軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

188 / 323
八月七日は胡桃ちゃんの誕生日なので、それに関連したお話を書きました!!誕生日回ですが一応、本編と繋がったお話となっています!!!


百六十六話『たんじょうび』

よく晴れたある日の事、彼は美紀、悠里、真冬、穂村と共に外へと出ていた。キャンピングカーに揺られながら街の方へ向かい、まだ調べてなくて何か良い物資がありそうは建物を見つけては車を降り、中を調べていく…。小さなコンビニから大きめのスーパーマーケットまで、色んな建物を調べて回った。中には当然、"かれら"のいる建物もあったが、"かれら"は相変わらず動きは遅い上に鈍感なので、大きな音を立てたり群れに出会さなければどうという事は無い…。それに万が一争いを避けられなくなるような場面になっても、余程の数を同時に相手にしない限りは楽に仕留められるくらい、彼や穂村達は感染者の相手に慣れてきていた。

 

 

悠里「結構遠くまで来ちゃったし、そろそろ戻りましょうか?」

 

美紀「そうですね。正直な話あまり期待してませんでしたが、予想していたよりも多めに物資を確保出来ましたし、もう充分だと思います」

 

ずっと屋敷にいても身体が鈍ってしまう……そう思って出て来ただけだったが、入ってみた建物の幾つかは未だ殆ど手付かずだった為、保存食や医療品等、思っていた以上に色々と確保出来た。美紀の言うとおり、これだけあればもう充分だ。

 

 

穂村「途中入ったあのスーパー、俺が見つけたんだからな?マジで感謝しろよ?」

 

真冬「ああもううるさい…。途中、そのスーパーで缶詰落として感染者引き寄せてたバカはどのの誰だったっけ………」

 

穂村「ちょうど帰るところだったんだから良いだろっ!!少し油断しただけだって!それにりーさんと美紀の事はちゃ〜んと守ったしよ!!」

 

真冬「二人は穂村に守られるまでもなく、自分らでちゃんと安全な所を進んでた…。どっかのバカと違ってしっかり気を付けてたから、缶詰を落としたりもしてない…。それに穂村なんかいなくたって、二人の事は彼が守ってた……」

 

穂村「二人の事は……ねぇ。あれれ、狭山先生もりーさん達と同じ女の子なのに、アイツに守られてないんですか〜?ま、そうだよな。お前だって、狭山みたいにツンツンしてるペッタン娘なんて守る気にならないよなぁ?」

 

二人だけで口喧嘩してると思ったら、急にこちらを巻き込みに来た…。会話を振られた彼はすぐそばに座る真冬の方をジッと見つめ、冷や汗を流す。ツンツンしてるとか、ペッタン娘とか、はたまた守られてないとか言われた事を気にしてるのか、真冬の目がほんの少しだけ潤んでいたから…

 

 

真冬「いざって時は……ボクの事も守ってくれるよね……?」

 

「そりゃまぁ…勿論……」

 

美紀や悠里と比べて争い事には慣れているようだが、真冬だって普通の女の子だ…。危ない時が来ればちゃんと守るし、見捨てる気なんて無い。

 

真冬「ほら、彼は優しいからこう言ってくれる…。世の中の女の子はこういう男の子の事を好きになるけど、穂村みたいにイジワルでどうしようもない男は誰も好きにならない…。かわいそうな穂村……一生独り身……」

 

穂村「なっっ!!?一生独り身なんて……そんな事は無い…はず……」

 

真冬「いや、間違いなく一生独り身…。ただでさえ人間が減ったこの世界で、わざわざ穂村を好きになるような物好きはいない……」

 

穂村「い、いや…!!俺にはりーさんがいるし………」

 

震え声で言う穂村だが、その悠里は車を運転するのに忙しい……といった感じで何の返答もない。穂村の声は聞こえてる筈だが、悠里はハンドルを切りながら苦笑するだけだった………。

 

