軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回は彼が由紀ちゃん達を逃がし、狭山真冬を相手に一人で時間を稼ぐ……というところで終わりました。今回はその続きとなる訳で彼と真冬ちゃんのやり取りがメインとなりますが、文章を書くことの難しさを改めて実感…!(もう何度目だろう)

少し見辛いとは思いますが、ごゆっくりとお楽しみ下さいm(__)m


百十二話『決意』

 

 

 

 

狭山真冬を相手に一人戦っていた胡桃の元にたどり着いた彼は彼女を由紀達と共にその場から逃がし、今度は自分は狭山を相手に時間稼ぎをしていた。狭山は彼女達の車が停めてあるあの公園に自分の仲間を呼んだようだが、運が良ければその連中がたどり着くよりも先に由紀達はあの車に乗ってここから逃れられるだろう…。

 

 

 

(…さて、みんな無事だといいけどな)

 

彼もある程度時間を稼ぎ終えたらその場から逃げ、彼女達と決まった場所で落ち合う約束をしたのだが…彼女達がここから離れていってまだ五分ほどしか経っていない。念のためにもう少しだけ時間を稼ごうと思い、彼は狭山へナイフを振り下ろした。

 

 

 

 

ブンッ!!

 

 

狭山「っと……危ない危ない」

 

彼の振り下ろしたナイフを飛び退いて避けると、狭山は右手に持っている警棒を握り直す。先程まで胡桃の相手をしていたので体力が消耗しているのか、はたまた雨のせいで動きにくいのかは分からないが…狭山の攻撃は彼に一度も当たっていなかった。もっとも、攻撃を当てられていないのは彼も同じなのだが…。

 

 

 

 

狭山(服がビショビショで動きにくいからかな…?いや、服が濡れてるのは彼も一緒だし大して関係ないか……。やっぱり、彼は思っていたより強いみたい)

 

攻撃を当てられない理由は彼が思いの(ほか)強く、反射神経が良いからだと狭山は気づく。これまで様々な人間と戦ってきたが、ここまで攻撃をかわされる事は滅多に無かった。

 

 

 

 

 

狭山「キミ、結構強いね…」

 

「どうも。あんたも小さい女の子のわりには強いね」

 

狭山「…小さいって……セクハラ?」

 

狭山は目線を下げ、自らの胸元を見つめてから彼の事を睨む。彼女はどうやら胸の事を言われたと思ったようだが、彼にそんなつもりはない。

 

 

 

「いや違うって!体が小さい…華奢(きゃしゃ)な女の子なのにってつもりで言ったんだよ!」

 

狭山「…ならいい。よかった、こんな状況で敵にセクハラするような危ない人なのかと思ったよ」

 

「心外にも程があるな…」

 

狭山「ボクの仲間の一人がそういうヤツだから、キミも同じタイプなのかと…」

 

「僕はわりと紳士…のハズだ。そんな人間と一緒にしてほしくない」

 

狭山「ふふっ、ごめんね?でも"そんな人間"があの公園で美紀達を待ち構えてるかも知れないわけだけど…それでもキミは平気かな?」

 

狭山はニヤニヤとした表情を彼に向け、首を傾げる。彼女達は急いであの公園に戻ったので恐らくその人間よりも先に公園へたどり着いているとは思うが、こうして言われると不安になってしまう…。

 

 

 

 

「…万が一あんたの仲間が待ち構えていたとしても、彼女達ならきっと逃げきる。あの胡桃ちゃんだっているんだ、そう簡単には……」

 

狭山「でもボクが呼んだその仲間はボクと同じか…それより強い人だよ?ボク相手にあんな苦労した胡桃じゃ、きっと止められない」

 

「……………」

 

 

 

狭山「そういえば、キミのナイフはボクに当たってないね…。やっぱり女の子相手だと躊躇(ためら)っちゃう?」

 

彼は何度か狭山にナイフを振っている…。しかしその全てがかすってすらおらず、狭山は不思議そうな表情をした。

 

 

 

 

「どうかな…自分ではそんなつもりないんだけど」

 

狭山は美紀と胡桃を襲い、自分達の事を殺すと言っている敵だ…。しかし彼女が由紀や美紀らと同い年の少女だからなのだろうか……。彼は無意識の内に攻撃を躊躇ってしまっていた。

 

 

 

 

狭山「やる気が今一つ足りてない…かな。じゃあ、キミのやる気出るようにいくつか面白い事を教えてあげる」

 

