軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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十八話『悠里と少年』

 

書店に立ち寄った彼等が車に戻ってから少しの距離移動し、安全そうな場所に悠里が車を停めてそこを本日の宿泊地点と決める。

 

 

 

 

 

物語はその日の夜…食事を済ませ就寝の準備を始めたところから始まる。

 

 

 

胡桃「んじゃ着替えるからさ、空彦連れて外に出ててよ。」

 

胡桃が彼に頼む。

 

 

 

「ああ、そうだね。分かった。」

 

彼はそう言って空彦に声をかける。

 

 

 

 

「あ~、空彦君。今から女性陣は皆着替えるから外に出よう。」

 

 

空彦「ん?ああ…分かったよ。」

 

彼は空彦を連れて車外に出る。

 

 

 

今回車を停めた場所は河川敷に建てられた元はサッカーグラウンドなどとして使われていたであろう広場だった。

 

 

 

空彦「夜は冷えるな~!川が近いと余計に寒く感じるよ!」

 

空彦が震えながら言った。

 

 

 

 

「…そうだね。」

 

 

空彦「あの人達、いつもどんくらいで着替え終わるの?」

 

 

 

「5分かかるかからないかくらいだよ。すぐに終わる。」

 

彼が川を眺めながら言う。

 

 

空彦「へぇ…てかさ、こんな化け物だらけの世の中なのに、たかだか着替えくらいで外に出ろって酷いと思わない?」

 

空彦が彼に同意を求める。

 

 

 

「女の人なんだから当然だろ。…それにりーさんは毎回なるべく奴らのいない場所を選んで車を停めている、少しくらい外に出ていても問題は無いし万が一奴らがいても僕なら戦える。」

 

 

空彦「あっそう。」

 

空彦が適当な返事を返す。

 

 

「………。」

 

 

(移動中に聞いた話では空彦は奴らとは極力戦わず、逃げて過ごしていたらしい。確かに奴らは動きが遅いから数体なら走って逃げる事は可能だが…空彦は一人で物資の確保に向かった事もあるそうだ。)

 

 

(そんな時に奴らの群れに出くわしたら、少し走ったくらいでは到底逃げ切れない。…ということは、空彦は今までそういった群れに出くわしてこなかったって事だ。…コイツがこの世界で生き残ってこれたのは、完全に運が良かっただけだな。)

 

 

 

 

 

胡桃「おい!もう良いぞ~!」

 

 

車の窓から胡桃が顔を出して言う。

 

 

「了解、ほら…もどるぞ。」

 

 

空彦「ああ。」

 

 

 

彼と空彦が車中に戻ると彼女達はパジャマ姿になっていた。

 

 

空彦「そう言えばあんたは着替えないの?」

 

空彦が彼に尋ねる。

 

 

「いや…あまり着替え持ってないから基本的に寝るときは上着だけ脱ぐだけだね…。空彦は?」

 

 

空彦「俺そもそも急いで来たから着替えどころか荷物一つ持ってきてないし……なんか適当な服貸してよ。」

 

空彦が彼に言う。

 

 

「言ったでしょう?着替えはほとんど持ってないし、その数少ない服も外出用ばかりだからパジャマ代わりになるような着心地の良いものは一つも無い。我慢しろ。」

 

 

空彦「あ~、…仕方ないか。…で、俺はどこで寝るの?」

 

 

「そこの椅子が空いてるからそこだね。」

 

彼がいつもの椅子に座り眠る準備をしながらもう一方にある椅子を指さす。

 

 

空彦「マジかよ…まったく…。」

 

不満そうに椅子に座る空彦。

 

 

 

胡桃「んじゃあ、おやすみ!」

 

美紀「おやすみなさい。」

 

由紀「おやすみ~!」

 

悠里「おやすみなさい。」

 

彼女達が椅子に座った二人に挨拶していき、それぞれのベッドへ向かった。

 

 

 

空彦「俺もベッドが良かったなぁ…。」

 

 

「だったらあのアパートに戻るか?送るぞ。」

 

 

空彦「そりゃ勘弁だ。」

 

 

「…だろうね。」

 

