「空彦、ちょっと来てくれ」
車に戻って来た彼の第一声がそれだった。
空彦「なんで?」
車内で一人だけ離れた場所にいた(というよりは胡桃達が離れたらしい)空彦が機嫌の悪そうな顔で彼に言う。
「…いいから、とりあえず付いて来い」
彼がそう言うと空彦は渋々ながらも車から降りた、車外に出た彼と空彦を待っていたのは悠里だった。
悠里「ありがとう__さん。…とりあえず少し移動しましょ?」
悠里は彼に空彦を連れて来た事に対して礼を言うと一瞬だけ空彦を睨み、車から離れる事を提案した。
空彦「若狭さんまで何?ここじゃダメなの?歩くのメンドクサ…」
空彦がわざとらしくダルそうな顔をしてそこまで言ったところで、悠里がさっきよりもキツく空彦を睨む。この男の内面を知っているからか、空彦に対する悠里の当たりはかなりキツい
悠里「いいから…………黙ってついてきて」
空彦「……わ、分かったよ。」
こんな悠里を見たのが始めてなのか、空彦が戸惑ったような表情を見せる。だが悠里のそれを見たのは空彦だけでなく彼も同じ事で、微かに恐怖を感じていた。
(怖いな……あれが胡桃ちゃんの言っていた怒ってる時のりーさんか、さすがの空彦もこれには大人しく従ったな。まあ無理もないか……僕もあれには逆らえない。)
悠里と彼は空彦を連れて、車から100mほど離れたところにある小さな公園に移動した。見たところ辺りに"かれら"の姿はないし、話し合うには良い場所だ。
悠里「…ここで良いわね」
空彦「…それで、なんの用?」
悠里「少しだけ穂村君に聞きたい事があるの」
空彦「…聞きたい事?何?」
今度は落ち着いた様子で言う悠里に対し、話す事など何もないと言いたげな顔を見せる空彦…。悠里はそんな態度に腹がたったのか、またしてもキツい目付きをして空彦を睨んだ。
悠里「あなた…さっき由紀ちゃんに何をしたの?」
空彦「何って…丈槍さんが自分で言ってたじゃん!ゴキブリがいたんだよ!」
悠里「私は短い間ではあったけど、あなたと同じクラスで過ごしていたのよ?あなたがどういう人間かっていうのはよく分かっているの…。下らない嘘は止めてくれる?」
空彦「嘘って何?あの時丈槍さんが自分からゴキブリを見たって言ってたじゃん!俺じゃなくてあの人に聞けよ!!」
悠里の言葉に引くどころか、逆に声を張り上げる空彦。それを見た彼は冷静な様子で空彦の発言を訂正し、少しずつ追い詰めていった。
「正確には由紀ちゃんが自分からゴキブリを見たと言ったんじゃない。由紀ちゃんが僕達の問いかけに口ごもっていた時にお前が横から割り込んでそう言ったんだ」
空彦「はぁ?…そうだったか?」
言われて少し焦ったのか、空彦がほんの少し大人しくなる…。
「ああそうだ、それにあの時の由紀ちゃんの表情はただゴキブリを見たとかそんな感じの怯えかたじゃなかった」
空彦「何それ?お前あの人と別の高校だったんだろ?そんなお前にあの人の表情がどうたらとか分かんの?」
(…なるほど、どうやら自分が一番由紀ちゃんの事を見ていたつもりなのに、よそ者の僕に知った顔されたのが気に入らないようだね。……なら)
空彦の表情や声の感じからその気持ちを感じ取る。確かに彼はまだ由紀との付き合いは長くないが、彼も彼で空彦のような男に由紀の事を知った顔をされるのは少々腹が立つ。
「少なくともお前よりは良く知っているよ。この数週間ずっと一緒に暮らしてたんだから、大体…お前はクラス違ったんでしょ?なら同じ高校だろうと大して由紀ちゃんの事知らないでしょ…転校生だったみたいだし」
