軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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穂村(兄)がこれ以上の足止めは無理だと狭山真冬を見逃し、その一方…神崎圭一と戦う主人公君は圭一の重い一撃を受けてしまい起き上がるのも困難に…。そんな状況の中、こちらへと歩み寄ってくる"かれら"を前にして主人公君が絶体絶命に……というのが前回のあらすじです。


今回はそんな主人公君の話と由紀ちゃんサイドの話を両方展開していくのですが、おかげで文字数が少し多めになっています(汗)



百十六話『守ってあげてね』

 

 

 

 

 

『グァァァ…ァァッ…!!』

 

「…っ……ぐ……」

 

地面に倒れ、目を閉じた彼の耳に入るのは徐々に近くなる"かれら"の唸り声…。そしてもう一つ、雨音に紛れ、聞きたくないあの声が聞こえていた。

 

 

 

 

境野『おいおい、なんだよ…。たった一撃で終わりか?情けない奴だな。お前はもっとやれる奴だと信じていたってのに、あんなどこの馬の骨とも分からない男にやられやがって……』

 

(くそ……境野の奴、幻になってもうるさいな………)

 

 

 

境野『…まぁ、これはこれで面白い展開だな。お前が死ぬところを特等席で見ていられるんだから……』

 

(…なんとでも言え。もう…どうでもいいから……)

 

 

 

境野『しかし欲を言うなら、あの女達が死ぬところも見たかったな…』

 

(いや、彼女達は大丈夫だ……みんな強い娘だからな……)

 

 

 

 

境野『強い娘ねぇ…。何言ってんだか…無事に逃げ切るなんて無理に決まってるだろ。アイツらは所詮ただのガキ…全員すぐに死ぬさ』

 

「…………」

 

彼女達だけは大丈夫…そう信じたまま逝きたいのに、境野の幻が彼の心を寸前の所で不安にしていく。本当に大丈夫だろうか?今も全員無事だろうか…?色々と考える内に怖くなり、彼の体が微かに震えた。

 

 

 

 

(大丈夫…きっと大丈夫……胡桃ちゃんだっているんだ……そう簡単には…)

 

境野『その胡桃が…狭山真冬とかいうガキと戦ってどうなったか思い出せ。…な?かなり危ないところまで追い詰められてただろう?その狭山真冬が本気で奴等を狙ってるんだ。どんなに頑張っても一人くらいは殺されるだろうな』

 

 

 

 

(……大丈夫…平気だ………彼女達なら……絶対に…!!)

 

境野『なら、そう信じたまま死ねばいい…。お前はあの世で誰と会うかな?丈槍由紀か…恵飛須沢胡桃か…若狭悠里か…直樹美紀か…。もしくは全員かもな。もしそうなったら、俺もそばに行ってお前らをあざ笑ってやるよ…』

 

耳元でケラケラと不愉快な笑い声をあげる境野。奴に言いたい放題言われているのは腹が立つが、彼は体を動かせない…。

 

 

 

 

(最後の最後に嫌な事言いやがって…!!くそっ…不安になってきた…)

 

『アァァッ…!!』

 

"かれら"もすぐそばに迫る中、目を開いた彼は今一度手を地面につけて起き上がろうと試みる。大丈夫だと信じて目を閉じたのに、境野のせいで由紀達の事が心配になってきたからだ。

 

 

 

 

「ぐぅ…っ…!!」

 

起き上がり、"かれら"を倒してから圭一を止め、そして由紀達を助けねば…。彼はその手に力を込めるが、やはり上手く起き上がれない…。そんな彼のそばでは姿勢を低くした境野の幻がニヤニヤとした表情で彼を馬鹿にするかのように笑っていた。

 

 

 

 

 

境野『さぁ、不安に襲われたまま死ね!自分ではアイツらを守れなかったと、後悔したまま死ね!!俺の手を逃れておいて、お前ばかり楽しく生きてられると思うな!!お前も、その仲間も!全員が今日ここで――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「………………?」

 

騒いでいた境野の声が突如ピタッと止む。いや、境野の声だけでなく、"かれら"の呻き声や降り注ぐ雨の音すらも止んでいた。彼は不思議に思って辺りを見回し、その光景に驚く。

 

 

 

 

 

「なんだ…ここ」

 

先程まで、彼は住宅街の道路の端に倒れていた…。彼が見ていた物は民家の塀や、歩道の端に植えてある幾つかの木、乗り捨てられた誰かの車、そんな物ばかりだったのに……今はその全てが消えてなくなり、真っ白な世界になっていた。

 

 

 

 

 

「やばい、もしかして……死んだのか…?」

 

