軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回までのあらすじ『由紀ちゃんに痴漢は追い払えない』


百三話『ぎわく』

 

 

彼は今まで、彼女達と共に水浴びをすることはできなかった…。

しかし今日…胡桃の提案によって彼は初めて彼女達と一緒に水浴びをし、その水着姿を目に焼き付け、楽しい時間を過ごした。

 

そんな時間が終わり、車内の席についてのんびりとした午後を過ごしていた彼だったが…そんなまったりとした時間は突如として終わりを告げる…。

 

 

 

事の始まりは、悠里が呟いた一言だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

 

 

 

「今…なんて?」

 

悠里「だからその……私の下着が…一つ無くなってるんだけど…」

 

水浴びを終えて一時間ほど経ったその時、悠里が頬を微かに赤く染めながら彼に尋ねる。着替えの整理をしていたところ、下着が足りないことに気づいたらしい…。

 

 

 

「いや…知らないですけど、なんで僕に聞くんです?」

 

悠里「………深い意味はないわ」

 

そっと目を反らし、口ではそう答える悠里だが、本当は彼を疑っていた。…というか、突然下着が消えたとあれば彼以外に疑うものがないのだ。下着が独りでに消える事など、絶対にあり得ない…。だが本人が『知らない』と答える以上はどうしようもなく、悠里は頭を悩ませた。

 

 

 

 

悠里「さて…どうしようかしら……」

 

下着もそこまでたくさん持っている訳ではないので、たとえ一つだけでも失うのは痛い…。どうにかして取り戻したいが、唯一の容疑者である彼が知らないならもう思い当たる節がない。少し考えた後、仕方なく諦めることにした悠里だが…そんな彼女へと胡桃が耳打ちをする。

 

 

 

胡桃「…絶対に盗られたろ」

 

小さな声で放つ『盗られた』という言葉…しかしこの世界には滅多に人がいないので、下着泥棒などもそうはいないハズだ…。

 

 

悠里「盗られたって…誰によ?」

 

胡桃の耳に口を寄せ、そう尋ねる。

だが、聞かずとも本当はそれが誰を指しているのか分かっていた。

胡桃が疑っているのは自分達五人組…その中にいる唯一の男性、『彼』のことだろう。

 

 

胡桃「アイツだよ……」

 

悠里の予想は当たり、胡桃がチラッと彼を見つめながら呟く。

容疑者である彼はそばの席に座りながら、落ち着き無く彼女ら二人をチラチラと覗き見ていた。胡桃と悠里の会話が聞こえていたからだ。

 

 

 

(…思いっきり疑われてるじゃん。本気で心当たりがないってのに、どうしてこんな目に…)

 

はぁ…とため息をついてからテーブルにコツンと額をつけ、身に覚えのない罪を与えられそうな自らの悲運を嘆く。どうして自分が疑われるのか……そう悩む彼だったが、その答えはわりとすぐに出た。

 

 

 

(……前科があるからだな)

 

以前訪れた温泉での覗き行為が一回…。

水浴び前、車内で着替える彼女らへの覗きが二回…。

一人で留守番している時、こっそりと彼女らの下着を探した回数二回…。

美紀の胸に触った回数一回…。(New!)

 

 

美紀の胸に触った事以外の全ては悠里・または胡桃に捕まってしまい未遂に終わっているが、未遂でも罪は罪……決して消える事などない。だが、彼はこうも思った…これだけ色々やらかしてきたのに、よくもまぁまだここにいさせてもらえているな…と。

 

そんな事を考える彼の前に、胡桃と悠里が迫る。

胡桃は彼と目が合った瞬間、躊躇うこともなくハッキリと言った。

 

 

 

 

胡桃「おい、お前やったろ?」

 

「……なにを?」

 

大体の話の流れは掴めているのに、ここで知らばっくれてしまうのが彼の悪いところである…。ハッキリ『知らない』と答えれば良いものを…。そんな彼の態度が気に入らなかったのか、胡桃の声色が少しばかりキツくなっていく。

 

 

 

胡桃「だから…りーさんの下着、盗っただろ?」

 

「盗ってない。」

 

胡桃「ほんとに?」

 

「ほんとに」

 

 

悠里「本当に?」

 

「ほんとに」

 

じっとこちらを見つめる二人に答え終えてから、彼はスッと目を反らす…。盗みなど本当にやっていないのだが、こうジロジロ見つめられると、自然と目を反らしまうのだ。

 