腹が立つので、少し挑発するかのようにして言葉を放ってやった。
すると空彦はそれに見事に引っ掛かり自らストーカーじみた発言を彼と悠里の前で告げる。
空彦「ふざけるなよ!俺は誰よりもあの人を見てきた!俺が誰よりも丈槍さんの事を分かっているに決まっている…!ぽっと出のよそ者
悠里「いいえ、あなたは由紀ちゃんの事を何一つ知らないわ。私達はおろか、あなたの言うところよそ者の__さんにすら劣る程にね。」
空彦に彼を悪く言われたのが
空彦「俺がこんなよそ者よりも丈槍さんの事を知らないと?!」
悠里「ええ…なんなら由紀ちゃんについて知っている事を言ってみなさい?…由紀ちゃんの表面だけを遠くから一人で覗いていたあなたに分かっている事があるわけもないと思うけど」
空彦「…な!…………。」
あまりにストレートな言葉を放つ悠里に驚いたのか、はたまた本当に由紀の表面しか見ていなかったのか…空彦は黙りこんでしまう。悠里はそんな空彦をキッと睨み付け、追いつめるようにして言った。
悠里「ほら、…あなたは由紀ちゃんの事を何一つ知らないわ。」
空彦「コイツだって!…コイツだって何も知らないさ!」
逃げ場を無くした空彦が彼を指差す。そんな空彦を見て、悠里は言ってやれと言わんばかりに彼を見つめた。由紀との付き合いはそこまで長くないが、それでも彼女の良いところは知っている…。彼は自信ありげな表情を浮かべ、それを語った。
「あの人は優しい人だ。どんな人に対してもね。だから僕達が苦手なお前と距離をあけている中、由紀ちゃんだけはお前に普通に接していたんだ。あとは…ほのぼのしているようで以外と強い部分もある。本人はあまり自覚してないけど…彼女がいてくれるだけでみんなが笑顔になれるんだ…」
「それと、ダリオマンが好きとか言ってたっけ……。とりあえずはこんなもんでしょうか?」
悠里「
にっこりと微笑んで彼に向けて礼を言う悠里。
やはり、彼と空彦とでは比べ物にならないと悠里は確信した。
悠里「…分かったかしら?あなたは由紀ちゃんの事を何も知らない」
空彦「……ちっ!!分かったよ!」
あからさまに不機嫌そうな顔の空彦…。
あとはこの男があの時、由紀に何をしたのか聞き出すだけだった。
「…で。お前は由紀ちゃんに何をしたんだ?」
空彦「…少し手に触っただけだよ!」
空彦はそう答えたが、まだ信じられない…。
悠里はその目をじっと見つめ、改めて尋ねた。
悠里「…本当に?」
空彦「本当だよ!!」
悠里「………そう」
「りーさん、もう良いんですか?」
悠里があっさりとした態度を見せ、その場をあとにしようとする。彼はまだ空彦の事を問い詰めた方が良いと感じていたので、悠里を引き止めるようにして声をかけた。
悠里「あとは由紀ちゃんにも話を聞いて終わりにするわ。………それから…」
ゆっくりと歩き出した悠里だが彼女はそっと振り向き…空彦を睨む。直後、彼女が告げた言葉に空彦は驚愕した。
悠里「穂村くんはもう、あの車から降りて」
空彦「な!?ふざけるなよ!!ちょっと手を触っただけで追い出されるのかよ!」
悠里「ちょっと?…由紀ちゃんにあんな顔させてちょっとですって?」
降りろと言われて怒声を飛ばす空彦だが、悠里も悠里で由紀の事を少しでも傷付けた空彦に対してかなり腹を立てていた。空彦はそんな悠里の覇気に気持ちで押され、少し身を引いてからまた言葉を放つ。
