軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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今回の話はタイトル通り、狭山真冬と如月組の戦いをメインにしています。

前回、狭山は左手に手錠をかけられてしまったので、かなり不利な状況からのスタートとなっていますね(>_<)

少し長めです!


八話『狭山の戦い』

 

 

 

如月「……ほんと、よく頑張るわね」

 

図書館外の裏口…そこで如月は仲間達と共に狭山を相手に戦っていた。

 

 

"戦っている"とは言えば聞こえは良いが、実際は手錠により鉄柵と左手を繋がれてまともに動けない狭山を武器を用いて次から次へと殴っていくだけ…。最初の一、二分の間は動かせる右手などを使ってどうにかダメージを最小限に抑えていた狭山だったが、攻撃を受ける度に動きが鈍っていき、今では振り払われる武器をまともに受けてしまい始めていた…。

 

 

 

 

狭山「ぐ……ぅ…!」

 

如月の仲間である男達は遊び感覚なのか多少手を抜いているようだし、狭山の身体は柳の薬の効果で普通の人間より頑丈になっている。しかし、それでもさすがに限度があり、攻撃を受け続けた狭山の両足に両腕…脇腹や肩…そこらじゅうがズキズキと痛み出していた。

 

 

 

「タフな娘だなぁ。もうけっこう殴ってるぜ?」

 

如月「アンタらの殴り方が甘いからでしょ…。ほら、こうやって…力込めてっ!!!」ブンッ!

 

如月は持っていたバットを狭山の腹部目掛けて全力で振り払う。

受けてきたダメージにふらつき始めていた狭山はそれをまるで防げず、まともに受けてしまう…。

 

 

 

 

狭山「っぐ…!!」

 

「うわぁ…かわいそ~」

 

如月の攻撃を受けた狭山は膝をついて倒れそうになるが、左手が鉄柵に繋がれているので完全には倒れられない…。狭山は苦しいながらも立ち上がり、如月達を睨み付けた。

 

 

 

狭山「…っ…う…!ほんとに…痛いんだけど……」

 

如月「そう?それはよかった♪効いてなかったらどうしようかと…」

 

倒れかけた狭山から二、三歩離れ、如月はそのバットを肩にかけて笑う。今まで小馬鹿にされてきた狭山を自らの手で殴り、弱らせていくのは彼女にとってとても愉快な事だった。

 

 

 

狭山「……っ……まったく…もう…」

 

如月と戦いだして、まだ十分も経っていないだろう。狭山は目の前にいる八人の敵を未だ一人も倒せず、こうして苦しんでいる…。今の状況はかなり悪く、狭山はもっと早く如月を殺せばよかったと後悔していた。

 

 

 

狭山(身体中が痛い……でもまだ普通に立ってられるし、骨が折れたりはしてないハズ…。どうにかして一人でも倒さないと…穂村に笑われる)

 

敵達が攻撃の手を休めてる間に腰のポーチに手を入れ、使える物を探す。入っていたのは暗闇を照らすライト、感染者を誘き出す為の爆竹、それと感染犬との戦いで使った二本のナイフのみ…。今回の戦い自体が急な話だったので、大した準備をしてこなかった…。

 

 

 

狭山(爆竹は…そばに感染者がいないから使っても意味がない。このナイフは短いから今の状況じゃ振っても当たらないし、数も二本だけ…八人相手じゃ軽い気持ちで投げる事も出来ない。この状況で外したら最悪だし…)

 

今一つ使える物がないポーチから手を抜き、狭山はため息をつく。

すると如月は持っていたバットを他の仲間に渡し、素手の状態で彼女のそば…ギリギリ手の届かない位置まで寄ってきた。

 

 

 

狭山「……なに?助けてくれるの?」

 

如月「いや、私も忙しいし、アンタにだけ時間かけてらんないのよね。だから…アンタにとってこれが最後のチャンス。あの屋敷を渡して、私達の仲間になんない?」

 

狭山「………待遇によるかな」

 

