軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回…みーくんが惚れ薬の被害者になってしまい、彼の前で色々と恥ずかしい言動をしてしまいました。今回の話はその事件が起きた日の夜…みんなが夕食を終えた頃辺りから始まります!


百二十五話『ゆめ』

 

 

 

由紀「でね、今日はちょっと多めにお昼寝しちゃってまだ全然眠たくないから、このあと胡桃ちゃんのお部屋に行ってもいい?」

 

胡桃「んん?ま、別にいいぜ」

 

由紀「やった~♪なら、今日は徹夜でゲームだね!」

 

夜…屋敷内のキッチンにて、夕食を食べ終えた由紀は椅子に座ったままルンルンとご機嫌に足を揺らす。すると彼女の右隣…そこに座っていた悠里がムッとした表情を浮かべた。

 

 

悠里「あまり遅くまで夜ふかししちゃだめよ。明日、またみんなで勉強するんだから」

 

由紀「ま、また…なの…?」

 

悠里「ええ。お昼前に始めるから、遅れないようにね」

 

由紀「…へ~い………」

 

悠里「胡桃も分かったわね?」

 

胡桃「…へっ?あ、あぁ、わかったよ…」

 

悠里の問いかけに対し、胡桃の反応が微かに遅れる。何故かというと、由紀の左隣に座っている二人の少女…美紀と真冬を見ていたからだ。このキッチンで合流してからというもの、二人はいつも以上に大人しい。いや、それどころか少し不機嫌なようにも見える…。

 

 

 

真冬「………」

 

美紀「………」

 

空になった食器を見つめたまま、二人は眉一つ動かさない。するとどうした事か…特に頼まれた訳でもないのに、離れた場所にある席についていた圭一と柳の二人がスッと立ち上がり、彼女らの食器を無言のまま片付けていった。

 

 

 

悠里「あっ、そのままで大丈夫ですよ。片付けなら私が―――」

 

真冬「悠里…今日は二人にやらせて…」

 

美紀「ええ、りーさんは休んでいて下さい…」

 

 

悠里「えっと…じゃあ、そうさせてもらおうかな…?」

 

美紀と真冬…この二人から同時に向けられた目線は鋭く、ちょっとした恐怖すら感じるものだった。そんな目線を受けた悠里は苦笑いし、浮かしかけた腰を再び席へと戻す事にした。

 

 

 

柳「まぁ…そういうわけだ…。若狭君はのんびりしていてくれ」

 

悠里「は、はぁ…ありがとうございます…」

 

 

穂村「おっと、圭一さん、ついでにこの皿も下げてくれ」

 

腰かけている席へ偉そうに背中をよりかけ、穂村は空になった皿を圭一へ渡そうとする。しかし圭一はそれを受け取ったりはせず、穂村の目を睨み付けた。

 

 

圭一「ふざけるな、それはお前が使った皿だろ。何故、俺が片付けなきゃならない…。てめぇでやれ」

 

穂村「おやおや…狭山と美紀達の分は片付けてやんのに、俺のは片付けてくんないの?どうしてかなぁ?」

 

圭一「おい…なんだそのムカつくニヤケ(づら)は…?」

 

穂村「え~?俺、今ニヤケてっかなぁ~?」

 

と言っている今ですら、穂村はニヤニヤと笑っている。圭一はその表情を挑発ととらえたらしく、美紀・真冬の前から回収した食器を右手に持ったまま、穂村の方へと一歩踏み込む…。

 

 

 

「あぁ、はいはい…圭一さんは早いとこそれを流しに運んで。このニヤケ男の分はこっちで片付けておくから」

 

圭一「……ああ、頼む」

 

穂村「ニヤケ男?それって俺の事か?」

 

「他に誰がいる…。今、ここにいる男の中で不気味にニヤケてるのはアンタだけだっての」

 

呆れたように言いながら手を伸ばし、彼は穂村の使っていた食器を片付ける。こうして自分が割って入らねば、圭一は怒りを抑えられなかっただろう。それほどに穂村のニヤケ顔は挑発的であり、彼もその顔をチラッと見ただけで軽くイラッとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

