軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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『やしき』編にて、もし彼がそのままあの屋敷を出ていったら?というシナリオのリクエストを頂きましたので、急ぎ仕上げてみましたm(__)m

本編では胡桃ちゃんの説得により立ち直り、これからも彼女達と一緒にいることを誓った彼ですが…今回の話では胡桃ちゃんが本編の時ほど素直になれず、説得に失敗したところから始まります。


異編-前編-『もっと別の終わり方』

 

 

 

 

 

胡桃「本当にツラいなら…あたし達から離れていってもいいよ…」

 

 

 

 

胡桃『境野って奴等から由紀とりーさんを連れ戻す事が出来たのは良かったけど、帰ってきたアイツの心は見るからにボロボロだった…。だから、この時のあたしはアイツにこう言ってやる事が一番の選択なんだって……そう…思ってた…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

(まこと)や宮野の協力もあり、彼が由紀と悠里を連れ戻す事が出来た日の夜…。胡桃は暗い顔をしながら未奈の屋敷内を歩き、みんながいるであろう広間へと入る。中に入った胡桃はそこにある程度の人が集まっているのを確認するとその中の一人…悠里へと目線を向け、そばに歩み寄った。

 

 

大きなテーブルの前にずらっと並べられている沢山の椅子…その内の一つに腰かけていた悠里は胡桃の存在に気付いた瞬間、彼の様子を胡桃に尋ねる。

 

悠里「胡桃…どうだった?」

 

 

 

 

あの事があってから彼はずっと元気がない…。

それを心配した悠里達は胡桃なら彼を元気付けられるのではと思い、彼女を説得に向かわせた…。だが、胡桃の暗い顔を見れば結果は何となく想像がつく…。

 

 

 

 

胡桃「ごめん……だめだった……。もう少しだけ、ほっといてやろう…」

 

その言葉を聞いた悠里は残念そうな表情をしたが、こうなっては仕方がない…。彼が自力で立ち直るのを待つだけだ…。胡桃は悠里の隣の席に座ると頭を抱え、テーブルの上に顔を伏せてしまった…。

 

 

 

 

誠「胡桃でもダメとなると…かなり重症だな」

 

そばの壁に寄りかかっていた誠が呟く。

胡桃は伏せていた顔をほんの少しだけ上げてから誠、そしてそばにいた美紀・由紀の顔を順に見つめていった。

 

 

 

 

胡桃「みんな………ごめんな……」

 

 

 

由紀「そんなっ…胡桃ちゃんが謝らないでよ!悪いのは…全部わたしなのに…!!」

 

あの時…境野は由紀か悠里を殺せと彼に迫り、彼は悠里を選んだ。

由紀はその選択に納得が出来ず、無事に戻れてからも彼に冷たくしてしまっていた…。それが彼を一層追い詰めてしまったと思い、由紀は責任を感じていた。

 

 

 

由紀「わたし…やっぱり謝ってくるっ!!」

 

彼に謝る為、扉へと向かう由紀…。

だが、今の彼の元に彼女が行ってもどうにもならない気がしたので、胡桃はそれを止めさせようとした。

 

 

 

胡桃「由紀っ!!……いいから、ほっといてやれ…」

 

由紀「でもっ!わたしのせいで…!!」

 

胡桃「お前のせいじゃない…。これは…ここにいる誰のせいでもないんだよ…。強いて言うなら、お前らを捕まえてた境野って奴のせいだ…」

 

 

由紀「でも……でもっ……」

 

美紀「由紀先輩…もう少しだけ様子を見ていましょう?あの人もきっと、すぐに元気になりますから……ね?」

 

いてもたってもいられず、泣きそうな顔をする由紀…。美紀はそんな彼女の背中を撫でながらそばの椅子へと誘導し、そっと席につかせる。由紀は大人しく座っていたが、その表情はどこかツラそうだった。

 

 

 

 

 

悠里「また…みんな一緒になれたのに…。どうしてこんな……」

 

胡桃「………」

 

呟く悠里になにも言えず、胡桃は顔をそむける。

『あたし達から離れていってもいい…』あの時、胡桃は彼にそう言ってその場を去ったが、出来ることならずっと一緒にいたいと思っていたし…彼も何だかんだでそれに答えてくれると、心のどこかでそう思っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