ふふっと可笑しそうに笑いながら、狭山は如月にそう告げる。

実際のところ、どんな良い待遇を与えられても如月の仲間になどなるつもりはない。これはただの時間稼ぎだった。

 

 

 

如月「待遇はあまり良くないかなぁ…。ただ、ここでこの話を断ったら死んじゃうけどね。生きてバカみたく使われるか、このまま殺されるか…どっちがいい?」

 

狭山「待遇……よくないんだ…。残念…」

 

如月「まぁね。アンタが仲間になるなら当然私の下についてもらうし、それにこの男の人達ともいっぱい遊んでもらうから♪」

 

ニコッと笑いながら、如月は仲間である男達を見回す。

直後、狭山は自分を見る男達が不気味な笑みを浮かべるのを見て"遊んでもらう"という言葉の意味を悟り、男達から目を逸らした。

 

 

 

「照れてんの?大丈夫だよ。そんな生活、すぐ慣れるから」

 

「ウチは女が少ないからなぁ…キミみたいな可愛い娘がいてくれたらかなり嬉しいんだけど」

 

ただ目障りだから目を逸らしただけなのに、男達はそれを照れだと勘違いする。ゲラゲラと笑い合う男達にさすがの狭山も苛立ち始めてきたが、その内の一人が発した言葉に気になるものがあり顔を上げた。

 

 

「可愛い娘っていえば…境野さんのとこにいた娘達、まだ生きてるかな?」

 

「さぁ、どうだろうな。殺すのは勿体ないと思うけどね」

 

 

狭山「その娘達……どんな娘だった?」 

 

 

「はっ?」

 

如月「なに?気になるの?」

 

狭山「…ちょっとだけ」

 

いきなり話に割り込んできた狭山を焦らすようにして答える。

狭山はただ話を広げて時間を稼ぐつもりなのかとも思う如月だったが、なんとなく…それは違う気もした。

 

 

 

 

如月「そう言えばあの娘達、狭山ちゃんと同じくらいの年齢かしらね。どっかの学校の制服着てたから、女子高生かしら」

 

狭山「…それで、どんな娘?名前は?」

 

如月「やけに食いつくのね…。そんなに知りたい?」

 

狭山「………できれば」

 

そう呟く狭山を相手にどうするか悩む如月だったが、答えはすぐに出た。

 

 

 

如月(もしかして…友達でも探してるのかしら?だとしたら、脅しのネタに出来るかもね…)

 

そんな事を思った如月はあの場にいた三人の少女の名前を思いだし、それを狭山に伝える。しかし、全員の名を一度に教えて全員が彼女の知り合いじゃなかったら勿体ない。ここは小出しにして答えることにした。

 

 

 

如月「三人いて、一人は確か…水無月未奈。…知り合い?」

 

狭山「いや……知らない人」

 

如月「…そう」

 

一人目はハズレ。これでもし二人目もハズレたら、三人目の名は隠したままにしようと如月は考える。もし狭山が離れ離れになった友達でも探してるのなら、その三人目が気になって如月に従う可能性もゼロではないからだ。

 

 

 

如月「あとは…えっと、なんていったかな……」

 

狭山「……………」

 

不覚にもあと二人いた少女の名前が思い出せず、如月は頭を悩ませる…。あの時、境野達の前で名前を名乗っていたハズなのだが…。

 

 

 

狭山「…忘れたならいい。たぶん、ボクの探してる人じゃ―――」

 

ド忘れした如月に呆れた狭山が諦めかけたその時…如月は思い出した。あの時あの場にいた少女…その一人の名前を。

 

 

 

如月「あっ、ゆきだ…。丈槍由紀」

 

狭山「えっ?」

 

如月「おっ!こっちは知り合いなのかしら?」

 

丈槍由紀の名前を出した途端、狭山は明らかに反応した。

如月はそれを見逃さず、自分がより優位に立ったと確信する。

 

 

 

如月「友達なら助けてあげよっか?もちろん、狭山ちゃんが私に従うことが大前提だけど」

 

狭山「…ううん、友達じゃないから…どうにでもしていい」

 

