十五話『日記』
川で遊んだあの日から、2日たった今日。彼らは予備の物資を補充する為に街を探索していた。
しばらく車で探索していると物資のありそうなスーパーを見付けたため、道路に車を停めて全員車外へ出た。
悠里「じゃあ、そっちは任せたわね。」
「はい。りーさん達も気をつけて。」
美紀「では、行きましょうか__さん。」
「はい。」
彼らが車を停めた場所は、全国チェーンの大型スーパーと個人経営の小さなスーパーが道路を挟んで向かい合っており。
彼らは同時に二つのスーパーを探索する為に悠里・胡桃・由紀のチームと彼と美紀のチームの
美紀「…にしても嫌な配置ですよね。」
美紀がこれから探索する小さなスーパーを見て言った。
美紀「このスーパー…個人経営ですよね?すぐ目の前に大型スーパーがあったら経営が大変そうですが…。」
そう言いながら二つのスーパーを交互に見る。
「確かに大変そうですね、もっとも世の中がゾンビだらけになった以上、どちらのスーパーももう終わりですけど。」
美紀「…それもそうですね。」
そんな会話をしながら二人はスーパーに入っていった。
スーパーの中は入口や窓際に僅かな外の光が射し込んでいる以外は、薄暗く不気味だった。
「暗いですね。…電気がついてないから当たり前なんですけど。」
美紀「あ…ちょっと待って下さいね。」
美紀がそう言って背中に背負ったリュックをおろして、中から懐中電灯を二つ取り出した。
美紀「はい、どうぞ。」
その一つを彼に渡す。
「どうも。」
彼はそれを受け取るとスイッチを入れ、周囲を照らして確認した。
「見たところ奴らはいないようですが…商品棚の後ろの死角とかに潜んでいるかもしれません。小さなスーパーですから慎重に立ち回ってもすぐに終わります、僕が前を歩きますから、ゆっくりいきましょう。」
美紀「分かりました。」
美紀も懐中電灯のスイッチを入れて、彼の後に続いた。
そして半分程探索するが、物資はキレイに取られた後だった。
「ダメだ…全然無い、この調子ではどうやらハズレみたいですね。」
美紀「ええ、もう誰かに取られた後だったようですね、使えそうな物は何一つ見当たりません。」
二人が落ち込み始めたその時、店内の奥から物音が聞こえた。
ガタンッ!!
美紀「!?今のは?」
「この先から聞こえましたね、行ってみましょう。」
二人が音の聞こえた方へ向かうとそこには一つの扉があった。
「従業員以外立ち入り禁止……この先から聞こえましたよね?」
彼が美紀にそう言っている傍から扉の中でまた『ガタッ…』と物音が聞こえた。
美紀「…はい、間違いありませんこの中ですね。従業員用の休憩室でしょうか?」
美紀が扉を眺めて言う。
「少し下がっていて下さい。」
彼は美紀にそう言って、扉のドアノブに手をかけた。
ガチャガチャガチャッ…
「……開かない、鍵が掛かっていますね。」
美紀「そうですか…鍵どこですかね?」
「……もしかしたら壊せるかもしれません、やってみます。」
そう言って彼は扉から距離をとった。
美紀「え?扉を壊すんですか!?」
美紀が驚きながら彼に言った。
「はい!そんな丈夫そうな扉ではないので…いけるハズ!」
彼が自身たっぷりに答える。確かにその扉はあまり頑丈そうにはみえない木製の物で、かなり年季の入っているのか所々キズが付いていた。
「ほっ!!」
彼が扉にタックルをくらわすと一発目から目に見えて扉が歪み始めた。
美紀「あ…本当にけっこういけそうですね!次で開きそうですが…気をつけて下さいね、開いた瞬間に中に奴らが…なんて事にならないように。」
「分かりました!…まぁ物音が聞こえた段階で奴らがいる可能性が高いですからね。」
そう言って彼は二発目のタックルを扉にくらわした。
ドンッ!!