「へぇ……何かな?」

 

面白い事を教える……狭山はそう告げたが、彼女のその不敵な笑みを見て彼はそれが面白い事では無いことを察した。実際、直後狭山が放った言葉は面白いどころか、これまで余裕を持って彼女に接していた彼を一気に不快にさせるものだった…。

 

 

 

 

 

 

狭山「言いたい事は二つあるけど、まず一つめ…。恵飛須沢胡桃はボクが殺そうが殺さなかろうが、どうせもうすぐ死ぬよ…」

 

「…………」

 

彼は一瞬、自分の頭がジリッと熱くなるのを感じた…。これはきっと、目の前にいるあの少女に対しての怒りによるものだろう。ある程度の挑発なら耐えようと思ったが、胡桃の事を言われると我慢など出来なかった。

 

 

 

 

 

「お前に…あの娘の何が分かる」

 

狭山「ボクも少しだけ似たようなものだからね。彼女が感染していて、しかもそれはかなり進行してるって事が見るだけでなんとなく分かるの。もしかして…彼女が感染してるって知らなかった?」

 

「…知っている」

 

狭山「知ってるのに彼女をそばに置いてたの?次の日の朝、彼女が周りにいる感染者みたくなって由紀や悠里…美紀を襲うって考えなかったの?」

 

「そんなこと……」

 

 

想像するのも嫌な事だが、考えていない訳がない…。胡桃から傷の事を知らされた彼は真っ先にその事を考えたし、それはきっと由紀や悠里に美紀…そして胡桃自身も考えている事だろう。

 

 

 

 

 

狭山「あんな生きる爆弾みたいな娘と一緒にいるなんて本当に物好きだね…。噛まれてるって知ってるならとっとと殺せば良い。それが出来ないなら、胡桃一人だけ外に追い出せばいいんだ」

 

「…そんなことは絶対にしない。あの娘は絶対に助ける」

 

狭山「助けるって…どうするの?」

 

「治療する方法を探す。見殺しにする気なんて微塵も無い」

 

狭山「四人もいるんだから、一人くらい死んでもいいのに………」

 

狭山はボソッと呟き、彼の目を見つめる…。彼女はそのまま彼の目を見つめ、うろちょろと辺りを歩き始めた。

 

 

 

 

 

狭山「由紀に美紀に悠里…。ほら、胡桃だけ見殺しにしてもあと三人も女の子が残るよ。これだけいれば十分でしょう?」

 

「…ダメだ。あの娘達は四人揃ってないと意味がない」

 

狭山「…わがまま、そして贅沢。キミはあの四人全員を守りながら、この世界でのほほんと過ごせると思ってる…。そんなの無理に決まってるのに……」

 

「無理かどうかなんて最後まで分からない」

 

狭山「そういう事言われると…分からせてあげたくなるなぁ…。自分がいくら守ろうとしても、大切な人なんてあっさり死んじゃうんだって…」

 

「…………」

 

 

狭山「…そうだ。ボクは優しいから、キミだけは逃がしてあげる。彼女達を見捨てて一人で逃げて生き延びなよ。少しの間は一人ぼっちになっちゃうけど、彼女達の代わりも意外とあっさり見つか――」

 

 

 

ガキィンッ!!!

 

瞬間、雨音の中に激しい金属音のような音が混じる…。それは彼が振り下ろしたナイフを狭山が警棒で受けた音だった。彼は狭山の言葉をこれ以上聞いている事が出来なくなり、一気に接近して攻撃をしたのだ。

 

 

 

 

 

 

「彼女達の代わりなんて、どこを探してもいない」

 

狭山「ふぅん…怒った?」

 

「……少し」

 

会話の途中に攻撃された狭山は彼の顔色を窺いながら尋ねるが、本当は聞かずとも答えは分かっていた。何故なら、彼の今の一撃は防がなかったらかなり危なかったと思わせるほどに殺意が込められていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

狭山「じゃあそんなキミにもう一つ…良いことを教えてあげる」

 

ナイフを警棒で防いだまま、彼の目を近くで見つめて告げる。彼はもう十分に戦う気のようだが、狭山はあえてこれを告げた。

 

 

 

 

 

狭山「実を言うとね、ボクらは前からキミ達の事を探してた。だからキミ達がどこにいるのか探る為に色んな所を調べたりもしてて…つい最近、キミらが境野(さかの)って人の率いるグループと一悶着(ひともんちゃく)あった事を知った」