何もない真っ白な世界…そして先程よりも軽い自分の体……もしやここは死後の世界か何かなのかと彼が思い込み、そして落ち込んでいると、背後で誰かが呟いた。

 

 

 

 

???「さっきの男の人…嫌な感じの人ね。でも、あなたが自分に自信を持ってればあんなのは見えないはずよ?」

 

「っ…?」

 

声に驚き、彼は振り向く。

そこにいたのは紫色の長い髪を揺らし、その髪よりも少し濃い紫色のワンピースを着た一人の女性。彼女は彼と目が合った瞬間にふふっと笑い、目を丸くしている彼の頭に手を置いた。

 

 

 

 

女性「警戒しなくて大丈夫。今はあなたとわたししかいないから」

 

「………」

 

 

女性「あっ、因みにだけど…あなたはまだ生きてるから安心してね。たぶん、まだ……きっと生きてる……ハズだけど…」

 

「…………」

 

『生きてる』と彼に告げたは良いが、それが確実な情報ではないのか女性はだんだんと不安そうな顔を見せる。あたふたとする彼女を間近に見て、彼も呆れた表情を見せた。

 

 

 

 

「あの……結局僕は生きてるんですかね?」

 

女性「たぶん大丈夫っ!でものんびりしてるのも不安だから急いで話すわねっ!!ええっと、何を言おうと思ってたんだっけ……ああもうっ!時間ないのにぃ…!」

 

「…………」

 

女性は彼の頭から置いた手を離さず、ただただ一人で慌てていた。女性は少しの間そうした後に自分の伝えたい事を思い出したのか、ハッとした表情を見せて彼の目を見つめた。

 

 

 

 

 

女性「あっ、そうそうっ!まず最初に…キミっ!もう死んでもいいやって思って諦めたでしょ!?」

 

「………まぁ」

 

女性「諦めちゃダメっ!キミはもう、あの娘達に必要な人になっちゃってるんだから!!」

 

「あの娘達…?」

 

女性「そう、あの娘達。言わなくたって分かるでしょう?」

 

確かに言われなくたって誰の事を指しているのかは分かる。彼が深く関わった人間など、由紀達以外にはいないのだから…。

 

 

 

 

 

 

「由紀ちゃん達か……。でも、彼女達はもう僕がいなくても…」

 

女性「そんな事ないわよ…。少なくとも、恵飛須沢さんはあなたにそばにいてほしいって…そう言ってたでしょう?」

 

「…………」

 

彼女の言う通り、胡桃は彼にそう言ってくれた…。彼はそれを忘れて生きる事を諦めたが、今…彼女のおかげでそれを思い出すことが出来た。しかし、何故彼女はここまで自分達の事を知っているのか……それだけが分からない。

 

 

 

 

女性「恵飛須沢さんだけじゃない。丈槍さんも若狭さんも……それにもう一人の後輩さんだって、みんなあなたの事を大切に思ってる」

 

「……あなたは、いったい…」

 

女性「もう一度がんばれる?彼女達の為に…そして自分の為に…生きる事を諦めずに立ち上がれる?」

 

彼の頭を撫でながら彼女は呟く…。その声はとても優しく、聞いているだけで彼の心が落ち着いていった。

 

 

 

 

 

「……ああ、まだやれます。あの娘達の為なら命を懸けてでも…」

 

女性「だからっ、そういうのはダメなのっ!!自分の命も大切にっ!!」ペシッ!

 

頭を撫でていたその手で彼の額をペシリと叩き、彼女はムッとした表情で彼の事を睨む。怒っているつもりなのだろうがその表情はあまりに迫力がなく、彼は思わず吹き出しそうになった。

 

 

 

「いてて……分かりましたよ…。これからは自分の命も大切にしつつ、彼女達の事を守っていくことにします」

 

女性「よろしいっ!………じゃあ、もう諦めちゃだめよ?」

 

そう言って彼の頭をもう一度だけ撫でると彼女はその姿をぼんやりさせ、次第にこの空間ごと消えていく…。彼はそんな彼女に手を伸ばして腕を掴もうとするが、それは霧のように消えてしまう。

 

彼女は腕から体…そして頭が徐々に消えていき、全てが消える瞬間…彼に一番伝えたかった、その言葉を伝えた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    『ちゃんと守ってあげてね……私の大切な教え子たちだから…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!ドサッ!!

