軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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百四十九話『しごと-1-』

何時もと変わらぬ、何気ない一日…。

朝起きて、みんなと共に朝食を食べて、歯を磨いて…そのあとは勉強したり、運動したり、はたまた悠里の手伝いとして屋上の菜園を手入れしたり、真冬達と適当な会話をしたり…………今日もまた、そんな一日になると思っていた。

 

…しかし、今日は少しだけ違った。

事の始まりは朝食の時……彼や真冬、由紀達は勿論、珍しく穂村や圭一、柳と…屋敷の全員でキッチンに集まっていた際の事だ。それぞれが何気なく朝食を食べ進めていると、柳が悠里に向けてこう言った。

 

 

柳「…そう言えば、君らは元々、二つの場所を目的地にして移動していたのだろう?」

 

悠里「そうですね、“ランダルコーポレーション”か“聖イシドロス大学”…そのどちらかに向かうつもりでいました。…まぁ、色々と寄り道をしてる内に先延ばしになっちゃいましたけど…」

 

けど、その寄り道があったからこそ“彼”と出会えたし、真冬達と仲良くなる事も出来た…。だからあながち、あれらの寄り道も無駄ではなかったのかも知れない。

 

 

柳「……ふむ、では…君らに一つ、仕事を頼んでも良いか?」

 

悠里「仕事ですか?はい、構いませんよ」

 

柳には世話になってるし、多少の仕事くらいなら喜んで引き受ける。

悠里は勿論、その話を近くで聞いていた由紀達も同じ考えだ。

 

 

美紀「それで、どんな仕事を?」

 

柳「イシドロス大学の方に行って、ある程度の情報を集めて来て欲しい」

 

胡桃「えっ?大学に??いつから…?」

 

柳「可能なら、このあとすぐにでも……」

 

突然の事に戸惑う一行だが、悠里がすぐに『分かりました』と返事をする。すぐにでもという言葉には驚いたが、元々行く予定だった場所だし、断る理由も無い。彼女らは朝食を食べ終えるとすぐにキッチンを出て、自室で準備を整えようとする。当然、彼もそれに続こうとしたが……

 

 

柳「ああ、君には別の仕事を頼みたい。だから残ってくれるか?」

 

「別の仕事…?」

 

胡桃「コイツだけにか?」

 

柳「いや、彼には狭山君をつける」

 

彼は別行動という事を知り、足を止める一行…。また、真冬自身もその仕事の事は初耳だったのか、眉をピクッと動かして首を傾げていた。

 

 

真冬「柳さん……ボクの書いたレポート、ちゃんと読んだよね?」

 

柳「ああ、分かってる…。若狭君、イシドロスには数名の生存者がいる事が確認されている。こんな世界だ………もしかすると、危険な目に遭わされる可能性もある。だから彼の代わりに、穂村君を連れていけ」

 

定期的に外の偵察に出て、各地を回っている真冬の記したレポートには、聖イシドロス大学の名前もあった…。真冬曰く、あそこには数名の生存者がいるらしい。なので念の為、柳は護衛代わりに穂村を同行させる事にしたようだ。

 

 

真冬「え〜………穂村に美紀達が守れるかなぁ……」

 

穂村「はぁ?楽勝だっての!りーさん、任せてくれ。どんな野郎が襲って来ようと、あんたには指一本触れさせねぇ」

 

真冬「悠里だけじゃなく、みんなを守るんだよ…このバカ…」

 

穂村「あ〜、分かってる分かってる!!任せろって!」

 

二人のやり取りを見た悠里は苦笑いし、穂村に向け『よろしくお願いしますね』と丁寧な言葉を放つ。少し不安だが、穂村がいれば多分大丈夫なハズだ…。

 

 

由紀「じゃあ、とりあえず支度して来よっか?」

 

美紀「そうですね……」

 

由紀達がキッチンを去り、自室に向かう…。

彼女らが出て行ったのを見計らい、穂村は柳に尋ねた。

 

 

穂村「んで、具体的には何したら良いんだ?」

 