空彦「…っ!大体俺は頼んでもいないのにお前達に勝手に助けられたんだぞ!?なのに次の日に見知らぬ地で降ろされるのか?いい加減にしてくれ!」
悠里「……それもそうね」
確かにそう言われるとこちらにも非がある…。
悠里は顎に手をあてて考え込み、一つ提案した。
悠里「あなたのいたアパートまでは送るわ。このくらいはしてあげる」
空彦「な!?…俺は降りるのは確定なのか?」
驚いたように言う空彦だが、もう悠里の意思は覆らない。
少し酷なようだが、彼女はキッパリと告げた。
悠里「ええ私達全員、もうあなたとは暮らせない」
空彦「………クソっ!もういい!!送ってもらわなくても結構だ!ここから一人で帰る!!」
自分なりのプライドがあるのか、空彦はあの場に送ってもらう事を断ると、明らかに不満そうな顔をして歩いていく…。
空彦「車に置いてきた俺の荷物だけ回収させてもらうからな!」
悠里「ええ、勝手にして」
彼と悠里をその場に残し、空彦は一人先に車へと戻っていった。奴がいなくなった直後、悠里は深くため息をつく…。かなり気を張っていたので、少し気疲れしてしまったようだ。
悠里「…ふぅ、どうにか降ろせたわ」
「そうですね。……僕はりーさんを怒らせないよう気を付けますよ」
悠里「?…どういう意味?」
「いえ、なんでも」
悠里「まぁ、とりあえず彼が降りてくれるなら安心ね。とっとと荷物だけ渡して別れましょ」
「そうですね…」
そう言ったところで彼は違和感を感じる…。
(ん?…あいつ、自分の荷物なんて……。)
自分の荷物なぞ持っていただろうか?
思い返してみても、奴が荷物を持っていた覚えはない…。
それに気付いた瞬間、彼の背筋がゾクッとした…。
「…!!りーさん!空彦を追いましょう!」
悠里「えっ?どうしたの?」
「あいつ…自分の荷物なんて持っていませんでした!」
悠里「え!?それって……まさかっ!?」
その発言を聞いて、悠里は彼とともに車へ走り出す…。
彼と悠里が車にたどり着くと、そこでは車外に降りた胡桃と美紀が同じ一ヶ所を睨んで立っていた。
悠里「胡桃!美紀さん!」
悠里と彼はその場に駆け寄ると、胡桃達が何を睨んでいたかを理解した。
二人の視線の先には由紀の背後に回って左手でその肩を掴み、右手でフォークを由紀の首に突き付けている空彦の姿があった。
「お前…!!」
空彦「近寄るなよ?少しでも近寄ったらこれ刺してやるからな!!」
そう言って首筋に突き付けたフォークに力を入れる空彦。それを突き付けられた由紀は目をギュッと瞑りながら、怯えたように震えていた。
由紀「うぅ…!」
悠里「由紀ちゃんを離して!」
悠里が言うが、空彦は全く応じる気配を見せない…。
奴は由紀の怯えた表情を背後から覗きこみ、ニヤリと笑った。
空彦「嫌だよ。さっき言ったろ…『俺の荷物を回収する』って」
「荷物…だと…?」
胡桃「お前っ!ふざけるなよ…!」
その発言に彼と胡桃が反応して、それぞれ武器を構える。
だが当然、空彦はそれを許しはしなかった…。
空彦「おいおい!わからねぇ奴らだなぁ!!そんなもん捨てろ!丈槍さんが死んでも良いの?」
胡桃「…っ!クソッ!!」
「…ちっ!」
胡桃が怒鳴りながらシャベルを投げ捨てる…。それを見て彼も手に持っていたナイフを地面に置き、二人はただじっと奴を睨んだ。
空彦「そうそう、イチイチ面倒な事をするなよ!イライラする奴らだなぁ…」
美紀「あなたがそれを言いますか?」