そんな会話をしながら二人も眠りにつく。

 

 

因みに彼は空彦が眠りにつくまでこっそりと見張っていた、空彦の事を今一つ信用していなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

朝になり彼らは胡桃に起こされた。

 

 

 

皆で軽い朝食を済ませた後、彼と美紀、悠里の三人で近くの川に洗い物に出ていた。

 

 

美紀「あ、__さんそのフォーク取って下さい。」

 

美紀が地面に落としてしまったフォークを指さして彼に言った。

 

 

「はい。」

 

彼はそれを拾い美紀に渡す。

 

 

美紀「ありがとうございます、…ところでりーさん、昨夜はすぐ寝れましたか?」

 

美紀が食器類を洗いながら悠里に尋ねる。

 

 

悠里「んー、いつもよりは落ち着かなかったけど…大丈夫よ。」

 

美紀と同じく、洗い物をしながら悠里が言う。

 

 

 

美紀「私は中々眠れなかったです…__さんは平気なんですが、空彦さんがいるとなんか落ち着きません。」

 

 

 

「大丈夫ですよ、僕あいつが眠るまで見張ってましたから。」

 

彼が洗い物をする二人の周囲を警戒しながら言う。

 

 

 

美紀「そうだったんですか?お疲れさまです。」

 

 

 

悠里「彼、仲間に加えたのは良いけどあまり信用されてないわね……。」

 

 

 

美紀「なんか嫌な雰囲気が漂ってるんですあの人…。ってすいません!りーさんのクラスメイトなのに。」

 

美紀が申し訳なさそうに悠里にあやまる。

 

 

悠里「いえ、いいのよ。あの人とはあまり親しくなかったし、それに………一応これも言っておいた方が良いわね……あの人は…」

 

悠里がそこまで言ったところで胡桃が話に割り込む。

 

 

胡桃「美紀ー、洗い物一つ忘れてたぞ?」

 

いくつかの食器の入ったケースを持って胡桃が言った。

 

 

 

美紀「あ、すいません忘れてました。」

 

美紀が胡桃からそれを受け取る。

 

 

 

悠里「由紀ちゃんは空彦君と一緒?」

 

悠里が胡桃に尋ねる。

 

 

 

胡桃「ああ、由紀なら問題無いだろ?あたし空彦苦手でさ…。」

 

胡桃が頭を掻きながら言う。

 

 

美紀「…私もです。」

 

美紀も小声で言う。

 

 

「えげつない程嫌われてるな、あいつ。」

 

 

彼がそう言ったあと、車の方から由紀の声が聞こえた。

 

 

由紀「キャッ!!!」

 

 

 

 

「今の!?」

 

 

悠里「由紀ちゃん!?」

 

 

美紀「戻りましょう!」

 

 

胡桃「ああ!」

 

洗っている途中の食器もそのままに、彼らは車へ走った。

 

 

 

バタン!

 

「由紀ちゃん!!」

 

彼が勢い良く車の扉を開けて車中に入り、中の由紀が無事かどうかを確認する。

 

 

 

由紀「…あ、__くん…。」

 

何かに怯えたような目をした由紀が彼を見る。

 

 

 

胡桃「おい由紀!大丈夫か!?」

 

その直後に胡桃達も車中に戻ってくる。

 

 

由紀「あの……その……。」

 

由紀の言動がはっきりしない。

 

 

 

すると車中にいた空彦が横から会話に割り込んで言った。

 

空彦「ゴキブリがいたんだよ。大きいのが、それで丈槍さんが驚いちゃって……皆そんなに慌てなくても大丈夫だよ、…ね?丈槍さん?」

 

空彦が由紀に言う。

 

 

 

由紀「あ…うん…そうゴキブリ、驚いちゃった!ごめんね?皆!」

 

由紀がぎこちない笑顔で言った。

 

 

胡桃「本当か?由紀?」

 

胡桃が由紀に尋ねる。

 

 

由紀「ほんと~だよ~。くるみちゃんは疑り深いなぁ~。」

 

 

美紀「ゴキブリなんて、この車で見かけた事ありません!なるべく清潔を保つよう心掛けてますから、由紀先輩!正直に言って下さい!」

 

