明るい話が好きな人は毎週水曜日更新の『どんな世界でも好きな人』を見ましょう!(はい、宣伝終わりっ!)
前回までのあらすじ『彼がりーさんと夫婦プレイを楽しみました』
悠里「さて…今日はどこに行ってみる?」
朝食を終えた後、悠里がテーブルに地図を広げ、そばにいる全員の顔を見回す…。彼女達の目指すのは胡桃を治すための手がかり…。分かってはいたが、やはりそう簡単に見つかるものではなかった…。
美紀「この数日でいくつかの施設はまわりましたが、結局手がかりはなし…。さて、どこを目指せばいいのか……」
胡桃「………」
由紀「ど、どっか…どっかあるでしょ!?ほらっ、おっきな病院とかは!?」
微かに曇った胡桃の表情を見てしまい、由紀が慌てて告げる。だが、普通の病院などに行っても無駄な事はその場にいた全員が理解していた。
美紀「いくら大きくても普通の病院じゃ意味がないでしょう?病院で治せるなら、ここまでの被害は出ていないでしょうから…」
少しだけ冷たい口調で美紀が答える。
役に立ちたい一心で言葉を放った由紀だったが、それが原因で彼女を苛立たせてしまったと思い、そっと顔を俯けた。
由紀「……そ、そだね……ごめん」
小さな声で由紀が呟く。つい厳しい言い方をしてしまった…。美紀は言い過ぎたと焦り、目を泳がせながら彼女に謝る。
美紀「…いえ、私も少しキツく言ってしまいました。ごめんなさい…」
由紀「ううん…平気だよ…。それよりも胡桃ちゃん、体調はどう?」
由紀は隣に座る胡桃の肩にそっと手をあて、心配そうな顔をする。
胡桃はテーブルに広げられた地図をじっと見つめたのち、それに答えた。
胡桃「………んっ?あ、ああ…問題ないぜ?」
「…本当に?無理はしてない?」
そばに立つ彼が尋ねる。
胡桃は由紀から彼に目線を移し、ニッコリと微笑んだ。
胡桃「してない。大丈夫だよ」
「…そう」
彼は胡桃・由紀・悠里が座っているのとは別の席へと座り、窓の外を眺める…。胡桃を治すためにはどうすれば良いのか…そんな事を思っていると、また彼の耳にあの声が響く。
『さて…今日はどうする?もう時間はないぞ?』
(……またか…)
自分にしか聞こえないその耳障りな声を遮ろうと両耳に手をあてる…。だが、それでもその声は決して遮れなかった。
『あの女…体調を聞かれて答えるまでに微かな間があったな…。本当に大丈夫なのか?強がっているようにも見えたが?』
耳を塞いでいても、普通に横から話しかけられているかのように声が響く…。声に言われた事は彼も感じていた…。胡桃はどこかぼーっとする事がたまにあり、見ていると心配になる…。
『心配なら本人にしつこく聞けばいい…。何故そうしないんだ?』
「…………」
『…まぁ、何故かは分かってるんだけどな。…怖いからだろ?あの女が目に見えて弱っていくのが怖い。それを認めるのが怖い。』
「…………」
『あの女を助ける計画なんざないのに外に連れ出したのだって、ただの自己満足の為だ。助けてやるって気配だけ見せて、恩を感じさせる。どうせ死なれるなら、恩をきせるだけきせて死んでもらった方がお互いに幸せだからな』
「っ…!!」
そんな事は思っていない…。思っていないのに、声はまるで彼の考えを代弁するかのようにしてベラベラと言葉を放つ。彼はそれに耐えきれず、右手でテーブルを叩いた。
バンッ!!!
