軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

107 / 323
もしも彼が彼女達の元から去っていったら…というIFルートも今回で最後です。前編・中編は自分でもおおっ…と思う程にハードな内容になってしまいましたが、これに懲りずお付き合い頂ければと思いますm(__)m

少し長めです…(汗)


異編-後編-『おやすみなさい』

 

 

 

彼がいなくなって数日が経った…。

結局境野の仲間達も現れることなく、全員が比較的平穏な日常を過ごしている。にも関わらず皆が暗い顔をしているのは、やはり彼がいなくなってしまったからだろう……。

 

 

 

胡桃「……はぁ」

 

キッチンに全員が集まって夕食を囲んでいると、胡桃がため息をつく…。食事が始まってかなり時間が経っているのに、彼女の前に出された食べ物はほとんど減っていなかった。

 

 

 

 

由紀「胡桃ちゃん…具合悪いの?」

 

胡桃「ん……いや、ちょっとな。大丈夫、寝れば元に戻るから」

 

悠里「それにしたって全然食べてないじゃない。もう少しだけでもいいから食べた方が良いわよ?」

 

胡桃「あ~…わりぃ、ちょっとキツいわ…。誰か代わりに食べていいよ」

 

ガガッと音をたてながら椅子を引いて立ち上がり、胡桃はキッチンから出ていこうとする…。由紀・悠里・美紀はもちろん、弦次(ゲンジ)と未奈…白雪もそれを心配そうに見つめていた。その直後、胡桃は何もない場合でバランスを崩して倒れそうになる。

 

 

 

胡桃「………うおっ…!」ガタッ!

 

 

 

美紀「くっ!」

 

そばにいた美紀が咄嗟に手を伸ばし、胡桃の手を掴んで倒れるのを防ぐ。どうにか体勢を立て直す事が出来た胡桃だが、やけにぼんやりとした表情でいたので美紀は不安げに声をかけた。

 

 

 

 

美紀「先輩…本当に大丈夫ですか?」

 

胡桃「あはは……ごめん、なんかやたらと眠くてさ」

 

美紀「…部屋まで送ります」

 

本人はただ眠いだけと言っているが、美紀はそれを疑っていた。

美紀は胡桃の手を自らの肩にかけ、彼女を部屋に送ろうとするが…。

 

 

 

 

胡桃「おいおい、そこまでしなくても大丈夫だって…。これじゃ重病人みたいじゃん」

 

胡桃は彼女の手をそっと振りほどき、ニコッと笑顔を浮かべる。

仕方なく手を離す美紀だったが、やはりどこか不安だった…。

 

 

 

美紀「…しっかり休んでくださいよ?」

 

胡桃「わかってるって…おやすみっ」

 

胡桃はそばにあった扉を開けてそこを出ていき、廊下を進む…。

由紀や悠里が『おやすみ』と言いかけていたのに、彼女はそれすら聞かずに出ていってしまった。

 

 

 

 

悠里「大丈夫…かしら」

 

由紀「……心配だね」

 

二人だけではない…美紀や未奈達も彼女の事を心配に思っていた。

その中でも誠・宮野の二人は彼についての事も全て知っていたので、余計に胡桃の事が心配だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

胡桃「…う……んん……やっぱり、キツいなぁ……」

 

自室を目指して一人廊下を進む胡桃だったが、どうにも真っ直ぐ立つことが出来ない…。彼女は廊下の壁に手をつけて一歩一歩進んでいくが、時おり倒れそうになってしまう…。

 

 

 

胡桃「…危なっ……また転ぶとこだった……」

 

身体に異変が起きたのは昨日から…。時間が経つにつれて歩くことすらままならなくなってきており、実を言うと夕食をとるためキッチンに向かうまでにこの廊下で二度転んだ…。因みに、悠里達に言うとまた心配するので言っていない…。まだ彼の事も言えていないのだ…自分の身体の事など言える訳もない…。

 

 

 

胡桃(もう……だめなのかな……)

 

ほんの10数メートル先の部屋に戻るのにもこれだけ苦労する…。胡桃は自らの身体の異変を実感し、もしかしたら終わりが近付いているのではと考えた…。

 

 

 

胡桃(あたし、また強がってばかりいるんだ…。みんながあんな心配そうな顔してくれてるのに…嘘ばかりついて……。もし、今お前がいたら…あたしはちゃんと相談出来ていたのかな…?)

