軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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この章の構想自体はかなり前からしていたのですが、いざそれを文字にするとなるとこれが中々難しく、もどかしい思いをしております(汗)頭で想い描いていた通りに書ければ良いのですが、大変ですね(泣)



前回までのあらすじ『狭山真冬の様子が一変…。何故か、みーくん相手に武器を振り上げる』


百十話『想い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狭山「夢みる時間はもう終わり…。これからは…現実を見てね…」

 

 

胡桃「ッ!?美紀っ!!」

 

雨が音をたてて降り注ぐ中、先程まで普通に会話していた狭山が突如持っていた警棒を取り出し、それを目の前にいる美紀目掛けて振り下ろす…。あまりに突然の事だったので美紀は身動き一つとれずにいたが……

 

 

 

ガキンッ!!

 

間一髪のところで胡桃が美紀と狭山の間に割って入り、シャベルを横に構えたことで狭山の警棒を防ぐ事が出来た。

 

 

 

 

 

狭山「………っ」

 

胡桃「真冬っ!!お前なんのつもりだ!?」

 

胡桃は右手でシャベルの持ち手を持ち、左手ではシャベルの先端よりも少し下の方を掴む。そうしてシャベルを横に構え、そのちょうど真ん中辺りで振り下ろされた警棒を下から受け止めたが、狭山は尚も警棒を持つ右手に力を入れ続けた。

 

 

 

 

狭山「なんのつもりだって聞かれると困るけど…。強いていうなら暇潰しかな」

 

胡桃「っ…暇潰しだとっ?」

 

胡桃は両手でシャベルを構えて警棒を押さえているのに、何故かその両手がプルプルと震え出す…。狭山は右手だけしか使っていないのに、力負けして徐々に押されてきているのだ。

 

 

 

 

胡桃(なんだよコイツっ…思ってたより力が…!?)

 

警棒をシャベルで押さえている両手が少しずつ下がっていく…。狭山の力はその細腕からは考えられない程に強く、このまま力比べをしていたら先にシャベルの方が折れてしまいそうだ。

 

 

 

 

美紀「まっ、真冬ちゃんっ!!何してるの!?」

 

突然の事に戸惑っていた為動けずにいた美紀が胡桃の背後から狭山へと語りかける。狭山は彼女と目を合わせる事もせず、ただ胡桃だけを見つめて右手に力を込め続けた。

 

 

 

 

狭山「だから暇潰しだよ…。あとついでに、現実を知らない美紀と胡桃にこの世界の厳しさを教えてあげようと思って」

 

胡桃「なにを急に…訳の分からねぇことをっ…!!」

 

力に押されてシャベルを構える両手が下がり、狭山の警棒の先端が胡桃の額に軽く触れる…。その瞬間、狭山は微かに口角を上げて微笑んだ。

 

 

 

 

 

狭山「今ボクが使ってるのが警棒でよかったね…。これがもしナイフだったら、このままグッと力を入れて胡桃のおでこを思いっきり切ってあげたのに……」

 

胡桃「なっ…!?」

 

美紀「真冬ちゃんっ!!冗談ならもうやめてっ!!!」

 

 

狭山「ん…?冗談だと思ってるの…?じゃあ、本気だって分かるようにしてあげよっか……」

 

胡桃「っ!!」

 

元より強かった狭山の力が更に強まり、警棒をシャベルで防ぐ胡桃の両手が下がる…。それによって胡桃の額に触れていた警棒の先端は額から少しずつ下がっていき、右目のまぶたに触れた…。

 

 

 

 

狭山「綺麗な目だけど……ごめんね」

 

胡桃「な…っ…!!?」

 

次の瞬間、狭山は今まで下へと加えていた力を真正面に向け、突くようにして胡桃の目へと警棒を振った…。

 

 

 

 

 

胡桃「ッっ!!」

 

胡桃は咄嗟に首を捻ってそれをかわし、そのままシャベルを使って狭山を突き飛ばす。狭山は二、三歩下がっただけですぐに体勢を立て直したが、胡桃はその間に美紀の身を引いて狭山から五メートル以上離れる事が出来た。

