軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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九話『影に咲く花』

図書館の中…狭山と合流した穂村は彼女と共に有馬を探していた。

 

そうして一階にあるいくつかの部屋を回ったが、有馬は未だに見つからない…。二人が一階の探索を止めて二階へと足を踏み入れたその時、穂村は隣を歩く狭山の左手を見ながら顔をしかめた。彼女の左手首…そこは激しく傷付いており、血まみれで痛々しかったからだ。

 

 

 

 

穂村「その左手、めっちゃ痛そうじゃん…。」

 

狭山「一応問題なく動かせるけど…ふざけて触ったりしないでよ?ほんとに痛いんだから…」

 

穂村「しねぇって…。帰ったら手当てしなきゃな。狭山も、俺も…」

 

狭山「うん……。にしても、なんでボクのいる場所に来てくれたの?」

 

穂村「いや、襲いかかってきた敵をぶっ倒した後、有馬を探して歩いてたらたまたま外に出ちまっただけ。偶然偶然」

 

狭山「ああ…そう」

 

穂村があの場に現れたのは自分を助けに来てくれたからなのかと狭山は少しだけ思っていた。けれどやはり、そんなことはなかったようだ…。

 

 

 

 

穂村「狭山もさぁ…そんな怪我する前に助け呼べば良かったじゃん。なんで呼ばなかった?」

 

自分もそこそこ怪我をしている穂村だが、狭山の怪我は彼より酷い…。

彼女はこうして二人で歩いている今も時おりふらつくし、ようやく出血が止まってきた左手は指を動かすのがやっとというレベルだ。

 

 

 

狭山「ああ…如月さん達に殴られた時、無線機が壊れちゃって」

 

穂村「へぇ…じゃあ、助け求めるのも無理だな」

 

狭山「うん、無理でした。まぁ、一人でもどうにかなったけどね」

 

穂村「かなりギリギリに見えたけどな…。俺は…狭山が敵の男達にあんなことやこんなことをされてんじゃないかと思ったら心配で心配で…」

 

狭山「はいはい…わかったわかった」

 

泣くような演技をして語る穂村を軽く流し、狭山は奥へと進んでいく。相変わらずの冷たさを彼女に見た穂村はため息をつき、その後を追った。

 

 

 

 

 

穂村「一階はあらかた探ったから、有馬がいるのはこの二階のどこかだろうな」

 

狭山「だろうね…。もしかしたら、もう圭一さんが終わらせて――」

 

 

ドンッ!!

 

二人が会話しながら歩いていると、強く壁を叩いたかのような音が響く…。音が聞こえたのは恐らく、二人のそばにある扉…その向こうの部屋からだ。

 

 

 

穂村「………」

 

狭山「…入ってみよっか」

 

穂村「まて、俺が開ける……」

 

念のために狭山を下げ、穂村は扉の前に立つ。

穂村はそのドアノブに手をかけ、ゆっくりそれを開けた…。

 

 

 

ガチャッ……

 

 

穂村「……うわぁ」

 

部屋の中を見た穂村から、思わずそんな声が漏れる…。

彼がみたもの…それは床に倒れる十数人の男達。

そして、その中央に立つ圭一の姿だった。

 

 

 

穂村「すっげぇ…これ、一人でやったの?」

 

圭一「他に誰がやるんだよ…」

 

部屋に入った穂村が倒れている男達を見て驚いたような声を出す。

狭山もまた、目を丸くしてキョロキョロとしていた。

 

 

 

狭山「圭一さん…怪我は?」

 

圭一の服は血に汚れているが、それが返り血なのか、彼自身の血なのかが分からない。これだけの人数を相手にしたのだから、まったくの無傷という事はないと思うが…。

 

 

 

圭一「ああ…それなりに」

 

やはり圭一も怪我を負っているらしく、どこか苦しそうな表情をしていた。そんな彼の足元には一人の男が倒れているのだが、この男はまだ生きているらしく、苦しそうに呻いている。だがよく見ればその腹部には大きなナイフが突き刺され血がドクドクと溢れていた為、息絶えるのは時間の問題だろう…。

 

 

 

 

「っ……そ………化け…もの…が」

 

圭一「化け物呼ばわりは酷いだろ」

 

