軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回はあと少しで温泉に到着……というところで、穂村が彼を呼び止めました。
今回の話では穂村が彼を呼び止めてまで伝えたかった話の内容が明らかになりますが、まぁ大体の方は既に察しがついていると思います(苦笑)


百四十話『さくせん』

 

「…で、話ってのは?」

 

由紀達と温泉に向かう道中、穂村が言ってきた事の内容を確かめる。

辺りに木々が立ち並び、足元の悪い山道をのそのそと歩く中、穂村は前方を行く彼女達から一定の距離を開いてそっと口を開けた…。

 

 

穂村「なに、大したことじゃない…。このあと、無事温泉に辿り着いたらアイツらが湯に浸かってる間、俺は辺りの警戒をしておこうと思ってな。その仕事が一人だと少しばかりキツいんで、お前にも協力を頼みたくてね…」

 

「…辺りの警戒?」

 

穂村「こんな世の中だ…見張りでもいなきゃ一瞬も気を抜けないだろ?」

 

穂村の話を簡単に纏めるとこうなる…。

女性陣が仲良く温泉を楽しんでいる間、自分達は少し離れた所から周囲を見張って"かれら"…もしくは危険な生存者の存在を警戒し、無防備な彼女らを守ってやろう…という事だ。それ自体はとても立派な心構えだと思うし、彼女達が心から安心して湯を楽しめるように是非ともそうしてあげたいところだが……

 

 

「ええっと…言いたいことはそれだけ?」

 

穂村「ん?まぁ…そうだな。以上だ」

 

「そういう事なら手伝うけどさ、なんだ……てっきり、覗きの手伝いをしろとか言われるのかと思ってたよ」

 

穂村「おいおい、随分と失礼なヤツだな?」

 

穂村はそう言って楽しげに笑うと、肩に背負っていた大きなカバンを背負いなおす…。ずっと気になっていたが、随分と大荷物だ。

 

 

「それ、中には何が入ってる?」

 

穂村「えっ?ああ…ドローンだ。これさえあれば、辺りからやってくる脅威に対してすぐに反応出来るだろ?本体にカメラが付いてるから、空から辺り一面を見張れるんだよ」

 

「へぇ…そりゃ結構な物を……」

 

いったい、どこで手に入れた物なのだろう…。

色々と気になる点はあるが、確かにそれがあれば空高くから地上を見下ろし、広範囲を見張れる。とても便利な物だという事には間違いない。

……が、穂村の言葉に含まれていた一文がそれとなく気になる。

 

 

「………カメラ?」

 

そう、穂村の持つドローンにはカメラが付いているようだ…。

もっとも、それ自体に大した問題は無い。周囲を警戒する為に飛ばすのだから、カメラくらい付いていてもらわないと見張りの役に立たないだろう。しかし、もしかするとそのカメラは周囲の警戒をしつつもっと別のものまで撮してしまうのではないだろうか…。

 

 

穂村「…なんだよ、その目は」

 

「一つ気になるんだけど、そいつはあんたが操縦するのか?」

 

穂村「そりゃまぁ…そうだろ。お前に飛ばせるのか?」

 

「……いや、無理だけどさ」

 

女性陣が温泉に浸かる中……穂村がカメラの付いた物体を空高く飛ばす…。口では周囲の警戒の為と言っているが、もう嫌な予感しかしない。

 

 

「まさかとは思うけど、それで温泉を覗くわけじゃないよな…」

 

穂村「はぁ?いやいや!そんな事するわけねぇだろ?この神聖なドローンはあくまでも見張りの為に飛ぶんであり、アイツらを守る為に飛ぶんだ。アイツらの裸体を映し、傷付ける為じゃない」

 

そう語る穂村の表情は嘘を言っているようには見えないが、やはり怪しい気もする…。前を行く彼女らと一定の距離を保ちつつ彼が疑いの眼差しを向け続けていると、穂村は額に汗を垂らし、そっと顔を背けた…。

 

 

穂村「まぁ…なんだ……見張りの途中、"誤って"温泉の真上にドローンが飛ぶ…なんて事はあるかもな?ほら、風に流されたりして…」

 

…やはり、それが狙いだったようだ。穂村は顔を背けたまま口笛を鳴らし始めたが、不意にその顔をこちらへと向ける。

 

 

穂村「おっと!仮にそうなったとしてもわざとじゃねぇぞ?あくまでもアクシデントだ!決してわざとじゃないっ!!」

 

「……………」

 