 

 

 

 

狭山「っと……外しちゃった」

 

胡桃「はぁっ…はぁっ……はぁっ…!」

 

距離を開いた胡桃は右手でシャベルを構え、左手で自分の右目が無事かどうかを確認する。右目はしっかりと見えているので無事なようだが、まぶたよりも少し上の方が微かに切れてしまったらしく、そこに触れた左手の指先には血がついていた。

 

 

 

 

美紀「本気で胡桃先輩のことをっ…!」

 

狭山「うん。潰すの失敗しちゃったけどね…」

 

美紀「なっ…!?」

 

しれっとした表情で告げる狭山が信じられず、美紀はギリッと歯をくいしばる。一発ビンタでもして彼女の目を覚まさせよう…。そう考えて一歩前に踏み出す美紀だったが、胡桃が彼女の手を掴んでそれを止める。

 

 

 

 

胡桃「真冬は…アイツはきっと本気だ。近寄ったらお前も怪我するぞ…」

 

狭山「怪我…とか言ってる時点で甘い。ボクは君達を怪我させたい訳じゃなくて、殺すつもりなんだから」

 

美紀「本当に……どうしちゃったの…?」

 

ついさっきまで一緒に何気ない会話を交わしていたのに…それがほんの少しの間にこんなやり取りに変わってしまった…。降る雨が激しさを増す中、美紀は悲しげな表情を浮かべ狭山を見つめるが…彼女は何も答えない。

 

 

 

 

胡桃「美紀…急いで車に戻って、あいつを呼んできてくれ…」

 

シャベルを狭山に向けて構え、胡桃が告げる。

自分らの事を殺す気でいる狭山を相手にして二人同時に逃げるのは難しそうだし、かといって一人で完全に押さえるのも難しいかも知れない…。もう、彼に来てもらう他なかった。

 

 

 

美紀「でも、胡桃先輩はっ…」

 

胡桃「真冬もあたしらを黙って見送ってくれはしないだろ…。だから、あいつがここに来るまであたしが真冬の相手をしておく…」

 

美紀「…………」

 

まだ朝を少し過ぎたくらいの時間なのに…天気のせいで辺りが異様に暗い。雨に打たれて全身びしょ濡れの美紀は、狭山をじっと睨む胡桃の横顔を不安そうに見つめていた…。

 

 

 

 

胡桃「……大丈夫。あたしは死なないし、真冬のことを殺すつもりはないからさ」

 

不安そうな美紀の目線に気づいたのか、胡桃は彼女の顔をチラッと見つめてニッコリと微笑む。この笑顔も晴れた空の下で見たらきっと安心できたのだろうが…雨に濡れた胡桃の顔は何故か弱々しく見えてしまった…。

 

 

 

美紀「すぐですから…。たぶん、五分もかかりません。私はすぐにあの人を連れてここに戻ってきますから、それまで無事でいてください…。怪我も…しないでください……」

 

胡桃「……ああ、任せとけ」

 

雨音がザーザーと響く中、その音に負けないくらいの声でハッキリと胡桃は答える。それを聞いた美紀は微かに微笑むと、胡桃の向こう…数メートル先に立つ真冬の顔をそっと見つめた…。

 

 

 

 

美紀「胡桃先輩に何かしたら……絶対に許さないから…!」

 

狭山「戻ってきた時、胡桃が死体になっててもビックリしないでね。この世界じゃ、わりと当たり前の光景なんだから…」

 

美紀「ッ!!」

 

胡桃「あたしは大丈夫だから…行け」

 

美紀が狭山の言葉に反応し、目を鋭くさせていると胡桃がそっと呟く。自分がこのままここにいても足を引っ張るだけ…今の自分に出来ることは、一刻も速く彼をこの場に呼ぶことだ。美紀は狭山への怒りを抑えて背中を向けると、彼や由紀の待つ車を停めた公園へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀(少し前まで普通に話してたのにっ…。同い年の娘…久しぶりに会えて嬉しかったのに………真冬ちゃん…どうしてっ……)