穂村「まぁ、この人数を一人で相手にして勝ったなら化け物でしょ。俺と狭山なんか、この場で倒れてる半分くらいの人数しか相手にしてないのにボロボロだぜ?」

 

圭一「ん?…狭山、大丈夫か?」

 

狭山「うん…なんとか」

 

穂村「俺は?俺の心配は?」

 

そんな事を言いながら圭一を見つめる穂村だが、それはあっさりとスルーされてしまう。しかし穂村もそれには慣れたもので、大して気にもしなかった。

 

 

 

圭一「雑魚はあらかた片付けたが、有馬とかいうあの男が見当たらないな…。お前ら、見掛けたか?」

 

穂村「俺は見てない」

 

狭山「ボクも…見たのは如月さんと、そのお供だけ」

 

圭一「そうか…じゃあ、残る場所をしらみ潰しに探っていくぞ」

 

穂村「りょーかい」

 

敵の戦力をだいぶ削った事もあり、圭一達はここのボス…有馬を探し始める。そうして三人が二階の通路を歩いていると…狭山が突如足を止めた。

 

 

 

狭山「…まって」

 

圭一「どうした?」

 

狭山「誰か…こっちに来る…」

 

通路の先…その曲がり角を見ながら狭山が呟く。

するとすぐ、圭一や穂村にもその足音が聞こえだした。

 

 

 

穂村「おっ、マジだな」

 

圭一「ようやく見つかったか…」

 

三人が曲がり角の向こうに注目していると、その人物は姿を現す。

それは三人が探していたここのボス、有馬だった。

 

 

 

 

有馬「まったく…増援に向かった連中がいつまでも戻らないから来てみればこれか。まさかとは思うが、全滅か?」

 

穂村「だと思うぜ。リベンジマッチは失敗だな。ごくろーさん」

 

穂村にそう言われると、有馬は通路の壁に背中を寄せて力なく腰を床に下ろす…。これだけの戦力をもってしても三人に勝てないとは思っていなかったらしく、深いため息をついていた。

 

 

 

 

有馬「やれると思ったんだが…失敗か。欲なんか出すもんじゃないな…」

 

穂村「おや?意外と落ち着いてらっしゃる。これから殺されるってのに」

 

有馬「あれだけいた仲間が全員やられたんだ…さすがに、また一から仲間集めする気にもならねぇ。つまり、もうどうでもよくなった…」

 

全てを諦めた有馬はヘラヘラと笑い、三人を見つめる。

最初は彼を殺す気でいた穂村だったが、こんな反応を見せられたせいで殺意がどこかへ飛んでいってしまった。

 

 

 

穂村「なんか…つまんねぇの」

 

有馬「ははっ、じゃあ…見逃してくれるか?」

 

穂村「それもそれでなんか違うしなぁ…どうしたもんかなぁ」

 

穂村は有馬をどうすべきか悩んでいた…。

前に彼を殺し損ねたせいで今回の戦いが起こったのだし、同じ事が起こらないように殺した方が良いのは分かっている。だが、ここまで諦めた目をされるとその気も失せてしまうのだ。

 

 

 

穂村「あ~……あれだ、感染者の群れにでも投げ捨てるか?」

 

狭山「…そこまでするなら、今ここで殺してあげなよ。」

 

有馬「ああ、感染者に食われるのは勘弁だな。どうせなら楽に死にたい」

 

穂村「つってもなぁ~…」

 

腕を組ながら頭を悩ませる穂村を見て、狭山と圭一がため息をつく。穂村はそうして悩むばかりでいつまでも動かないので、圭一が仕方なく動いた。

 

 

 

 

圭一「楽に死にたいっていうなら、俺がやってやる。穂村、それでいいか?」

 

穂村「ん?ん~……まぁ、いっか」

 

有馬「…んじゃあ、さっと終わらせてくれよ」

 

圭一「ああ、任せとけ」

 

圭一は狭山から一本のナイフを受け取り、有馬の前へと屈む…。

有馬は本当に観念しているらしく、そっと目を閉じていた。

圭一は手にしたナイフを彼の頭へ向けると、一言だけ告げる。

 

 

 

 

圭一「…じゃあな」

 

手に力を込め、ナイフを突く。

だが、そのナイフが有馬の頭を突く寸前に…誰かの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「待って!!」

 

 

圭一「…?」

 

有馬「…お前っ」

 

