軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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更新が遅れてしまいました(汗)申し訳ありませんm(__)m


今回は出来るだけ話を詰め込んだので、少しだけ長いです。
じっくり…のんびりとお読みくださいm(__)m



前回までのあらすじ『みーくんは、狭山真冬に言いたいことが…』


百十八話『ともだち』

 

 

 

「はぁっ…はぁっ……あぁ、さすがにしんどい…」

 

圭一「もうギブアップか…。いや、よくやった方だな」

 

雨降る中、目の前で息を整える彼を相手に圭一は呟く。彼は一度ダウンしてからも起き上がり、この数分間粘ってきたのだ。とっくに体力の限界が来ていてもおかしくないだろう。

 

 

 

 

 

「まだギブアップじゃない…。もう少し、アンタには付き合ってもらう」

 

圭一「…本当によく粘る。お前ほどしぶとい奴は見たことがない」

 

「それはお互い様だ」

 

ナイフを構え直し、彼はニヤリと笑う。圭一もそれにつられて笑顔を見せたその時、突如圭一がピクリと眉を動かした。どうやら持っていた無線機に連絡が入ったらしい。

 

 

 

 

圭一「ああ、わるい…ちょっといいか?」

 

「……ご自由に」

 

この戦いは出来るだけ早く終わらせたいが、この男が相手では無闇に襲い掛かっても返り討ちにされるだけ…。ならば今ここで微かな時間を与え、自分もその間は休み、息を整えた方が良い。彼はそう考え、圭一がその無線機に応答するのを静かに見ていた…。

 

 

 

 

 

 

圭一「…なんだ?」

 

圭一は一方の耳にはめていたイヤホンを指先で押さえ、連絡相手の声を聴く。マイクのような物は見られなかったが、圭一の首についている黒いチョーカーのような物…それをよく見ると、何やら細いコードのような物が繋がっていた。もしかするとあの中にマイクが内蔵されているのかも知れない。

 

 

 

 

 

圭一「…………ああ…それで?」

 

「…………」

 

 

圭一「……わかった、それでいいんだな?」

 

圭一の連絡相手の声は彼に聞こえないため、どんな会話を交わしているのかが今一つ掴めない。もしかして、由紀達の身に良くないことが起きてしまったのでは…そんな考えが浮かび始めた時、圭一が彼に向けて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圭一「…決着がついたそうだ」

 

「な……決着…?」

 

圭一「ああ。狭山はお前の仲間達との戦いを終えたそうだ」

 

(終わったって……まさか)

 

圭一が通信していた相手は恐らくあの少女…狭山真冬だろう。なら、彼女は今も確実に生きている事になる。その彼女が『決着』などという言葉を出したということは……由紀達は?それを考えた途端、彼の頭は真っ白になった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

場面は変わり、圭一が彼に決着を告げた十数分前…。廃墟同然のボーリング場内にいる由紀一行、そして彼女らを追いつめた狭山へと移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀「私、真冬ちゃんに……ううん、真冬に言いたい事があるんだ。大した時間はとらせないから、ちょっといいかな?」

 

狭山「……ちょっとだけだよ」

 

胡桃の命だけ差し出せば他の全員を見逃すと狭山は言い、胡桃はその提案に乗ろうとした。しかし美紀はそんな胡桃を手で制し、自らが狭山の前へと立つ。狭山にとって美紀を殺すのは容易いことだったが、最期に彼女の"言いたい事"というものだけ聞いておこうと思った。

 

 

 

 

 

 

狭山「ただの時間稼ぎだったら怒るからね」

 

美紀「違うよ。だいたい、時間稼ぎなんてしても意味ないし…」

 

狭山「…そうだね」

 

もう追い詰めるところまで追い詰めたのだ。いくら中身の無い会話で時間を稼ごうとも意味など無い。それは狭山だけでなく、美紀も理解しているようだった。

 

 

 

 

美紀「じゃあ、さっそく言わせてもらうね…」

 

狭山「…どうぞ」

 

すぐ目の前まで迫った美紀…。狭山は念のために彼女の動きを警戒したが、おかしなところは見られない。どうやら彼女は本当に話がしたいだけらしい。

 

 

 

 

 

美紀「真冬は…私たちが現実を見てないって言ったよね」

 