 

雨に打たれながら、美紀は一人で道を駆けていく…。濡れた服が肌に張り付いて気持ちが悪いが、そんな事はどうでもいい…。それよりも何故真冬はあんなふうになったのか…。彼女とは当たり前のように友達になれると思っていたのに、どうしてこんなことに……。

 

 

 

 

美紀「な…んでっ…なんでっ…!」

 

まだ狭山とは出会って間もない美紀だが、何故か彼女の事は気に入っていた…。車内で一緒に過ごした時、自由な由紀に振り回されて戸惑う彼女が…どことなく自分と重なって見えたからかも知れない。

 

 

 

 

 

 

狭山『敬語じゃなくてもいいよ。同い年なんだし、もっと普通に接してね…』

 

車内で彼女にこう言われた時、あまり表情には出さなかったがとても嬉しかった…。同い年の娘と話すのは以前別れた親友の『圭』以来だったから…。また、同じ目線で話せる友達が出来たと思っていたのに…。

 

 

 

 

美紀「っぐ……真冬…ちゃんっ…」

 

走っている途中でそんな事ばかりを考えてしまい、つい泣きそうになってしまう…。どうして真冬がああなったのかも分からないし、胡桃の事も心配で……頭の中が真っ白になってしまいそうだが、美紀は微かに流れた涙を拭いながら雨の中を駆ける。涙を拭う服の袖も雨に濡れているので拭った気はしないのだが、手が自然と動いてしまう。

 

 

 

 

 

美紀(急がないと……胡桃先輩が…!)

 

雨に濡れた地面は気を付けないと滑ってしまいそうで走り辛く、体も冷えてきた…。それらの条件のせいで、行きと同じ道を戻っているにも関わらず体力を多く消費してしまう。美紀は息を切らしながら、必死に道を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

所変わってこちらは胡桃と狭山の立つ道路…。二人は美紀がその場を去ってからも、少しの間は互いに見つめあっていた。

 

 

胡桃「意外だな…。美紀を逃がすの邪魔するかと思ってた」

 

狭山「まぁ、どのみち後で殺すと思うし…ここでは見逃しても大丈夫かなって。それに、今は胡桃がボクの相手をしてくれるんでしょ?」

 

胡桃「ああ…。あいつがここに来るまでの間……な」

 

狭山「でも、美紀は一人で呼びに戻ったからね。もしかしたら、途中で感染者に襲われてるかも…。雨で視界も悪いし…」

 

確かに…雨は今も激しさを増している。視界の悪さはそこまで問題にはならないと胡桃は考えていたが、雨音で"かれら"の気配が感じずらくなる事は少し不安だった。

 

 

 

 

 

胡桃「美紀だって今まで必死に頑張ってきたんだ…。今さらこんくらいの雨でヘマしたりしないさ」

 

狭山「…だといいね」

 

胡桃「なぁ、二人っきりなんだし教えてくれよ。なんで急にこんなことを?」

 

狭山「だから…ただの暇潰しだって」

 

 

狭山はそう答えてから前髪を右手でかき上げ、胡桃の元へと一気に駆け寄る。そしてそのまま、持っていた警棒を胡桃の肩目掛けて振り下ろした。

 

 

 

 

胡桃「ちっ!」

 

胡桃は狭山が振り下ろした警棒へ向けてシャベルを振り、彼女の攻撃をしのぐ。だが狭山の攻撃は一発で止まらず、繰り返し胡桃目掛けて警棒を振り続けてきた…。

 

 

 

ガッ!

 

 

ガンッ!!

 

 

ガンッ!!

