまっていたみたいで……」

 

 「イテテ、いや、気にしなくていいヨ。こっちもよそ見していたからナ」

 

 返ってきた言葉は怒っている様子がなく、ひとまず安心できた。声のトーンから女性だと思うが、変わった話し方をする人だなと思っていると、突然隣にいたカナが喋り出した。

 

 「その喋り方……キミもしかしてアルゴ? 私だよ! カナだよ!」

 

 「エッ! カナっちかイ!?」

 

 どうやらこの女性はカナの知り合いのようだ。お互い名前がわかると二人ともすごい勢いで話し始めてしまった。

 

 俺は二人の勢いについていけず、ただの呆然と二人の会話を聞くことしか出来なかった。

 

 




 はい、六話目で茅場さん意外の原作キャラをやっと登場させることができました。
 
 今回の話は時系列的にはプログレッシブの星なき夜のアリアでキリトとアルゴが代理交渉をした辺りになります。

 アルゴはカナとアルトにあっている時点ですでにキリトと交渉を終えていると思ってください。

 それからアニールブレードの話は短縮させていただきました。あの時点ではまだアルトたちとキリトを接触させるつもりがなかったのでキリト君の登場を期待していた方すいません。

 意見、感想お待ちしています。
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