大きな音と同時に扉が壊れ、その中が明らかになる。
「おっとっと!」
彼がタックルの勢いで転びそうになるのを美紀が彼の衣服の背中部分を掴んで引き戻す。
美紀「うわっ!……ほら、気を付けて下さいって!」
「すいません、思ったよりあっさりと壊れたのでびっくりしました。」
そんなやり取りをしながら、二人は壊れた扉の中へ目を向ける。
その部屋はやはり従業員用の休憩室のようで、小さな部屋にテレビや毛布、机などが置かれていた。
そして更に、ゆらゆらと部屋の中を歩く一体のゾンビがそこにはいた。
美紀「__さん!!」
「任せて下さい!」
彼がナイフを手に持ってゾンビに接近する。
ゾンビは彼に噛みつこうとするが彼はそれを落ち着いてかわしてからゾンビの頭にナイフを突き刺した。
ドサッ…
倒れたゾンビを見て、二人はそれに気付く。
美紀「あ!この人…足を縛ってますね。」
そのゾンビは短距離しか移動が出来ないように片足が頑丈な縄で傍の机と結ばれていた。
「奴らに噛まれた後にここに立て籠って、発症後もなるべく迷惑がかからないように対処したのか…。」
彼が倒れたゾンビを見下ろす。かなり皮膚が腐敗していて、顔を見ても男性という事くらいしか分からず、年齢は全く分からなかった。
美紀「__さん、見てください、これ。」
美紀がゾンビの足と縄で繋がっていた机の上を見て言った。
そこには沢山の業務用の書類とみられる物に紛れて、一つの日記が置いてあった。
美紀「…この人が書いた物でしょうか?」
美紀が日記を手に取り、ページをめくり中に目を通す。
「…なんか書いてありますか?」
美紀「…はい、やはりこれはこの人が書いた物みたいです。」
美紀が日記を手に倒れたゾンビを見る。
美紀「日付をみると…この人は三週間前に噛まれたみたいです。」
そう言って美紀はその日記の内容を彼に読み聞かせた。
『×月×日 しくじった…例の少年を探し向かう途中にゾンビ共の群れに出くわしちまった!生きて逃げ切る事は出来たけど、何ヵ所か噛まれた…噛まれたらどうなるかは分かっている これじゃ死んだも同然、自殺する勇気は無いが…せめて他人に迷惑はかけないようにこの部屋に閉じ籠もって更に足を縄で縛っておく事にした。』
『もしこの日記を読んでいる人間がいるなら、あんたは俺を殺したんだろう。…だけど悪く思う事はない、その時俺はもう俺ではないんだから。』
美紀「………。」
美紀は日記を閉じるとそれを机に戻した。
「迷惑をかけないように…か、中々出来た人間だったんですねこの人は。」
美紀「そうですね…優しい人だったんでしょう。自分を処理した人に対してもフォローをしてくれていますし。」
「…安らかに眠って下さいね。」
彼はそう言うと、近くにあった毛布をその死体に被せた。
美紀「…ところで__さん、この日記にある例の少年ってなんでしょうか?」
美紀が彼に尋ねる。
「分かりません…どこかに関連のありそうな物は無いでしょうか?」
そう言って彼は美紀とその部屋を調べた。
「仕事の書類ばかりだなぁ…。」
美紀「日記にはさっきのしか書いてないですし……。」
彼が机の引き出しを開ける。
「…あ!これみたいですね。」
彼が机の中から一枚の地図を引っ張り出す。それにはいくつかの
美紀「地図に付箋が貼ってありますね…。」
美紀が横から地図を覗きこむ。
「はい、どうやら付箋はその場所で起きた事を記しているみたいです。」
「さっきの少年は……これですね…『このアパートで少年らしき影を見かける』って書いた付箋が貼ってあります。」
彼が一つの付箋を指差して言った。
美紀「このスーパーはここですね、付箋が貼ってあります。…って事は…車ならわりとすぐに行けますね。」
美紀がスーパーを示す付箋から少年を見かけたアパートの付箋までを指でなぞって言った。
「行きますか?」
美紀「とりあえずはりーさんに相談しましょう。」
「そうですね。…じゃあもう出ましょう、物資は無いようですし。あ…これしまってもらって良いですか?」
美紀「はい、どうぞ。」
そう言って美紀は彼に背を向け、リュックを彼に近付ける。
彼は美紀のそのリュックに地図を入れた。
美紀「しまいましたね?じゃあ出ましょう。」
「はい。」
こうして二人は地図だけを手に入れ、スーパーを後にした。
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美紀「結局、役立ちそうなのはこの付箋が貼られた地図しか見付けられなかったですね。」
車内に戻り、荷物を置いて椅子に座ってから美紀が言った。