柳「……さて、これで片付けは終わったな?なら、私は自分の部屋に戻らせてもらうよ。では、また明日」

 

圭一「…俺も戻る…。今日はもう寝たい…」

 

悠里「あっ、片付けありがとうございました。おやすみなさい」

 

数分が経ち、食器の片付けを終えた二人はキッチンをあとにする。二人は悠里の言葉に対して頷きを返していたが、その表情はどこか疲れているようにも見えた。

 

 

 

悠里「二人とも、どうしたのかしら…」

 

由紀「元気なかったね」

 

世話になっている人達の様子があんなだと、さすがに少し心配になる。しかし、未だキッチンに残っている穂村は疲れているどころかいつも以上に元気なようであり、あの二人とは正反対だ。

 

 

 

胡桃「……あんたはやけに上機嫌だな?」

 

穂村「んっ?ははっ、そう見えるか?」

 

胡桃「まぁ…一人でずっとニヤケてるからな……」

 

鼻歌混じりにニヤニヤ微笑む穂村を見て、胡桃は思った…。この男に恨みは無いが、なんとなく一発だけ殴っておきたい…と。

 

 

 

胡桃(この人のニヤケ顔、なんかイライラすんだよな…)

 

今日の穂村は何でこんなにも上機嫌なのだろう…。何で、美紀と真冬は不機嫌そうなのだろう…。何で、圭一と柳は疲れきった顔をしていたのだろう…。考えれば考えるほどに謎が深まり、胡桃は結局…それらを深く考えないようにした。

 

 

 

 

穂村「んじゃあ、俺も部屋に帰るかな…。お嬢さん方、また明日な~♪」

 

悠里「はい、おやすみなさい」

 

由紀「おやすみ~」

 

最後までニヤケていた穂村がキッチンから出るのを見送り、悠里達も席を立つ。もうすっかり夜だ…。このまま眠るにしろ、もう少しみんなで会話を楽しむにしろ、まずはキッチンを出て、自分達の部屋に向かわねば。みんながのんびりとした足どりでそこを出た後、悠里はキッチンを照らしていた明かりを消して廊下へと出る。

 

 

 

…バタンッ

 

 

「さて、みんなはこれからどうする?もう寝るの?」

 

胡桃「いや、あたしは少しだけ由紀とゲームでもしながら時間をつぶすつもりだ。お前も来るか?」

 

「あぁ…そうしようかな」

 

まだ眠たくないし、それも良いだろう。彼は由紀と共に胡桃の部屋へ行くことを決め、そのまま彼女の部屋の前へとたどり着く。胡桃は持っていた鍵でその部屋を開けると、ドアノブを掴んだまま悠里達に尋ねた。

 

 

 

 

胡桃「りーさん達はどうだ?少し遊んでかない?」

 

悠里「えっ…?うーん…そうね、じゃあ少しだけ♪」

 

美紀「じゃあ、私も少しだけ…。真冬も来るでしょ?」

 

真冬「ボクが来て、胡桃が迷惑じゃないなら……」

 

 

胡桃「迷惑なわけないだろ。じゃ、これで決まりだな」

 

胡桃はニッコリと微笑み、みんなを部屋の中へと招く。柳から与えられた彼女らの部屋はどれも同じような構造、広さだったが、地下から運んできた家具などのインテリアによって、それぞれがまるで違う部屋のように見えた。

 

 

 

「胡桃ちゃんの部屋、少し狭くないか?」

 

胡桃「貸してもらった部屋の広さはどれも同じだろ?」

 

「いや…僕の部屋と比べるといくらか狭いような気が…」

 

美紀「先輩の部屋、家具がほとんど無いからじゃないですか?胡桃先輩の部屋と比べて家具が無い分、スペースが広く感じるんだと思いますよ」

 

美紀にそう言われ、納得する。言われてみると、彼の部屋にはほとんど家具が無い。あるのといえば、衣類をしまっておく為のタンス…ちょっとした物を置いておく為の小さなテーブル…あとは……