 

「………」

 

狭山が何故自分達を探していたのか、どうやって境野との事を知ったのか…その理由は分からない。だがやはり彼女は危険な存在なのだろうと思い、彼は警棒からナイフを離して少しだけ狭山との距離をひらく。

 

 

 

 

 

狭山「調べている内に境野さんの隠れ家の場所は分かったけど、何故かあそこにはもう誰もいなくてね。でも、中を探ってみて色んな事が分かった…。境野さんが目につけていた一つの屋敷があって、キミ達も少しの間そこにいたってこととか……」

 

(こいつ……まさか…)

 

境野が目をつけていて、少しの間彼等がいた屋敷と言えば一つしかない…。狭山の口からあの屋敷の話題が出た瞬間、彼の表情が不安げな物へと変わっていく。

 

 

 

 

 

狭山「車の中で聞いた時は知らないフリしてたけど、ボクはあの未奈って人の屋敷を知ってたんだ。だって…キミ達に会えるかと思って昨日行ってきたばかりだもん」

 

「あの人達に……何かしたのか?」

 

考えたくないが、最悪の光景を想像してしまう…。つい先日別れてばかりなのに、また会うと約束したのに…。彼がそんな事を思う中、狭山は微かに微笑んだ…。

 

 

 

 

狭山「ふふっ…どうかな?そう言えば、あの屋敷にいた男の人は強かったなぁ…。たしか朝倉(あさくら)さん…だったっけ?」

 

狭山の言う『朝倉』とは、彼等が世話になったあの朝倉(まこと)の事で間違いないだろう…。その名前を聞いた彼は再び狭山を切りつけようとナイフを振るうが、それはまたしても警棒で防がれた。

 

 

 

キィンッ!!

 

ナイフと警棒がぶつかり合い、激しい音が鳴る。彼はナイフに力を込めたまま、目の前にいる少女の事を力強く睨んだ。

 

 

 

 

 

「強かった…ってことは、戦ったって事だよな?」

 

狭山「ちょっと挨拶しただけだって…そう言ったら信じる?」

 

「どうかな…」

 

狭山「…そうだよね」

 

次の瞬間、狭山は警棒を振って彼のナイフを逸らし、体勢を崩しかけた彼の腹部へと蹴りを放つ。それを受けた彼は後ろの方へ下がりよろめいたが、それでもすぐにナイフを構え直して狭山を警戒した。

 

 

 

 

 

 

 

狭山「まぁそういう訳だから…キミがボクを殺す理由は出来たね。ほら、もう躊躇ったりしないで本気でやっても良いよ…」

 

余裕のある表情を向ける狭山に対し、彼も覚悟を決める…。その時、雨音に紛れてまたあの声が彼の耳に入った。

 

 

 

 

 

 

境野『あの様子だと、この女は屋敷にいた連中を殺したかもな。小さい子もいたのに、可哀想な事をするもんだ……』

 

「…また出てきたのか」

 

美紀に勇気をもらい、一時は消えていた境野の幻がまた彼の前に姿を現す。恐らく、狭山があの屋敷に行って何かをしたと知った事で彼自身の心が弱ったのが原因だろう。

 

 

 

 

 

境野『さてさて、これはさすがの君も許せないだろう?俺としてはこの女をここで殺す事をオススメする』

 

降り注ぐ雨が境野の身をすり抜けるのを見て、やはりこいつは幻なのだと確信する。彼はそんな境野を一瞬だけ見つめてから狭山へ向けてナイフを構えると、呟くようにして返事を返した。

 

 

 

 

 

「わざわざお前に言われなくても…そのつもりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





前回みーくんに『出来るだけ真冬ちゃんを傷つけないでほしい』と言われた彼ですが、今回の話で彼女を相手に本気で戦う決意をしました…。まぁ胡桃ちゃんの事や未奈ちゃんの屋敷の事……それらを種に挑発されたら仕方ないとも思いますが(-_-;)


因みに真冬ちゃんが未奈ちゃんの屋敷に行った時の話はまた後日投稿するかも知れませんし、しないかも知れません(あやふや)

投稿するにしても当分先になるかと思いますので、のんびりとお待ち下さいませm(__)m


(そう言えば今回の話にて、消えたと思われていた『境野の幻』が再登場。ほんと、驚くほどしつこい人ですね)
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