 

 

胡桃「ッ!っぐ!!」

 

二発…三発…四発と放たれた狭山の攻撃をシャベルで弾くようにしてしのぎ、隙を見て胡桃はバックステップで距離を開ける…。狭山は黙ってそれを見逃すと、雨に濡れた前髪を再びかき上げた。それを見た胡桃は今のやり取りで微かに乱れた息を調えつつ、狭山へと声をかける。

 

 

 

 

 

胡桃「…へへっ、前髪が邪魔か?」

 

狭山「うん…。また切らないと……」

 

胡桃「りーさんに頼めば切ってくれると思うぞ。だからこんなこと…やめにしないか?」

 

 

 

 

狭山「………胡桃は…どんな風に幸せなの?」

 

警棒を持つ右手をそっと下げ、狭山はそう尋ねた。この問いになんの意味があるのか…胡桃にそれを理解する(すべ)はないが、少しでも時間が稼げるならばと思い、シャベルを下げて答える。

 

 

 

 

 

胡桃「幸せっていっても…本当に普通のことだ。仲の良い友達が周りにいて、一緒にご飯食べたり…何でもない話をする。そんで毎日『おはよう』とか…『おやすみ』って言い合う…。つまりこの先どうなろうと、あいつらがそばにいてくれればあたしはそれだけで幸せなんだ…」

 

雨に打たれながら、真剣な表情で胡桃は語る…。狭山はそれを眉ひとつ動かす事なく聞いていたが、胡桃が語り終えた後にそっと口を開いた。

 

 

 

 

 

狭山「…やっぱり、君達は現実を見ていない」

 

胡桃「現実?」

 

狭山「とりあえず美紀は最後まで残しておく…。でも、胡桃も悠里も由紀もそして彼も…みんなを今日、ここで殺す」

 

胡桃「……なんでそうなるんだよ。おかしいだろ…」

 

狭山「おかしいことなんて何もない…。この世界では自然なこと」

 

狭山は再び警棒を構え、真っ直ぐに胡桃の目を見つめる…。

出来ることなら話し合って解決したい…そう思っていた胡桃は悲しげな目をしながら狭山の目を見つめ返し、覚悟を決めた。

 

 

 

 

胡桃「あたしは…さっきまでお前のことも可愛い後輩だと思い始めてたからな。出来れば手荒なマネはせずに終わりたかったけど……仕方ねぇか…」

 

狭山「ボクを…殺す気になった?」

 

胡桃「バカ言うな…。いくら敵意剥き出しだっていってもお前みたいな女の子を殺せるかよ。ちょっとだけ痛い目みせて…目を覚まさせるだけだ」

 

シャベルの先を狭山の方へと向け、胡桃は彼女にそう告げる。すると狭山はため息をつき、降る雨に濡れているその前髪を再びかき上げた。

 

 

 

 

狭山「こっちは殺すって言ってるんだから、胡桃も殺す気でこなきゃだめだよ…」

 

胡桃「だから…あたしはお前みたいな女の子を殺すのは嫌なんだって…。それに少しの間とはいえ一緒にいたんだ…万が一お前が死んだら、由紀が悲しむ」

 

狭山「そんなことない。みんなと一緒にいたのは本当にちょっとの間だけだもん…。あんなちょっとの間に情なんか移らないよ」

 

胡桃「たしかにちょっとの間だったけど、少なくとも由紀に気に入られるには十分な時間だ。それに…あたしもお前の事は嫌いじゃなかったぜ?」

 

狭山「……………」

 

 

嫌いじゃなかったと言われて何かを思ったのか、狭山はまたしてもため息をつく。こうして本音をぶつければ彼女が止まるかもとも胡桃は期待したが、やはりそんな事はなかった…。

 

 

 

 

 

狭山「…すぐに終わらせようか」

 

胡桃「簡単に終わるかよ…。あたしを舐めるな」

 

狭山「………」

 

シャベルを構える胡桃…。狭山は今まで色々な生存者に出会ってきたが、今目の前にいるシャベルを持つ少女…何故か彼女が、やけに手強そうに見えた…。

 

 

 

 

 

 






大雨の中、彼が来るまで一人で戦う胡桃ちゃん…。
出来るだけテンポ良く進ませ、この章を十~二十話程度で終わらせたいと考えているのですが………ちょっと厳しいかもしれません(汗)
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