 

圭一「…?」

 

自分の一撃を受けた彼はもうこのまま起き上がれない。そう思った圭一は歩み寄ってきた感染者に彼の止めを任せてその場を去ろうとしたのだが、背後から響いた何かの倒れたような音……それに気づいてそっと振り向く。次の瞬間目にしたその光景に、圭一は頬を弛めた。

 

 

 

 

 

 

圭一「…まったく、本当に大した奴だよ」

 

圭一が見たのは地面に倒れた二体の感染者…そしてそれの頭に突き刺したナイフを抜きつつ、こちらを見つめる彼の姿だった。彼は感染者の頭からナイフを抜くとニヤリと笑い、一歩ずつ圭一の元へと歩み寄る。

 

 

 

 

圭一(さっきまでは死にかけに見えたのに、まだ余力を残してたか?…いや、この感じだとそんな事もなさそうだ)

 

迫る彼の足どりはおぼつかないが、それでも確かに歩けていた。彼は数歩歩いてからピタリと立ち止まると、5メートル程先から圭一に告げた。

 

 

 

 

 

「さて、第二ラウンドをする約束だったよな…?」

 

圭一「正直に言うと冗談半分だったんだけどな…まぁ約束は約束だ。さて、今度はどちらかが死ぬまでやらなきゃならなそうだ…」

 

「悪いけど…こっちは死ぬ気ないぞ」

 

圭一「だろうな…俺もだ」

 

「……約束は守らないとな」

 

ポツリと呟くその言葉が何を意味するのか…圭一にはそれが理解できなかった。もっと言えば、立ち上がった彼が何故ここから逃げようとせず、自分に立ち向かうのかも分からない…。

 

 

 

 

圭一「俺に勝てると思ってるのか?」

 

「んん、どうだろ……。でも、こうしなきゃあの娘らを救えない」

 

答えながら彼はニコリと微笑む。なんだか彼の雰囲気が少し変わったような…そんな違和感を圭一は感じた。

 

 

 

圭一「少し雰囲気が変わったな…面白くなりそうだ」

 

「ははっ、由紀も…胡桃も…悠里も…美紀も…みんなが俺の大切な人で、守っていかなきゃならない人達だ。彼女達を守るためならどんな人間にだって変わる。これからはもう諦めず、彼女達を守ると約束したからな…」

 

 

 

 

 

 

「見知らぬ、綺麗なお姉さんと…」

 

夢だったのかも知れないし、幻だったのかと知れない…。しかしあの女性の後押しがあったからこそ自分は立ち上がれたし、こうしてまた圭一に立ち向かえる。あの女性と会った事で少しだけ強くなれた気がして、彼はこんな状況にも関わらず微笑んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

一方その頃、逃げ場を求めて進む由紀・胡桃・悠里・美紀の四人。こちらもこちらでまだまだ油断の出来ない状況が続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「っ…!由紀っ!どけっ!!」

 

由紀「ひゃっ…!?」

 

 

ザンッ!!!

 

胡桃は由紀の手を引いて後方へ下げた後、現れた"かれら"の頭目掛けてシャベルを振るう。勢いよく振られたシャベルによって一撃でそれを仕留める事は出来たものの、辺りにはまだ"かれら"の姿があった…。

 

 

 

由紀「ご、ごめんね…」

 

胡桃「気にすんな。それより、しっかりあたしの後ろにいろよ……絶対に守ってやるから…!」

 

雨のせいで微かに視界も悪く、雨音のせいで潜む"かれら"の気配にも気付きづらい…。あの穂村という男に狭山の足止めを任せてからまだ数分といったところだろうが、彼女らは既に数回"かれら"に不意を突かれていた。

 

 

 

 

悠里「胡桃っ、あまり無理は――」

 

胡桃「無理でもしなきゃ生き残れないって!!」

 

悠里「そうかも知れないけど…でもっ…!」

 

 

『ァア……ッ!!』

 

胡桃「くそっ……!」

 

言い争っている間に、またしても"かれら"がこちらへと向かい歩を進めてくる。これではさすがにキリがないし、何より胡桃の体力が持たない…。美紀はキョロキョロと辺りを見回し、すぐに入れそうな建物を探した。

 

 

 

 

 

美紀(……!!あそこならっ…!)

 

美紀の視界に入ったのは遠方にある一つの建物…。その建物のガラス扉は半開きになっており今すぐ中に逃げ込む事が可能だったため、美紀は先頭に立つ胡桃の背を叩き、全員にそれを伝えた。

 

 

 

 

美紀「あそこならすぐに逃げ込めそうです!」

 

由紀「…でも、入り口が開いてるんじゃ中にもいるんじゃ…」

 

美紀「それでも、外で延々と相手をしているよりはマシですっ!」

 

悠里「……そうね。胡桃、走れる?」

 

胡桃「もちろんっ!みんな、離れずにいくぞ!!」

 

一行は胡桃を先頭にそこへと向かい、勢いよく駆け出す。その建物までの距離は数十メートルあったが、胡桃のおかげで行く手を拒む"かれら"もある程度は撃退する事ができ、四人は無事…その建物の中へと逃げ込む事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

悠里「っ…ぅ!!」

 

バタンッ!!