柳「大学に着いたら、まず中に入って…そこにいる生存者らと会ってくれ。で、その人物達が協力的な連中のようだったら、適当に情報集めをして欲しい。これまでどうやって生き延びてきたのか……今回の出来事について知ってる事はないか……ここ最近、身の回りでおかしな事はおきてないか………そんな感じで、適当に会話をしつつ交流してくれれば良い」

 

穂村「分かったけどさ……それ、何か役に立つの?大学にいる連中の話を聞いたところで、役に立つ情報なんか無いだろ?」

 

柳「まぁ、何も無かったら無かったで別に良いさ……。

おっと、そうだった。大学の連中に何かを聞かれても、自分達はただの生存者だと……適当に移動していたらここに辿り着いたと、そう伝えてくれ。この屋敷の事は間違っても口にしないでくれよ?」

 

穂村は無言で頷き、それを了承する…。これについては後で由紀達にもしっかり言っておく必要がありそうだ。

 

 

穂村「んで、もう一つ質問なんだけど……もし、大学の連中が協力的じゃなかったら?コッチに…っていうかアイツらに襲いかかって来たらどうすれば良い?」

 

柳「その時は……これまで通りやってくれれば良い。

彼女らが襲われたとあれば、多少の暴力も仕方無いだろう?」

 

柳は穂村から彼へと目線を移し、そう尋ねる。

その大学にいるのがどんな人間かは予想もつかないが、由紀達に危害を加えるような事があれば、遠慮する必要も無いだろう。

 

 

「ああ、そうですね…。その時は遠慮なくやってくれて良い…。みんなが無事なら、それだけで良いから」

 

穂村「了解っ。んで、いつ頃帰ってくれば良い?」

 

柳「そうだな…状況にもよるが、数日間は向こうで過ごしてくれて構わない。一応無線を持って行って、夜にそれぞれの状況を報告しておこう」

 

柳の言葉を聞き、彼は思わず『数日か……』と声を漏らす。

どんな連中がいるかも分からぬ場所に彼女らを置いておくという事への不安もあるが、これまでずっと一緒にいた彼女らと、ほんの少しだけとはいえ別行動をするとなってどこか寂しくもあった。

 

 

穂村「さ〜て、お嬢さん方の支度が終わる前に、俺もパパッと準備してくるかね」

 

それから数十分経過し、由紀達学園生活部の面々…そして穂村が支度を終え、屋敷の庭へと出る。一行はキャンピングカーで大学へ向かう事にしたらしく、中へと荷物を運び終えてから、見送りに来ていた彼や柳に向け挨拶をしていく。

 

 

悠里「じゃあ、行ってきますね」

 

柳「ああ、何かあれば遠慮なく穂村君を使ってくれ」

 

真冬「みんな、気を付けてね…。

穂村は……まぁ、そのまま帰って来なくても良いよ……」

 

真冬が何時ものように冷たい発言を吐き、穂村がムッとした表情を向ける…。その間に美紀が割り込んで二人を(なだ)めていく中、胡桃はさり気無く彼の側へと寄り、そっと顔を俯けた…。チラッとしか確認出来なかったが、ほんの少しだけ…不安げな顔をしていたように見える。

 

 

胡桃「あのさ……こんな事言ったら、笑われるかもだけど…」

 

「ん?どうした?」

 

彼が尋ねると、胡桃はそっと顔を上げる…。

こちらに向けられたその顔はやはりどこか不安そうだったが、彼女はすぐにニコッとした表情で言った。

 

 

胡桃「あ〜…やっぱり何でもない。

大丈夫だとは思うけど、お互い気を付けような。

じゃあまた、何日か後でな」

 

「ああ、また」

 

胡桃「おうっ」

 

元気に手を振り、胡桃は由紀達と共にキャンピングカーへと乗り込む。

車は悠里の運転によってゆっくりと動き出し、開かれたゲートを通って庭から出て行った…。彼や真冬達が庭からこちらを見送る中、車両の後部に座っていた胡桃は段々と遠くなっていく彼の顔を窓から見つめ……

 

胡桃(なんか、嫌な予感すんだよな……)

 

そう、心の中で呟いた…。

 

 

 

 