如月「んん?」

 

意外にも、狭山の返事はあっさりとしていた。

もし丈槍由紀が彼女の友達なら、こんな返事は返さないだろう。

 

 

 

如月(強がっている……って訳でもなさそうね。なら、どうして丈槍由紀の名前を聞いた時に反応したのかしら)

 

狭山「…その由紀って娘、まだ生きてるの?」

 

如月「ん?ああ…どうかしら。運が良ければまだ生きてるんじゃない?」

 

狭山「運が良ければ……か」

 

 

 

如月「気になってるなら正直に言えば?どうしてもって言うなら、由紀ちゃんを助けに行ってあげるわよ」

 

丈槍由紀は狭山の友達ではないようだが、狭山は丈槍由紀を知っているようだ。二人がどんな関係なのかよく分からないまま、如月は狭山と交渉し続ける。

 

 

 

狭山「…横取りされるもイヤだけど…仕方ないか」ボソッ

 

狙っていた彼女を如月の仲間に取られたのは少しばかり気に入らないが、それも仕方のないことだ。そう思って狭山が小さな声で呟くと、それを聞き取れなかった如月がもう一度聞き返した。

 

 

 

 

如月「ん?なに?」

 

狭山「…なんでもない。とりあえず、その由紀って娘のことは好きにしていいよ。友達でもなんでもないから、どんな目にあっても知ったことじゃない」

 

如月「ふぅん……冷たいのね」

 

狭山「知り合いでもないんだから、当然でしょ」

 

眉ひとつ動かさずに淡々と答えるところを見ると、本当に友達ではないらしい…。もっとも、如月は狭山に友達などいないと思っていたから驚きはしなかった。

 

 

 

如月「ふふっ、そうよね。狭山ちゃんに友達なんていないわよね…」

 

そうして何気なく思った事を口に出す。

すると突然…狭山の左手を封じている手錠が辺りに音を響かせる。

 

 

ガシャッ…!

 

狭山「……………」

 

狭山は左手を前に出そうとしたようだが、手錠のせいでそれが出来ないようだ。彼女は何故、このタイミングで前に出ようとしたのだろう…。何か…如月の言葉に気に入らない事でもあったのだろうか…。

 

 

 

如月「…どうかしたの?」

 

狭山「……べつに」

 

特別おかしな事はないかのように答えたつもりの狭山だったが、如月は気づく。彼女は、今自分が言った言葉に反応したのだと。

 

 

 

如月「あっ!友達いないって言われたの、気に入らなかった?」

 

狭山「………平気」

 

また、あたかも冷静であるかのように答えた。

しかし、やはりいつもとは違う様子にも見える。

 

 

 

如月「可愛そうな狭山ちゃん……友達いないんだ?」

 

狭山「………」

 

如月「まぁそれもそうだよね~。無愛想で可愛げのないアンタみたいな娘…友達になってくれた人なんていないよね?」

 

ギリギリ手の届かない位置まで寄り、狭山を挑発する。

狭山は少し顔を俯けて黙っていたが、だんだんその目が鋭くなっている気がした。

 

 

 

如月「で、実際はどうなの?友達…いた?」

 

狭山「…………」

 

狭山は答えない。

だが、彼女を少ししか知らない如月にでも分かる。狭山は見栄を張るようなタイプの人間ではない。もし本当に友達がいなかったなら、正直に『いない』と答えるだろう…。なのにそう答えなかったということは、つまり……

 

 

 

如月「ああ……いたんだ」

 

狭山「…………」

 

ピクッと狭山の眉が動く…。

それを見た如月はとても嬉しそうに、だが声を出さずにニヤッと笑う。

この無表情娘を苛めるための、良い弱点を見つけたと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

如月「狭山ちゃんなんかと友達でいてくれるなんて、優しいんだか…見る目が無いんだか…」

 

狭山「……黙って」

 

狭山が顔を上げて如月を睨む…。その目は今まで見たことないくらいに鋭く、如月に怒り向けているのは明らかだった。

 

