白雪と共に屋敷付近にある川へと水浴びにやってきた胡桃。
彼女は川辺に立ち、一つ一つ服を脱いでいく…。
一方で白雪は一足先に服を脱ぎ終え、川にゆっくりと足をつけた。
白雪「つめたっ…」
川の水は少し冷たかったが、この日はかなり暑い日だった為ある意味ちょうど良い冷たいさでもある。普段未奈とくる時、日によってはあまりの冷たさに我慢できない時もあった白雪だが、今日のは平気だ。
胡桃「あっ、もう少し待てよ。あたしももう脱ぎ終わるからさ」
白雪「うん、はやくしてね~」
白雪は川から胡桃へと視線を移し、服を脱ぎ終えた彼女の体を見つめる。
裸になった彼女の身体…その右肩には何やら傷痕のようなものがあった…。
白雪「くるみ…それ…」
胡桃「ん、ああ…これね。前にちょっとな…」
嫌な事を思い出したのか、一瞬だけ胡桃は辛そうな表情をした気がした。
直後に胡桃は川にゆっくりと入り、持ってきたタオルを少しだけ川につけて濡らす。そうして濡らしたそのタオルに石鹸を擦り付けて泡立てると、胡桃はそれで白雪の体を拭き始めた。
白雪「…噛まれちゃったの?」
胡桃「えっ?…あ、あぁ。…心配しないで大丈夫だぞ?見つけた薬を使ってどうにかなったからさ…」
白雪「へぇ…、良かったね」
胡桃「ああ、ほんとに良かった…」
胡桃「……ハズなんだけどなぁ」ボソッ
白雪の体を拭きながら、彼女には聞こえないほど小さな声で胡桃は呟く。
彼女の髪、体を綺麗にし終えた胡桃はそばを離れないようにと言い聞かせ、今度は自分の体を拭き始めた。
胡桃「白雪、あたしが体洗ってる間だけ、ちょっと周りを見といてくれるか?」
白雪「うん、アレがそばに来ないようにだよね?」
そう言って白雪は辺りをキョロキョロと見回す。
彼女のいう"アレ"とは、"かれら"の事を指すのだろう。
胡桃はもちろんそれも心配していたが、更に言えばもう一つ警戒しているものがあった…。
胡桃「それもあるけど、もしかしたら…あのお兄ちゃんが覗きに来るかもしんないからな…」
仲間である彼の事を思い浮かべ、引きつった笑みを見せる…。
いくら彼でもわざわざこんなところまで覗きに来るだろうか?
たぶん大丈夫だとは思うが…油断は出来ない。
白雪「それって…わたしの体を覗きに?」
胡桃「あ~…そこはさすがにあたしを覗きに来ると思う。もし白雪目当てで来たら、冗談抜きにぶっ殺すわ…」
胡桃(白雪目当てでとか…ロリコンもいいとこだからな)
白雪「ふぅん…。あの人、くるみが好きなの?」
胡桃「へっ?いやっ…そのっ…」
その突然の言葉に胡桃は慌て、思わずタオルを川に落としてしまう。
胡桃はそれが流れてしまう前に拾い上げ、そのままじっと…水面に映る自分を見つめた。
胡桃(あいつが…あたしの事を好き?…どう…なのかな…。あたし…いつもあいつにキツくあたっちゃってるし…)
白雪「…くるみ?」
胡桃「あ?ああ…違うよ。あいつはあたしが好きだから覗きに来るんじゃなくて、あたしが女の子だから来るの。男の子ってのはそういうもんだからな」
白雪「ゲンジは白雪とミナが川に来た時に覗きに来たこと、一回も無いよ?大声出せばすぐ来れる所で待っててくれるだけで」
胡桃「あ~、あの人はしっかりしてそうだもんなぁ…」
白雪「あのお兄ちゃんはしっかりしてないの?」
胡桃「んん、前に一回、みんなで温泉に行ったんだけどな。その時あいつ…こっそりとあたし達の裸覗きに来たんだよ」
白雪「…ヘンタイ?」
胡桃「ああ、ちょっとヘンタイだな」
そんな話をしている間に胡桃は体を洗い終え、川から上がるとその辺に置いておいたバッグから乾いたタオルを二枚取り出す。
その一枚を白雪に手渡し、二人は濡れた体を拭き始める。
胡桃「風邪ひいたら大変だからな、ちゃんと拭けよ?」
白雪「うん。あっ…背中、うまく拭けない…」
胡桃「ほら、こっちに背中向けろ。拭いてやるから」
白雪「…ありがと、後でわたしも胡桃の背中拭いてあげる♪」
胡桃「ん、そうか?じゃあ頼むよ。」
白雪は胡桃に背中を拭いてもらうと、今度は約束どおり胡桃の背を拭く。
拭き残しが無いようにと、小さい手で一生懸命に…
胡桃(妹って…こんな感じなのかなぁ)
胡桃は白雪に背中を拭いてもらっている間、ふとそんなことを思った。
二人は濡れた体を拭き終え、脱ぎ捨てていた服を着る。
胡桃は持ってきたバッグを背負ってからシャベルを右手に持ち、忘れ物がないことを確認した。
胡桃「…よし、大丈夫そうだな。帰るか?」
白雪「うんっ!」
差し伸べられた胡桃の左手を白雪は嬉しそうに握り、ゆっくりと歩きだす。夕焼け空の下…手を繋いで歩く二人はまるで姉妹のようだった。
白雪「帰ったらあのお兄ちゃんのこと…ヘンタイって呼んじゃいそう」