通路の向こうから現れた一人の女……年は十代後半か、二十代前半だろう。肩まで伸びた茶髪、そして眼鏡が印象的なその女は圭一と有馬の間に割って入り、涙を流しながら持っていたナイフを構えた。

 

 

 

「もう、勝負はついてます…!だから、有馬さんに手を出さないで!」

 

穂村「おっ、彼女さん?」

 

ナイフを向けられているのを気にもせず、穂村は有馬に尋ねる。

有馬は背後からその女の肩に手をあてると、小さな声で答えた。

 

 

 

有馬「彼女なんかじゃない…。ただ、俺になついてるだけだ」

 

穂村「マジか。ちょっと羨ましいんだが…」

 

その女が中々に美人だったからか、穂村がニヤリと笑う。

すると狭山がそんな穂村の背後にまわり、彼の後頭部を右手でバシッと叩いた。

 

 

 

穂村「いてっ!!なにすんだよ!?」

 

狭山「いや…笑った顔がキモかったから…つい」

 

二人がそんなやり取りをする中、圭一だけはその女から目を離さない…。女も圭一を特に警戒してるらしく、ナイフと目線は彼に向けていた。

 

 

 

圭一「この戦いを始めたのは有馬(そいつ)だ。だから、俺達もそいつを殺すまでは終われない」

 

「もう二度とあなた達に手は出しません!!私が彼をそばで見張ってますから…だから…お願いっ!!どうか助けて下さい…!」

 

彼女は涙をボロボロ流し、ナイフを持った手をガタガタ震わせていた…。

それでも圭一が引かないことに気付いた有馬は、彼女の震える手をそっと握った。

 

 

 

有馬「知花(ちばな)…もういい。お前だけ逃げろ」

 

知花「いやです!絶対にいやっ…!」

 

"知花"と呼ばれたその女は有馬の顔を見るとまたいっそうの涙を流し、彼に抱き付く。狭山と穂村はその様子を黙って見ていたが、圭一は違った。

 

 

 

圭一「おい、その女を逃がしてやると言った覚えはないぞ?」

 

有馬「いや、お前は見逃してくれるさ…。こんな女まで殺すほど、どうしようもないクズじゃないだろ?」

 

圭一「………」

 

圭一は返事を返さない…。

実際、彼女まで殺す気はなかった。狙っているのはあくまでも有馬の命なのだから。

 

 

 

有馬「まったく…アンタら殺してあの屋敷奪って、コイツや仲間達に良い暮らしをさせてやる予定だったんだけどなぁ…。やっぱり、そう思い通りにはいかないか…」

 

知花を軽く抱きしめながらボソッと呟く…。

その呟きを聞いた穂村はそれとなく負けた気分になり、ムスッとした表情をした。

 

 

 

穂村「やっすいメロドラマみたいな台詞吐きやがって…!よし、こんなモテ男は俺自らぶっ殺してやる!!」

 

狭山「さっきまでは殺す気失せてたクセに…」

 

穂村「美人にモテてるとなれば話は別だ!!今すぐ殺す!」

 

穂村はズカズカと歩き、有馬のそばに寄っていく。

そんな彼を見た知花が慌てふためく中、圭一がそれを止めさせた。

 

 

 

 

圭一「…少しまて」

 

穂村「なんで!?もう殺そうぜ!!」

 

圭一「いいから…黙ってろって」

 

穂村「なんでなんで~!?なんでぇ~!!?」

 

狭山「………」

 

圭一に邪魔された穂村は子供のように駄々をこねた後、回れ右して狭山のそばへと戻る…。そんな彼を見て、狭山は心の底から思う……モテない男の(ひが)みというのは、本当に醜いと。そしてそれを起こしているのが穂村なら、更に五割増しで醜いと…。

 

 

 

 

 

 

圭一「有馬…。この女を見逃してやると俺が約束したら、お前は大人しく殺されてくれるか?」

 

有馬「ああ、どのみち抵抗する気なんて無くしてるしな…」

 

知花「有馬さんっ!?なにを言って…!」

 

 

圭一「出来るだけ苦しめて殺すと…そう言われてもか?」

 

有馬「知花だけは見逃してくれるなら…もうそれで構わない」

 

圭一がした質問に即答し、有馬は立ち上がる。

知花は涙を流しながら彼を見つめ、肩を震わせていた。

 