どんな事を言っても、どれだけ殴ってもずっと表情を変えなかった狭山。彼女のこんな顔を見るとなんだか勝った気分になり、如月の頬は緩んでいった。

 

この小娘の顔をもっと歪ませたい…。もっと勝った気分になりたい…。

如月はそんな衝動に駆られ、更に言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

如月「まぁ、見る目の無いバカな子だったんでしょうね。んで、そのバカな子とは今も仲良くしてるの?」

 

狭山「黙れって…言ってるでしょ…」

 

更に狭山の目付きがキツくなる。

声もいつもより大きくなり、左手の手錠がなければ今にも如月を殺してしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如月「…あぁ、せっかくの大事なお友達……今はもういないんだ?」

 

 

 

ガシャンッ!!!

 

如月の言葉を聞いた狭山は無理に前に出ようとするが、相変わらず左手の手錠が邪魔をする。しかし今回の狭山は諦めが悪く、左手に強い力を込めて腕を引き続ける…。手錠はピンと伸びながら彼女の左手と鉄柵を繋ぎ止め、ガチガチと震えていた。

 

 

狭山「黙れって…黙れって言ってるのにっ…!」

 

如月「あははっ!怒った怒った♪」

 

 

 

 

ガチッ…ガチッ!!

 

狭山は手錠を引き千切らんばかりの勢いで手を引き続け、如月を睨む。

もしかしたら手錠が壊されるのでは…如月やその仲間がそう思い始める程、今の狭山は必死だった。

 

 

 

狭山「くそ……くそっ!!」

 

鉄柵でも…手錠でも…自分の左手でもいい…。

どれかが壊れさえすれば、今すぐに如月を殺せる…。

 

そんな考えで手錠を引く中、最初に異変が起きたのは狭山の左手だった。

 

 

 

ブシュッ…!

 

狭山「ぐ…ぅぅっ!!」

 

 

左手首に激しく手錠が食い込み、皮膚が裂け始めた…。

地面にポタポタと血が滴り、手錠の一部が真っ赤に染まる。

しかし、狭山はそれでも手錠を引き続けた……。

 

 

「おいおい…マジかよ!この娘、手ぇ千切る気じゃねぇの!?」

 

「き、如月さん…どうしますか?」

 

如月「ん……良い顔も見れたし、もういいかな。殺しちゃおう」

 

そう言って如月は仲間が腰につけていたナイフを借り、狭山を見る。

狭山はまだ手錠を引いており、それによって左手首が少しずつ裂けていった…。彼女の真っ白だった左手は自らの血に染まり、指先からポタポタと血を垂らす…。かなり痛むようで、狭山は苦痛そうな声を漏らしていた。

 

 

 

狭山「っぐぅ…!!ぐぁぁっッ!!!」

 

如月「私一人だけだと防がれちゃうかも知れないから、三人くらいで同時に刺そっか」

 

「へいへい」

 

「了解、気は進まないけどね…」

 

如月のそばにいた仲間の内の二人がナイフを取りだし、狭山のそばに寄る。如月と二人の男はそれぞれが狭山の頭、首、胸へと狙いを定め、彼女を同時に刺す準備をした。

 

 

 

狭山「ぐ…ぅぅっ!!」

 

如月「んじゃ、いくわよ。三……二……」

 

カウントダウンを始め、如月と二人の男はナイフを構える。

あとほんの少しで狭山を殺せると思い、如月がにやけたその時……異様な音が辺りに響いた。

 

 

 

バキィンッ!!!

