「―――――――なんで、」
その日、こどもの心が欠けた。
***
―――それは始まりだった。終わりでもあった。
―――それは終わりだった。始まりでもあった。
戦争がもう一度始まる。あの日終わるはずだった戦いがもう一度舞い戻ってくる。マスターとサーヴァントの、聖杯を奪う殺し合いが『再び』この地で行われようとしている。
ある人は言った。これは、偉大なる光栄な決闘であると。
ある人は言った。これは、願いを叶えるために参加者を殺す奪い合いでしかないと。
ある人は言った。――どうでもいい、と。
喜劇であり、悲劇である。七騎による戦争。・・・・・・聖杯戦争。
そして、たった一人が手にすることが出来る、聖杯。
富も名声も悲願も夢も何もかもをその手にすることが出来る、万能の願望機。
魔術師は望んだ。名誉だと羨んだ。魔術の発展の希望を見出した。
人は願った。何物でも手に入るそれを欲した。夢を叶えることが出来ると、誰もが手を伸ばす。
―――そのこどもは、魔術にも、願いにも、何にも興味がなかった。日常生活をする一方、魔術という一般からしてみたら現実的ではないそれを身近にしながらも、魔術師として生きようとするなんてことは決してなかった。
聖杯戦争。そんなものに、興味が持てない。それがこどもの持てる唯一の感想であり、知りながらも必要としない、目指そうとしない、魔術を持ったこどもの理解できない戦争であった。
こどもには、空虚がある。どうしても埋められない『欠けたもの』。人としてあるべきそれ。こどもは人だった。けれど、何かが足りなかった。だからこそ何かがずれている。こどもは普通として生きてきた。その普通が世界の一つだとして、それはこどもの現実であり、全てである。でも、その世界はどこか、歪んでいる。そんな普通の歪さを持ちながらも、ただ毎日を惰性に生きていた。
こどもにとって、戦争なんてものは無縁だ。争いごとや面倒ことは起こさないし関わらない。平穏であり平凡である毎日こそ、――望んだものだ。
だからこどもは変化が何もなくても、ありきたりであったとしても、この毎日を壊すことは望まない。知ることがあったとしても、それ以上の知識は求めない。ただ関わりを持たない。それが一番有効だと理解して、魔術に関しても深く知ろうとすることはなかった。
魔術なんていらない。
根源なんて興味ない。
願いなんて――必要ない。
こどもは、聖杯になんて興味はなかった。ただ存在を知っているだけで、それ以上を知ろうとはしなかった。
だって、どうでもいいのだ。こどもには叶えたい願いなんてなかった。叶えようと努力できるような、希望を持てるような願いなんて何一つ持っていなかった。
毎日を変わりなく過ごすことが、こどもの願う、――願われた、ことだった。
けれども、こどもの終わりを世界は許さない。平穏であり平凡であり続ける願いを、世界は叶えてくれはしなかった。
―――いつだって、何かが始まるのは、突然のことだ。平穏な毎日を過ごしていたとして、それは何の前触れもなく、突然やってくる。
こどもはそんなことを決して願わなかったはずなのに、否応無しに巻き込まれる。―――それは運命と、呼ぶのだろうか。
そのこどもは欠けていた。どうしようもなく埋まらないものがあった。人が当たり前に持つものを、当たり前のように持っていなかった。こどもは人として、足りなかった。
望みも、願いも、こどもはなかった。なかったのだ。
ただ、ありきたりな人生を、魔術師ではない人生を生きられれば、それで。
こどもは夢を見ない。こどもは、心が、欠けていた。