と、そんな感じで穂村と真冬が口喧嘩する中、一行を乗せたキャンピングカーは無事に屋敷へと戻る。屋敷の庭に車を停め、屋敷内へと入った悠里らは手に入れた物資の保管を穂村に任せるとそのまま談話室へ足を踏み入れたが、そんな彼女らを元気いっぱいに由紀が出迎えた。

 

 

由紀「おっかえり〜〜!!どうだった?怪我とかしてない?」

 

悠里「ええ大丈夫。由紀ちゃんもしっかりお留守番出来てた?」

 

由紀「うんっ!!胡桃ちゃんと二人で遊びながら待ってたよ〜」

 

部屋の中には由紀だけでなく胡桃もいて、彼女の座る椅子の前にある大きなテーブルにはボードゲームやらトランプやらが転がっている。これらを使って、由紀と二人で遊んでいたのだろう。

 

 

胡桃「りーさんとか結構久々に外行っただろ?だからちょっと心配だったけど、無事だったなら良かったよ」

 

悠里「まぁ、彼や穂村さんもいたからね。心配しなくて大丈夫よ」

 

胡桃「ったく、あたしもついてく〜って言ったのに…」

 

悠里「それはダメ。今日は胡桃が主役の日なんだから、無茶な事はさせられないわ。今日一日くらい、のんびりまったりと過ごしてて」

 

胡桃「今日一日くらいっつーか、最近はわりと毎日まったりしてるけどな」

 

その場で伸びをしながらそう言って、胡桃は椅子に腰掛ける彼の方を見る。そして真横に立ってからニヤニヤと笑い、右手のひらをスッと差し出した。

 

 

「………えっと、握手か何かして欲しいの?」

 

胡桃「違う違う。ほら、分かってるだろ?」

 

ふふんと鼻を鳴らし、また胡桃は笑う…。

つい先程、悠里が『今日は胡桃が主役』と言ったのを何気なく聞いてもしやとは思っていたが、胡桃のこの態度を見るに間違いない…。今日は胡桃の誕生日……そして恐らく、彼女は何かプレゼントは無いのか、と催促している。

 

(マズい……今日だったのか………)

 

胡桃の誕生日自体は前に聞いて覚えていた。…が、それを聞いたのは結構前の事だし、そもそも世界がこんなになってからは日付けの感覚が殆ど無い。確かに今日は悠里だけでなく美紀も由紀も何だかお祝いムードだったので変だなとは思っていたが、まさか胡桃の誕生日だったとは……。というか、悠里達も分かっていたのなら事前に教えてくれれば良かったのに…。彼はそんな事を思いながら胡桃から視線を逸らし、冷や汗を浮かべた。

 

 

胡桃「まさかとは思うけど、彼女の誕生日忘れてた〜とか言わないよな?あたし、この日の事を何日も前からずっとず〜っと楽しみにしてたんだけどな〜〜」

 

「……………………」

 

悠里達には聞こえないよう、胡桃は彼の耳もとで囁く…。

胡桃はこの日の事を心待ちにしていた……だが、彼は今日が胡桃の誕生日とは知らなかったため、プレゼントなんて用意していない。そもそも、胡桃が何を欲しいのかが分からない…。いや、彼女が何を欲していようと、どのみち何も用意してないのだからマズい…。これは、本当にマズい…。彼の額から溢れ出した冷や汗は額から頬へと伝い、やがて顎先からポタリと溢れる。

 

 

胡桃「……っ、あははっ!!冗談冗談っ!!!今日があたしの誕生日だって忘れてたんだろ?」

 

差し出していた右手で彼の肩をバシバシと叩き、胡桃は笑う。まさにその通り…今日が彼女の誕生日である事はすっかり忘れていたため、彼は変わらず気まずそうな表情をする。

 

「ほんと、ごめん………」

 

胡桃「ん?いやいや、本当に冗談だから気にすんなって!なんて言ったって、あたし自身もつい昨日、りーさんに言われて気付いたくらいだからな」

 

「……え、マジ?」

 

胡桃「うん、マジ。あたし、そもそも日付けの感覚無くしてたから今日が何日かも分かってなかったし……」

 