いや、この男はわざと温泉の真上にドローンを飛ばすだろう…。

ただの決め付けと言われればそうなのだが、相手はこの穂村だ。まず間違いなく、彼女らの裸体をそのカメラに映そうとするハズだ。

 

 

穂村「…なぁ、手伝ってくれるよな?」

 

「というか、そもそも何を手伝って欲しいんだ?よく分からないけど、そいつを飛ばして周囲を見張るだけなら一人でも出来るんじゃないのか?」

 

穂村「いや、俺がおんせ………どっか適当な位置にドローンを飛ばしてモニターを見てる時、不意に感染者とか来たら困るだろ?両手はコントローラーで塞がってるし、感染者に気を取られていたら良いシーンを逃すかも知れない」

 

『おんせ……』とか『良いシーンを逃す』とか、明らかに怪しい言葉が飛ぶ。やはり、この男はそのドローンを使って温泉を盗撮する気でいるようだ…。そしてその間、隙だらけになる自分を感染者から守って欲しいと提案しているのだろう。

 

 

「う~む……覗きの共犯するのはちょっとなぁ……」

 

穂村「覗き?何の事だろうな…?」

 

あくまでもしらを切るつもりなのか、穂村は誤魔化すように辺りを見回す…。彼自身も女性陣の入浴シーンに興味が無い訳ではない……むしろ興味津々(しんしん)なくらいなのだが、穂村と覗き映像を共有するのは気が引けるし、何よりもまたここで覗きをしてそれがバレたら皆からの信頼が地に落ちる…。それだけは避けたい。

 

 

「…悪い、今回は手伝えな―――」

 

穂村「もしこの覗きがアイツらにバレたとしても、お前は"関わってなかった"事に出来るぞ?」

 

と、悪魔が静かに囁く…。

関わってなかった事に出来るとは…どういう事なのだろう。

彼は思わず聞き返す。

 

 

「どういう事だ?」

 

穂村「簡単な話だ…。このドローンは前に狭山から貰った物で、コイツの存在を知ってるのは俺と狭山だけ。万が一、コイツを使って覗きをしてることがバレたとしても狭山に疑われる容疑者は俺だけだ。もしも狭山達に覗きがバレた時、お前だけは一足先に逃げて本当に見張りをしてたフリでもすれば良い」

 

そうすれば、彼女らに捕まるのは穂村だけで済むだろう…。

彼は適当な場所に逃げ、後で彼女らに何かを聞かれても『自分はここでずっと見張りをしていた』と言えば良いのだから。しかし、そんな上手くいくだろうか…。

 

 

穂村「もちろん、俺はアイツらに捕まってもお前の事は話さない!全部一人でやったって事にする!!…ってわけで、どうだ?失敗したってお前には何のリスクも無いんだから、かなり良い話だと思うぞ?」

 

「……………」

 

こんな男と協力なんて出来ない…。

覗きなんて、もう二度としない…。

ついさっきまではそう決意していたのに、彼の意思はグラグラと揺らぐ。

 

 

「…本当に何も言わないんだな?捕まった時、絶対に僕の事を話さないと約束出来るか?」

 

穂村「ああ、男に二言(にごん)は無い…!少年、力を貸してくれ」

 

穂村はそっと右手を差し出し、握手を求める…。

この手を握ったその時、自分は悪の道に堕ちてしまう。それでも良いのだろうか…。後悔したりしないだろうか…。彼は微かな間だけ沈黙し、答えを見出だす。

 

 

「…仕方ない、今回だけはあんたに付き合ってやる」

 

差し出されていた手を強く握り、ニヤリと微笑む。

この男の計画に付き合えばノーリスクで彼女らの裸体が拝めるというのだ……これを断るなんて出来ない。出来るハズがない。

 

 

穂村「やっぱり、お前は見込みがある!よろしく頼むぜ相棒。……因みに聞きたいんだが、お前は誰の裸が見たいんだ?」

 

「えっ?あ~……そうだな…。美紀……いや、胡桃ちゃん…?いや、りーさんも見たいし、由紀ちゃんや真冬の身体も気になるな…」

 

つまり、全員の裸が見たい…。

穂村という悪魔と契約した瞬間、彼の欲望はみるみる膨れ上がる。

 

 

穂村「ふふっ、欲張りなヤツめ!!だが、男は欲張りなくらいがちょうど良い!!因みに俺は、りーさんの身体が気になるな…。服の上からでもあれだけ立派なんだ…脱いだらヤバいだろうな…」

 

今はまだ想像することしか出来ないが、あと少しすればそれを眺められる…。二人の男は隠しきれない笑みを浮かべながらも道を進み、そしてとうとうその時が来た。

 