翌日の夜、胡桃は部屋に閉じこもったままの彼の様子を窺いに向かっていた。本当なら今日の朝、境野の仲間達がこの屋敷に来るハズだったらしいが結局やって来なかったし、良い展開になってきているのかも知れない…。あとは彼が元気を取り戻すだけだ。

 

 

 

コンコンッ…

 

希望を見出だした胡桃は彼の部屋のドアをノックして返事を待つ。昨日はすぐに部屋を出ていってしまったが、今日はもっと話してみよう…。そうすれば、彼を救えるかも知れない。

 

 

 

 

胡桃「…………」

 

…彼からの返事がない。胡桃はもう一度手を上げ、ドアを三度ノックした。

 

 

コンコンコンッ…

 

廊下に響くノック音が何故か嫌な音に聞こえだす…。彼からの返事はまたしても返ってこなくて、胡桃は不安を感じ始めた。

 

 

 

 

胡桃「……おい、開けてもいいか…?」

 

中にいるなら聞こえるであろう声量で廊下から尋ねる。

だが、やはり返事はない…。焦った胡桃はドアノブを捻り、部屋の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

バタンッ!!

 

焦ったあまり力を入れすぎてしまい、ドアを開ける音が必要以上に大きく響く…。中に彼がいるなら迷惑そうな顔をされただろう……。だがそれでもいい…どんな顔をされても、彼がそこにいてくれてるなら……。

 

 

 

 

 

 

胡桃「あ……はは…っ………マジ…かよ…」

 

 

片手で髪をガシガシと掻き、力ない声で胡桃は呟く…。

部屋の中にはもう、誰の姿もなかったからだ……。

よく見れば彼の寝ていたベッドの上…そこに一枚の紙切れが置かれており、何かが書かれている。胡桃はそのベッドに腰掛けてその紙切れを手に取り、勇気を出してそれに目線を向けた。

 

 

その紙切れにはただ一言…『今までありがとう』とだけ書かれていた…。

一瞬その言葉の意味が理解できずにいた胡桃だが、すぐにそれを理解し…ドサッとベッドに倒れ込む…。

 

 

 

 

 

胡桃「ほんとに……いなくなっちゃうのかよ………。一言くらい…言ってくれてもよかったのに……っ…」

 

今すぐ由紀達にこの事を伝えなきゃいけないのに、胡桃はショックで動けずにいた…。自分からああ言った以上、こうなる事も覚悟していたハズなのに……いざそれが現実になると涙が止まらなくなる。

 

 

 

 

胡桃「ううっ………!っぐ…!うっっ…!!」

 

暗い部屋の中…胡桃は一人すすり泣いた…。

涙が止まり、落ち着くのを待っていたら予想よりも時間がかかり…由紀達に彼がいなくなった事を伝えたのは彼の部屋を訪れてから三十分以上経ってからだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

悠里「うそ…でしょ…!?」

 

美紀「いつ…いつここを出ていったんですかっ!!?」

 

広間の中…。胡桃の口から知らされた事実に驚き、二人は彼女のそばに寄っていく。由紀はというと、彼がいなくなったという事実にかなりのショックを受けたようで放心状態になっていた。

 

 

 

 

胡桃「夕方の時にはいたから…その直後だと思う…」

 

美紀の問いに対し、胡桃は消え入りそうな声で答える。

胡桃の目は真っ赤に腫れており、さっきまで泣いていたのだろうという事に美紀は気付いた。

 

 

 

美紀「胡桃先輩……大丈夫…ですか?」

 

胡桃「……うん。もう…仕方ないよ…」

 

彼の事を諦めた胡桃はニコッと微笑んで告げるが、どうみても強がっているのが分かる…。彼女は何事も無いかのようにして席についたが、悠里は彼女の肩を掴んだ。

 

 

 

 

悠里「はやくっ…はやく探しに行かないと!!外を一人で歩くのは危ないって分かってるでしょう!?」

 

胡桃「…分かってるよ。分かってるけど……アイツはもう、あたし達と一緒にいれないんだよ…。あたし達と一緒にいると、苦しくなっちゃうから……」

 

悠里「なっ…!!?なに訳の分からないこと言ってるのっ!!しっかりしてよ!!!」

 