 

 

 

 

狭山「っ!!」

 

直後、今まで動けなかった狭山が前へと進む…。

彼女の左手は血まみれだがまだ壊れてはいないし、手錠の鎖も壊れてはない。

 

 

壊れたのは…繋いでいた鉄柵の方だった。

いくつも並んでいる鉄柵の内の一本…手錠をかけていた箇所だけが折れ、地面に転がっている。

 

 

 

如月「なっ!?」

 

「嘘だろっ!!?」

 

彼女の左手と繋げていた鉄柵は僅かに腐食していたようだったが、それは本当に僅かな腐食……簡単に折れてしまう程のものではないように見えた。にも関わらず折れたのは、狭山が必死に力を込めて引き続けたからなのだろう…。

 

 

 

狭山「っく…ぅっ!」

 

自由になった狭山は直ぐ様右手をポーチに入れ、ナイフを手に取る。

その様子をそばで見ていた二人の男はすかさず彼女目掛けてナイフを構え、その身体へと真っ直ぐに突いた。

 

 

「このっ!!」

 

狭山「っ!」

 

 

狭山の前方からほぼ同時に放たれた二人の攻撃。

いつもの彼女なら両手を使ってそれを受け止めたところだが、今は左手がボロボロで使えない…。狭山は伏せるように地面に身を倒してその攻撃を避け、そのまま持っていたナイフで素早く二人の足首を切った。

 

 

 

「いっ…!」

 

「くそっ!!」

 

 

狭山「くっ!」

 

目の前にいた二人の足首を切った直後、狭山はすかさず立ち上がって敵達との距離を空ける。二人は切られた足を少し気にしてはいたものの、大したダメージは負っていなかった。狭山の持っていたナイフは小さかったので、切り傷が浅かったらしい。

 

 

 

 

如月「ちょっと!なに避けられてんの!?ちゃんと刺しなさいよ!!」

 

「んなこと言ったって、あの娘すばしっこくて…」

 

狭山を仕留められなかった二人を責める如月だが、この二人はまだ優秀な方だった。目の前で鉄柵を折った狭山を相手に戸惑いながらも、すぐに仕留めようと動いたのだから…。

 

 

 

狭山「自分は動けもしなかったクセに…人のことばかり責めるんだね」

 

如月「なっ!?アンタ…ほんとにムカつく…!」

 

人を小馬鹿にしたような態度の狭山に苛立つ如月だが、それでも一人では彼女の元に寄らない。いくら左手が壊れかけてるとはいえ、狭山は普通の少女とは明らかに違う…。どれだけ挑発されようと、今は堪えるしかない。人数では遥かに勝っているのだから、じっくり攻めれば勝てるハズだと如月は信じていた。

 

 

 

 

狭山「……とりあえず二人は終わり。これで…あと六人…」

 

如月「はっ?なに言ってるの?」

 

狭山の言葉はまるで二人仕留めたかのような言い方だったが、如月の仲間は全員無事だ。先ほど足を切られた二人の傷も浅く、死ぬほどではない…。なのに誰を仕留めた気でいるのかと如月達が疑問に思っていると、狭山はニコッと笑って持っていたナイフを構えた。

 

 

 

狭山「このナイフ…ついさっき感染したワンワンを刺すのに使ったんだ…。ろくに拭きもしなかったから、まだワンワンの血がついてたね…」

 

 

「………っ」

 

「おい……まさか……」

 

切られた二人の顔がみるみる青ざめていく…。

感染した犬の血がついていたナイフで切られたという事……それにはとても嫌な予感を感じた。

 

 

 

如月「…なるほど。そりゃ厄介な事してくれたわね」

 

「まさか…俺達は…!」

 

狭山「うん。感染者の血が体内に入った以上…じきに感染者の仲間入り。ごめん……でも、責めるならボクじゃなくて如月さんを責めてね」

 

「なっ…!くそっ…くそっ!!」

 

ハッキリとその事実を突き付けられた二人は激しく動揺し、辺りの仲間達を見回す…。しかし仲間達は誰もがその二人を避けるような仕草をした為、二人は如月の元へと寄った。

 

 

 

「きっ、如月さんっ!どうにかしてくれよ!アンタの手伝いをしたせいでこうなったんだからっ!!」

 

「ああ…!どうにかしてくれっ!!」

 

二人はあたふたして如月に言い寄り、冷や汗を流す…。

そんな二人を相手にするのが面倒なのか、如月はため息をついてから他の仲間へと告げた。

 

 

 

如月「はぁ……ねぇ、とりあえず"処理"しちゃって」

 

