軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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この話は物語本筋とは直接関係の無い息抜き回のようなお話となっていますので、タイトル横の話数表記はなくしてあります。数話で終わると思いますので、のんびりお付き合い下さいませm(_ _)m


《New!!》『未来』

 

 

 

悠里「このあとはお勉強の時間だから、少ししたら集まってね」

 

昼食後、悠里が食器類を片付けながら笑顔で言う。

美紀はそれにコクリと頷いていたが彼と胡桃、そして由紀は少しだけ苦い表情を浮かべていた。やれる時にやっておいた方が良いと分かってはいるが、やはり勉強は苦手なのだろう。

 

由紀「でも……しっかりやらなきゃだよね……」

 

まずは自室にある勉強道具を取ってこなければ……。

由紀はリビングをあとにすると廊下を進み、自室を目指す。その途中、何やら大きな箱を抱えて歩く真冬とすれ違った。

 

由紀「真冬ちゃん、それな〜に?」

 

真冬「え?あぁ…少し作ってみたいのがあって……」

 

由紀はそばに寄って箱の中を覗いて見る。

その中には何かの部品のように見える金属の板やコード等が詰め込まれていた。

 

 

由紀「おーー………これで何作るの?」

 

真冬「今この屋敷にある物以上に遠くの電波まで拾える無線機とか、そういうの作ってみたいなって……」

 

由紀「無線機…?真冬ちゃん、そんなの作れるの!?」

 

真冬「まぁ…それなりには。必要なものが全部揃ってるわけじゃないし、ボクの知識もまだまだだから、失敗作も沢山ある。だから今回のも失敗するかもだけど……暇潰し感覚でやってみるよ」

 

箱を持って立ち去る真冬を見送り、由紀はふと思い出す。

そういえば以前、柳が言っていた…。真冬は機械に強く、故障した物を直したりする事はもちろん、自分でも何かを作ったりする事があるらしい。由紀は機械についての知識がさっぱりだった為、自分でそういう事が出来る真冬は凄い子なんだなぁと感心した後、自室にある勉強道具を手にして再度リビングに集まり、みんなと共に勉強を始めた…。

 

 

 

―――それから数日後、みんなが運動の為に庭に出ていると、その隅で何やらこそこそとしている真冬を見かける。

 

「真冬、何してるの?」

 

広い庭の隅にある木の下…真冬はそこに身を屈め、何かをしていた。不審に思った彼が背後から声をかけると、真冬は驚いたようにビクッと震えてゆっくり振り向く。

 

真冬「ああ……その、ちょっとしたテストを……」

 

「テスト?」

 

こちらに振り向く真冬……その前には妙な機械が置かれていた。

幾つかのボタン、ダイヤル、そして真上にピンと伸びた銀色のアンテナ…。最初はラジカセか何かかと思ったが、どうも違うらしい。みんなは真冬が置いていたそれを不思議そうに見つめ、やがて美紀が尋ねた。

 

美紀「テストって、これが動くかどうか試してるってこと?

というか、これってそもそも何なの?」

 

真冬「えっと…ボクが作った無線機…。今屋敷にあるものよりももっと広範囲に使えるものがあったら便利だなと思って色々やってるんだけど………」

 

胡桃「…なるほど、上手くいってないわけだな?」

 

胡桃の言葉に対し、真冬は苦笑して頷く。

遠くの電波を拾おうとしてみたり、逆に送信してみたり、色々やっているようだが、ちゃんと動作しないらしい。

 

 

由紀「あ!それってこの前作ろうとしてたやつだよね?」

 

真冬「そう…。ボクのイメージではこれで凄く遠くの人…海外の人とか、何なら宇宙人とだってやり取りが出来たりするハズだったのに……」

 

悠里「もし宇宙人と話せたとしても、言葉が分からなきゃどうしようもない気がするけど……」

 

冗談なのか本気なのか分からない事を言いながら、真冬はそっと立ち上がる。作った機械がキチンと動作せずに終わったのがほんの少しショックだったのか、彼女はそれを木の下に放置したまま屋敷へと戻ってしまった。

 

美紀「これ、どうします?電源ついてるみたいですけど」

 

悠里「まだ何かテストしてるのかしら……勝手に触っちゃ悪いし、そのままにしておきましょ。また後で狭山さんに確認すれば大丈夫でしょう」

 

みんなもそれを放置して、各自運動を始める。

あとで真冬本人に確認すれば大丈夫だと悠里は言ったが、運動を終えて屋敷に戻った後も、夕飯の時も……みんなはそれの確認をする事をすっかり忘れてしまい、例の機械は結局、電源の入ったまま一晩中放置される事に………。

 