胡桃の肩を激しく揺さぶる悠里だが、胡桃はもう答えない…。

これ以上放っておくとケンカになりかねないので、そばにいた誠は堪らず悠里を止めに入った。

 

 

 

 

誠「落ち着けって…。話を聞いてると、ここを出ていったのはアイツ自身の判断だ。そうだろ、胡桃?」

 

誠は悠里の手を掴み、胡桃から離す…。

胡桃は悠里に掴まれた事によって微かに乱れた自分の衣服を整えながら、静かに誠の問いに答えた。

 

 

 

胡桃「…うん。アイツ自身がもうここに…あたし達のそばにいられなくなったんだよ…。一人の方が気楽だし…誰かが傷付くのを見なくてもいいから…」

 

誠「………そうか、分かった。とりあえず、俺はこの事をミナとゲンジ…それと宮野に伝えてくる。少ししたら戻る、後の事はそれから考えよう」

 

そう告げてから誠は部屋を出ていき、広間に残ったのは胡桃・由紀・美紀・悠里だけになる。誠が出ていった直後こそ広間は静まり返ったが、悠里が再び胡桃に声をかけた事によってその静けさは消えた。

 

 

 

 

 

悠里「マコトさんが戻ったら、すぐ彼を探しに行くわよ」

 

胡桃の肩を背後からそっと叩く悠里…。だが胡桃はその手を静かに払いのけ、バカにしたように笑いながら彼女の目を見つめた。

 

 

 

胡桃「だからさ…話聞いてなかったの?アイツはもう、あたし達とは一緒にいれないんだよ…」

 

悠里「ちょっと…その言い方は何!?胡桃は彼の事が心配じゃないのっ!!?」

 

美紀「二人ともっ…!落ちついて下さいっ!!」

 

悠里の声が荒くなる…。焦った美紀が二人の間に入るが、二人の熱は瞬く間に美紀一人では止めるのが難しいところまで上がっていった。

 

 

 

 

胡桃「心配だとか心配じゃないとかって話じゃないんだよ!!こうして別々の道を行った方がアイツ自身のためなんだ!!あたし達と一緒だと、アイツはこれから何度も苦しむ事になるんだよ!!」

 

悠里「だからっ…言ってる意味が分からないっ!!つまり、胡桃は何を言いたいの!?」

 

胡桃「今回だってそうだ…!りーさんと由紀が捕まって、相手の連中はアイツ一人だけを呼び出した…。その結果どうだ?アイツは半端なくツラい選択を迫られて…どうにかそれを切り抜けたかと思えば今度は由紀がっ…!」

 

感情に任せて言葉を放ち続けた胡桃だが、それだけは言ってはダメだと口を閉じる。しかしそれは少々遅かったようで、由紀は肩を震わせながらテーブルに顔を伏せていた。

 

 

 

 

 

由紀「ご…めんっ……ごめんっ…!わたしの…せいだよね…っ!わたしが冷たくしちゃったから…!!一生懸命…助けようとしてくれたのにっ!!なのにっ!!どうしよう…どうしようっ…!!」

 

テーブルに顔を伏せたまま、由紀は大声で泣き始めてしまった…。

それを見た悠里もその場に崩れ落ちてから両手で顔を覆い、泣き声を漏らす。胡桃は泣いている由紀を背後から抱きしめ、何度も頭を撫でた。

 

 

 

胡桃「ごめんっ…!違うよ…由紀のせいなんかじゃない…絶対に違うからっ!!」

 

胡桃(あたし最低だ…!今、アイツが出ていったのを由紀のせいにしようとした…!!そんなこと無いのに…絶対に違うのにっ!!)