 

 

全員が中に入って早々、悠里は開いていたそのガラス扉を閉める。しかしいくら戸を閉めてもこうして入り口付近にいる以上、外からガラス扉越しに自分らの姿が見られてしまう為、出来るだけ奥の方へと進みたいが…。

 

 

 

 

 

 

胡桃「暗いな。誰かライトを………持ってるわけないか…」

 

狭山が暴れたのは突然の事だった。なので全員が何も用意せず、慌てて外に出てきてしまっていた。ライトなど持ってるわけもない。当然中も明かりはなく、更に外も雨雲がかかっているせいで薄暗くて光など入ってこない。四人は仕方なく少しの間だけその場に止まり、目を暗闇に慣らしてから慎重に足を動かした。

 

 

 

 

悠里「そろそろ行けるかしら?」

 

胡桃「ああ…何かがいたら気付く程度には目も慣れたよ」

 

美紀「由紀先輩も…大丈夫ですか?」

 

由紀「ご、ごめん…まだ少し見えないから、手握ってもらってもいい…?」

 

美紀「…はい、もちろんです」

 

まだ今一つ目の慣れていない由紀の手を握り、美紀は胡桃と悠里に続いて奥へと進む。彼女自身もそこまで目が慣れた訳ではないのだが、それでもこの建物…というより、今いるこの空間が広いという事は分かった。歩きながら目を凝らして遠くを見ても、奥に壁が見えないのだ。

 

 

 

 

胡桃「…ここは」

 

その広さに気付いたのは美紀だけではなく、胡桃と悠里も同じだった。不思議に思った胡桃がピタッと立ち止まった後、悠里はそばにあったテーブル…その上にあったチラシを手に取る。辺りが薄暗いせいでその全てを読むことは出来ないが、一際大きく書かれていた文字からここが何の施設なのかを知ることが出来た。

 

 

 

 

悠里「ボーリング場、みたいね…。世の中がこんなじゃなきゃ、沢山の人があっちの方で遊んでたんでしょうけど…」

 

ボーリング場だと言われてから目を凝らすと、確かにレーンのような物がいくつも見える。

 

 

 

 

美紀「視界を遮るような物があまりない…。運が良かったですね。ここなら、少なくとも"かれら"に不意を突かれる事は無さそうです」

 

薄暗い空間だが、それでも視界を遮る物の少ないボーリング場に逃げ込めたのは運が良かった。見たところ"かれら"はいないようだし、(しばら)くはここに身を潜められるだろう。ただ、全ての不安が消えたわけではなかった……。

 

 

 

 

 

 

由紀「__くん…大丈夫かな…」

 

レーンの数メートル手前…本来はボールを投げる順番が来るまで休む為に置かれていたのであろう座席に由紀は座り、そのまま顔を伏せる。他の者もそっと座席に座り込み、由紀と同じことを考えた…。

 

 

 

 

胡桃「アイツなら…きっと大丈夫だ…」

 

悠里「だと良いけど……でも、少しだけ…」

 

『少しだけ不安だ』…そう言いかける悠里だが、彼女は言いきる事なく口を閉ざす。今この状況でみんなをこれ以上不安にさせてはならないと…そう思ったからだ。

 

 

 

 

 

美紀「どうしても心配なら、助けに戻るのもありだと思います…」

 

由紀「っ!!じゃあさ、今から―――」

 

胡桃「助けに行ったとして、あたしらに何が出来る…?アイツがせっかく稼いでくれた時間なのに、それをわざわざ無駄にするような事出来るかよ……」

 

由紀「ぅ……っ…」

 

美紀の提案に乗りかけた由紀だが、直後に胡桃が放った言葉を聞いてまた顔を伏せてしまう。少々冷たい言い方をしてしまったかと胡桃は後悔したが、みんなを守るためには仕方がないと思った…。

 

 

 

 

 

美紀「…由紀先輩、あの人なら大丈夫ですよ」

 

落ち込んでしまっている由紀を慰めようと、美紀は彼女の背を撫でる。由紀は少しずつ顔を上げて美紀の目を覗き込み、弱々しいながらも笑顔を見せた。

 

 

 

由紀「そうだよね……みーくん、ありがと」

 

美紀「…いえいえ」

 

由紀の笑顔を見た美紀は応えるようにして笑顔を返す。すると直後、美紀は自らの手が温かくなるのを感じた。何かと思って目線をそこに移すと、由紀が優しく…彼女の右手を握っていた。