狭山「うん、言ったよ…。君達は現実を見てない。嫌な事、辛いことから逃げて…現実から目を逸らしてる。だから幸せだ、なんて事が言えるんだよ」

 

狭山は彼女らと出会ってばかりの時に見たその笑顔…そして美紀と胡桃が言った"幸せ"という言葉を思い返す。もし彼女達がこの世界の過酷な現状と向き合っているならあんな顔で笑える訳がない…幸せだなんて言える訳がない。狭山はそう思っていたのだが、美紀は彼女の顔を真っ直ぐに見つめて言った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

美紀「たぶん…現実を見てないのは真冬の方だと思う」

 

狭山「え…っ…?」

 

一瞬、彼女の言葉の意味が理解できなかった…。自分はこの世界と真っ向から向き合っている。現在と向き合っている。現在を見てないのはどう考えても彼女達の方なのに……。そんな思いが狭山の頭を駆け巡り、彼女は目を丸くした。

 

 

 

 

 

狭山「どういう…意味?」

 

美紀「言葉のままだよ…。現実を見てないのは私たちじゃなく、真冬の方だと思うって言ったの」

 

狭山「………」

 

グッ…ッ……

 

その言葉に戸惑う狭山に対し、美紀は冷静な口調で告げる。その態度が腹ただしくて、狭山のナイフを持つ右手に力が入った。

 

 

 

 

 

狭山「あは…は……話…聞かなきゃよかったなぁ…。イライラしちゃった…」

 

左手で前髪をガシガシとかきむしり、狭山はナイフを持つその右手をゆらっと動かす…。このままでは美紀が危ないと思い、胡桃たちが動こうとしたその時…美紀が更に言葉を放った。

 

 

 

 

美紀「私だってイライラしたよ…。毎日毎日、必死に頑張って…あがいて…そうして生き延びてきたのに、現実を見てないなんて言われたんだから」

 

狭山「だって…!本当の事でしょ!!!」

 

怒鳴るようにして答える狭山。これまでクールな印象だった彼女の怒鳴り声を聞いた事により由紀達は驚いたが、美紀だけは一歩も退()かなかった。

 

 

 

 

美紀「私たちの何を見てそう思ったの!!?ただ笑ってたから!?幸せだって言ったから!?それだけで…それだけの事でっ……私たちが現実を見てないと思ったの!?」

 

狭山「ッ…!!」

 

 

悠里「……美紀さん」

 

狭山が怒鳴った直後、美紀はそれに応えるように怒鳴り返す。これほどに美紀が怒っているところ…怒鳴っているところを見たのは、仲間である由紀達ですら初めてだった。

 

 

 

 

 

美紀「嫌な事や辛いことから逃げてるって…本当にそう思ってるの…?逃げられるなら、逃げたいよ…。周りの事とか、胡桃先輩の傷の事とか……全部から逃げたいよ…。逃げて何も考えず、一人でいられたら…すごく楽だと思うよ」

 

胡桃「………」

 

弱音にも似た美紀の言葉を聞き、胡桃は唇を噛みしめる。自分の身体の事が彼女にも負担を与えてしまい、悩ませてしまっていると思ったからだ…。

 

 

 

 

美紀「でも、逃げてもただ楽になるだけなんだよ…。何の負担もなく、毎日を生き延びさえしてれば良い……でもそれじゃだめなんだよ。どれだけ辛くても、大変でも…みんなと一緒にいなきゃ…」

 

狭山「一人になりたければなればいい…!ボクに言わせれば、今こうして彼女達と群れて、ヘラヘラと笑い合っていることの方がよっぽど逃げてるように見える!!」

 

美紀「それは違うよ…私がみんなと一緒にいるのは逃げてるからじゃない…。前を向いているからだよ」

 

真っ直ぐな視線を向けながら美紀が言う。しかし狭山には彼女の言葉の意味がまるで理解できず、頭の奥がズキズキと痛んだ…。

 

 

 

狭山「ペラペラと…意味が分からないっ…」

 

美紀「…真冬は、もうこの世界に幸せなんてないって…そう思ってるの?」

 

美紀の言葉を聞き苛立っていく狭山…そんな彼女に対し、美紀は(なだ)めるような口調で尋ねる。すると狭山は美紀の目を真っ直ぐ、睨むような目付きで見つめ返した。

 

 

 

 

 

狭山「当たり前でしょ…!幸せなんてこの世界には無い!ある訳がないっ!!そんなのがあるなら…ボクは…ボクはっ……!」

 