 

ノソノソと歩きながら彼の顔を思いだす…。

あの時素直になってさえいれば彼も…自分の運命も変わっていたのだろうか…。ふとそんな事を考える胡桃だったが、(むな)しいだけなのですぐに止めた…。

 

 

 

 

胡桃(…やっとついた)

 

苦労してたどり着いた自室の扉を開き、ゆっくりと歩きながらベッドに向かう。たった数歩でたどり着けるはずのベッドさえやけに遠く感じて、胡桃は苦笑いした。

 

 

 

ボフッ!

 

たどり着いたベッドの上に倒れこみ、モゾモゾと動きながら布団をかける…。肩からつま先までかけて全身を覆っているハズなのに、まるで温かいと思えない…。

 

 

 

 

胡桃(時間が経つごとに酷くなっていってる…。これ、ごまかし続けるのも無理だよな……)

 

昨日は……いや、今朝ですらここまで酷くはなかった。

確かに少し身体が不自由になってはいたものの、走ろうと思えばきっと走れただろう…。だが、今はとてもじゃないが走ったりできない…。

 

ここ数日、外の探索は誠と弦次が担当してくれていたので胡桃は部屋にとじ込もっていたのだが、もしかしたら誘われる時が来るかも知れない…。そうなれば、一発で身体の不調に気づかれてしまうだろう。

 

 

 

 

 

胡桃(わるいけど、そうなったら断ってやり過ごすか…)

 

そうすれば、まだしばらくは隠し通せるだろう…。

他の者との接触も出来る限り避け、必要な時以外は部屋にいればいい…。

 

 

 

 

胡桃(…でも、そんなに隠して何がしたいんだ?内緒にしてたってこの調子じゃいつかはバレる…。いや、それならまだ良い…。一番最悪なのは……)

 

最悪な光景として、自分が"かれら"と同じになるのを想像する…。

皆に内緒にしていたままこの屋敷内でそうなってしまったら、それはとても迷惑な事ではないのだろうか…?

 

 

 

 

胡桃(死んでまで…迷惑はかけたくないな……)

 

きっともう自分は助からない…。このまま皆と一緒にいてもボロが出るだろうし、自分の身体に異変が起きていることを由紀達が知れば更に余計な心配をかける…。胡桃はその計画の実行を真夜中に決め、ベッドの中で時が過ぎるのを待った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

胡桃(…そろそろかな。みんな、もう寝ただろ)

 

ベッドに潜って数時間が経った…。真っ暗な部屋の中、胡桃はベッドからそっと降りて立ち上がる…。やはり、少しだけクラクラした…。

 

 

 

胡桃(っ……こんな状態で…いけるかな……)

 

ベッドの横に置いていたシャベルを手に取り、それを杖のようにしながら部屋を出る…。辺りは静まり返っており、誰の話し声も聞こえない…。胡桃は暗い廊下を少しずつ、少しずつ歩いていった…。

 

 

 

 

 

カンッ……カンッ……

 

杖代わりに使っているシャベルが廊下を突く度に音を鳴らす…。

その音で誰か起きてしまわないかと不安だったが、杖無しで歩いて転ぶよりは静かに動ける……。

 

 

 

胡桃「…………」

 

誰もいない…一人きりの廊下…。

誰かが気付かないよう慎重に歩いていき、遂に玄関にたどり着く。ここで音をたてないようにそっとそれを開けると、胡桃は庭へと足を踏み入れた…。

 

 

 

 

 

胡桃「…はぁ」

 