咄嗟に目を反らしてしまった彼のそれは胡桃と悠里により一層の疑心を与えてしまい、益々疑いが深まっていく…。

 

 

 

 

胡桃「…正直に言ってみろ?」

 

にっこりと微笑みながら胡桃が尋ねる。

パッと見では可愛いだけの笑顔に見えるが、その裏には彼を責め立てるオーラのような物を感じた。

 

 

「だ、だから…本当に盗ってないよ?」

 

迫る胡桃に怯えてしまい、ついつい声が震えてしまう。

胡桃…悠里の無言のプレッシャーによって冷や汗も流れてきてしまい、彼はまた目を反らす。真実を知らぬ者からしたら彼はどう見ても『本当は盗ったけど必死にごまかしてるヤツ』だった。

 

 

胡桃「なんで目をそらす?」

 

「……二人が可愛いから………」

 

『怖いから直視出来ない』などとは言えず、咄嗟にこう言った。

その言葉は胡桃には多少の効果があったようで、彼女は頬を微かに赤く染めながら目を泳がせている。

 

さぁ、問題は悠里…彼女はどうだろうか?

上手くごまかせただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

悠里「…真面目に答えて」

 

「す、すいません…」

 

悠里がテーブルを叩き、彼の肩がビクッと震える…。

彼女に先程の言葉が効いたかどうか…それはこの様子を見れば分かるだろう。答えは『効果ナシ』だ。むしろ逆効果だった可能性すらある。

 

 

 

 

「あの…本当に盗ってないんですが……」

 

悠里「本当に?絶対に?」

 

「ええ…本当に…絶対に……」

 

 

 

悠里「………」

 

 

胡桃「………」

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

無言の時間が続く……。

責めるような二人の目を見つめるのは辛かったが、ここで目を反らしてしまうとまた疑いが深まる。彼は必死にその視線に耐えた。

 

彼を責める無言の時間は三十秒ほどで終わりを迎え、悠里がため息をつく。どうやら、彼の事を信じることにしたらしい。

 

 

 

 

悠里「じゃあ…信じるわね」

 

「は、はい……」

 

胡桃「もっかい聞くけどさ、ほんとに盗ってないのか?」

 

胡桃が念の為に尋ねる。

気疲れした彼は頭をテーブルに伏せながら、ダルそうに答えた。

 

 

 

 

「そう言ってるじゃん…。大体、その盗みは僕にメリットがあるの?」

 

本心ではメリットだらけだと分かっているクセに、ここでも知らばっくれるようにして言葉を放つ。すると胡桃は彼を見下したような目で見つめ、ボソッと呟いた。

 

 

胡桃「それはほら…頭にかぶんだろ…」

 

「かぶんないよ!!」

 

胡桃にどれだけ変態だと思われているんだと思う彼だったが、『ちょっとやってみたい』とも思ってしまった。だがそんなことは当然言えないので、口では常識人を装おっておく。

 

 

 

悠里「人の下着を変なことに使わないでっ!!」

 

自分の下着を頭にかぶる彼を想像したのか、悠里の顔が赤く染まっていた。言い出したのは胡桃なのにここで彼が責められているのは、やはり普段の行いのせいだろう。

 

 

「だから…かぶりませんって……」

 

悠里「絶対よ!?絶対にかぶらないでね!?」

 

やたら不安そうな表情の悠里…。それは、彼ならやりかねないと本気で思っている人間の顔だった。彼はその表情に多少のショックを受けながらも、彼女に返事を返す。

 

 

 

 

「はいはい…」

 

胡桃「一応言っとくけど、あたしのもダメだぞ?」

 

「わかってますよ…」

 

 

悠里「美紀さんのも…由紀ちゃんのもだめよっ!?」

 

「わかってるってのに……」

 

さすがの彼もここまで必死に言われるとさすがに落ち込む…。

二人はそんな彼の気持ちに気付き、言い過ぎたと思ったのか、態度を一変させて彼をなだめた。

 

 

 

 

胡桃「ま、まぁ…いくらお前でもそんなことしないもんなぁ?」

 

「…うん」

 

 

悠里「そ、そうよね…」

 

胡桃「当たり前じゃん!人の下着かぶるなんて…そんなのドがつくほどの変態じゃなきゃやらねぇって!」

 