 

肩を震わせながら泣いている由紀の頭を撫で、胡桃は何度も謝る。

だが今の由紀にはその言葉が聞こえていないらしく、由紀は涙を流しながら『ごめん…ごめん』と繰り返し言葉を放っていた。

 

 

 

 

少しすると誠が部屋に戻ったが、誠は広間の状況を見渡して困ったような表情をする…。胡桃は大泣きする由紀を落ち着かせるのに必死であり、美紀もまた床に崩れ落ちて泣いている悠里をなだめていたからだ。

 

 

 

誠「みんな大丈夫…じゃないよな…」

 

美紀「すいません…。かなり、キツい状況です…」

 

悠里の背を撫でながら美紀が答える。一見すると彼女は冷静に振る舞っているように見えるが実際はかなりショックな状態らしく、今にも泣き出しそうな瞳をしていた。

 

 

 

 

由紀「探しに…行かないと…っ!!」

 

溢れる涙を拭いながら立ち上がり、由紀が言う。

しかし今はもう夜…。外は真っ暗であり、かなり危険だ。そんな状況の外に出るのを許す訳にもいかず、誠は扉の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

誠「夜は危険だ。せめて朝になるまで待て」

 

由紀「でもっ!そんな危ない外に一人で行っちゃったんだよ!?はやく探しに行ってあげないと……あの人に何かあったら…わたしっ…!」

 

彼に万が一の事があれば、由紀はまた自分を責める…。そうと分かってはいるが、それでも危険な夜間外出は避けなければならない。出ていった彼を探そうとして由紀に何か起きてしまったら元も子もないのだ。

 

 

 

 

誠「由紀、落ち着け…。アイツは長いこと一人で生きてきた人間だ。そう簡単に死んだりはしない」

 

由紀「でも……でもっ…!」

 

誠「良いから、今日はもう眠れ。朝になったら俺がすぐ探しに行くから…」

 

いくら言っても由紀は中々納得しなかったが、一時間後には泣き疲れて眠っていた…。由紀は眠り、悠里は目を腫らしている…。美紀・胡桃は比較的落ち着いているようだが、実際のところは分からない…。

 

 

 

 

 

誠「胡桃、ちょっといいか?」

 

胡桃「えっ……うん」

 

その場を一旦美紀に任せ、誠は胡桃を廊下へと呼び出す。わざわざ胡桃だけを呼び出した理由…それは彼が出ていった理由を深く聞き出す為だった。

 

 

 

 

 

 

誠「アイツはお前達のそばにいたくなくて出ていったのか?」

 

胡桃「…うん。これ以上一緒にいても、傷つくばかりだからな…」

 

 

 

誠「胡桃、お前はこのままアイツがいなくなっても構わないのか?」

 

胡桃「ああ、アイツが自分の意思で出ていったんだ…。無理言って止めるなんて出来っこない…。このまま別々の道を行った方が良いよ…」

 

微笑みながら答える胡桃だがその笑顔はあまりに弱々しく、もはや強がる事すらまともに出来ていない…。胡桃は誠との話を切り上げて広間に戻ろうとするが、誠は彼女の左手を掴んで引き止める。

 

 

 

 

誠「お前が必要ないと思うなら、俺は明日アイツを探しに行くのをやめる…。それでもいいか?」

 

胡桃「うん…そうした方が良い…。由紀にはあたしから言っておくよ…」

 

誠「本心からそう思っているならいい。だが、強がっているだけならもう止めろ。こんな世界で我慢ばかりしていても良いことなんて何もない…」

 

掴んだ胡桃の手が誠の言葉に反応するようにピクッと動く。

その後、二人はしばらく無言だったが、誠が手を離すと胡桃はそばの壁に背を寄りかけ、頭を抱えながら言った。

 

 

 

 

 

 

胡桃「…ごめん……アイツのこと…探してもらってもいいかな…?まだ…一緒にいたいんだ……。まだ…別れたくないんだ……」

 

泣きそうになりながらも、それを堪えて胡桃が告げる。

彼がツラくて仕方ないなら自由にさせてあげたいとも思っていたが、本心ではまだまだ一緒にいたい…。彼女のそんな本音を聞いた誠は優しく微笑み、首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

 

 

一方…同時刻の屋外……。

彼女達に黙って出ていった彼は明かりも持たずに歩道を歩いていた。

ヨロヨロと歩く様子は今にも倒れてしまいそうで危なっかしいが、今の彼のそばにはそれを心配する仲間もいない…。

 

 

 

 

(みんな…怒ってるかもな…)

 

自分から出ていったんだ…。もう気持ちを切り替えなければいけないのに、彼は彼女達の事ばかり考えてしまう。また一人になったのだから、これからは自分の事だけを考えていれば良い…。自分一人だけで生きていれば、誰かが傷付く事に怯えたり…誰かを失う事を考える心配もない。ただひたすらに…自分の事だけを考えれば…。