 

 

__________________

 

「……さて、僕らはどんな仕事を?」

 

出て行った車が見えなくなってから、彼はクルリと振り返る。そして柳らと共に屋敷の中へと向かいながら、その仕事の内容を聞いていった。

 

 

柳「君と狭山君には、学校に行ってもらおうと思う」

 

「学校?ええっと、それってどこの?」

 

柳「巡ヶ丘学院高等学校……名前くらいは知っているだろう?」

 

彼はその校名を聞き、一瞬だけ考える…。

確かにその学校の名前は知っている。

けど、どこでその名を聞いたのだろう……。

答えはすぐに出た。

 

 

「…あの娘らが通ってた学校か」

 

柳「ああ、彼女らが通い、そして暮らしていた学校だね。君と狭山君にはまた明日か明後日にでもそちらに向かってもらいたい」

 

「それは構わないけど……その学校に用があるなら、僕よりも胡桃ちゃん達の方が適任だったんじゃないかな?建物の構造とか理解してるわけだし…」

 

柳「いや、君らに頼む仕事はそこまで複雑なものでもないからね。あの学校に詳しい人間の手を借りる程ではないよ…」

 

『学校の構造なんて、そこまで入り組んだものでもないだろう?』

柳はそう言って微笑んだ後、詳しい事はまた明日にでも話すと言って歩を進める。由紀らが暮らしていたという学校……そこには今はもう誰もいないし、特に何も無いハズだが、柳はそこに何を求めているのだろう?

 

彼が疑問に思いながらもとりあえず自室へと戻った一方、柳も真冬・圭一を連れて自分の部屋へと戻っていった。

 

 

真冬「大学に向かって情報収集っていうのはまだ分かるけど、今更由紀達の学校に行く意味ってあるの…?」

 

柳の部屋に入ってまず、真冬が口を開く。

彼と同様、真冬もそれを疑問に思っていた。

 

柳「正直、大学の方よりも巡ヶ丘高校の方が優先度が高いよ。

あの学校には、私達のこれからを大きく左右するであろう物がある」

 

真冬「……まぁ、柳さんが言うならそれに従うけどさ」

 

柳「ふふっ、ありがとう…。

あの場所には感染者も多いだろうから、当日はしっかりと気を付けてくれ」

 

『何なら由紀達のように今からでも出発出来る…』

真冬はそう告げたが、柳は『出発は少し待ってくれ』と答えた。

 

 

柳「ほんの少しだけ確認したい事があるからね…。

出発はその確認が済んでからだ。

それが済み次第、こちらから声をかける。

早ければ明日、遅くても明後日には出発だ」

 

真冬「………分かったよ」

 

釈然としないが、それでも柳には従っておこう…。

真冬はその場から数歩下がり、部屋の壁に背中を預ける。

 

 

圭一「で、俺はどうする?留守番でもしてようか?」

 

柳「圭一君は…私と一緒にランダルだ」

 

圭一「ランダル……さっき悠里が言ってた場所か?」

 

柳「ああ、そこで色々と調べ物をしたいんだが、もしかすると色々と危険かも知れない…。だから、君に同行してもらう。もしもの時は私をしっかりと守ってくれよ?」

 

柳が冗談混じりに笑うと、圭一は舌打ちを鳴らしてから『分かった…』と答える。ランダルコーポレーション……圭一はその場所についての知識をほぼ持っていなかったが、とりあえず面倒そうな予感だけはしていた。

 

その後、圭一や真冬は部屋をあとにし、柳だけがそこに残る…。自室に一人でいる柳は軽いため息をついてから、誰に聞かせる訳でもなく独り言を呟いた。

 

 

柳「さて、ここからどうなるかだな…」

 




という事で、これから皆は三つのグループに分かれて行動します。
…が、本作でやっていくのは殆ど彼と真冬ちゃんのルートであり、他のグループに関してはあまり触れないかと思います…。しかし、学園生活部組が向かった先の大学ではおおよそ原作通りの事が起こっていくと思いますので、彼女らのルートが気になる方は原作をチェックして下さいませ(微笑)


では、また次回…!
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