悠里「そう…よね!あなたはそんな人じゃないものね?」

 

胡桃「ああ、お前はドのつかない、ただの変態だもんな?」

 

バシッと彼の肩を叩きながらフォローする胡桃だが、あくまでも彼のことを変態だと言ってしまった…。彼自身も自覚はあったものの、他人に言われると多少のショックがあった。

 

 

 

「………」

 

悠里「くるみっ!!」

 

胡桃の言葉を受けた彼の肩が力なく落ちていくのを見て焦る悠里…。胡桃も自分の言葉に原因があった事に遅れて気付き、彼を慰める。

 

 

 

胡桃「わ、わりぃ!大丈夫っ!!あたしはちゃんと信じてるぞ!!」

 

「………」

 

彼は頭をテーブルに伏せたまま、脱力しきっている…。

胡桃は彼を元気付けるべく、その頭を撫でた。

 

 

 

胡桃「ほ、ほら~頭なでなでしてやるぞ~?」

 

悠里「わ…わぁ~…良いわね~…」

 

胡桃「なでなで~なでなで~♪」ガシガシ

 

「………」

 

ガシガシと乱暴に頭を撫でる胡桃と、それを見守りながら彼に言葉をかける悠里…。それはまるで子供をあやすかのような行動で、とてもじゃないが同い年の少年にやる事ではなかった…。

 

 

 

 

「……ありがと」

 

だが、彼は単純な男だった…。彼女達のこんな雑な作戦でもあっさりと元気を取り戻し、嬉しそうに顔をあげたのだ。

 

 

 

 

悠里「にしても…結局わたしの下着はどこに…」

 

彼が元気を取り戻したのは良いのだが、悠里の下着の行方は未だに不明。もう諦めるしかないのかと思ったその時、洗濯に出ていた美紀と由紀の二人が車内へと帰ってきた。

 

 

 

 

バタン…

 

 

由紀「たっだいま~♪」

 

悠里「お帰りなさい。残った洗濯物、任せちゃってごめんなさいね」

 

美紀「いえ、全然構いませんよ。りーさんには色々助けてもらってますか、このくらいの仕事ならわたしたちだけで片付けます」

 

由紀と美紀は抱えていた空の洗濯かごを車内の隅に置き、席につく。

そうして一呼吸ついた後、由紀が放った言葉に彼は耳を疑った。

 

 

 

 

 

 

由紀「あっ、そう言えばわたしの荷物にりーさんの下着が混じってた!わたし、間違えてしまっちゃったみたいで…ついでに洗っておいたから、乾いたら返すね♪」

 

悠里「えっ!?あ…そ、そう?由紀ちゃんの…荷物に……」

 

「………」

 

胡桃「…りーさん」

 

由紀の言葉に焦る悠里と胡桃…。

二人がそっと彼を見てみると、とても穏やかな表情をしていた。

 

 

 

 

悠里「あの…疑ってごめんなさい…」

 

胡桃「ま、まぁ!あたしは最初からお前を信じてたけどな!」

 

悠里「くるみ!?それは卑怯じゃ――」

 

冷や汗をかきながらその場を逃れようとする胡桃の肩を掴み、悠里は彼女を睨む。すると今まで席についていた彼が突如立ち上がり、二人の肩がビクッと震えた。

 

 

 

「さて……さて……」

 

胡桃「ど、どした?」

 

悠里「顔…少しだけ怖いわよ?」

 

 

どこか裏がありそうに微笑む彼と、それに怯える胡桃と悠里。

その珍しい光景を目の当たりにした由紀と美紀は不思議そうな表情をしてそれを見守った。

 

 

 

 

「せっかくだ、今日は僕が授業をしようかな?」

 

由紀「うっ…!?」

 

『授業』という言葉を聞いた由紀が咄嗟に顔を反らす。

普段は悠里に勉強を教えてもらっていたのだが、今日は彼が担当するのか?これからまったりとした午後を過ごそうとしていた為、出来ることなら勉強は避けたかった由紀だが、そんな彼女へと彼が告げる。

 

 

「ああ…由紀ちゃんと美紀さんは自由にしてていいよ」

 

由紀「ほんとっ!?」

 

「うん、今回はこの二人だけ…」

 

言いながら彼は胡桃・悠里を見つめる。

二人はじっと身を固め、すがるような視線を美紀に送った。

 

 

 

 