美紀「じゃあ聞くけど、真冬は世の中がこうなってから…幸せになろうとした?幸せになれるきっかけを探そうとした?たぶん毎日毎日…今私たちにしてるみたく、誰かに八つ当たりしてただけなんじゃない…?」

 

狭山「だったらなに…?美紀は…何を言いたいの…?」

 

少しだけ、狭山の声から覇気が消えた。その目もさっきほどの力が無く、濁ったようにも見える。

 

 

 

 

 

美紀「私たちは現実を見てないんじゃない…前を見て生きてるだけ…。そして真冬は現実を見てるんじゃなく、後ろを見て生きてるだけだって…私はそう思うよ」

 

狭山「…あぁ……そう………」

 

躊躇いなど一切見せず、美紀はキッパリと告げた…。狭山はその言葉をただの挑発と捉え、ナイフをギュッと握る。

 

 

 

狭山(ボクは現実を見てる…。見てないのは美紀達の方だ……)

 

心の中で何度も呟き、美紀を睨む。そうして見つめた彼女の目は自分は間違っていないとでも思っているかのように真っ直ぐで、見ているだけで狭山は苛立ってしまう。

 

 

 

 

 

狭山「美紀はただ…一人になるのが怖いだけでしょ…。一人になれたら楽だなんていうのは口だけ…本当は、一人になる気なんて無いくせに…」

 

美紀「そうかもしれない……でも、一人になれたら楽だろうなっていうのは本当に思ってる事だよ。一人なら、考えるのは自分の事だけで良いから……」

 

狭山「じゃあそうやって生きていけば良いでしょ!?胡桃の事も、他の皆の事も見捨てて!一人だけで生きていけばっ…!」

 

狭山が感情をむき出しにしながらそう告げると、美紀は顔だけをそっと後ろに振り向けて後方に立つ由紀達を見つめていた…。彼女達は美紀の事を心配そうに見つめているが、当の本人はニッコリと微笑み、その目線を再び狭山へと向ける。

 

 

 

 

美紀「たしかに…先輩達といると大変な事もある。けどね、あの人達と一緒にいるとその大変さがどうでもいいと思えるくらい、幸せな気持ちになれるの。だから私は…これからもずっと先輩達のそばにいる」

 

また、美紀が幸せそうに笑った…。本当に現実を見ているならばこんな顔で笑えるハズがない…。狭山は左手で彼女の着ていた服の胸ぐらを掴み、そばにグッと引き寄せる。それに反応して胡桃が動こうとした時、狭山は彼女を冷たい目で見つめて言った…。

 

 

 

 

狭山「胡桃、言ってたよね…『仲の良い友達が周りにいて、一緒にご飯食べたり…毎日おはようやおやすみを言い合う』そんな普通の事が幸せなんだって…言ってたよね」

 

胡桃「…ああ」

 

胡桃が答えると、狭山は顔を俯ける。彼女はそうして顔を俯けたまま美紀の胸ぐらを掴み続け、弱々しい声を出した…。

 

 

 

 

 

狭山「そんな普通の事って、何が普通なの…?全然、普通なんかじゃないよ…。大切な友達がそばにいて…毎日お話しできることがどれだけ贅沢な事なのか……みんな、分かってない…っ…」

 

美紀「……真冬」

 

狭山は顔を俯けたままなので、どんな表情をしているのかは分からない。ただ、彼女の声は微かに震えていて、とても悲しげだった。恐らく、彼女も大変な目に遭ってきたのだろう…。美紀は彼女の声からそれを感じ取り、自分の胸ぐらを掴むその手をそっと握った。

 

 

 

 

狭山「っ………」

 

美紀「私たちも分かってるよ…。今朝みたくみんなでご飯食べて、なんでもない話で笑い合う事がどれだけ贅沢な事なのか…」

 

狭山「分かってないよ……だって、君達は何も失ってない…。大切な人を失っていたら、あんなふうには笑えない…」

 

相変わらず顔を伏せたまま、狭山は美紀に告げる。だが、美紀も黙ってはいなかった…。彼女はここまで、何も失わずに来た訳ではないのだから。

 

 

 

 

美紀「真冬、動物は好き?ほら…犬とか」

 