ここまで来ればあとは楽だ…。胡桃は空に浮かんだ月を眺めながらため息をつく…。眺めている大きな月もそうだが、今日はやたらと星が綺麗に輝いている…。おかげで辺りはわりと明るく、ライト無しでもどうにかなりそうだった。

 

 

 

 

胡桃(よし、いくか…)

 

ノソノソとした足取りで庭を歩き、大きな門の前に立つ…。この門は結構錆び付いている為、今の弱っている胡桃一人で開けるのは厳しい…。仕方なく、彼女はそれをよじ登った…。

 

 

 

 

胡桃「っぐ……う…っ…」

 

出来るだけ背伸びをしてから門の上に手をかけ、必死に登ろうとする…。普段の胡桃ならあっさりと登れるはずなのだが、やはり弱っている今の状態では体が上がっていかない…。

 

 

 

胡桃「もう…少しだから…っ!」

 

片手じゃ上手く上がれない…。胡桃は両手でそこを登る為にシャベルを捨て、二本の腕でその門をよじ登っていく。両手を使うと少しずつ体が上がっていき、遂に門の上に登る事が出来た。

 

 

 

 

 

胡桃「はぁっ……はぁっ……きっつ…」

 

門の上にしがみつきながら、一度乱れた息を整える。

そうして少し休んでから今度は外の方に足を伸ばして一気に飛び降りようと思っていたが…。

 

 

 

ズルッ!!

 

胡桃「やっ…!?」

 

 

 

手が滑ってしまい、胡桃は門の外側の方へと頭から落ちていってしまう…。門の高さは約2mほど…その上から落ちていく胡桃は咄嗟に地面へ手を伸ばしたが、それだけでは衝撃を逃しきれずに額を地面に打ち付けてしまった…。

 

 

 

ガッ!!

 

 

 

胡桃「ッ…っ……ぐぅ……!」

 

感覚が死んでいるのか、痛み自体は感じない…。だがコンクリートの地面に額を擦った際、ガリガリッという嫌な音が頭の骨へ直に響いた気がした…。

 

 

 

胡桃「………」

 

どうにか立ち上がって額に手を伸ばすと、どろっとした血液がその指先にまとわりつく…。かなり深く切ってしまったのか、その血は目にまで入って少しだけ鬱陶(うっとう)しい…。

 

 

 

胡桃(初っぱなから大怪我しちゃったな…。ははっ…バカみたい…)

 

ジャージの袖で額を流れる血を拭い、くるっと振り向いて門の向こうの屋敷を見つめる…。由紀達は今、あの中でぐっすりと眠っているのだろう…。

 

 

 

 

胡桃「……さよなら」

 

自分がいれば、また心配や迷惑をかけてしまう…。なら、いっそのことこの場所から出ていってしまおう。そうすれば、いつか"かれら"のようになってしまっても皆を襲わずに済む…。胡桃は屋敷にいる皆に向けて一言別れを告げると、そんな考えを胸に道の端を歩いていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「はぁっ………はぁっ……」

 

転ばぬよう、塀に体を寄せながら歩いていく…。

やはり先ほどの怪我はかなり深いのか、俯きながら歩いていると血が額からポタポタと滴り落ちていった。

 

 

 

胡桃(うわ……全然止まんない…。これ、血の痕であたしのこと追えるんじゃないか…?)

 

一定の間隔で地面へ落ちていく血を見てそんな事を考える。

直後、何かの気配を感じて顔を上げると、数体の"かれら"が胡桃の真正面からこちらへと歩み寄ってきていた。

 

 

 

 

胡桃「…………」

 

『ア……ァァ……』

 

互いの距離が縮まっていき、遂には手を伸ばせば胡桃に届く距離になる。しかし"かれら"は胡桃がそばを通ろうが、肩がぶつかろうが、まるでお構いなしに通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

胡桃(もう、全然興味もないんだな……)

 