美紀「胡桃先輩、明日誕生日じゃないの?ってりーさんに言われて凄くびっくりしてましたもんね」

 

胡桃「あはは……いや、言われなかったら確実に気付かなかったわ。危ない危ない。自分でも知らぬ間に歳をとるところだった」

 

悠里に指摘された時の事を思い出してるのか、胡桃も冷や汗を浮かべて苦笑している。どうやら、今の話は全て本当らしい。なら彼女の言うように、気にする必要は無いのかも知れない。その代わり、今日これから、しっかりと祝ってあげよう…。

 

 

「急にプレゼントとか言われて焦ったけど、とりあえず…誕生日おめでとう」

 

胡桃「ん、んん……ありがと」

 

胡桃はほんのり頬を赤くして、照れたように笑う…。

この日は夕食も気持ち程度ながら豪華にして、皆で胡桃の誕生日を祝った。夕食の後も彼と胡桃、悠里と由紀、美紀と真冬とで集まってゲームや雑談をして盛り上がり、そして就寝の時間…………各自自分の部屋へと戻りベッドに潜ったのだが、胡桃は自分の部屋へは戻らず、彼の部屋へとやって来ていた。

 

 

「どうした?寝れない?」

 

胡桃「いや、その………えっと………」

 

黒のタンクトップと学校の体操着の短パン、その上にジャージを羽織った状態で胡桃はやって来た…。寝る準備は出来てる様だが、わざわざ部屋にやって来たのをみるにまだ眠たくないのだろうか…。眠たくなるまで話に付き合って欲しいとか、そんな事を言いに来たのだろうか…。

 

 

胡桃「今日はさ……一緒に寝ても…………良いかな……」

 

「……え?」

 

後半の声は小さくて、上手く聞き取れなかった…。いや、彼はその言葉をちゃんと聞いていたが、信じられなくて聞き返した。しかし胡桃は顔を俯けたまま、頬を真っ赤にしてまた同じ事を言う。

 

 

胡桃「だから、もし迷惑じゃなければ一緒に寝たいんだけど…だめ…?」

 

間違いない。胡桃は今、『一緒に寝たい』と言った…。

あまりに突然の事だったので彼はどう反応して良いのか分からず固まってしまうが、すぐに正気を取り戻してコクリと頷く。

 

「全然迷惑じゃない!どうぞどうぞ……!」

 

部屋のベッドは大きめなので、二人でも全然寝れる。彼は胡桃の為にスペースを空けると余分にあった枕を置き、胡桃を招く。胡桃は少しだけ申し訳なさそうにちょこっと頭を下げてからベッドに乗ったが、直後、隣に寝そべろうとした彼を強く見つめて言い放つ。

 

胡桃「一応言っておくけど、普通に寝るだけだからな?それ以上の事は何もしないぞ」

 

「ん……わ、わかった。普通に寝るだけ…ね」

 

胡桃「そう、ふつ〜に寝るだけ」

 

釘を刺すように言ってからリボンを解き、髪を下ろす。それはいつも寝る前にしてる何気ない動作だったが、同じベッドに寝そべる彼はすぐ真横からそれを見て、ほんの少しドキッとした…。髪を下ろした胡桃は何回か見た事があるが、その姿をこれだけ間近で見るとやけに女の子らしく見えてしまい、就寝前だというのに胸が高鳴る。

 

 

胡桃「ヘンなこと考えてないよな?」

 

「………………大丈夫!!」

 

胡桃「んん〜…何か変な間があるんだよなぁ…」

 

ほんの少しだけ身の危険を感じたが、彼の言葉を信じて胡桃はベッドに潜る。彼もそれに続くようにしてベッドに潜り、部屋の明かりを消した。が、部屋が真っ暗になってからも二人は目を開けており、その目がだんだんと暗闇に慣れてきた頃、彼は天井を見上げながら呟く。

 

 

「なんで急に一緒に寝ようとか言い出したの?」

 