どうして急にそんな事を聞くのか…。不思議に思った狭山は伏せていた顔を上げ、美紀の目を見る。彼女は微かに微笑んだまま答えを待っているようなので、狭山はそっと口を開いた…。

 

 

狭山「…ワンワンは好き。変な人間なんかより、よっぽど」

 

美紀「そっか…。あのね、私達、この前まで学校に暮らしてたんだ」

 

狭山「…巡ヶ丘の高校でしょ」

 

美紀「…よく分かったね?」

 

狭山「君達の制服から割り出して、この前一人で見に行った…」

 

つい先日、あの学校に一人向かった事を思い返す。行けば彼女達に会えると思ったのだが、彼女達は既に出ていった後だった。

 

 

 

 

美紀「そうなんだ…。でね、あの学校にいた時、先輩達と一緒に犬を飼ってたの。太郎丸って名前でね…元々は私と一緒にいた子なんだけど、私にずっとなついてくれなくて…」

 

まいったように苦笑いしつつ、美紀はその事を語る。彼女はその間もずっと、狭山の手を握っていた。

 

 

 

 

美紀「でも、私はあの子にたくさん助けてもらった…。先輩たちと出会えたのだって、あの子のおかげだから…」

 

狭山「………」

 

美紀「本当にたくさん、たくさん助けてもらった。だから、お別れの時は凄く悲しくて…頭が真っ白になって…涙が止まらなかったよ」

 

そう言っている今も、美紀の目が涙ぐんでいる事に狭山は気付いた。きっと、その時の事を思い返しているのだろう。

 

 

 

 

美紀「大切な人…じゃなくて犬だけどね、太郎丸は私にとって本当に大切な子だった。それと、先輩たちは大好きだった先生とお別れしてる…。みんな、それぞれが大切な人を失っているの…」

 

狭山「………そう」

 

目の前にいる狭山にだけ聞こえるよう、小さな声で美紀が言う。彼女達は何も失っていないと思っていた…だからこそ、あんな顔で笑えているのだと。しかし実際はそうでなく、彼女達も大切な人を失っていたのだ。

 

 

 

 

狭山「じゃあ、なんで美紀達は笑えるの?大切な人を失う辛さを知っているのに…なんで笑えるの?」

 

彼女の胸ぐらから手を離し、目を見て尋ねる。美紀は胸ぐらから離された狭山の手を変わらず握ったまま、そっと後ろを振り向いた。

 

 

 

 

美紀「先輩達と一緒だから…かな。大変な事や辛いこと、色々あるけど…それでも、先輩達と一緒なら乗り越えていけるの。また明日もがんばろうって…前を向いていられるんだよ」

 

美紀達はしっかりと現実を見ていて、大切な人を失う辛さも知っている。そう分かった瞬間、狭山は自分はどうなのかと今さらながら考えた…。『明日もがんばろう』『前を向こう』そんなふうに思った事が一度でもあっただろうかと…。

 

 

 

 

 

美紀「私達は大切な人を失う辛さを知ってる。だからこそ…もう誰も失いたくないの。だから、私は真冬に誰も殺させない…」

 

狭山「………」

 

真っ直ぐにこちらを見つめるその目はとても強い気持ちに満ちていて、狭山は一瞬ながらもそれに見とれた。こんなにも綺麗で真っ直ぐな瞳を持っているなんて、自分とは大違いだ…。

 

 

 

 

狭山「似てるって、思ってた……美紀は少しだけボクに似てるって、会ったばかりの時はそう思った…。でも、全然違うね…」

 

美紀「ううん、真冬は私と同じだよ…」

 

狭山の手を一層強く握り、美紀は彼女の目を見つめる。美紀の綺麗な目と…濁った自分の瞳…これのどこが同じなのか、狭山には理解出来なかった。

 

 

 

 

狭山「…やっぱり、全然違うよ?」

 

美紀「それはきっと、ここに来るまでの道が違ってたからだよ。もし私が先輩達と出会わずにいたら、きっと今の真冬みたくなってたと思う。こんな地獄みたいな世界に幸せなんて無い…。にも関わらず幸せだなんて言う人がいるなら、それを真っ向から否定してやろうって…そう思ってたかも」

 

狭山「………」

 

美紀「そう思うほど大変な毎日だったよ…辛い毎日だったよ…。でも、そんな地獄みたいな世界を変えてくれたのが由紀先輩と胡桃先輩、そしてりーさんなんだ…」

 