武器を置いた二人を見て言う空彦に対し、美紀が言葉を放つ…。空彦はそんな彼女にも腹を立てたのか、舌打ちをしながら美紀を睨んでいた。
空彦「ちっ!生意気な後輩だなぁ…両手が塞がってなきゃぶん殴ってやったのに。」
美紀「…それは残念でしたね」
悠里「何が望みなの?食糧とかなら…」
空彦「違うって!若狭さんなら気付いてるんじゃない?」
悠里の発言を遮るようにして言葉を放ち、空彦はニヤニヤと笑いながら由紀の事を見つめる…。その表情を恐ろしく感じた悠里は今まで以上に感情を込めて怒声をあげ、一歩前に踏み出した。
悠里「ふざけないでっ!!由紀ちゃんには手を出させない!!」
空彦「偉そうに…。お前らに与えられた選択肢は二つ、俺を怒らせて丈槍さんを殺すか…大人しく俺に丈槍さんを渡すか。……どっちかだけだから?」
悠里達全員を見回して空彦が言う。由紀は閉じていた目を開けて皆を見つめながら震えており、それを見た全員が焦り始める…。
「由紀ちゃんを殺しなんかしたら、その瞬間お前を殺してやるからな…」
空彦「やれるもんならやってみろよ。…たださっきから言ってるだろ?丈槍さんが死ぬ時はお前らが俺を怒らせた時だ。つまりお前らが大人しくしてればこの人もお前らも無事で終われるんだよ。……だからさ…」
そう言って空彦はフォークを突き付けた右手はそのままに肩を掴んでいた左手だけを離す。そしてその左手を由紀の制服のスカート上のシャツの隙間に入れて由紀の腹部をそっと触り始めた。
由紀「!!イヤだ……!」
由紀が自らの両手で空彦の手を押さえる。
当然、その場にいた全員も由紀を救おうと咄嗟に身体を前に出した。
悠里「あなた…!いい加減にっ!!」
胡桃「てめぇっ!!」
美紀「くっ!」
「お前…っ!」
空彦「動くなって言ってんだろ!!!こいつ殺すか!!?あぁ!?」
全員が空彦との距離を微かに詰めたものの、その声でまた動けなくなる…。もしこれ以上動けば、本当に由紀の身が危ないからだ。
空彦「……丈槍さんもさぁ、イチイチ手で邪魔しないで?さっきもちょっと手を握っただけで大声あげるし…。大人しくしててよ、まったく。…分かった?」
由紀の耳元で囁くが、由紀はその手を押さえたまま動かない…。
由紀「…………」
空彦「分かったかって聞いてんだよ!!」
そんな由紀を見て空彦は怒鳴り、フォークを持つ手に力を入れた。
首に突き付けられたそれと怒鳴り声…それらは由紀の心を追いつめ、彼女の事を無理矢理に従わせた。
由紀「うぅ!……うんっ………わ、分かった……」
空彦「最初からそうすれば良いんだよ!」
由紀が静かに手を下げると、空彦は左手で由紀の腹部を撫でまわす…。
その手つきはやたらといやらしく由紀のへそ周りやわき腹を這い、空彦は満足そうに微笑んでいた。
由紀「う……っく……」
空彦「俺、学校にいた時ずっと丈槍さんの事見てたんだよ?いつか話せたら良いなーってずっと思ってた。それが今じゃこんななって丈槍さんの体に触れるなんて……化け物だらけの世界で生きてて本当に良かったよ」
由紀「うっ………うぅ…っ…」
空彦「丈槍さんのお腹、柔らかくてスベスベで凄く触り心地良いね。……もっと上触っても良い?」
空彦が耳元で囁く…。
さすがの由紀もそれを聞いた途端に驚いた表情を見せ、だんだんと胸元に上がってくるその手を必死に押さえた。
由紀「やっ……やだ………やだっ…!!」
空彦「邪魔だからどけろって!!」
暴れる由紀を抑えようとフォークを今一度強く首筋に突き付ける…。