胡桃「ん…何ていうかさ、せっかくの誕生日だし、思い出作りとして……みたいな感じ。お前と付き合う事になってもうそこそこ経つけど、まだ恋人らしい事は何もさせてあげられてないし、このくらいなら大丈夫かなって……」

 

「……なるほど」

 

このくらい…とは言うが、好きな人と一つのベッドで眠るというのは想像以上にドキドキしてしまう。彼も胡桃も、ほんの少し前までは普通に眠気があったのだが、今の二人は揃いも揃って目が覚めきっていた。愛する人と一緒に寝てるという事実を妙に意識してしまい、どんどん目が覚めていく…。

 

 

「恋人らしい事と言えばさ、幾つか困った事があって………」

 

胡桃「ん、何…?」

 

「こんな世界だと、デートすらまともに出来ないなって…。本当なら胡桃ちゃんと一緒に遊園地に行ったり、水族館に行ったり、映画館に行ったりするようなデートをしたかったんだけど、難しいよなぁ」

 

もし世界が平和なままなら、普通のカップルらしいデートもいっぱい出来ただろう…。だが、この世界ではそれすら出来ない。まともな人もいなくてアトラクションの動かない遊園地に行ったり、廃墟同然の水族館に行ったり、映画上映の無い映画館に行っても仕方が無い…。第一、どこに行ってもきっと"かれら"がいる。そんな状況でデートなんて出来っこない。

 

デートらしいデートが出来ない…。胡桃に人並みの幸せすら与えられない事が残念で、彼は悩んでいた。こんな世の中で付き合っていても、彼女を楽しませたり幸せにしてあげる自信が無いと思い始めていたくらいだが、暗いトーンで話す彼とは違い胡桃はいつも通りのトーンで、しれっと返事をする。

 

 

胡桃「なんだ、そんな事……別に気にしなくて良いって」

 

「……残念だなぁとか思わない?」

 

胡桃「そりゃまぁ…少しは思うよ。あたしだって普通に遊園地デートとかしたかったなぁって思うけど、無理なもんは仕方無い」

 

彼と普通の世界で出会い、普通にデートをして楽しむ想像をした事だってある…。けど、無いものねだりは出来ない。だから胡桃は今、目の前にある幸せだけをしっかりと意識して、静かに微笑む。

 

 

胡桃「遊園地デートなんて出来なくても良いよ…。ただ、すぐそばにお前がいてくれれば良い。それだけで十分に幸せだから…」

 

恥ずかしい台詞になってしまったが、キチンと伝える…。

暗闇の中、横に寝そべる彼が驚いた様な表情でこちらを見ているという事が何となく分かってしまった胡桃は顔を背け、頬を赤くした。

 

「……そう言ってもらえると嬉しいな。よし!じゃあまともなデートが出来ないなりに精一杯、胡桃ちゃんを幸せにするよ。その為にもまずはまた何かプレゼントを用意したいところだけど、欲しいものとかある?」

 

何かあるようなら外に行った際、それを見つけられる様に意識しよう…。彼はそう思って尋ねたが、その問いを聞いた胡桃は顔を背けたまま口元までシーツを引っ張り、小声で答える。

 

 

胡桃「特に無いけど、強いて言うなら……来年も元気なままあたしのそばにいて、お誕生日おめでとうって言って欲しい…」

 

「…そんな事で良いの?」

 

胡桃「うん、そんな事で良い…。だからまぁ、お互いまたもう一年、何事もなく元気に過ごしてこうな」

 

「……分かった。また来年もおめでとうって言うよ」

 

彼はそう言いながらベッドの内で手を動かし、胡桃の手を握る。手が触れ合った瞬間、胡桃はまた恥ずかしげにビクッと震えたがすぐに自分からも手を握り返し、二人はそのまま静かに眠っていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





胡桃ちゃん、誕生日おめでとう!!!!!!
また来年もお祝いしたいです!!

と、今年もせっかくなのでお祝いイラスト描きました!
来年はもっと上手くなりたい〜!!!!



【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。