"かれら"は胡桃を完全に無視して、どこかへと移動していく…。

その様子を少し見てから、胡桃もまた歩きだしていった。どこへ向かうというあてもなく、ただ…一歩ずつ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって歩いてしばらく経った時、なんだか体がダルくなってきて…胡桃は歩みを止めた。一度歩みを止めると今度は立っているのも辛くなり、そのまま地面に寝転んだ…。

 

 

 

 

胡桃(あれ………やっぱり…もう限界だったのかな……)

 

地面に寝そべり、仰向けになって星空を見上げる。頭の怪我は相変わらず全く痛くないのに、全身が凍えるように寒くなっていく感覚だけはハッキリと分かった…。

 

 

 

 

胡桃(いよいよ…本格的にヤバいな………まぁ、一人だからいっか…。ここでなら、誰にも迷惑かからないだろ…)

 

もう少しだけ星空を見ていたいが、まぶたが重くなってきて開け続けるのが難しい…。だが、ここまで来ればもう頑張る必要もないだろう…。胡桃は瞳を静かに閉じて、彼の事を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

胡桃(そっちで会えたら、今度はあたしの気持ちをしっかり伝えるよ…。だから、すぐ迎えに来てくれよ?めぐねえ、太郎丸と一緒にさ……)

 

こんな状況にも関わらず、胡桃は少しだけ笑顔になる…。

失った人達とまた会えるなら、死ぬのも怖くないような気がしたから…。しかし、心残りがないわけでもない…。ふと頭を(よぎ)るのは…大切な友達の事だった…。

 

 

 

 

 

 

胡桃(由紀…りーさん…美紀…みんな怒るだろうな…)

 

明日の朝、部屋を見て自分が消えた事に気付いたら由紀達は大騒ぎするだろう…。もしかしたら外に探しにくるかも知れない…。かなりの迷惑をかけてしまうな…。そんな事を思った瞬間、胡桃はある事に気が付いた…。

 

 

 

 

胡桃(あっ……どのみち迷惑かけちゃうんだな……)

 

彼女達に迷惑をかけたくないから出ていったのに、出ていった事で生まれる迷惑もあった…。なら、自分は何のために出ていったのだろう…。その答えは…意外とすぐに出た。

 

 

 

胡桃(…わかった。結局……あたしは…)

 

 

 

 

 

その答えが分かった瞬間…激しい眠気にも似た感覚に襲われてしまい、いつしか彼女は意識を失ってしまっていた…。全身が深い闇に包まれていくようなふわふわとした感覚……このまま眠り続ければもう戻れない気がしたが、自分一人の意思ではもう目を開けられなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ゃんっ!――るみ―ちゃんっ!!』

 

 

 

 

誰かの声が聞こえる…。

その声は胡桃もよく知っている声で、よく聞けば一人のものではない…複数人が彼女に呼び掛けていた。それらの声を聞いているとだんだん意識が戻っていき、少しずつ目が開けられるようになる……。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「ぅ…っ……ん…」

 

由紀「胡桃ちゃんっ!!」

 

目を開けた瞬間、そばにいた由紀が思いきり抱き付いてきた。

何故彼女がここにいるのか、そもそもこれは現実なのか…状況がまるで理解出来ず、胡桃は無言で辺りを見回す…。辺りには由紀の他、美紀・悠里がいた。

 

 

 

 

悠里「胡桃っ!よかった…よかったぁ…!」

 

悠里は涙を流しながら胡桃の元に寄り、由紀と一緒に抱きしめる…。未だこの状況を胡桃が理解出来ずにいると、美紀が三人のそばに寄って胡桃の顔を見つめて言った。

 

 

 

美紀「先輩っ…なに考えてるんですか!?一人で勝手に出ていくなんて!」

 

胡桃「えっと……そのっ………」

 

まだ僅かに視界がぼんやりとしているが、それでも美紀が涙を流しているのは分かった…。つまり、彼女達はこんな夜中に胡桃を探すべく外に出てきたのだろう…。そっと出ていったハズなのに、バレてしまっていたようだ…。

 

 

 

 

胡桃「みんな……どうして……」

 