大きな音が車内に響き、彼の耳に響いていたあの声が止まる…。
だが止まったのはあの声だけでなく、由紀達の話し声もだった。彼がそっと辺りを見回すと由紀・悠里・美紀…そして胡桃がこちらを見ている…。
悠里「…どう…したの?」
悠里が心配な表情をしてを尋ねた。焦った彼は愛想笑いを浮かべながらそれに答え、この場を乗り切ろうとする。
「いやっ……なんでも…」
由紀「び、ビックリしたぁ……」
「ごめん…手が滑っちゃって」
誤魔化すようにして彼が笑うと、由紀と悠里はそれに納得したのか笑顔を返す。美紀・胡桃はまだ彼の事を心配そうに眺めていたのだが、彼はそれに気が付かなかった…。
胡桃「…とりあえずさ、今日は適当に辺りを見て回って食料でも探さない?あたしはまだ平気だから、な?」
広げていた地図をたたみ、胡桃が告げる。
悠里はたたまれたその地図を胡桃から受け取り、首を横に振った。
悠里「だめよ。食料にはまだ余裕があるし、わざわざ探す必要ないわ。それより、今は胡桃の事の方が――」
胡桃「大丈夫だって!それにほら、あてなく適当にやってたら案外何か見つかるかも知れないだろ?」
悠里「そんなことあるわけ……」
胡桃「とにかく、あたしの事はついで程度で良いよ。どこに行けばいいのかも分かってないんだしさ」
悠里「………」
本人がそこまで言うのなら…そう思った悠里だが、確認の為彼に視線を向ける。彼もそれに賛成するならば、今日のところは胡桃の言った通りにしようと思った。
「………」
悠里の視線に気づき、彼が固まる。胡桃はそんな彼のことを見つめるとニッコリと笑い、小さな声で言った。
胡桃「まだ大丈夫だから……なっ?」
「……わかった。それでいい」
胡桃「よしっ!決定っ!!あたし、何か甘いもん食べたいなぁ…。どっかに落ちてねぇかなぁ?」
胡桃は八重歯を見せて笑いながら立ち上がり、助手席へと座る。
直後に悠里が運転席に座り、車を発進させた。
走り出した事によって車内が小さく揺れる中、彼は後ろの席から胡桃の顔を覗き込む…。彼女はニコニコと笑いながら悠里と話していたが、その笑顔が強がっているように見えて仕方なかった…。
~~~~~~
少し時間が経ち、彼女達は道中みかけた一つのスーパーへと立ち寄った。そこまで大きな建物ではなかったが、まだ食料が残っているかも知れない。そんな期待を込めて車を駐車場に停め、一行は外に降りる。
…バタン!
胡桃「さて、何かあると良いけどな~」
悠里「あくまで少し寄っただけだから、手早く終わらせるわよ」
一行はそのスーパーの中へと足を踏み入れ、辺りを見回す。やはり中は漁り尽くされた後のようだったが、奥まで行ってみたらまた違うかも知れない。
由紀「何もないのかな?」
美紀「由紀先輩、足元とか気を付けて下さいよ?」
由紀「大丈夫だよ~。まったく、みーくんは心配性だなぁ」
ニヤニヤしながら美紀を見つめる由紀…。
五人は慎重に、少しずつ奥へと進むが、目ぼしい物は無い。
そうして内部の奥に近づくと、進行方向の先に何かの気配があった…。
「みんな、止まって…」
彼が小さく呟き、全員が立ち止まる…。
彼女達の目線の先には二つの人影がゆらゆらとしており、こちらを見て呻き声をあげていた。
『ァ……グァ…ァ……』
二つの影が声をあげながらのんびりとこちらに歩み寄る。
すると胡桃が一歩前に足を進め、シャベルを構えた。
胡桃「あたしがやるから、みんなはそこに―――」
その瞬間、胡桃の横にいた彼が勢い良く駆け出す…。
"かれら"に向けて駆け出した彼はナイフを構えるとその内の一体の頭にそれを突き刺し、素早く引き抜いてから掴まれるよりも先にもう一体の頭にもそれを突き刺した。
ドサッ!