少し力を入れすぎたのか、由紀の首筋からほんの少し血が流れていた…。
由紀「いっ……!!」
空彦「だから言ったろ?大人しくしろって、また暴れたらもっと強くするからね?」
あまりに恐ろしい状況を前に…由紀は従わざるを得なくなる。
由紀は再び両手を下げ、空彦の手を自由にしてからすすり泣いた。
由紀「ぐすっ……!ううっ…うぅ…!」
空彦「何?泣いちゃったの?…うわ何その顔!丈槍さん泣き顔も可愛いね!マジでたまらないんだけど!!」
あろうことか、空彦は由紀の泣き顔すらにも興奮して笑みを浮かべる…。
もう、彼と胡桃の我慢も限界に達してきていた…。
「……殺してやる、絶対に殺してやる!」
胡桃「覚悟…しとけよ…!」
空彦「俺に言ってんの?無理に決まってんじゃん!?別に殺しに来ても良いけど、その瞬間丈槍さん殺すからな?」
由紀の首筋にフォークをツンツンと突き付ける。由紀はフォークの先が触れる度にビクッと身体を震わせ、涙を溢れさせていた。
空彦「…そうだ!そんな無力な君に良いもの見せてやるよ。」
そう言って空彦は左手を由紀の肩に戻して由紀の体を自らの方へと向ける…。首筋にフォークを突き付けられたまま、ほんの10cm程の距離しか空けずに、空彦と向かい合わされる由紀…。もう、嫌な予感しかしなかった。
空彦「丈槍さん、自分から俺にキスしてよ?」
由紀「…え…っ…?」
悠里「…どこまでふざけたら気が済むの!!」
あまりにふざけた言葉を聞き、悠里が怒鳴る。
だが由紀という人質を得た空彦は彼女に怯えた様子もなく、余裕に満ちた表情を浮かべていた。
空彦「黙っててよ、若狭さん」
「…っ!由紀ちゃん!!」
焦った彼が由紀を呼ぶ…。すると由紀はそっと彼の方へと振り返り、穏やかな声で言った。
由紀「…大丈夫だよ__くん。……見ててね?」
由紀は涙を流しながらそう言って…空彦の方を向きなおす。
(くそっ!…最悪だ!!あの人が泣いているのに、僕はあの人を助ける事も出来ない…!!守るって約束したのに!!!)
由紀は静かに空彦の顔に自らの顔を近づけると、そっと唇を寄せていく…。だが、由紀はその寸前で顔の位置を大きくずらし、空彦の右手に噛みついた。
空彦「っって!!」
噛まれた痛みで空彦は持っていたフォークを落とす。当然、胡桃はその隙を見逃さなかった。
胡桃「由紀!!!どけっ!!」
胡桃は足下のシャベルを拾って空彦の元に駆ける。
空彦「!?」
胡桃に言われた瞬間に由紀は噛みつくのを止めて急いでその場を離れ、悠里の元に駆け寄る。悠里は目の前に寄った由紀を強く抱きしめ、胡桃の方を見た。
胡桃「はぁっ!!」
ドゴンッ!!と激しい音が鳴り、胡桃のシャベルが空彦の顔面を激しく打つ…。空彦は堪らず地面に倒れ込み、打たれた顔を押さえていた。
空彦「うぐっ!!くそっ!!いてぇっ…!」
胡桃「ふざけやがって!…ふざけやがって!!」
シャベルを構え直し、再び空彦の前に立つ胡桃。
このままもう一撃くらわしてやろうか…そんなことすら考えてしまうほどにこの男の事が許せなかった。
空彦「ふざけてんのはお前だろ!…くそっ!鼻が折れてるみたいだ…!」
空彦の鼻は不自然に曲がり、大量の血が流れていた。
胡桃「この程度で何言ってんだ!!さっきのはまだ手加減してやったんだぞ!!」
「…………」
彼は空彦が胡桃に追い詰められたのを確認してから由紀を見た。由紀の傍には悠里と美紀がいて、二人共泣きながら由紀を抱きしめていた。