悠里「由紀ちゃんがね…胡桃がいないって言ってみんなを起こしたの…。ほんと…すごく慌てたんだから…!」

 

 

 

胡桃「でも…どうやってここまで…?」

 

外には"かれら"がいる…。なのによくここまで来れたなと思っていると、そばにあった電柱の裏から気まずそうな顔をして誠が現れた。

 

 

 

誠「…ま、俺が護衛してやったからな」

 

胡桃「……なんで隠れてんの?」

 

誠「感動の再会だろ?邪魔しちゃ悪いと思って」

 

冗談で言っているのか、本気なのかは分からない。誠はそんな事をヘラヘラした様子で告げると、そっと歩み寄って彼女の肩を叩いた。

 

 

 

 

誠「とりあえず無事で良かった…。さぁ、早いとこ戻るぞ」

 

いつまでもここに留まってはいられない…。誠の言葉をきっかけに由紀は立ち上がり、座り込んでいた胡桃の手をグイッと引いた。

 

 

 

 

由紀「ほら、乗っていいよ?」

 

手を引いて胡桃を立たせた直後、由紀は彼女に背中を向けて軽く屈む…。ようするに背中に乗れと言っているようだが、由紀の小さな背中を見て胡桃は苦い顔をした。

 

 

 

 

胡桃「いや…由紀じゃ無理だろ…。いいよ、頑張って歩くから…」

 

由紀「う~~っ!!りーさんっ!!」

 

悠里「ええ、よいしょっと…!」

 

由紀が呼び掛けた瞬間、悠里は胡桃の背後に回り込んでその背を押す。バランスを崩した胡桃は由紀の背に倒れてしまい、気付けば彼女の背中におぶさっていた。

 

 

 

由紀「うぅ……お…もい…っ!!」

 

胡桃「ぐっ…失礼なヤツだな……」

 

由紀は胡桃を背中に担ぎ進んでいくが、由紀の力はあまり強くないので進みが遅い…。のそのそ歩く由紀の背に乗った胡桃は深いため息をつき、彼女の頭を軽くポンポンっと叩いた。

 

 

 

 

胡桃「ほら、キツいだろ…?もう降ろせって」

 

由紀「で…でもっ……胡桃ちゃん……身体の調子悪いんでしょ…?」

 

胡桃「………まぁな」

 

もう隠す必要もないと思い、そっと呟いて答える。すると由紀は小さな体をプルプルと震わせながら、苦しそうな声を出した。

 

 

 

由紀「胡桃ちゃん…すぐに無理ばかりするからっ……だから…家まで送るくらいわたしがするのっ…!我慢ばかりしちゃ、だめだからね!」

 

胡桃を背負ながら歩くのはかなり疲れるらしく、由紀は早くも息が切れている…。胡桃はそんな由紀の背中から無理やりに離れると、代わりに右手をそっと彼女の肩にかけた。

 

 

 

胡桃「じゃあさ、肩だけ貸してよ…」

 

由紀「……うんっ♪」

 

肩に回された胡桃の右手をしっかりと掴み、由紀は少しずつ歩いていく。すると胡桃の左側…そこから悠里が顔を出し、胡桃の左手を自ら肩にかけてニッコリと笑った。

 

 

 

悠里「じゃあ、私はこっちね♪」

 

胡桃「うわっ…!?な、なんかはずいな……」

 

二人に挟まれて肩を貸してもらった胡桃が照れたような表情をすると、そばにいた美紀が微笑む…。美紀はライトを片手に進行方向を照らしながら、チラッと胡桃の顔を見つめた。

 

 

 

 

美紀「額……怪我しちゃってますね…」

 

胡桃「んん……ドジっちゃって…」

 

美紀「……胡桃先輩が出ていった理由ですが、大体想像がついてます…。やっぱり、身体に関することですよね?」

 

胡桃「………うん」

 

ごまかしていたつもりでいたが、やっぱりバレていたのか…。

だからこそ、出ていった自分をこんなすぐに追ってこれたのだろう…。

 

 

 

 