 

 

 

有馬「絶対に…コイツだけは殺さないでくれ。時間をかけて集めた仲間だ、一人くらいは生かしておいてやりたい」

 

圭一「………」

 

そう言われた圭一は有馬に背を向けると、持っていたナイフを狭山へと返す。狭山はそれを不思議そうな表情で受け取り、自らのポーチへと戻した。

 

 

 

 

 

圭一「穂村、狭山…帰るぞ」

 

狭山「…うん」

 

穂村「はぁっ!?有馬殺さないのっ!!?」

 

その場から立ち去ろうとする圭一の肩を掴み、驚いた顔を見せる穂村。

だが驚いているのは彼だけでなく、有馬や知花も同じだった。

 

 

 

有馬「…見逃してくれるのか?」

 

圭一「もう二度と俺達に手を出すな。それが条件だ」

 

穂村「いやいや…『それが条件だ』…じゃねぇよ!!何カッコつけてんスか!?意味わかんねぇって!!圭一さん、殺しが好きなんだろ!?」

 

圭一「正確には殺しが好きなんじゃなく、ムカつく奴を殺すのが好きなんだ」

 

穂村「有馬はっ!?ムカつかないの!?女に好かれてるのに!?」

 

圭一「俺のムカつく基準はお前と違うんだよ…」

 

 

 

狭山「穂村、落ちついて…。もうボクらに手を出さないなら、見逃してあげてもよくないかな?」

 

穂村「よくねぇよ!!」

 

狭山「ボクもう疲れた…はやく帰りたい。手も痛いし…」

 

穂村「ぐっ!?し、仕方ねぇ……おい、有馬!もう俺達に関わるなよ!?またなんかしたら絶対に殺すからな!!」

 

狭山も有馬を見逃す気でいるらしく、穂村は孤立しかけてしまう…。さすがにそれは嫌だったのか、穂村も仕方なく有馬を見逃してやる事にした。

 

 

 

 

有馬「ああ…約束するよ」

 

 

 

圭一「…じゃあ、帰るぞ」

 

狭山「んー…」

 

穂村「納得…納得いかねぇ~……」

 

三人は有馬と知花に背を向け、一歩ずつその場を去る。

有馬はそんな三人の背を見つめながら、自分に抱き付く知花の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

有馬「悪いな…失敗しちまった。仲間もみんな殺られちまったから…これからは二人だけだな…」

 

知花「二人…だけ……」

 

有馬「また仲間を集めてもいいが…どうしたもんかな。知花、お前はどうしたい?」

 

知花「私は……自分を楽しませてくれる人さえそばにいてくれれば、それだけで十分なんです…」

 

自分の胸に顔を埋めながら語る知花を抱きしめ、有馬は微笑む。

あれだけいた仲間を失ってしまったのは痛かったが、彼女だけは助かってよかったと思った…。

 

 

 

 

有馬「まぁ、こんな俺と一緒にいても楽しいかどうかは分からんがな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知花「………あはっ、よかった。自覚あるんだぁ?」

 

有馬「えっ?」

 

さっきまで泣いていた知花の声色が少し変わった…。

有馬の知っている彼女は子供っぽく、甘えたような声を出すことが多かったが、今聞こえた彼女の声はそれとは違う…。どこか…人を見下しているような声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知花「確かに、有馬さんといてももう楽しいことは無さそうですね…」

 

 

ズッ……

 

彼女を抱きしめていた有馬は、腹部に激しい違和感を感じた。

熱いような…気持ち悪いような、不思議な違和感。

それはすぐに激しい痛みへと変わり、彼は自分が知花に刺されたと気付いた。

 

 

 

 

 

有馬「ぐ…ぅッ…!!?」

 

知花「えいっ…」

 

知花は有馬の腹部に突き刺したナイフを引き抜き、苦しむ彼を手で押し倒した。そうして有馬が倒れた際のドサッという音はその場を去ろうとしていた圭一達の耳にも届き、三人は振り向く。

 

 

 

圭一「なっ!?」

 

穂村「っ!?」

 

狭山「うそ…!?」

 

振り向いた三人が見たのは床に倒れる有馬と、血のついたナイフを右手に持ってたたずむ知花…。その衝撃的な光景を前に、三人は動く事を忘れた。

 