由紀達をチラッと見つめ、美紀はまたニッコリと笑う。由紀達はまだ狭山の事を警戒しているのか油断のない表情をしていたが、美紀だけは狭山の事をまるで警戒していないようだった。

 

 

 

 

美紀「だから、その逆も同じ…。もし真冬が先に先輩達と出会っていたら、きっと今の私みたくなってたと思うよ。辛いこと、悲しいこと…全部乗り越えて、笑えるような人になれてたんじゃないかな」

 

狭山「そんなの…絶対にあり得ない…」

 

そう答えて美紀の手を振りほどこうとする。しかし美紀はその手を決して離さず、狭山の目を見つめ続けた。

 

 

 

 

美紀「さっき、車の中で先輩達と話してる時の真冬はもっと良い顔してたよ。あの時、ほんの少しだけでも温かい気持ちにならなかった?」

 

狭山「……っ」

 

彼女達の持つ車の中で共に朝食をとり、会話を交わしたあの時、確かによく分からない感情を抱いたような気がした…。でも、あの感情はどこか懐かしくもあって……少し戸惑いもした。

 

 

 

美紀「…ね?みんなと一緒なら、真冬もきっと笑えるようになる。一人でいるのが苦しいなら、私たちと一緒にいよう…。友達と一緒なら、こんな世界でも笑っていられるから…」

 

狭山「友達なんて…ボクには一人も……」

 

美紀「少なくとも、私は車の中で話した時から真冬の事を友達だと思ってるよ。先輩達もきっと…」

 

そんなハズはない…。あれだけ殺意を向けてきたのに、その相手を友達だなどと思える訳がない…。こんな能天気な考えをしているのは美紀だけだ。狭山がそう思った時、由紀がスタスタと駆け寄って狭山と美紀、二人の間に割って入った。

 

 

 

 

由紀「わたしも真冬ちゃんの事、友達だと思ってるよ」

 

狭山「……うそ」

 

由紀「うそじゃない、本当にそう思ってる。真冬ちゃんもみーくんも、わたしの友達で…可愛い後輩だもん!」

 

微かに胸を張り、由紀は誇らしげに語る。狭山は彼女の思いもよらぬ言葉に目を丸くし、ポカンと口を開けた…。

 

 

 

 

狭山「意味分からない…。そもそも学校だって違うのに、そんなふうに先輩(ヅラ)されても…」

 

由紀「学校は関係ないの!ええっと…つまり人生の先輩だよ!」

 

狭山「人生の先輩…?」

 

由紀「うん!わたしは真冬ちゃんよりも長く生きてるからね!」

 

言っても学年が一つ離れているだけではないか。狭山がそれを声に出して指摘しようとしたその時、胡桃と悠里もそばへと歩み寄ってきた。

 

 

 

 

胡桃「長く生きてるって言っても、真冬と大して変わらんだろ…」

 

由紀「それでも先輩は先輩だもんっ!」

 

悠里「…そうね。由紀ちゃんは立派な先輩よ」

 

美紀の隣に立って呆れた顔を見せる胡桃と、由紀の隣に立ってその頭を撫でる悠里…。揃いも揃って狭山の間合いに入っているのに、全員が笑顔を見せていた…。

 

 

 

 

 

狭山「みんな…もう少し警戒しなよ。ボクはナイフを持っていて、君達を殺すって言ってるんだから……」

 

由紀「もう…大丈夫だって信じてる。真冬ちゃん、本当は優しい娘だもん」

 

狭山「っ…!?」

 

由紀が狭山の肩を撫でながら、優しい声で呟く。狭山は酷い事をしただけで優しさなど微塵も見せなかったと言うのに……。由紀はそんな彼女を信じると…優しい娘だと言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

『真冬ちゃんは優しいもんね』

 

狭山「あ…っ……ぐ…」

 

以前、自分にそう言ってくれた娘がいたのを思い出す。自分は昔から無愛想で冷たいのに、そのどこを見て優しいと思ったのだろう…。思えば、彼女は由紀に少しだけ似ていた…。やたらと明るくて子供っぽい。その有り余った元気さは少し鬱陶しくもあったが、狭山は彼女のあの笑顔に…その眩しさに何度も救われた…。

 

 

 

 

 

狭山(そっか…ボクは、強くなってなんかいない。あの娘がいなくなって…一人になって…弱くなったんだ)