胡桃「みんなに迷惑かけたくなくて出ていったんだけどな……」

 

悠里「その行動自体が一番迷惑よ…まったく」

 

胡桃「あはは……やっぱりそうだよな。あたしもね…さっきそれに気づいたんだ。みんなのそばにいても、いなくても…結局は迷惑をかける。なら、何で出ていったのか……。その理由がわかったよ…」

 

 

美紀「…………」

 

 

 

胡桃「結局…あたしは辛い事から逃げてただけなんだ…。迷惑かけたくないって言葉を言い訳にして全ての事から逃げた……。みんなに言わなきゃいけない事もあるのに…それも言わないまま逃げようとした………」

 

由紀と悠里に肩を貸してもらって歩きながら、胡桃はそっと顔を俯ける…。ここまで自分を追ってきてくれた彼女達としっかり向かい合う為にも、彼の事を話そうと思った…。

 

 

 

 

胡桃「あのね……アイツの…ことだけど……。その……えっ…と」

 

言わなきゃいけないのに、怖くて口が上手く動かない…。彼がどうなったかを知れば由紀は泣くだろう…。悠里は悲しむだろう…。美紀は落ち込むだろう…。みんなの辛い顔を見るのが怖くて、唇が震えた……。

 

 

 

胡桃「…アイツは………アイツ…は……」

 

言い出せずにいると、誠がチラチラ胡桃を見て心配そうな顔をする。どうしても言い出せないなら自分がその役を代わってあげようかと誠が考え始めたその時…由紀がボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

由紀「実はね…胡桃ちゃんがいない事に気づけたの、__くんのおかげなんだ」

 

胡桃「えっ…?」

 

右隣にいる由紀の発言に驚き、胡桃はそちらに顔を向ける。すると由紀はそんな胡桃と目を合わせてニッコリと微笑み、穏やかな声で言った。

 

 

 

由紀「わたしが寝てたら夢に出てきてね、わたしに頼み事してきたの…。胡桃ちゃんが心配だから、自分の代わりにそばで見ていてあげて~って。そのあとすぐに起きて胡桃ちゃんの部屋にいったら、もういなくなっちゃってるんだもん…。ほんっとにビックリだよ…」

 

胡桃「アイツが……夢に……」

 

由紀「うん…胡桃ちゃんのこと、すごく心配してたよ。色んな人に心配されて、胡桃ちゃんは幸せものだね~♪」

 

ニヤニヤして告げる由紀だったが、胡桃はその顔を直視出来なかった…。由紀の夢に出てくるほど彼に心配をかけてしまっている自分が情けなくて…涙が溢れてきたからだ。

 

 

 

 

胡桃「由紀っ…ごめんっ…!アイツはもう……もうっ…!」

 

涙が溢れて止まらないが、言わなければならない事だ…。胡桃は必死に息を整えながら、由紀や皆にそれを伝えようとする…。その様子をみて良くない事を察したらしく、悠里と美紀が静かにすすり泣きだした……。

 

 

 

 

悠里「っ…ぅ……!うぅっ…!」

 

美紀「…っ……っぐ………」

 

二人が泣いているのを見てしまうと、胸が苦しくなって益々言い出しづらくなる…。二人から目を逸らして由紀の顔を覗き込むと、彼女の頬にも涙が流れていた…。

 

 

 

 

由紀「くる…みちゃん……。大丈夫だよ…。無理して…言わなくてもいいの…。胡桃ちゃんが言おうとしてることが大切なことだっていうのはわかるけど……でも、胡桃ちゃんが苦しそうにする顔は見たくないから……」

 

由紀は涙を流しながらも精一杯の笑顔を浮かべ、胡桃の目から溢れていた涙をゴシゴシと拭っていく。その涙をある程度拭った後、由紀は右手で彼女の頭を優しく撫でた…。

 

 

 

 

 

由紀「一人で…よくがんばったね…。もう、無理しなくていいよ。ずっと…どんな時でも、わたし達がそばにいるからね…?」

 

 

 