 

 

 

由紀「わたしの方が先輩なのに…情けなくてごめんね」

 

美紀「そんなこと…ないです」

 

力なく呟く由紀の手を握り返す。すると由紀もその手に込められていた力を強め、二人は互いの手を強く握り合う。こうしていると少しだけ、不安が紛れる気がした…。

 

 

 

 

悠里「とりあえず少しの間はここに身を潜めて、ある程度の時間が経ったら昨日寄ったマーケットに向かいましょう。彼も無事ならそこに向かっているはずだから」

 

胡桃「ああ……そうだな…」

 

美紀「分かりました…」

 

 

悠里「………」

 

何にせよ、少しの間はここで時間を潰さなくてはならない。悠里はここでどう過ごそうかと考えながら、そばに座る胡桃の事を見つめた。少しの間とはいえあの狭山真冬と戦った彼女はいつものツインテールがほどけてしまっており、羽織っているジャージも酷く泥に汚れている。更によく見れば、腕や太ももにいくつかの擦り傷が出来ていた。

 

 

 

 

悠里「胡桃…怪我してるじゃない」

 

胡桃「…ああ、平気だよ。痛く……ないし」

 

悠里「だとしても……私は…」

 

顔を俯けたまま、どこか自棄になっているかのように呟く胡桃…。体中に傷や汚れをつけたまま答える彼女を見ているだけで、悠里の胸がズキズキと痛んだ…。『彼女はいつもこうして戦ってくれるのに、自分は何も出来ない…』そんな事ばかりを考えてしまい、胸の痛みがどんどん増していく。

 

 

 

 

 

悠里「ごめん…なさいっ……」

 

胡桃「なんで謝るのさ…」

 

悠里「だって、私がもっと強ければ……」

 

胡桃「…いいんだよ、りーさんはりーさんのままで」

 

状況が状況だからだろう…。悠里もかなり精神的に弱っているらしく、声が震えていた。胡桃はそんな彼女の頭にポンッと手を乗せ、ニッコリと微笑む。悠里はその笑顔を見て少しは安心したのか、微かに笑っていた。

 

 

 

 

 

悠里「ありがとね…胡桃。私達…これからもみんな一緒に――」

 

悠里が笑顔のまま言葉を放とうとした、その時だった…。

彼女らがつい先程入ってきた入り口…そのガラス扉が開かれたような、ギギィッ…という音……それがその場にいた全員の耳に届いた。

 

 

 

 

 

胡桃「っ!?」

 

由紀「な、なにっ?」

 

悠里「"かれら"が入ってきたのかしら…」

 

もしかしたら外にいた"かれら"の内の数体が偶然にここへと入り込んで来たのかも知れない…。入ってきたのが仮に二~三体程度なら胡桃一人で対処出来るだろう。

 

 

 

 

美紀「………」

 

美紀はグッと目を凝らし、そちらの方を見つめる。入ってきた影は一つだけ…これならどうにか出来ると安堵しかけたが、その影の正体に気付いた途端…美紀は冷や汗を流した。

 

 

 

 

 

美紀「うそ……どうして…?」

 

悠里「っ……!」

 

胡桃「マジかよ……くそっ…!」

 

由紀「………」

 

このまま身を潜めていようかとも思ったが四人は現れたその人物と即座に目が合ってしまい、隠れるのを諦める…。その人物は四人の方へツカツカと歩み寄り、それぞれに冷たい視線を浴びせた…。

 

 

 

 

 

 

狭山「もう、逃がさないから………」

 

 

 

 






穂村(兄)の協力もあって一時は逃げられた由紀ちゃん達ですが…やはり狭山真冬から逃れるには時間が足りなかったようです。こちらは再びかなり危機的状況となってしまいましたが、一方で主人公君の方は……少しばかり心が強くなったようです。


限界だと思われた彼に力をくれたあの女性の正体ですが…言うまでもないですかね?彼女が何故、彼の前に現れたのか…。それは彼女が『彼を救う事で間接的に由紀ちゃん達を救いたかったから』…としか言えません(-_-)


彼は彼女に奮い立たされた事により強い心を手にしたので、境野の幻に頭を悩まされる事はもう無いはずです!しかしながら強くなったのは心のみなので身体はダメージを受けたままですし、身体的なスペックは未だに圭一の方が圧倒的に上…。やはり、厳しいといえば厳しい状況です。


今回は結構話を進められたので、今の章もあと数話で終わることが出来そうです!彼や由紀ちゃん達がどうなるのか…また次回もご期待いただければと思いますm(__)m
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