 

美紀「真冬、もうやめよう?」

 

美紀はナイフを持つ狭山の右手をそっと掴み、それを離させようとする。これを離すか、もしくはそのまま彼女を突き刺すか…どちらにせよ、この戦いはもうじき終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

狭山(それでも、ボクは一人で構わない……。どう足掻いたって、もう幸せになんかなれないんだ…。美紀も…他のみんなも……全部壊して、また…いつものボクに戻ればいい…)

 

ズキッ…ズキッ…

 

また、狭山の胸の奥が痛み始める…。美紀が『幸せ』だと言った時にも感じたこの痛みは、現実を見ていない彼女達への苛立ちによるものだ……

 

 

 

狭山(美紀を殺して、いつもの狭山真冬に………)

 

苛立ちによるものだと、そう思っていたが本当は違う…。狭山はもう、自分でそれに気付いていた。きっとこれは、未だ幸せを掴めぬまま、ただ無意味に暴れる自分自身に苛立っていただけ。本当はただ、幸せそうに笑う彼女達の事が羨ましかっただけなんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

狭山「…ううっ…ぐすっ…!」

 

美紀「…………」

 

狭山「っぐ…!っっう…!」

 

頭の中でそれを認めたら、涙が止まらなくなった…。狭山は右手に持っていたナイフを美紀にあっさりと奪われ、空いたその手で必死に涙を拭う。

 

 

 

美紀「………」

 

狭山「胡桃のこと殴っちゃった…酷いこともいっぱい言った…。悠里と由紀も…怖がらせちゃって……美紀にも嫌なことばかりしたのにっ…」

 

美紀「少なくとも、私は真冬を許してあげるよ。真冬も色々大変だったって、その顔を見て分かったから…」

 

美紀は狭山から取ったナイフをそばの床へと置き、それから泣きじゃくる彼女の頭を撫でる。確かに彼女には散々な目に遇わされたが、その全てを許してあげようと思った。そしてそれは美紀だけでなく、胡桃も同じだったようで…

 

 

 

 

胡桃「もう二度とあたしらを殺そうとしないって約束すんなら、あたしもお前の事を許してやる」

 

狭山「ボク…胡桃のこと殴っちゃったのにっ……」

 

胡桃「…ま、ケンカみたいなもんだ。もっとも、殴り合いのケンカなんてりーさんともしたことないけどな」

 

悠里「今のところは……ね?」

 

胡桃「いやっ!これからも勘弁っ!!りーさん相手じゃ分が悪いって!」

 

悠里「どういう意味かしら?私、胡桃ほど腕っぷしに自信ないわよ?」

 

胡桃「あたしだって、そこまで自信ないっての…」

 

胡桃は少しふてくされたような顔をして、持っていたシャベルを肩にかける。そんな彼女を見て由紀と悠里、そして美紀も笑い、最後には胡桃も笑った。

 

 

 

 

 

狭山(ああ…本当に楽しそうだな……)

 

彼女達が笑い合うのを見ていたら、狭山も少しだけ笑うことが出来た。しかし、流れていた涙はまだ止まらない。きっと、久しぶりに泣いたからだろう…。

 

 

 

美紀「真冬、大丈夫?」

 

狭山「あっ……ごめん、すぐに…とめるから…」

 

狭山の涙が止まらない事に気づき、美紀は彼女の背を撫でる。彼女達の前でこれ以上泣くのはみっともない。早く止めなければ。狭山が必死に両手で涙を拭うと、美紀がそっと呟いた。

 

 

 

 

美紀「我慢しなくていいんだよ…。辛いことや悲しいことってね、我慢しすぎると大切な事を忘れちゃうんだって…」

 

おっとりとした、美紀の優しい声…。狭山はそれを聞き、ふと思った。

 

 

 

狭山(そういえばボク、あの時から泣いてなかった……。全部我慢して、その結果色んな事を間違えて…そして、あの娘の温かさを忘れてたんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

狭山「バカだなぁ……ボク、ほんとにバカだなぁ……」

 

その後、狭山は我慢することを止めて思いきり涙を流し続けた。声も我慢せず、子供のように…。その間…由紀、胡桃、悠里は彼女の事をそばで見守り、美紀はその背中を撫で続けていた。目の前で泣くその少女が、さっきまで自分達を殺そうとしていたのを忘れて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