 

 

胡桃「ゆ……き…っ…」

 

弱いと思っていた由紀が遠くに見える…。

由紀にだけは彼の事を言えない…言えば絶対に壊れてしまうと思っていたのに、いつの間にこんなに強くなっていたのだろう…。せっかく拭ってもらった涙が、また溢れてきた…。結局、一番弱いのは胡桃自身だったのかも知れない…。

 

 

 

 

胡桃「みんなっ……ごめん…ごめんっ!勝手なことばかりして…ほんとにごめんっ…!!あたし…みんなに心配ばかりかけて…っ!」

 

美紀「心配事くらい構いませんよ…。それだけみんな、先輩の事が大好きなんですから…」

 

悠里「…そうよ。どれだけ心配かけてもいいの…。だから、もう一人で抱え込まないで?何かあれば、みんなで力になるから」

 

 

由紀「ほらね?みんな、胡桃ちゃんが大好きなんだよ。胡桃ちゃんは…わたし達の事好き?」

 

泣いている胡桃の顔を覗きながら由紀が尋ねる…。

もちろん、胡桃の答えは決まっていた…。

 

 

 

 

胡桃「うんっ…!由紀も…りーさんも…美紀も……大好きっ…!!ほんとに…ほんとに大好きっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

もう強がらない…。伝えたい気持ちはハッキリと言葉にして、大切な人達に届けよう。そんな教訓を得た胡桃は皆と無事屋敷に戻ると、その庭で宮野がホッとしたような表情を浮かべて胡桃の元へと駆け寄ってきた。

 

 

 

 

宮野「よかった!無事だったんだね…!」

 

悠里「はい、家出ムスメは無事確保しました」

 

胡桃「家出ムスメ………」

 

何だか嫌な響きだが、本当の事なので否定できない…。悠里・由紀に肩を貸してもらって立っている胡桃が苦い顔をしていると、宮野はその顔を真っ青にして胡桃の前髪を上げた。彼女が見ているのは、深く切れた額の傷…。

 

 

 

宮野「わ…わわっ…!無事じゃない…全然無事じゃないっ!!」

 

胡桃「あはは……門から落ちちゃって…」

 

宮野「ヘラヘラしないっ!!由紀ちゃん、悠里ちゃん!ちょっとその娘貸してっ!!」

 

由紀「えっ!?」

 

悠里「はっ、はいっ!!」

 

大きな声をあげる宮野に驚き、二人は咄嗟に胡桃から手を離す。支えが急に無くなった胡桃はバランスを崩しかけるが、倒れるよりも先に宮野が彼女を背中に背負った。

 

 

 

 

 

胡桃「うおっ…!?」

 

宮野「とりあえず手当てっ!それからお説教だからね!!」

 

胡桃「ちょっ…!?あんたそんなキャラだっけ!?」

 

胡桃を背負ったまま屋敷の中へ駆けていく宮野…。胡桃を背負った時、由紀は歩くのがやっとだったのだが……宮野は由紀よりも力が強いらしい…。

 

そんな宮野に無理やり連れていかれたのは彼女の部屋…。宮野は胡桃をベッドに座らせると部屋に置かれていたタンスから救急箱を取り出し、額の手当てをした。

 

 

 

 

 

宮野「~っ…かなり深いね…」

 

胡桃「思いっきり打っちゃったんで……」

 

宮野「終わるまで時間かかるかも…。傷痕もちょっと残っちゃうかな…」

 

胡桃「…別にいいよ」

 

宮野「まったく…女の子なんだからもっと顔に気を使うっ!!」

 

傷痕に無関心な胡桃の頬をペシッと叩く。直後、宮野はその頬をそっと撫でながら彼女を抱きしめた…。正面からギュッと抱きしめられると彼女の胸が自分の胸にあたり、顔が真っ赤になる…。

 

 

胡桃「な…っ…」

 

 

 

宮野「彼のこと、マコトさんから聞いたよ…。残念だったね…」

 

胡桃「………うん」

 