如月がだるそうな声でそう言うと、狭山に切られた二人の背後に他の仲間が忍び寄る…。忍び寄った男らは仲間であった二人のその首を躊躇い無く、持っていたナイフで切り裂いた。

 

 

 

「ぅ…がッ…!?」

 

如月「あ~あ、境野に怒られるかなぁ……」

 

「まぁ、境野さんは感染疑惑のある仲間はすぐ切り捨てるタイプの人だし……大丈夫じゃないですか?」

 

今殺したのは仲間だったハズなのに…まるで気にしてないかのように会話が進む。その異様な光景にさすがの狭山も顔をしかめ、少しだけ気分を悪くした。

 

 

 

狭山「その二人をそんな状況に追いやったボクが言うのもあれだけど……君たち仲間でしょ?平気なの?」

 

「平気平気。感染した仲間殺すのなんざ、境野さんのところにいたら慣れたよ」

 

一人の男が狭山に返事を返しつつ、倒れた二人の頭をナイフで突き刺していく。死んだ二人が感染者のようになって起き上がらないようにする為なのだろう。かなり手慣れた様子だ。

 

 

如月「さっすが、頼もしい~♪」

 

狭山「…………」

 

 

 

「さて、ナイフには注意してあの娘を殺らなきゃな…」

 

「気になったんだけどさ、感染者の血のついたナイフで切られたら本当にアウトなのか?」

 

「さぁ、アウトだろ?詳しくは知らねぇけど…」

 

「詳しく知れねぇのにあの二人殺したのかよ。もうちょっと待ってても良かったんじゃないか?」

 

「いや、だって如月さんに処理しろって言われたし……」

 

 

如月「ハイハイそこまで!!今はとりあえず、あの小娘を殺すことだけ考えなさい!」

 

だらだらと会話する仲間達にそう告げ、如月は狭山を睨む。

そうして武器を構えた如月とその仲間がジリジリと距離をつめてくる中、狭山はナイフを構え直して口を開いた。

 

 

 

 

狭山「死にたい人しか……ボクに近付いちゃダメだよ」

 

左手は血まみれで…身体中ボロボロの少女…。

そんな少女を殺すのなど容易なはずなのに、如月達は彼女に睨まれると何故か恐怖を感じてしまう。

 

 

 

「ほざいてろっ!!」

 

「死ねっ!!」

 

そんな恐怖をかき消すかのようにして声を張り上げ、如月の仲間らは狭山に襲いかかる…。だが、如月だけはその場から動くことなくたたずんでいた。

 

それは狭山が恐ろしかったから動けないなどという訳ではなく、ただこうして立っていればすぐに終わると思っていたから。ここにいる五人の仲間…その全員が男で、なおかつ武器を持っている。たった一人の少女に負ける訳などない。なら…自分は見てるだけでもいい。そんな事を思っていた…。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その考えは甘かったとすぐに気付かされる…。

 

 

狭山を襲う五人の攻撃は中々当たらず、全て空振りに終わっている。

それほどに狭山の動きは素早く、そして正確だった…。

 

中にはかわしようのないタイミングで放たれた攻撃もあったが、狭山はそうした攻撃を右手や肘や足…それらを使って的確に逸らしていく…。

 

それでも、かわされたり…逸らされたりするだけならまだ良い。

如月達にとって最悪だったのは、狭山に隙を見つけられて反撃される時だ。

 

 

 

「ふっ!!」

 

一人の男が狭山にナイフを振り下ろすが、それはあっさりとかわされる。狭山はその男の背後にサッと回り込み、持っていたナイフを深く背に突き刺した。

 

 

「ぐっ…ぁっ!!」

 

狭山が突き刺さしたナイフを抜いた直後、男は倒れる。

男はまだ死んではいなかったが、受けた傷が深くてすぐに戦うのは無理だった。

 

 

 

「くそっ!!」

 

