軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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百五十一話『しごと-3-』

真冬「……さ、着いたよ」

 

屋敷を出発して少しした頃、走り続けていた車がエンジンを止める。

窓の外に視線をやって辺りを見てみると、今は使われていない車が綺麗に数台並んでいた。どうやら、ここは巡ヶ丘学院高等学校の駐車場のようだ。

 

「じゃ、手早く終わらせてきますかね」

 

ドアを開けて車を降り、そばにある校舎を見上げる…。

当然だが、外見だけ見るとただの学校だ。…が、前までここに皆が通っていたと思うと、ここに暮らしていたのだと思うと、不思議とこの校舎が特別な物に見えてくる。

 

 

「周り、注意しないとな…」

 

辺りには数体、"かれら"がいる…。どれも大人ではない、彼や真冬と同じくらいの年齢であろう者達だ。

 

真冬「制服、由紀達のと同じだね。この学校の生徒達かな」

 

「そうだろうね…。

囲まれたら面倒だし、とっとと走り抜けようか」

 

真冬「…賛成」

 

こちらの存在に気付いている者はまだほんの僅か……二人は早い内にこの場から去ろうと走り出し、駐車場から校内へと侵入する。校舎の中は明かりがついていないせいでほんの少しだけ薄暗く、足元にはガラスの破片などが散乱している箇所もあった。

 

 

「さて、柳さんは何をお探しだったのかな?」

 

真冬「ええっと……」

 

真冬は背負っていたカバンを下ろし、その中にあるメモを確認しようとする。…が、その寸前で何かを思い付いたかのようにそっと微笑むと、中のメモを確認する事なくカバンを背負い直してしまった。

 

 

真冬「…せっかくだし、のんびりしながら色々見ていこうよ。

みんなが暮らしてた学校、興味あるでしょ?

柳さんから頼まれた物はまた後で探せば良いし……」

 

そう言われた彼は苦笑しながら辺りを見回す。

由紀、悠里、胡桃、美紀……彼女らが暮らしてきたこの場所がどんな所なのか、興味が無いと言えば嘘になる。時間があるのならのんびり見ていきたいと、心のどこかでそう思っていた。

 

 

「まぁ、確かに興味はあるかな」

 

真冬「だと思った…。急ぎの仕事じゃないし、好きなだけ見ていきなよ。夜になるまでに帰れば柳さんも文句は言わないだろうし…」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

ゆっくり奥へと進み、廊下を歩く…。

今はまだ日が昇っている時間なので廊下横の窓から日が差し込み、薄暗い屋内をいくらか明るくしてくれている。しかし、夜になったらこの辺りはもう完全に真っ暗だろう。彼は所々割れてしまっている窓の外に視線を向けて校庭を眺めながら、静かに歩を進める…。

 

 

「みんなは…どの辺を部屋にしてたんだろう?」

 

真冬「本人達から聞いてないの?」

 

「ああ、この学校で生活してたとは聞いてたけど、主にどの部屋で過ごしてたとかまでは聞いてない…」

 

恐らく、毎日決まった部屋で寝たり、食事をとったりしていたハズだ。

元々は教室として使われていた空間を幾つか回っていくその道中、彼と真冬は廊下をノソノソと歩んでいた一体の感染者と出会(でくわ)す。外にいたのと同様、この学校の制服を着た女の感染者だ…。

 

 

(あの娘らと同じ制服を着た相手だと…少しやりづらいな)

 

その感染者はこちらに気付くなり両手を前に出して掴みかかってきたが、彼はそれを横に避ける。直後、彼はその感染者の肩をドンッと押して近くにあった教室の中へと突き飛ばすと、すぐさま扉を閉めて中に閉じ込めた。鍵を閉めたりした訳ではなく簡単に閉じ込めただけだが、十分な時間稼ぎになるだろう。

 

 

「さ、行こう行こう」

 

真冬「…うん」

 

教室の中に閉じ込めた感染者から逃げる様にして、足早に廊下を進んでいく。たった一体の感染者が相手ならその場で仕留める事も容易なのだが、その相手が由紀らと同じ制服を着ているというだけでどうにもやりにくい…。やはり、心のどこかでそれを由紀達と重ねてしまっているのだろうか。

 

廊下の奥、部屋の中、窓の外…様々な場所で彼女らと同じ制服を着た女子生徒の感染者を見る度、彼は言い様のない気持ちを抱いていく。

 

 

真冬「ん、これは……」

 

少し進んだところで、妙な物が二人の前に現れた。

それは、廊下の上に積み重なる様にして置かれている机の山。恐らく、感染者の進行を止める為のバリケードとして使われていたのだろう。

 

「こういうのも、みんなで作ったんだろうな」

 

真冬「…そうだね」

 

多分、これを作ったのは由紀達だ…。

バリケードの一部は既に崩れ落ちていた為、二人はそこを通って先へと進む。学校内は荒れ果てているし感染者もいるしで大変だが、今のバリケードのように、所々に由紀達がいた痕跡が残されていた。

 

じっくり、のんびりと歩を進めながら、校内を探索していく…。

そしてとうとう、彼と真冬はその部屋に辿り着いた。

 