 

 

 

 

 

 

『ァ……ァァ…ッ…』

 

ボーッとしながら歩いていると、前方に"かれら"の姿があった。

数はほんの四~五体…。走れば余裕でかわせる相手だが彼は走ろうとはせず、そっとナイフを手に取った。

 

 

 

 

「………」

 

"かれら"との距離は10m弱しかなく、彼に気付いてこちらに向かってきていた。たった数体だからと(あなど)っているのか…彼は自分から"かれら"の方へと歩いていく…。

 

 

 

 

『グ…アァ…ッ…!!』

 

そばまで寄った瞬間…"かれら"の内の一体が彼に掴みかかろうと手を伸ばす…。彼はその手をかわし、反撃としてそいつの頭にナイフを突き刺した。

 

 

 

ザシュッ!

 

振り抜いたナイフは頭を狙ったハズだったが…狙いは微かにずれてその一体の額を切るだけで終わる。仕留められなかったその一体はまたしても彼に手を伸ばし、肩をガシッと掴んだ。

 

 

 

「ちっ…!!」

 

一体が彼の肩を掴んで顔を寄せる…。彼はすかさずその一体の腹部を蹴り飛ばし、慌てて距離を空けた。

 

 

 

 

(くそ…動きが雑になってる……)

 

自分が必死に戦わねばその脅威が彼女達に向いてしまう…。みんなと一緒にいる時はそのプレッシャーがあったので彼は実力以上に戦えていたが、自分一人だけになるとそのプレッシャーから解放され、戦い方が雑になる…。

 

 

 

(たった四体くらい…胡桃と一緒ならあっという間だろうな…)

 

不意にそんな事を考えてしまい、彼は首をブンブンと横に振る…。

もう彼女達の事は考えるな…。これからは一人で生きていくんだ…。

そう思って前を見た瞬間、彼は目を丸くした……。

 

 

 

 

(…ほんと…雑になってるどころじゃないな……)

 

彼女達から離れ、自分の戦い方が雑になっている事を思い知った。

しかし雑になっていたのは戦い方だけでなく、集中力もそれに含まれていたらしい……。たった四~五体だと思っていた"かれら"はいつの間にか数を増し、彼を取り囲んでいた…。辺りがこんな状況になっているのに、彼は全くそれに気が付けなかった…。

 

 

 

 

 

 

(十体とちょっと……。ヤバい…キツいか………)

 

自分の周囲を取り囲む十体以上の"かれら"を前にして彼はため息をつく…。その気になればその隙間を無理矢理に突破したり、そばの塀をどうにかして飛び越える事も出来たかもしれない……。だが、彼女達と別れて心身共に疲れきっていた今の彼にそんな選択肢はなかった……。

 

 

 

 

 

「どれだけ逃げても…結局は同じだもんな…」

 

以前は一人で生きていた…。

その後たまたま彼女達と出会い、少ししてそれがまた元の一人に戻っただけ…。それなのに、異常なくらいの虚無感が彼の心を(えぐ)る…。自らのそばに"かれら"が歩み寄ってくる中、彼は一つの事に気が付いた…。

 

自分のようにずっと一人だった人間でも、一度誰かと幸せな時を過ごしてしまったらもう二度と以前のようには戻れない…。彼女達から離れれば元の自分に戻れると思っていたが、それは間違いだった……。

 

 

 

 

 

 

「そっか……どれだけ辛くても、一緒にいるべきだったんだな……」

 

 

 

 

 

 

もう少しだけ早くそれに気づければ良かった……。

辛い事ばかりじゃない…彼女達と一緒にいたからこそ味わえた楽しい事や幸せな事だって山ほどある…。それに気付いていれば…もっと別の終わり方が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





本編では胡桃ちゃんが自分の気持ちに素直になり『ずっとそばにいてほしい』と伝えたおかげで彼は立ち直ることが出来ました。ただ、もし胡桃ちゃんがそれを伝えられなかった場合…彼はこうして出ていってしまうわけですね(-_-;)

このシナリオは前編・中編・後編の構成で送りますが、全体的に暗い話となっています(汗)
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