頭を刺された二体が倒れ、彼がナイフをしまう。
彼が"かれら"を処理するのは何度も見てきたので、そう簡単に失敗しないと分かっている…。なので悠里達は今の行動を特に気にとめてはいなかったが、胡桃だけは違った。彼女は彼の元にズカズカと歩み寄り、その肩を手で寄せて耳元で囁く。
胡桃「あたしは奴らに狙われない。だからあたしがやるべきだった。なのに…何でわざわざ飛び出していった?」
少し怒ったようにして言う胡桃…。彼女は自分が"かれら"に狙われない事を事前に教えていたのに、彼は何故か前に出た。胡桃と違って"かれら"に狙われてしまうのに前に出た理由が分からず、胡桃は彼を睨む。
胡桃「お前まで怪我したら大変だろ?今度からは全部あたしがやるから、お前は休んでろって」
「いくら狙われないって分かってても、胡桃ちゃんを奴等に近付けたくない…。万が一ってこともあるでしょ?」
そう言って彼は奥へと進む。
今一つ納得のいかない胡桃だったが、ほんの少し…彼の気遣いが嬉しいとも感じていた。
胡桃「………バカ」
悠里「ああいう人なのよ。分かってたでしょ?」
胡桃「まぁ、そうだな……」
悠里がニヤリと笑ってから胡桃の背を撫でる。
胡桃はため息をついてから前を向き、ゆっくりと歩き出した。
美紀「見たところ…何もないですね」
由紀「そうだね………おっ!?」
何かを見つけたのか、由紀がそばにあった棚の奥へと手を入れる。そうして手に取ったものを見た彼女は嬉しそうに微笑み、胡桃の肩を叩いた。
由紀「胡桃ちゃんっ!みてみて!お菓子を見つけたよ!」
笑顔を浮かべる由紀の手には10cm程の長さのチョコレートバーとみられる菓子が握られていた。それを見た胡桃は少し驚いたような表情を見せたのち、由紀に許可を得てそれを貸してもらう。
胡桃「…まだ食べれそうだな。やったじゃん♪」
菓子の袋の裏面を見て賞味期限を確認し、胡桃は由紀にそれを返す。由紀は持ってきていたカバンにそれを詰めてから胡桃に告げた。
由紀「あとで一緒に食べようね♡」
胡桃「マジ?サンキューっ♪」
胡桃がニッコリと笑ってから由紀の頭を撫でる。
相変わらず、この二人は仲が良い…。
悠里「何もないよりはマシだけど、ちょっと寂しい結果になりそうね…」
一通り見て回ったものの、手に入れたのは一つの菓子だけ…。
食料に困っている訳ではないのだが、せっかくの探索の結果がこんなだと少しばかり落ち込んでしまう。こればかりは何度経験しても慣れず、悠里がため息をつくと、美紀が笑い合う由紀と胡桃を見つめながら言った。
美紀「良いんじゃないですか?胡桃先輩も由紀先輩も楽しそうですし」
悠里「………そうね。よし、じゃあ戻りましょうか」
二人の笑顔を見た悠里は気持ちを切り替え、皆をつれて外へと戻る…。その途中、彼が床の隅に落ちていた手帳を見つけ、それを手に取った。
胡桃「なにそれ?」
彼がそれを拾ったことにただ一人気づいた胡桃がそばにより、彼に尋ねる。彼は悠里達から離れすぎないように歩きながら、横にいる胡桃にも見えるようにしてそれを開いた。
《幸せ・希望…そんなものはどこにもない…。今、この世界にあるのは苦痛と絶望だけ…。どうあがいても意味などない。私達は徐々に追いつめられ、苦しめられる。誰かがこれを見ているなら、悪いことは言わない…もう諦めてしまえ。君がいくらあがこうが、世界に弄ばれて終わるのだから》
ある種の遺書なのかどうかは分からないが、その手帳にはこう書かれていた…。それを見た彼は眉をしかめ、そっとため息をつく…。
胡桃「嫌なこと書く人だな…。こっちは毎日必死に頑張ってるってのに…」
胡桃が呟く。彼は横にあった棚の上にその手帳を置くと、悠里達に遅れないよう歩きながら胡桃の顔を見つめた。
「支えてくれる人がそばにいないとああなるのかもね…。もし皆と会えなかったら、僕が今の人みたいになってたのかも知れない」
胡桃「質問なんだけど…今のお前は一人でいた時より幸せか?」
「もちろん。あの時よりもずっとずっと幸せだよ」
胡桃「ふむ、ならよかったな!こっちも出会ってやった甲斐があったよ♪」
満足そうに微笑み、胡桃はトコトコと歩いていく…。
彼はそんな彼女のあとについてゆき、皆で外へと出た。
まだまだ、諦める訳にはいかない……。
中々手がかりが見つからない上に、彼が謎の声に語りかけられる事が多くなりました…。次回の話では彼を悩ませる声の正体を明かし、更にその次の話からは新章突入となりますm(__)m
今回の章ではほとんど話が進展しませんでしたが、次の章では結構な勢いで進めていく予定ですので、それなりに期待してもらえたらと思っています(*´-`)