美紀「…なにやったんですか?」

 

胡桃「ちょっと…な」

 

悠里「ええ…ちょっと」

 

 

 

「胡桃、悠里…席について」

 

教師モードに入ったのか、彼が二人を呼び捨てにする…。

立ち上がった彼は先程まで自分が座っていた席に二人を座らせるべく、席を指さしながらそっと告げる。二人が渋々並んで座ると、彼はその正面に座った。

 

 

 

「二人にはとっても大切な授業をしようか…。この世には『冤罪』って言葉があってだね…無実の罪にも関わらず追い詰められてしまう人間がいるんだ。ん?…どこか親近感がわくな」

 

胡桃「でも…お前には前科もあるし……」

 

悠里「たしかに、疑ったのは悪かったけど…」

 

 

 

「キメツケ…ヨクナイ…」

 

悠里「……ごめんなさい…」

 

胡桃「うっ…ぜぇ……」

 

思わず胡桃が呟く。

もちろん、彼はそれを聞き逃さなかった。

 

 

 

「くるみ、言葉遣いがなってないよ」

 

胡桃「…ウザいでございますわ。これでよろしくて?」

 

言葉遣いが悪いと言われた胡桃はどこかの貴婦人のように、口に右手を添えながらわざとらしく大げさに答える。それがツボに入ったのか、悠里は顔を伏せながら肩を震わせていた。笑いを堪えているようだ。

 

 

 

悠里「っ…ふふっ…!くるみったら…やだ…」

 

胡桃「あら?悠里さんも言っておやりなさい。普段から疑われるような事をしまくってるアンタさんが悪いんだって」

 

悠里「っくく…!その喋り方…やめてっ……!!」

 

悠里の笑いにつられたのか、そばで様子を見ていた由紀も笑い出す。

それに気をよくした胡桃は次から次へと言葉を放ち、二人を笑わせていった。その間、彼は無言である…。

 

 

 

由紀「あははっ♪胡桃ちゃん、お嬢様みたい!」

 

胡桃「うん?レデーならこのくらいは当然でございましょ?」

 

美紀「先輩…レデーって………っくく!」

 

ついに美紀も笑い出す…。

みんなが笑った事が嬉しかったのか、胡桃自身も声を出して笑い出した。

 

 

 

 

胡桃「っく…あははっ!」

 

悠里「もうっ、笑わせないでよっ…!」

 

由紀「あははっ!おもしろ~いっ!」

 

美紀「まったく、胡桃先輩がお嬢様なんてイメージが…ふふっ!」

 

胡桃「なっ!?おい美紀っ!その発言は失礼だぞっ!!」

 

美紀「あはっ、すみません。良いんじゃないですか?似合ってると思いますよ、お嬢様………っくく!」

 

胡桃「そこで笑うなっ!」

 

美紀が胡桃をからかった事で、またみんなが笑いだした。

楽しげにわらう彼女達を見た彼もまたそれにつられ、いつしか共に笑っていた。彼は胡桃と悠里に仕返しをしようと考えていたのに、その気すらとっくに失せていた。

 

 

 

 

(まったく…本当に面白い人達だな)

 

彼女達と出会う前まで彼はずっと一人で過ごし、お世辞にも楽しいとは言えない毎日を過ごしていた。だがあの日、彼女達と出会った時から…こんな世界でも心から笑える事を知った。

 

丈槍由紀・恵飛須沢胡桃・若狭悠里・直樹美紀…。

この先、どんな事が起きても彼女達と一緒ならば乗り越えられる気がする。これからずっと笑っているためにも、彼女達だけは守らねばならない。

 

ずっと全員一緒に…欠けることなく……

 

 

 

 

 

 

『…む………づい………う?』

 

 

 

 

 

「…?」

 

彼女達を見つめていると、誰かが彼に語りかけた気がした…。

その声は彼女達の笑い声でハッキリとは聞こえなかったが、少なくとも彼女達の声ではなかった。

 

 

(…気のせいか)

 

彼はそう自分を納得させ、あまり深くは考えない事にした。

 

 

 

 




前回はみーくんに虫扱いされ、今回は下着泥棒の疑惑をかけられたりと…主人公なのに彼の扱いが悪い気がする今日この頃…。まぁ私個人的には彼の見せる真面目な時とふざけた時のギャップが魅力だと思っていますので、一先ずこれで良しとします(笑)

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