「そうですね、思ったよりもずっと早く帰ってきてしまいましたね、りーさん達もまだ戻ってませんし…少し他の付箋も見てましょうか。」
美紀「ですね。」
美紀が地図テーブルに広げると、彼も椅子に座り地図を眺める。
付箋は全部で五つ貼られていた。
先程のスーパーの位置に『スーパー』と書かれた付箋。
少し離れた所に『このアパートで少年らしき影を見かける』と書かれた付箋。
そして離れた別々の位置に二つ、どちらも『もう物資が無かった』と書かれた付箋。
そして最後、これも離れた位置に『注意!悪魔を見かけた!近付くな!』と書かれた付箋。
「……悪魔?」
彼が五つ目の付箋を見て首を
美紀「奴らの事ではないでしょうか?」
美紀が彼に言う。
「うーん…でも奴らはこの付箋が貼られた場所じゃなくてもどこでも見かけますよ?」
美紀「確かにそうですね…じゃあ群れがいたとか?」
「ん~、どうでしょうね……。」
悠里「なんの話?」
車の扉が開き、車内に入ってきた悠里が言った。
美紀「あ…お帰りなさい。……実は…」
美紀は悠里達に地図の事を話した。
悠里「…なるほど、じゃあもしかしたらこの場所に向かえばこの少年に会えるかもしれないって事ね。」
由紀「ねぇ胡桃ちゃん!少年って何歳くらいの人?」
胡桃「少年としか書いてねーから分からないよ。小さな子供だって少年っていうし、こいつだって少年の部類に入るし。」
胡桃が彼を指さして言う。
「こいつ呼ばわりは冷たいな、まったく…出会って間もないあの頃、僕を__さんって呼んでいた可愛い胡桃ちゃんは何処に行ったのか…。」
彼がため息をついて言った。
胡桃「後からお前はさん呼びしてやるようなタイプのヤツじゃないって気付いたんだよ!同い年だったし……ってかお前もあたし達…ってかあたしに対する扱いが変わってるだろ!!」
悠里「多分慣れてきたのよ、皆で過ごす事にね。…違う?」
悠里が彼に尋ねる。
すると彼はほんの少しだけ間を開け、笑顔で答えた。
「そうですね、かなり慣れてきました」
胡桃「…だったら良いけどさぁ…。で、その少年の所に行くの?」
胡桃が悠里に尋ねる。
悠里「ええ、さすがに少年一人は放っておけないでしょ?…ただ美紀さんが言ってた日記の人の言ってたとおりならこの少年をその人が見かけたのは三週間以上前…まだ無事だと良いのだけど。」
由紀「きっと大丈夫だよ、行こうりーさん!新入部員を探しに!!」
由紀が元気いっぱいに言う。
悠里「ええ、車ならそう遠くはないわね……今から向かいましょうか。」
そう言って悠里は運転席に座り、車を走らせた。
「……時に由紀ちゃん、そちらは何か物資見つけた?」
彼が目の前に座った由紀に尋ねる。
由紀「ちょっとだけ食料とあとは電池とか見付けたよ!」
胡桃「そっちは?」
由紀の隣に座った胡桃が尋ね返す。
「……美紀さん。」
彼がその問いを美紀に投げる。
美紀「……。」ペラペラ
美紀が無言で地図を手に取り、そして振る。
胡桃「…つまりその地図だけか?」
そんな美紀を見て胡桃が言う。
「……まぁ、そうですね。」
美紀「けどこの地図のおかげでこれから生存者を見付ける事が出来るかも知れないんですよ?」
胡桃「まぁそうか…ま!物資の見付からない事なんて日常茶飯事だからな。気にすんな。」
地図を美紀から受け取りながら胡桃が言った。
由紀「私も見る~!……今から行くのここ?」
胡桃が開いた地図を横から覗きこみ、一つの付箋を指さして由紀が尋ねた。
胡桃「ああ、このアパートだな。」
由紀「ふ~ん…少年君、いるといいね!」
胡桃「少年君って……、またコイツは安易な呼び名を。」
胡桃は由紀に呆れながら地図を見続けた。
胡桃「……ん?なぁ、この悪魔を見かけたってのは何?」
美紀「ああ、それですか?私達も分からないんです。」
「なんにせよ、近付くなと書いてある以上は一応近寄らないようにしようか。」
胡桃「…そだな。」
そう言って胡桃は地図をテーブルに置いた。
『悪魔を見かけた…近付くな』
その付箋は『ビット』という製菓会社の工場に貼られていた。
今回の話に出てきたチェーン展開もしている大型スーパーが目の前にある個人経営のスーパーというのは、私の近所にあるスーパーをモデルに思いつきました。
今まではライバル店など近所に無かったのに、突然すぐ目の前に巨大なライバル店が現れる…オーナーさんもさぞ驚いたでしょうね。
大型スーパーが出来てかれこれ3年程たちましたが、まだ潰れてはいないので経営状態は悪くないんでしょうね。(何の話をしてるんだろう?)
今回も読んでいただきありがとうございました。