 

 

 

「まぁ、ベッドくらいか……」

 

美紀「…!!!」

 

部屋にある家具を思い返して小さく呟くと、隣に立っていた美紀がビクッ!と震える。何事かと思って彼が目線を向けると、彼女は顔を真っ赤に染めてこちらを睨んでいた。

 

 

 

「……どうした?」

 

美紀「先輩っ、ちょっとこっち来て…!!」

 

「わ、わかったよ」

 

胡桃達が会話を交わす中、美紀は彼を連れてこっそり洗面所の方に入る。洗面所は扉一枚(へだて)た場所にあるため、小声で話しさえすれば室内にいる胡桃達に会話を聞かれる心配はないだろう。

 

 

 

「で、急にどうしたの?」

 

美紀「先輩がベッドとか言うから、その…昼間のことを…」

 

「……なるほど」

 

ベッド……昼間……そして、真っ赤に染まった美紀の顔を見れば、大体の察しがつく。彼は今日の昼、いつもと様子の違う美紀によってベッドへと押し倒され、そのままいくところまでいってしまいそうになったのだ。

 

 

 

美紀「あの事、他の先輩達には内緒ですからね…!」

 

「わかってる。わざわざ言いふらさないって…」

 

そもそもあれは美紀の意思ではなく、柳の作り出した薬によって起きてしまった事件だ。そんなどうしようもない事をわざわざ他の皆に言いふらす理由がない。

 

 

美紀「ならいいんですけど…」

 

美紀はホッとしたように胸を撫で下ろし、そのまま彼の顔を見つめなおす。彼女の顔はまだ、ほんのりと赤い。

 

 

美紀「先輩も…あの事ははやく忘れて下さいよ?」

 

「…努力します」

 

けど、すぐに忘れられる自信はない…。あの時、美紀に押し倒されて耳を甘噛みされた瞬間の興奮…彼女の真っ白な下着や、そこから(こぼ)れそうになっていた胸の柔らかさ…そのどれもハッキリと記憶してしまっており、すぐに忘れる事など…

 

 

 

(まぁ…もう数日くらい覚えていても構わないだろ)

 

薬のせいでおかしくなっていたとはいえ、あれほどに積極的な美紀を見れたのはかなり貴重な経験だ。これから先、もし美紀に彼氏が出来たとしたら、その男は彼女のあんな面を見ることが出来るのだろうか…。

 

 

 

(だとしたら、かなり羨ましいな)

 

 

 

 

美紀「…先輩?」

 

「んっ?あぁ…なに?」

 

美紀がどこかの男と仲良くする様を想像して羨んでいると、不意に声をかけられる。美紀は未だほんのり赤い顔を俯けたまま、彼の事をチラチラと見つめていた。

 

 

 

美紀「あの…昼間はごめんなさい…。先輩は何も悪くないのに、私、一人で機嫌悪くして…。大嫌い…なんて、酷いことを言っちゃいました…」

 

「あ~…言われたね」

 

美紀「あれは場の勢いで言っちゃっただけですから、気にしないで下さいね…。昼間の時みたく、愛してる…とまでは言えませんが、普通に…一人の先輩として、私はあなたの事が好きですよ」

 

美紀は彼の目を真っ直ぐ見つめてそう告げると、照れたように微笑む。昼間とは違い、愛を告白されたわけではないが、彼にとってこれはこれで嬉しいものだった。

 

 

 

「…ありがとう」

 

美紀「いいえ、どういたしまして…」

 

そうして互いに笑い合った後、彼は美紀と共に室内へと戻る。洗面所へと抜け出した時間は短かった為、二人がいなくなっていた事に気付いた者はいないようだ。

 

 

 

 

由紀「ねぇねぇ、何のゲームやるの?」

 

胡桃「ん~、そうだなぁ……」

 