一人倒され、四人になった男達は焦る…。

だがそうして焦ったせいで動きが鈍った事…そして人数が一人減った事で狭山に与えてしまう隙も増え、すぐに一人…また一人と倒されていった。気づけば戦っている男は一人になっており、狭山は持っていたナイフを下げて一呼吸した。

 

 

 

 

 

 

狭山「…はぁ、かなり疲れた。キミ、逃げるなら逃げて良いよ。ボクが本当に殺したいのは如月さんだけだし」

 

「なっ…!?」

 

そんなことを言われ、残った男は戸惑う…。

自分一人ではもう勝てる気などしないし、後ろにいる如月もかなり焦っているようだからだ。

 

 

 

如月「ばっ、バカっ!!ちゃんと戦いなさいっ!!!」

 

狭山「如月さん…ボクが手錠に繋がれてた時は何回も殴りに来たのに、今回は最後まで動かなかったね。なんで?ボクが怖いの?」

 

如月「っ…違うっ!わざわざ私が動かなくても、コイツらがどうにかすると思ったからよ!!!」

 

狭山「…そう。じゃあ、失敗だったね…」

 

 

 

ゆっくり…ゆっくりと如月の元へ歩み寄っていく。

残った男は如月を置いて図書館の中へ逃げる事を決めたのか、裏口の扉をガチャガチャと鳴らしていた。

 

 

 

如月「ちょっ!?逃げるなっ!!」

 

「一人じゃ無理だっての!!仲間呼んでくるから…それまで――」

 

 

 

バタンッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

男が開けようとしていた扉が突然開き、中から一人の人物が現れる。

現れたその人物はいきなり拳を振り上げ、それを男の顔面へと振り放った。

 

 

 

ドッ!!

 

「ッぐっ!!!」

 

拳を受けた男は勢いよく吹き飛び、たたずんでいた如月の前へと倒れる…。男はそのまま気絶してしまったらしく…起き上がってはこなかった。

 

 

 

如月「あ、あんたっ…!!」

 

扉の向こうから現れた人物はズカズカと歩き、狭山のそばに寄る。

狭山はその人物を見てどこか安堵したような顔をしたが、如月にとってその人物が現れたのは最悪の展開だった。

 

 

 

穂村「ほ~~…さっすが狭山先生。全員殺っちゃいましたか?」

 

現れたその男…穂村は辺りに倒れている男達を見ながら狭山の肩をバシッと叩く。いつもの狭山ならそれに迷惑そうな反応を見せるのだが、今回の彼女は無反応だった…。

 

 

 

狭山「わかんない…何人かは生きてるんじゃないかな…」

 

穂村「……ふ~ん」

 

そう言われ、今一度男達へ目を向ける…。

倒れている男達は全員どこかしら刺されたらしいが…人によって刺された箇所が違った。首を刺されて既に死んでいる者もいれば、脇腹を浅く刺されただけで済み、苦しみもがいている者もいる…。

 

殺した者とかろうじて生かしてある者…それらの違いが気になり、穂村は狭山に尋ねた。

 

 

 

穂村「殺したヤツと生かしてあるヤツの違いってなに?」

 

狭山「べつに…ボクはただ隙を見て刺しただけだからね。首を刺された人は首ががら空きだったから、足を刺された人は足ががら空きだったから…それだけの違いだよ。意識して殺したり、生かしたりした訳じゃない」

 

穂村「なるほど……じゃあ、まだ生きてるヤツに止め刺していい?」

 

狭山「感染者の血がついてるナイフ使ったから、ほっといても死ぬと思うよ。まぁ…穂村の好きにすれば」

 

穂村「ほっといても死ぬのか…じゃあいいや、やめとく」

 

生き延びて反撃される可能性があるならこの場で仕留めようと思った穂村だが、狭山が使ったナイフには感染者の血がついていたという事を知り一安心する。あと気掛かりなのは…狭山の身体がやたらボロボロな事だった。

 

 

 

穂村「にしても…かなりやられたみたいだな。ボロボロじゃん」

 

狭山「…穂村だって」

 