悠里「ごめんね由紀ちゃん…!」
美紀「すいませんっ…!先輩!」
由紀「えへへ……もう大丈夫だから、謝らないでよ二人共。」
そんな三人を見届けた後、彼は足下のナイフを拾い上げて空彦の元に歩み寄る。
空彦「くそっ!なんだよお前まで!!」
空彦が地面に転がりながら彼を見上げる。そばにいた胡桃はこの男をどうするべきか決めかねていた為、彼の意見を尋ねた。
胡桃「…こいつ、どうする?」
空彦「殺すつもりだろ!?やれるもんならやってみろよ!!重傷を負った武器も持たない一般人を殺せるならな!!」
胡桃「ちっ!ムカつくヤツだけど……確かにこれじゃ殺りにくいなぁ。…由紀も助けられたしとりあえずは………」
胡桃はそこまで言ったところで、目の前の光景に驚いて声を止める…。
空彦「がっ……ごほっ!……!」
そこには胡桃が喋っている途中に動き出して、空彦の首にナイフを突き刺している彼の姿があった…。ナイフは深々と空彦の首に突き刺されており、どうみても助からない…。
胡桃「なっ!!」
美紀・悠里・由紀「!!」
胡桃の声に反応して彼の方を見た悠里達も言葉を失う。彼はあまりにも冷たい目で
空彦を刺していたから、それに驚く事しか出来なかった。
空彦「ごっ!……ごほっ!!」
彼がナイフを抜くと、そこからは大量の血が流れてくる…。空彦は言葉にならない声をあげながら両手でその傷口を抑えた。
「殺れないと思ってたのか?お前のようなクズを僕が?」
彼が小刻みに震える空彦を見下して言う。その目はかつてない程に冷たく、空彦の事を人間として見ていないといった感じだ…。
「殺すに決まってるだろう…。お前はあの人を傷付けた……あの人を泣かせた…それだけで十分過ぎる理由ができた…」
彼はそう言ってナイフを逆手に持って空彦の頭の上で振り上げる。
空彦「…!!!」
胡桃「あっ!?お……おいっ!!」
由紀「!__くん!!?」
胡桃と由紀が止めに入ろうとしたが彼のナイフは既に空彦の額を貫いていた。
「…………」 ズボッ!
彼が空彦からナイフを抜く…。
空彦の身体はピクピクと動いていたが、すぐに全く動かなくなった…。
胡桃「あ………」
悠里「……」
美紀「…………」
由紀「……」
「……頭を潰しておかないとこいつも奴らになるかも知れないでしょ?…だから刺したんですよ。」
全員が無言で彼を見つめる中、ナイフをしまって彼が言う。
なんと言ったらいいのか分からず、とりあえず胡桃は無表情のまま話を合わせた。
胡桃「…ああ……そ、そうだな。」
由紀「__くん…。」
由紀が彼のそばに駆け寄る。
「由紀ちゃん……ごめん。…危険な目に遭わせてしまって」
由紀に謝る彼。
由紀「ううん…もう大丈夫だから。…それより__くん……平気?」
「…何がですか?」
由紀「あの…その…。」
「すいません、先に車の中にいます。」
彼はそう言って車に戻った。
悠里「…とりあえず私達も戻りましょ?」
悠里がそう言うと、少し遅れて皆車に戻り、胡桃の運転でその場を後にした。まるで…空彦の死体から逃げるように。
空彦君、彼の手によってリタイアです。…けれどあまりにも行いが悪すぎたのであまり文句は言えないような…。
今回の話での空彦君の由紀ちゃんへの行為は書いている私すら気分を悪くする程で、実際はもう少し空彦が由紀ちゃんに酷い事をする予定でしたが由紀ちゃんや皆が可哀想なので止めました。
今回も読んでいただきありがとうございました。