少しの間悩ましげな表情を浮かべた後、胡桃は適当なテレビゲームをつけていく。こうしてテレビゲームで遊べる事すら、今となってはかなり凄いことだ。みんなと共にそれで遊ぶ中、胡桃はこの屋敷に自分らを招いてくれた真冬達…そして、部屋を与えてくれた柳に改めて感謝の気持ちを抱く。

 

 

 

 

 

胡桃「…そう言えばさ、柳さんって元は何してた人なんだ?」

 

ふと気になり、胡桃はゲームのコントローラーを握ったまま一緒にゲームを楽しんでいる真冬に問う。しかし…

 

 

真冬「…さぁ、ボクも知らない。何してた人なんだろうね?」

 

真冬は不思議そうに首を傾げ、そう言うだけだった。どうやら、その辺については彼女も知らないらしい。

 

 

悠里「たしか、圭一さんも知らないって言ってたわね…。でも自分が作った薬で狭山さん達を救ったり、今も胡桃の事を治そうとしてくれているわけだから…少なくともそういう、薬品関係の仕事をしてたのかしら?」

 

 

真冬「かもね…。今も役立つ薬から、役に立たない薬まで…色々な物を作っているみたいだし…」

 

美紀「ほんと…変な薬は処分しておいてほしいよ……」

 

「ははは………」

 

薬のせいであんな恥をかくのはもう二度とごめんだ。そんな思いを胸に宿す美紀が小声で呟くのを見て、彼は苦笑いすることしか出来ない…。

 

 

 

由紀「でも、自分で色々なお薬を作れるなんてすごいよね!なんか楽しそう♪」

 

悠里「由紀ちゃんも今から一生懸命に勉強すれば、いつかは柳さんみたくなれるかも知れないわよ」

 

由紀「うっ…!ち、ちがうよ?自分で好きなお薬を作れたら楽しそうだな~と思っただけで、勉強してまでああなりたいわけじゃ…」

 

わざわざ苦手な勉強を重ねてまで、薬品に関する知識を身に付けたいわけじゃない。由紀は苦い顔を浮かべながら両手を振り、それを必死に否定した。

 

 

 

胡桃「じゃ、由紀は将来どうなりたいんだ?」

 

由紀「う~ん…えへへ、聞きたい?」

 

胡桃「…ま、気にはなるかな」

 

微笑みながら告げると由紀はテヘヘと笑い、自らの髪を右手で撫でる。どうやら少しだけ照れているようだ。

 

 

胡桃「…で、何になりたいんだよ?」

 

由紀「えへへ……まだナイショっ!」

 

胡桃「はぁ…そうかよ」

 

結局、返ってきた答えはそんなものだった。胡桃は呆れたようにため息をつき、再びゲームに集中しようとするが…

 

 

 

由紀「人に聞く前にまずは自分から、だよ!っていうわけ…将来の夢は何ですかっ?」

 

胡桃「へっ?あ、あたしの夢っ…?」

 

由紀がマイクを握る真似をしながら胡桃の隣へと座りこみ、実際は何も握られていないその手を胡桃の口元へ寄せる。急に尋ねられた胡桃はゲームを一度中断し、その顔を俯けた。

 

 

 

胡桃「あたしの…夢………」

 

由紀「うん!どんなのでもいいよ~♪」

 

横を見てみれば、由紀が満面の笑みでそう告げている。彼女の笑顔を見た胡桃はそれにつられて自らも微笑み、少し照れたように目線を天井へと逸らした。

 

 

胡桃「じゃ…あ……可愛いお嫁さんになりたい…かな?」

 

由紀「お~~♪」

 

悠里「ふふっ、意外に可愛らしい夢ね」

 

 

胡桃「う…うぅっ……」

 

ニヤニヤと微笑む由紀や悠里を見て、自分の発言を後悔しかける…。ただ純粋に憧れていたからそう答えただけなのだが、やはり自分には似合わなかっただろうか…。

 

 

悠里「そんなに恥ずかしがらなくてもいいわよ。胡桃だって女の子ですもの。そういうのに憧れる気持ちはよく分かるわ」

 