胡桃「あはは…、ショック受けるからやめてやれよ?」
白雪「だって、ヘンタイなんでしょ?」
胡桃「まぁ、多少は……」
胡桃「……でもな」
白雪の手を握りながら胡桃は語る。
以前、彼に助けられた時の話を…
あれは、悠里が病に倒れた時の事だ。彼女を一日でも早く治すため、胡桃が夜中にある場所へと単身潜り込んだ際の話になる。
胡桃「前に…みんなには内緒で夜中に外を出歩いた事があったんだけど…」
白雪「くるみが?」
胡桃「そ、あたしが。どうしても一人で行かなきゃならない所があって…自分勝手な事をしたんだ」
胡桃「そしたらあたし…ちょっと怖い三人の男の人達に捕まっちゃってね。ひどい事されそうになったんだ」
白雪「ヒドイこと?」
胡桃「うん、ひどい事。動けないように押さえつけられて…ちょっとキツい言葉も言われた。まぁ元はと言えばあたしが悪いってのもあるんだけど…。それであたし…泣いちゃってさ…」
白雪「………」
胡桃「…そしたらね、あいつが来てくれた。大人三人が相手なのに…あいつは逃げたりしないで、あたしの為に怒って…その人達と戦ってくれた」
白雪「大丈夫だったの?」
胡桃「ああ!あいつはあたしが思ってたよりもずっと強くて、その人達をやっつけてくれた。まぁ、さすがに怪我しちゃってたけどね」
胡桃「傷だらけになったあいつを見て、あたしはまた泣いた…。助かったって安心したからってのもあるけど、何よりもあたしのせいであいつに怪我させた…それが情けなくて…」
胡桃「あいつはこんなあたしを一度も怒らず、それどころか心配までしてくれた。怒鳴られたり…ちょっと殴られたりするくらいは覚悟してたんだけどね」
胡桃「えっと…何が言いたいかっていうと、あいつはただ変態ってだけじゃなくて、優しくて…そういうカッコいい一面もあるってこと。わかった?」
白雪「…うんっ!」
にっこりと微笑み、どこか嬉しそうな顔で彼の事を語った胡桃…
白雪は彼女の冷たい手を握り直し、笑顔を返す
直後、胡桃は何かを思い出したような声をあげて…白雪へある事を告げた。
胡桃「あっ!そういえばさ、あたしの腕の傷…あのお兄ちゃんには内緒な?」
白雪「えっ、どうして?」
胡桃「あいつがこれの事知ったら、たぶん凄く心配してくれると思う。でもな、あたしはもう、あいつに余計な心配をかけたくないんだ…」
先ほどまでの嬉しそうな顔から一変し、今度は物悲しそうな表情を見せる胡桃。白雪はそんな彼女を見て、一つの疑問を抱いた。
それは何となく抱いた疑問で、確証など一切ない…。
ただ、ちょっと気になる。だから…本人に尋ねてみた。
白雪「くるみは…あのお兄ちゃんが好きなの?」
胡桃「はあっ!?いやっ…あたしは、べつにっ…!!」
白雪のその発言に胡桃はあたふたと慌てて、顔を真っ赤にする。
歩みを止め、その場で足踏みをしながらキョロキョロとする胡桃…
そんな胡桃はとてもおかしくて、白雪は失礼だと思いつつも笑うのを我慢できなかった。
白雪「…っぷ、あははっ!くるみ、おっかしぃ~!!」
胡桃「くぅ…バカにされてる…」
白雪「えへへ、ごめんなさいっ!ほら、はやく帰ろ?」
笑った事で出てきた涙を指先で拭い、白雪は胡桃の手を引いて歩き出そうとする。
だが、胡桃はそこにたちつくしたまま夕焼け空を眺めてぼうっとしており、動こうとはしなかった…
白雪は彼女の手をグイグイと引っ張りつつ、声をかける。
白雪「…くるみ?」
胡桃「………」
白雪「ねぇ、くるみってば!」
胡桃「…よしっ!白雪、お前にだけ特別に教えてやる…」
白雪「うん?…何を?」
胡桃「あたし……あのお兄ちゃんの事が好きだ」
わずかに赤く染まった頬をして、どこか幸せそうに微笑みながら…胡桃は白雪にそれを告げた。白雪はその笑顔につられてにっこりと笑うと、胡桃と手を繋ぎ…仲良く並んで歩いた。
白雪「…そっかぁ♡」
胡桃「好きって言ってもちょっとだぞっ!ちょっとだけだからな!?」
白雪「はいはい。わかってるよ~♪」
胡桃「念押ししとくけど、これは本当に内緒だぞ…?それこそ傷の事以上に内緒だ!!もしこれがあいつにバレたら、あたしは恥ずかしくて死んでしまう…」
白雪「うん!内緒ね♪」
胡桃「ああ。内緒だ♪」
夕焼け空の下…仲良く手を繋ぎながら二人は帰る。
大切な仲間と…"ちょっとだけ"好きな彼が待つ場所へ…
彼へ抱いている感情を初めて他の人に打ち明けた胡桃ちゃん…。相手がまだ幼い白雪ちゃんだったからこそ、それを伝えられたのかも知れません。
胡桃ちゃんはこれを『学園生活部』の面々にも打ち明けていないのですが、それとなく気づいているメンバーはいるかもです。由紀ちゃんとか…意外とこういうのに鋭そうですからね(笑)
今回の話で『やしき』編は最終回ですので、本編は次回より新章です!
ではでは!