 

「………これは…」

 

足を踏み入れた部屋、元は教室だったと思われるその場所はこれまでに見てきた所と比べるとまだあまり荒れてはいなかった…。感染者の姿も、その残骸も無い。それを確認した後に彼の目がまず捉えたのは、部屋の壁にある大きな黒板。黒板自体はこれまで回ってきた部屋にもあったが、そこに書かれていた大きな文字に彼は釘付けとなる。

 

 

【巡ヶ丘学院高校卒業式】

 

特別上手くも下手でもないその文字の横には一回り小さな文字で【卒業生】と書かれており、更にその横には四つの見慣れた名前が並んでいた…。みんなの名前だ。

 

 

「やっぱり、みんなはここにいたんだな……」

 

真冬「卒業式とかやってたんだ………ふふっ、楽しそう」

 

彼も真冬も、在学中に世界が変わったので卒業式はやっていない…。

しかし、由紀達は違った。こんな世界になってからもみんなで一生懸命生きて、生き抜いて、そして自分達で卒業式を開いたんだ。

 

 

「……………」

 

黒板の文字を眺めながら、彼は立ち尽くす…。

辛い事、悲しい事、苦しい事……色々あっただろうに、彼女らはそれを乗り越えて卒業までした。この文字を見てるだけで、何故か胸が熱くなってくる。少し上から目線な感じになってしまうが、みんなに向けて『よく頑張ったね』と声をかけたくなる…。

 

「今更だけど、あの娘達って本当に凄いよね。上手く言えないけど、あの娘達に会えて本当に良かったなって思うよ」

 

真冬「……そうだね。ボクもそう思う」

 

彼女らが特に何をした訳でもない。

だが、この黒板の文字を見てると…これまでの彼女らの言動をあれこれ思い出していくと、自分達は本当に凄い女の子達と出会えたんだなと、不思議とそう思えた。

 

 

真冬「…………さて、ボクは今の内に仕事済ませてくるよ」

 

「ああ、じゃあ僕も―――」

 

真冬「大丈夫。どうせ大した仕事じゃないだろうから、キミはここにいてのんびりしてて良いよ。すぐ終わらせてくるから…」

 

彼はもう少しこの場にいたいのではと思って、気を使ってくれたのだろう。真冬はクルリと背を向けて、一人で部屋を出て行こうとする。ここまで来て彼女一人に仕事を任せるのも悪いし、何より単独で行動させるなんて出来ない…。彼はついていこうとしたが、何を言っても真冬は微笑みを浮かべながら手を横に振り、『いいから任せて』と言うばかりだった。

 

 

真冬「ボクなら心配いらないよ。胡桃に負けないくらいには動けるし、万が一噛まれたって大丈夫だから」

 

「…そこまで言うなら任せようかな」

 

そもそも、真冬は彼等と出会う前からよく一人で外に出ていたような娘だ。今更こんな場所で少し仕事してくるくらい朝飯前なのだろう。真冬はニコッと微笑んでから彼と別れ、廊下に出て少ししてからカバンを下ろす。そしてその中にあったメモを開き、柳に任せられた仕事の内容を確認したのだが…………

 

 

真冬「え………何これ……。

こんな物が本当に必要なの…?」

 

今回の仕事はこの学校から“ある物”を取ってくる事だったが、その“ある物”の内容があまりにも予想外だった…。カバンにはそのメモの他、目的の物を持って帰る為の入れ物が複数ある。頼まれたからにはしっかりとやり遂げるが、やはり柳の考えてる事はさっぱり分からないなと、真冬はため息をついた。

 

 

その後、真冬は校内を歩き回って目的の物の回収をしていく…。

『簡単な仕事だ』と言っていた柳の言葉に嘘は無く、本当に簡単な仕事だった。…が、それを回収する度にやはり思う。『こんな物が本当に必要なのか…』と…。

 

 

真冬「……さて、とりあえずこれだけ回収すれば充分―――」

 

独り言をポツリと呟いていた途中、真冬は目を見開いて固まる…。

何か、妙な音がした………。そう遠くはない場所…恐らく、自分達が車を停めたのとほぼ同じ辺りの位置。そこに他の車がやって来たような、そんな音が聴こえたのだ。

 

真冬「何か…来た……」

 

 

…真冬が何かの気配を感じ取ったのと同刻。

彼もまた、それに気付いていた。彼は教室の窓際に立つと静かに顔を出し、下を見る…。彼のいる場所からはほんの少しだけ遠くてハッキリと確認は出来なかったものの、やはりそこに車が来ていたのだけは分かった。

 

(こんな時に、こんな場所に…他の生存者…?)

 

やって来た車は二台。

それらの車のドアが開き、中からゾロゾロと人が降りてくる。

見慣れない男が四~五人…女が一人。車のエンジン音を聴いた感染者がその場へ歩みを進め始めたのが分かったが、その連中は感染者が集まってくるのよりも早く、校内へと侵入してきた。

 

何か嫌な予感がする…。

彼は教室から廊下へと出て、真冬を探しに行く事にした。

 

 

 

 

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