狭山「もう…大丈夫…。美紀、ありがと」

 

美紀「…どういたしまして」

 

返事を返す美紀が笑っていたので、それにつられて狭山も微笑む。まだぎこちない笑顔かも知れないが、これから少しずつ…上手く笑えるようになっていこう。狭山がそう決意したその時、彼女達のいるボーリング場の入口から一人の人物が現れた。

 

 

 

 

 

穂村「……あぁ、やっぱり狭山に見つかっちまったのか」

 

由紀「あっ!」

 

狭山「穂村…何しに来たの?」

 

現れたその男、穂村へ冷たい目線を向ける狭山。しかし穂村はその目線が冷たい事には気付かず、ただ由紀達の事を見つめていた。彼女達は狭山に見つかってしまったのでこれから殺される…事情を何も知らぬ穂村はそう思い込んでいるのだろう。

 

 

 

 

 

穂村「あれから狭山の事をこっそりつけててさ、んで…お前がこのボーリング場に入った途端に思ったわけよ。あっ、狭山のやつ…由紀達(アンタら)の事を見つけたなって。俺もすぐ中に入ろうかと思ったけど、少ししてからじゃないと狭山に怒られるかなぁって思ってて…」

 

狭山「…ワケわからない」

 

穂村「おっ…狭山先生、泣きました?なんか声がいつもと違うような…」

 

狭山「っ!?そんなのどうでもいいから、穂村は外に出て圭一さんに連絡して!!もうこの戦いは終わり…彼の事も見逃してあげるようにって」

 

穂村「は?いやいや、その展開の方がワケわからないんだけど…」

 

狭山「いいから!ほらダッシュっ!!」

 

穂村「あっ?わ、分かったよ…!ちょっと待ってろ!!」

 

狭山に急かされ、穂村はまた外へと出ていく。狭山が穂村の事を外に追いやった理由は二つ。まず、ここのような屋内だと無線の電波が届かない可能性があったから。そしてもう一つ…穂村(あの男)にだけは、自分が泣いていた事を絶対に知られたくないからだ。

 

 

 

 

 

 

狭山「これで彼も助かると思う…。でも、もしかしたら圭一さんが既に…」

 

胡桃「それは大丈夫だと思う。アイツ、ああ見えて結構強いヤツだからさ」

 

狭山「…うん、そうだね」

 

口ではそう言う狭山だが、内心不安でいっぱいだった。今、彼と戦っている圭一の強さはよく知っている。並の人間ではもう殺されてしまっているだろう。もしそうなってしまったら、自分は彼女達に顔向け出来ない…。彼を殺すよう、圭一に言ったのは自分なのだから…。

 

 

 

 

 

 

穂村「ったく、雨はまだ止まねぇし…感染者に襲われるし、嫌なことばかりだ」

 

不安を感じつつ待っていると、意外に早く穂村が戻った。狭山は直ぐ様彼の安否を穂村に問い、由紀達もその答えに耳を澄ませる。

 

 

 

 

狭山「圭一さん、なんて言ってた?まだ…彼は無事?」

 

穂村「ああ、まだ殺れてなかったみたいだな」

 

狭山「…そう、よかった」

 

その答えを聞き、彼女達は安心して胸を撫で下ろす。

これで、ようやく落ち着くことが出来そうだ…。

 

 

 





…というわけで、今回の話を切っ掛けに狭山真冬は彼女達を襲うのを止めにしました。真冬が正気を取り戻す…というか、まともな考え方が出来るようになったのは全て、みーくんのおかげと言っても過言ではないです。

そして、本気を出せば彼女達を容易に仕留められたハズの真冬…。彼女がみーくんの話を最後まで聞き続けたのは、彼女自身が心のどこかでこうなる事を望んでいたからかも知れません。

自分達を殺そうとする真冬に怯える事なく、正面から向き合ったみーくんは凄い娘です。みーくん、本当にお疲れさまでしたm(__)m



さて、次回からはまた少しずつ話を進展させていきますが…一先ず難関は乗り越えましたからね。本編であるこちらでもまた、明るい話を書くことになりそうです!(やはり、明るい話の方が書いていても楽しいですからね!)


因みに私、今回の話を書くにあって『がっこうぐらし!』のアニメの最終回を見直したのですが、やはり太郎丸のシーンで泣きました。あのシーンだけは…何度見ても涙が止まりません…。
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