 

悠里「えっと、ここまで来ればもうすぐそこね」

 

真冬「そう…。じゃあ穂村、あと(キミ)も……どっか適当な場所で待っててくれる?」

 

目的地である温泉は、もうすぐそこだ…。彼と穂村は女性陣に気取られぬようにそっと目配せすると、作戦通り真冬に向けて返事を返す。

 

 

「ああ、じゃ…その辺で見張りでもしてるよ」

 

穂村「俺もそうするか…。狭山達も警戒しておけよ?外は俺らが見張っておくけど、温泉の中に感染者がいる可能性だってゼロじゃないからな」

 

真冬「うん、分かってる…。えっと、出来るだけすぐに戻るから――」

 

穂村「せっかく来たんだ、のんびり浸かってこい。俺らは周りの風景を眺めつつ、一時間でも二時間でも見張りをしておいてやるからよ」

 

普段街中で過ごしている分、こういった木々の生い茂る山中の空気は美味しい…ような気がする。穂村は辺りを見回しながらわざとらしく深呼吸して笑顔を見せ、そして彼もまた由紀達へ向け小さく手を振る。

 

 

「ごゆっくり~……」

 

由紀「じゃあ、また後でね!」

 

その場に立つ二人を残し、女性陣は更に山道を進む…。

他愛ない会話を交わしながら山道を進む彼女らはこれから、先にある温泉へと入る。年頃の美少女達が、恐らくはバスタオルも水着も無しで、警備も厳しくない露天の天然温泉へと…。

 

 

 

穂村「………さて、やるぞ、少年」

 

「了解…」

 

すぐそばにそんな楽園がある以上、この二人が動かないハズが無い。

彼と穂村はそのまま山道を横へと逸れ、道無き道を進みだす…。生い茂る木々の間を素早く通り抜け、微かに開けた場所へと出る。

 

 

穂村「よし、ここらで良いだろう…。少年、温泉の位置はどっちだ?」

 

「ここからだと、ちょうどあっちの方角だな」

 

前に来た時の記憶を遡って温泉の位置を思い出し、彼はその方角を指差す。穂村はその方角をしっかり確認するとその場に腰を下ろし、持っていたカバンを開くと何やら忙しそうに手を動かしていく…。どうやら例のドローンとやらは組み立て式らしい。

 

 

穂村「少しだけ時間がかかる。その間だけ周り見といてくれ」

 

「ん?ああ、わかったよ…」

 

彼は辺りを見回して警戒をしていくが、特に異変は無い…。

気持ちいい程に晴れた空から降り注ぐ陽射しは木々の間を通り抜けて二人を照らしており、耳を澄ませば木の葉が風に揺れる音と穂村がドローンを組み立てるガチャガチャという音だけが聴こえる…。

 

 

「…この辺りは感染者が少ないな」

 

穂村「ああ、田舎の方だからか?まぁ、何にせよ安全で良いじゃないの。これだけ穏やかな場所なら、アイツらものんびりと温泉を楽しめるだろうさ…」

 

もし感染者の多い場所だったのなら温泉になんて浸かる余裕は無いし、彼等も覗きなんてしていられない。しかしこの辺りは巡ヶ丘ほど感染者はおらず、比較的安全だ。これなら彼女らもそこまで気を張る事なく、リラックスして温泉を楽しめるだろう。

 

 

穂村「感染者が来たら来たで狭山のヤツがぶっ倒すだろうし……それに胡桃だっている。アイツら結構強いから、元々見張りなんて不要だったんだよ」

 

「ん、んん……」

 

確かに、見張りなどせずとも彼女達なら平気だと思う。

万が一感染者が来ても誰かがすぐに気付くだろうし、真冬と胡桃さえいれば数体くらいまでは余裕で対処可能なハズだ。

 

 

穂村「……よし、出来た!」

 

位置について数分経った頃、穂村はそれを組み立て終えて立ち上がる。

小さなプロペラが複数あるそれは想像していたよりも一回り大きく、下部にある立派なレンズは光を反射して輝きを放っていた…。恐らく、これが例のカメラなのだろう。彼がそれを興味深そうに見つめていると、穂村が『ふふん』誇らしげにと笑みを溢す。

 

 

穂村「このドローンは以前、狭山に無理を言って用意してもらったヤツでな…。ここに付けられている高性能カメラはあらゆる物を鮮明に捉え、そのまま動画保存も可能だ!しかもこっちには小さいながらもアームが付いてて、1~2キロ程度の重さの物なら回収可能っ!!」