美紀が少しキツい口調で言った。

 

 

由紀「え?…その…本当だよみーくん!やっぱゴキブリさんはどれだけ綺麗にしてても何処からかやって来るんだよ!」

 

それでも由紀はゴキブリを見たからだと言い張った。

 

 

悠里「__さん!ちょっと良いかしら?…胡桃!美紀さん!由紀ちゃんを頼むわね。」

 

突然悠里が彼の手を掴むと、そのまま車外へ連れ出した。

 

 

 

 

 

悠里は彼の手を引いたまま、先程洗い物をしていた場所まで連れ出し、ようやく手を離した。

 

 

「どうしました!?」

 

 

悠里「彼の…穂村さんの事で話が…、あの人はクラスメイトではあったけど実際は1ヵ月程しか一緒にいた事がないの。」

 

 

「どうしてです?」

 

 

悠里「穂村君は途中から学校には来ていない、不登校の生徒だったの。」

 

 

「…なるほど、つまり実際はあまり彼の事は知らないと。」

 

 

 

彼は悠里にそう言ったが、悠里はその言葉に対して首を横に振った。

 

 

 

悠里「いいえ逆よ。確かに一緒にいた期間は短いけれど、それでも彼の事は良く知っているわ。…彼はたったの1ヵ月で問題を二つも起こした生徒だから。」

 

 

「問題を…二つ?」

 

彼が悠里に聞き返す。

 

 

 

悠里「ええ、まずは一つ目……ある日彼はクラスメイトの男子と会話中に口論になってクラスで大喧嘩したの。すぐに先生が止めてくれたから良かったけれど…その喧嘩も始めたのは彼からだし、内容もそこまで怒る程の物では無かった…つまり、彼は少し普通の人よりも短気みたいなの。」

 

 

 

「…なるほど。」

 

 

 

悠里「それで…二つ目なんだけど、これがかなり問題でその…彼、クラスの女子にセクハラ紛いな行動を何度か取っているの。」

 

 

「本当ですか?」

 

 

 

悠里「ええ、私の友達だった子もあの人に何度か体を触られた事があるって…かなり悩んでいたの、私がその事を先生に言おうとしたら仕返しが怖いから別に良いって言われてしまったけれどね。」

 

 

「りーさんは大丈夫だったんですか?」

 

彼は空彦と同じクラスだった悠里が心配になり尋ねた。

 

 

悠里「大丈夫よ、彼がセクハラした生徒には共通点があって…皆彼によく話しかけてあげていたの。…私は彼が苦手で避けていたから、標的から外れていたみたいね。」

 

 

「つまり女性に話しかけられるとその人が自分に好意を抱いていると勘違いしてセクハラに及ぶって事でしょうかね?」

 

 

悠里「多分そうだと思う……それでなんだけど、私の言いたい事分かる?」

 

悠里が彼に言う。

 

 

 

「言いたい事?……あ!……由紀ちゃんですか。」

 

彼は思い付いたようにそう言った。

 

 

悠里「そう、皆が彼との距離を置くなか、由紀ちゃんだけは彼に普通に話しかけていたわ。由紀ちゃんはそういう性格だから。」

 

 

「さっきの由紀ちゃんの様子………まさかアイツ!」

 

彼は先程の由紀の様子がおかしかった理由を今の悠里の情報から考察して、一つの結論を出した。

 

 

 

悠里「もしかするとそうかもしれない、…それに私のその友達ね、彼に脅されていたの、誰かに話したらただじゃおかないって。…後日聞いた話では、彼はセクハラした女子全員をそうやって脅していたみたい。」

 

 

悠里「でも結局一人の生徒が先生にその事を話したわ。…彼はその時呼び出しを受けて厳重注意された、二度とこんな事しないようにと……彼は周りの視線に耐えられなくなったのかその日から学校にはこなかった。」

 

 

悠里「…でね、彼なんだけど学校に来なくなる数日前に、一人の生徒に異様に執着し始めたの。」

 

悠里の表情が曇っていく。

 

 

「その生徒って…。」

 

 

 