その日の夜は突如として激しい雨が降り、風が吹き、雷が鳴るような荒れた天気だった。そんな中でもその機械は電源ランプをチカチカと点灯させていたが、やがてその点灯が激しくなる――――――――――――

 

 

 

 

 

 

―――――――――翌朝、空は綺麗に晴れ渡っていた。

しかし昨晩は遅くまで大雨だったために外にはまだ水溜りが出来ており、庭はグショグショになっている。朝食前に日の光でも浴びようと外に出た彼は庭をぐるぐると歩き回っていたのだが、その途中………庭の隅の木の下、ちょうど昨日、真冬が変な機械を置いていた辺りに倒れている人影が視界に入り、慌ててそばへと駆け寄っていく。

 

水溜りを踏む事も躊躇わず真っ直ぐに駆け寄った彼はまず、その人が"かれら"ではないかという確認をした。そこに倒れていたのは一人の少女…。年齢は恐らく13~14才くらいだろうか。紺色のパーカー、茶色の短パンという格好をしているその少女は気を失っているらしく、首元まで伸びたほんのり青みがかかった黒髪も衣服も泥だらけにして倒れている。

 

「ねぇ君、大丈夫?」

 

見たところ大きな怪我をしているようには見えないし、"かれら"に噛まれているようにも見えない…。彼は肩に手を置いて揺さぶるが、少女は目を覚まさない。何にせよ、ここに置いてはおけないだろう。彼は少女を背負うとそのまま屋敷に戻り、柳に事情を話す事にした。

 

 

柳「外にいた?外というのは……この家の敷地の外かい?」

 

「いや、庭にいました。庭の木の下に一人で…」

 

柳「庭に………それはそれは、どういう事だろうね」

 

ソファの上に横たわらせている少女を見つめ、柳は首を傾げる。

それから少しして彼は他のみんなにも事情を話し、気付けば由紀、美紀、悠里、胡桃、真冬も少女のそばにやって来て彼女を興味深そうに見つめ始めた。

 

 

悠里「怪我はしてないのよね?」

 

美紀「なら、すぐに目を覚ましそうですが……」

 

何故あんな場所にいたのか、何故気を失っているのか、どこから来たのか、気になる事が沢山ある。彼女が目を覚ましさえすれば色々分かるのだろうが………。

 

 

真冬「この子の荷物とかは?」

 

「特に無し。食料も持たず武器も持たず、手ぶらだった」

 

胡桃「一人で…それも手ぶらで生き延びてた?いくら何でもそれはあり得ないよな?」

 

美紀「多分、仲間の人とはぐれてしまったとかじゃないですかね」

 

こんな女の子が一人で生き延びてきたとは流石に考えづらい。

美紀の言うように、どこかにいる仲間とはぐれてしまったのだろう。

だとしたら、その仲間を探してあげるべきだろうか……。みんなであれこれ考えていると少女は静かに呻き声をあげ、ゆっくり目を開いた…。

 

 

少女「ん、んんん…………」

 

由紀「あ!目が覚めた?大丈夫?」

 

由紀が心配そうに尋ねる。

少女はまず目の前の由紀、そしてそのそばにいる悠里、美紀、真冬、そして彼と胡桃を見つめ、驚いたように飛び起きる。

 

少女「あ…ああ…………まさか……うそ…」

 

かなり動揺しているのか、大きく開いた口が一向に閉じない。

少女はソファから降りると逃げるようにして部屋の隅で丸くなり、両手で頭を抱えながら額に汗を流していた。

 

少女「夢…じゃない…?まさかホントにあんなので………」

 

悠里「ね、ねぇ?大丈夫?どこか痛かったり……」

 

少女「だっ、大丈夫です!!痛いところとかは特に無くて……ただ、その…えっと………」

 

悠里「とりあえず落ち着いて?まず……名前、あなたの名前を教えてくれるかしら?」

 

目が覚めた時、知らない場所にいて知らない人達に囲まれていたらそりゃ驚きもするだろう。悠里は少女をこれ以上不安にさせたりしないようにと優しい笑みを浮かべ、名前を尋ねる。すると少女は視線を左右に泳がせた後、そっと悠里の目を見つめ返した…。

 

未来「未来(みく)……あたし、未来(みく)っていいます…。“未来(みらい)”って書いて……未来(みく)……」

 

少女は……未来は小さく頭を下げ、再び悠里と目を合わせる。そして悠里の背後にいる柳、由紀や美紀、胡桃と彼を見つめ、額に冷や汗を流し始めた…。

 

 

 

 

 




本当なら物語の本筋を進めていくべきなのでしょうが、個人的には明るい話とかおふざけ回を書きたいなという欲があって…(汗)これかも更新はのんびりでしょうし、私の趣味全開のお話が多くなると思います!!

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