横に立つ穂村を横目でチラッと見つめ、狭山は呟く。

穂村の額には自身のものとみられる血の痕が残っており、着ている服も所々破けていた。

 

 

 

 

穂村「あぁ…まぁね。ちょっとキツかったけど、問題ないさ」

 

狭山「……そう」

 

穂村「あれ?いつもならここで『死ねば良かったのに』とか言うのに…なんかあった?」

 

狭山「べつに……穂村を殺すのはボクの役目だって、改めて思い出しただけ」

 

穂村「まだ諦めてなかったんスか…。前の狭山ならともかく、戦い慣れしてきた今の狭山に襲われたらマジで危ねぇんだけど…」

 

 

圭一が仲間に加わる前…狭山に何度か本気で襲われた事があったのを思い出す穂村…。当時の彼女はまだ戦いに慣れていなかったのでどうにかなったが、今の彼女に襲われたら少々危ないかも知れない…。

 

 

 

狭山「少なくとも今日は殺さないから安心して…。今日は…如月さんで我慢する」

 

 

如月「ッ!!?」

 

ボロボロの身体で一歩ずつ歩み寄る狭山…そんな彼女がいつも以上に恐ろしく見え、如月は背を向けての逃亡を試みる。

 

だが…ほんの三歩ほど駆けたところで狭山に追い付かれ、背後から後ろ髪を鷲掴みにされた。あれだけボロボロなのに何故こうも素早く動けるのか…そんな事を思った瞬間、如月は狭山の力でその顔を地面へと押し付けられ、うつ伏せに倒された。

 

 

 

 

如月「ぐっ!く…そっ!離せっ!!」

 

狭山「やだ…離さない」

 

狭山はうつ伏せに倒した如月の頭を右手で強く地面へと押さえ付け、その背中の上に腰を下ろした。さっきまで右手に握っていたナイフは左手に持ち変えている。左手はかなり痛むが、物を持つくらいは出来るらしい。

 

一方で如月は自分の背に乗る彼女をどうにかしようともがくが、その度狭山に強く髪を引っ張られた。

 

 

 

 

如月「ぐぁ…ぁっ!」

 

狭山「じゃあ…バイバイ…」

 

狭山は一言告げ、如月の頭を強く地面へと打ち付ける。

狭山は如月がその痛みに悶えている隙にナイフをまた右手へと戻し、背中から心臓を狙って深く…力強く、如月の身体に突き刺した。

 

ドスッ!!

 

 

 

如月「あ…っ…ッぐ……!」

 

一度苦しそうな声をあげた後、少しして如月は動かなくなった…。

そうして彼女が死んだ事を確認した狭山はそっと立ち上がり、ナイフをポーチにしまってから穂村の顔を見る。

 

 

 

狭山「…おわった」

 

穂村「みたいだな。…っていうか、如月さんになんかされたの?狭山、ちょっとキレてたみたいだけど」

 

如月を刺した際、狭山の雰囲気がいつもとは違って見えた。

それがなんだか気になり、穂村は彼女に尋ねる。

 

 

 

 

狭山「べつに…なんでもないよ。」

 

穂村「…そっか?」

 

狭山「って、そんな話してる場合じゃないよ…。残る敵も倒して、圭一さんと帰ろ」

 

狭山は動かなくなった如月のポケットから一つの鍵を取りだし、未だ自分の左手にぶら下がっていた手錠を外すと、再び図書館の中へと戻っていく。穂村もまたそんな彼女の後を追い、中へと戻っていった。

 

 

 

 




そんなわけで、丸々一話…狭山ちゃんの戦いで終わってしまいました(汗)
彼女の戦いに時間をかけすぎたので、穂村君の戦いはスキップすることに!
雑な扱いでごめんね穂村君…無事でよかったよ(苦笑)


次回の話でこの外伝は一区切りとなり、また本編に戻ります。
まだ圭一さんの戦いも残っていますが…そちらもまた穂村君同様、雑な扱いになっています(汗)


改めて思ったのですが、戦闘の描写って書くのが難しいですね(泣)
見辛くて申し訳ないです…m(__)m
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