胡桃「で、でもやっぱり…あたしの(がら)じゃないよな…」

 

悠里「そんなことないわ。胡桃ならきっと、可愛いお嫁さんにだってなれるわよ…。ね、美紀さんもそう思うでしょ?」

 

背後から胡桃の肩をポンと叩き、悠里はそのまま美紀へ尋ねる。話を振られた美紀は一瞬だけ間を空けたものの、すぐにニッコリと微笑んだ。

 

 

美紀「…ええ、思いますよ。胡桃先輩なら、きっとなれます」

 

胡桃「そ、そうかな…?えへへ……」

 

 

美紀「先輩もそう思いますよね?」

 

胡桃が止めていたゲームを再開するべく手を動かしたその時、美紀が彼へと尋ねる。その瞬間、胡桃は額にじわっと汗を浮かべた。由紀達に明かす分なら問題ないと柄にもなく可愛らしい夢を語ってしまったが、ここには彼もいたのだ。

 

 

 

胡桃(う、うわぁぁぁっ…!!やっちまった…!!!)

 

ドサッ!

 

 

真冬「わっ…!く、胡桃…大丈夫…?」

 

彼に恥ずかしいところを見られた…。胡桃は堪らず前のめりに倒れ、膝に顔を埋める。あんな事を、彼の前で言ってしまうなんて…。絶対笑われる…絶対バカにされる…。そう思うだけで顔が燃えるように熱くなった。しかし、彼は何やら目を大きく見開いたまま震えており……

 

 

 

「真冬…この辺の地図とかってあるかな…?」

 

真冬「えっ?うん、探せばあると思うけど…どうするの?」

 

「式場を探す…。胡桃ちゃんの夢を、今すぐ叶えるために…!」

 

拳をグッと握りしめ、興奮したように鼻息を荒げながら彼が言う。冗談なのか本気なのか…いや、八割方冗談だとは分かっているのだが、彼の言葉を聞いた胡桃の顔はみるみる真っ赤に染まっていった。

 

 

胡桃「なっ…!?なっッ…!!?」

 

「今のはヤバい…ギャップにやられたっ…!!可愛いお嫁さんって…!可愛いお嫁さんって…!!」

 

目を見開いたまま体を震わせ、彼は一人悶える。式場を探す…というのが冗談なのだとしても、胡桃の発言に興奮しているのは事実らしい。

 

 

 

真冬「…よかったね胡桃。思ったよりもはやく夢が叶いそうだよ」

 

胡桃「い、いやっ…!相手がいないだろ!?」

 

「そんなの僕がなってやるよ!!可愛いお嫁さんになった胡桃ちゃんを見れるのなら…この身を捧げる覚悟はいくらでもっ…!」

 

胡桃「ちょ、ちょっと待てっ!身を捧げる覚悟とか、そんなこと急に言われてもっ…!!」

 

 

由紀「よかったね、胡桃ちゃん!」

 

悠里「式には私達も呼んでね~♪」

 

美紀「お幸せに…」

 

なんて事を言って胡桃をからかうと、彼女はおもしろいくらいに顔を赤く染めて怒りだす。由紀達は彼女のそんな反応を見てより一層に笑い、最初は戸惑っていた真冬も、今は少しだけ笑っていた。

 

 

 

胡桃「あんまりふざけてるとマジで…マジで怒るからな!?」

 

悠里「ふふふっ、ごめんなさい。楽しくてつい…ね♡」

 

胡桃「『ね♡』じゃないっ!!」

 

胡桃は悠里の頬を指先につまみ、ムニムニとつねる。思えば、彼女が悠里にこんな事をするのはかなり珍しいことだ。

 

 

 

悠里「いた~い!」

 

胡桃「たいして力込めてない!そんなに痛くないだろ!」

 

実際、悠里も口で言っているだけで未だにニヤニヤと余裕の表情だ。ふざけあう二人を見て由紀や美紀が笑い、そのままいくらか時が過ぎた頃…彼と真冬がそっと静かに立ち上がる。

 

 

 