宮野「でも、まだ終わりじゃない…。胡桃ちゃんにはまだ友達が残ってるし…私だっている。自分一人の体じゃないんだから、勝手に諦めちゃだめだよ?」

 

胡桃「…うん。ごめんなさい……」

 

その返事を聞いてからそっと身体を離し…手当てを再開する。

そして、宮野はあることを提案した。

 

 

 

 

宮野「今日はみんなと一緒に寝なよ。そうすれば心も落ち着くハズだから」

 

胡桃「いや…それは……」

 

それは出来ない…。一度眠ったら、次に目を覚ました時の自分は自分じゃないかも知れないからだ。"かれら"のように変わってしまい、由紀達を襲ってしまう可能性がある…。

 

 

 

宮野「…大丈夫だよ。私が朝までそばにいるから」

 

胡桃「………」

 

もしもの際は彼女がどうにかしてくれるつもりなのだろう…。そう言われたらハッキリ断る事が出来ず、気づけば宮野の部屋で由紀・悠里・美紀と布団を並べていた…。きっと心のどこかでこれを望んでいたから…だから断れなかったのかもしれない。みんなが床に布団を並べるのを見て、胡桃の頬が微かにゆるんだ。

 

 

 

 

由紀「わたし胡桃ちゃんの隣ねっ!」

 

悠里「あら、美紀さんはどうする?」

 

美紀「えっと…じゃあ…私も胡桃先輩の隣がいいです…」

 

悠里「ん~、じゃあ私は胡桃の頭の上側にしましょう♪」

 

胡桃「………」

 

胡桃の意見などお構い無しに布団が敷かれていく…。由紀は胡桃の右隣…美紀は左隣…悠里は胡桃の頭上方向に布団を敷いていた。皆それぞれが敷き終えた布団に潜り、そばの椅子に座る宮野がそれを見守る…。

 

 

 

 

悠里「もう夜遅いからね…。早く寝ないと」

 

由紀「胡桃ちゃん、手…繋ご?」

 

胡桃「えっ…?いいよ、子供じゃないんだから…」

 

由紀「大人は家出なんてしませんっ!ほら、手かして!」

 

胡桃「いや、大人だって家出くらい…」

 

ぶつぶつ呟く胡桃の手を無理やりに掴むと、由紀は満足そうに微笑む。胡桃は照れくさそうにしていたが、どこか嬉しそうにもみえた…。

 

 

 

 

宮野「じゃあ、みんなお休みなさい…」

 

そばに座り、皆を見守りながら宮野が言う…。彼女達はそんな宮野に『おやすみなさい』と返事を返した後、静かに目を閉じた…。

 

 

 

 

 

胡桃(…あれ、変だな。なんか…あったかいかも……)

 

みんなに囲まれ、由紀と手を繋ぎながら目を閉じる。すると、久しぶりに身体がぽかぽかしていくような感覚を感じた…。布団をかけた身体も、由紀と握る手も…全てが温かくて気持ちがいい…。

 

 

 

 

 

美紀「……先輩」

 

 

悠里「……胡桃」

 

 

由紀「……くるみちゃん」

 

 

 

由紀・美紀・悠里『おやすみなさい…』

 

目を閉じた直後、みんなが胡桃に囁く…。

友達の『おやすみ』と言う声がここまで安心出来るとは知らなかった…。

胡桃は瞳を閉じたままニッコリと微笑み、静かに答える……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「うん……おやすみ…なさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までご覧いただきありがとうございました。


少し中途半端なところで終わってしまったかもですね…(汗)
後編を書き始めた当初は出ていった胡桃ちゃんの元に由紀ちゃんたちは現れず、結局胡桃ちゃんも助からないで終わる…といった展開にしていたのですが、やはり少しだけでも希望を持たせた終わり方にしたくて内容を変更することに…。


このIFルートを書き終えて思いましたが…本編で彼が屋敷を出ていかなくてよかったです(汗)出ていったらこのルートのような展開になってしまうので…(-_-;)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。