由紀「ええ…由紀ちゃんよ。」

 

 

「!!」

 

彼がその言葉に驚く。

 

 

「由紀ちゃんと空彦はクラスは違ったんですよね!?」

 

 

悠里「ええ、クラスは違ったわ。ただ由紀ちゃんて幼くて可愛らしい見た目だから同学年の男子のファンが何人かいたみたいなの。」

 

 

 

悠里の言葉を聞いて、昨日空彦が由紀を見て言った発言がよみがえる。

 

『丈槍さんちょっとした有名人だったから、一方的に知ってたんだ。』

 

 

 

「有名人…そういう事でしたか。」

 

 

悠里「そういう事。ただ有名なのは男子生徒の間だけ…だから胡桃は知らなかったのね。」

 

 

 

「そうか……ん?男子生徒の間だけならりーさんはどこで由紀ちゃんの話を?」

 

疑問に思った彼が悠里に尋ねる。

 

 

 

悠里「さっき話した私の友達から聞いたの、穂村君が他のクラスの女子に目をつけたみたいって。」

 

 

「そうでしたか…。」

 

 

悠里「彼は学校に来なくなるまでの数日間、休み時間になると教室を抜け出して由紀ちゃんを見に行ってたの。…彼が学校に来なくなって、私の友達は喜んだし私もどこかホッとしていたの、これであの子も…由紀ちゃんも安心だと思って。」

 

 

 

悠里「それから世界がこんなふうになって、私は由紀ちゃんと知り合い…そして生き延びる事が出来た。…なのになんの運命か知らないけどそこに彼も加わってしまった。」

 

 

 

悠里「昨日__さんが助けた生存者が穂村君だと気付いた時、ハッキリ言って鳥肌が立った。…私は穂村君が私や由紀ちゃんの事を忘れているように祈ったわ。けれど彼は覚えていた…由紀ちゃんに対する反応を見てまだ彼が由紀ちゃんに執着している事も分かった…。」

 

 

 

「すいません…余計な事をしてしまいましたね。」

 

空彦を助けた事を後悔する彼。

 

 

 

悠里「いいえ、助けに行く事は私も賛成したんだから気にしないで?あなたや美紀さんは……というか私以外は彼の事は知らなかったんだし。」

 

悠里が彼に言う。

 

 

 

悠里「でね……実は私は彼をすぐに降ろそうと思っていたの、けれど由紀ちゃんが彼を誘ってしまった。……それもそうよね、由紀ちゃんは優しい子だし、それに穂村君が自分をどんな目で見ているかって事にあの子は気付いている訳がないもの。」

 

 

悠里「それで私もいきなり追い返すのはかわいそうだし、数日間様子をみようと思ったの。もしかしたら彼も前程酷い人間ではなくなっているかも知れないし。」

 

 

悠里「……けれどさっきの由紀ちゃんの反応は確実に穂村君に何かされている…一緒に暮らしてたった1日で由紀ちゃんを!………もう許せない!」

 

悠里の表情が次第に怒りに染まっていく。

 

 

「僕も許せません…どうしますか?」

 

 

悠里「まずは由紀ちゃんに何をしたのか聞き出すわ!__さんを呼び出したのはそれを手伝ってもらいたかったからなんだけど、良いかしら?」

 

 

「もちろんです。」

 

彼は即答する。

 

 

悠里「ありがとう!私と__さんと穂村君の3人だけで話したいから、その間胡桃達には由紀ちゃんを見ていてもらいましょう。」

 

 

「はい、じゃあ戻ってあの変質者を呼び出しますか?」

 

 

悠里「そうね、さっき話した通り彼は短気だからもしかすると話し合いだけじゃ済まないかもしれないけど…__さん平気?」

 

悠里が彼に尋ねる。

 

 

「問題ありません。今まで何度か生存者と戦ってきましたから…真っ向勝負で今更あの程度のヤツに遅れはとりません。」

 

彼が自信たっぷりに答える。

 

 

悠里「頼もしいわね。…じゃあ戻りましょう。」

 

 

「ええ!」

 

 

 

 

 

話し合いを終えた二人は空彦を呼び出す為に車へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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