 

「じゃ、そろそろ寝ますかね…。胡桃ちゃんの可愛い面も見られたし、今日はいい夢が見られそうだ」

 

胡桃「うぐ…ぅぅっ…」

 

ニヤリと微笑む彼から目を逸らし、胡桃はその顔を再び赤に染めた。

 

 

 

美紀「真冬も寝るの?」

 

真冬「うん…そろそろ眠くなってきたから…」

 

美紀「そっか、じゃあお休みなさい。また明日ね」

 

真冬「…また明日」

 

美紀や由紀、そして胡桃に手を振りながら部屋をあとにする。どうやら悠里と由紀はもう少しだけ胡桃の部屋で遊んでいくようだ。

 

 

 

真冬「みんな本当に仲良しだね…」

 

「ああ、まったくだ」

 

廊下に出た直後に真冬がそう言うと、彼が何やら楽しげにニッコリ微笑む。どうやら、先程の胡桃の発言を思い返しているらしい。

 

 

 

「可愛いお嫁さんか…いいねぇ…」

 

真冬「…………」

 

胡桃の口から出た女の子らしい発言…未だ、そのギャップにかなりやられているようだ。何ともいえぬその笑顔を見た真冬が呆れ顔をしていると、彼はハッとした表情を浮かべて真冬に問う。

 

 

「そういえば、真冬には夢ってある?」

 

真冬「えっ?ボク…?」

 

「ああ、何かない?可愛いお嫁さんっていうのもありだよ」

 

真冬「いや…ボクは別に……」

 

こんな自分が"可愛いお嫁さんになりたい"なんて、それこそ柄じゃない。真冬は首を横に振って応えるが、だからと言って夢が無いのかと言われるとそうではなかった。

 

 

 

真冬「ボクは…ボク自身は将来的にどうなってもいいんだ…。けど、出来るのならあの娘たちの夢が叶うその日まで…しっかりと守ってあげたい…。だから、ボクの夢はあの娘たちが夢を叶えて、笑顔で過ごせるようになるのを見届ける事かな」

 

「…そうか」

 

夢…とは少し違うかも知れない。けれど、真冬は彼女らにそんな日が来ることを心から願う。自分のような人間を友達だと言ってくれた優しい彼女らが夢を叶える事こそが、真冬にとっての夢だ。

 

 

 

真冬「…そういうキミの夢は?」

 

「まぁ、真冬と同じかな。彼女達さえ幸せになってくれれば、それだけで十分」

 

真冬「…ふ~ん」

 

さっきまでの表情とは一変して彼が真面目な表情を見せたので、真冬は思わずニヤけてしまう…。彼は彼女のそんな表情に気付くと少し照れたように顔を逸らし、それから鼻で『ふふっ』と笑った。

 

 

 

「真冬が言うのならともかく、僕が言うには少し恥ずかしい台詞だったかもな…。みんなには内緒だよ?」

 

真冬「うん、わかってるよ…」

 

微かに照れた様子を見せた彼の背を真冬がポンと叩くと、彼はまいったようにため息をついていた。が、別に恥じるような事ではないと思った。こんな世の中で誰かの事を想えるというのは、とても素敵な事なのだから。

 

 

 

真冬「やっぱり、キミは穂村よりもずっとカッコいい男の子だよ…。ボクが保証してあげる」

 

「いや、だからあの人と比べられても大してありがたみが……はぁ、まぁいい。ありがとう」

 

真冬「ふふっ、お休みなさい」

 

ガックリ肩を落とす彼をその場に残し、真冬は自分の部屋へと向かう。ストレートに伝えるのが少し恥ずかしいから"穂村より"という言葉を付け足したが、ああまで彼女らの事を想える彼は本当にカッコいいと…真冬は心からそう思っていた。

 

 

 

 

 

 




普段は男勝りな性格である胡桃ちゃんが放った乙女な発言…彼はそれにえらく興奮したようですね(笑)まぁ、可愛いお嫁さんという夢は可愛すぎるから仕方ないです!!

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