 

穂村の言う通りドローンの下部…そこにある高性能カメラとやらを挟むようにして、二本のアームが伸びていた。その歪な風貌はドローンというより、UFOキャッチャーのクレーンに近い。

 

 

「これを…真冬が?」

 

穂村「ああ。高いところから辺りを見回したい~とか、手に届かない場所にある物資を安全に回収したい~とか、適当な事言ったら用意してくれたよ。ふふっ、アイツもバカだよな…俺にこんなの渡すなんて、盗撮してくれって言ってるようなもんじゃねぇか」

 

この物体は真冬がどこからか手に入れた物なのか、それとも彼女の手によって一から造られた物なのか、はたまた既存の物に少し手を加えた物なのかは分からない。分からないが、カメラの付いている飛行物体を穂村に渡したのは狭山真冬の人生における最大級のミスだ。

 

 

穂村「さてさて……では、早速飛行させまして~」

 

穂村はドローンを地面へと置き、今度はその手にリモコンを持つ。

大きめのリモコンの中央にはモニターが付いており、ドローンのカメラとリンクしているのがすぐに分かった。ドローンは穂村が操作するとゆっくりと上昇し、あっという間に木々の上へと位置取る。飛び立つ際の音も思っていたより静かだ。

 

 

穂村「ふふふ……じゃあ思う存分お宝映像を撮らせてもらいまして、そのついでに誰かの下着でも盗んでくるか?せっかくアームがあるんだし」

 

「えっ?あ、ああ……」

 

あのアームはその為の物だったんだ…。

彼は思わず苦笑いするが、穂村は笑顔でリモコンを握っている。

その笑顔はまるで、初めてラジコンを操作する少年が見せるような眩しい笑顔だが、この男が飛ばしているのはただのラジコンではなくドローンという名の盗撮飛行物体だ…。

 

そんな物体が空高く舞い始めた時、女性陣はもう例の温泉へと辿り着いていた。そこは以前来た時と同様に湯が溢れており、辺りにモクモクと湯気が立つ…。近くに立っているだけで汗が出そうなくらいの熱気を感じつつ、一人…また一人と衣服を脱ぎ出す。しかし、真冬だけはその場に立ち尽くしたままピクリとも動かない…。

 

 

由紀「…真冬ちゃん、大丈夫?」

 

真冬「あ、ああ……ごめん、大丈夫だよ」

 

真冬の言葉を聞いた由紀は安心したようにニッコリ微笑むと下着から靴下まで全てを脱ぎ、それらを岩場の陰にたたみ置く。久しぶりの温泉という事ではしゃいでいるのか、由紀は幸せそうな笑みを浮かべて胡桃達と共に湯の方へと向かっていった…。

 

 

真冬「……はぁぁ」

 

胡桃達は持ってきた石鹸等を使い、身体を洗い始めている。

真冬もそこに合流すべく、大きな岩陰に隠れながら上着を脱いでシャツと短パン…下着を脱ぎ、その場にペタリと屈む。そして真っ白いシャツの皺を出来るだけ綺麗に伸ばしながらゆっくりと畳み、茶色の短パンもじっくりと畳む…。その後も緑色のブラジャー、ショーツを丁寧に畳み、全てを畳み終えた時…もう一度深いため息を放つ。

 

 

真冬「はぁぁ………やっぱり、女の子同士でも恥ずかしい…」

 

全裸のまま白いバスタオルと石鹸類だけを手にした真冬は空を見上げ、覚悟を決める。真冬は人一倍羞恥心が強く、これまで同性相手にも裸体を見せてこなかった。しかし、由紀達とは一度だけ…勇気を出して共に入浴をしている。だから今回はもう平気かと思ったが、やはり誰かに裸を見られるのは恥ずかしい…。とはいえ、彼女らと楽しい時間を共有したいのも事実なので、真冬は再び勇気を奮い立たせる。

 

 

真冬「…カナ、ボクがんばるよ」

 

今はいない友に向けて決意の言葉を放ち、真冬は立つ…。

そして楽しそうに笑い合っている少女達と彼女が合流した時、その近辺の上空では妙な飛行物体が温泉目指して真っ直ぐに移動を開始していた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やはり、穂村はどうしようもない男でした。
そして…彼もまた穂村に引けを取らないくらいどうしようもない男でした。

空から忍び寄る盗撮マシンに彼女らは気付くのか…。気付いたとして、どう対処するのか…。はたまた為す術なく、その身体を撮られてしまうのか…。次回を楽しみにしてもらえたらと思います!

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