 

 

有馬「ど…ぅ…して……?」

 

知花「あれだけの人数揃えたクセに、たかが三人にやられるバカはいらないんです。じゃあ、さようなら~♪」

 

知花は自分の上着の内側に左手を潜らせ、何かを取り出す…。

それは未だ穂村達もその目で見たことがなく、有馬も手にしたことのない……本物の拳銃だった。知花はその拳銃を倒れた有馬の頭へ向け、引き金を引いた。

 

 

 

 

穂村「おいっ!まてっ!!」

 

穂村は彼女のもとに駆け寄ろうとするが、間に合わない。

ピカッとしたフラッシュと共に乾いた破裂音が通路に響き、有馬の頭はそれに撃ち抜かれた。

 

 

 

 

穂村「くっ!」

 

知花は有馬を撃ってからすぐにそれを穂村へと向け、ニッコリと微笑む。銃口を向けられた穂村はその場にピタッと止まり、冷や汗を流した。いくら自分達が普通の人間より強い身体を持っているとしても、銃弾まではさすがに受けられない…。

 

 

 

 

知花「あれ、来ないんですか?来てもいいですよぉ?銃弾を受ける覚悟があるなら…ですけど」

 

穂村「てめぇ…!何を考えてやがる!?」

 

知花「べっつに~。私はただ、楽しく生きたいだけです。このチームにいたのもそれが理由だったんですけど…これがまた微妙で」

 

ヘラヘラ笑いながら知花は語る…。

その表情はさっきまで泣いていた彼女とは別人のようで、目を疑った。

 

 

 

 

圭一「驚いたな…さっきの涙は演技か?」

 

知花「ええ、わたし、演技得意なんです。そうやって普段から演技して有馬さんに甘い声で接してたんで、惚れられてしまったみたいですねぇ♪」

 

圭一「俺も騙された…大したヤツだ」

 

 

 

知花「もしかしたら豪華な屋敷で暮らせるかなぁ~って期待したのに、有馬さんにはガッカリです…」

 

圭一「そんなに屋敷で暮らしたいなら…自分で奪ってみろよ」

 

知花「あは♡それもいーですねぇ…。ここであなた達を撃ち殺して、屋敷もらっちゃおうかなぁ…?」

 

銃口を穂村、圭一、狭山の三人にチラチラと向け、知花はニヤニヤした表情をする。そんな彼女の顔を見た穂村は焦り、圭一に尋ねた。

 

 

 

穂村「あの~…圭一さん?奪ってみろ、なんて言っちゃってますけど、拳銃に対抗できるだけの作戦がおありで?」

 

圭一「………」

 

 

 

 

 

 

 

圭一「あるわけないだろ…。もっと考えてからもの言え」

 

穂村「その台詞そっくりそのままアンタに返すわ!!バカじゃねぇの!?作戦も無しになんで相手を挑発したの!?」

 

圭一「まぁ…どうにかなる。そう信じてやまないからさ…」

 

穂村「やべぇ!この人思ってたよりバカだ!!狭山!マジやべぇぞ!」

 

穂村はこの状況にして始めて、圭一の少し間抜けな部分を知る…。

そうして穂村が大慌てする中、狭山は冷静に知花へと語りかけた。

 

 

 

 

狭山「知花さん…ボクらの屋敷の場所知ってるの?」

 

知花「あ~…それが知らないんですよねぇ。私、チームの皆には戦える事隠してましたから…ここに来てからはあまり外にも出てないし。狭山真冬ちゃん…でしたっけ?屋敷の場所、聞いたら教えてくれますか?」

 

銃口を狭山に向け、知花が尋ねる。

狭山はそれに少しだけ困ったような表情を見せ、静かに答えた。

 

 

 

 

狭山「残念…教えてあげない」

 

知花「それは…本当に残念です。じゃあ次の質問!あなた達三人は…いったい何者ですか?」

 

穂村「何者…っていうと?」

 

 

知花「たった三人だけで三十の敵を倒したんです。こんなの普通じゃない。有馬さんも、あなた達は普通の人間とは違うって言ってましたしね」

 

銃口をチラチラさせながら三人を見つめ、知花はニコッと笑う。

この女に自分達の事を全てを明かすのは面倒な気がしたので、圭一は適当な事を言って誤魔化すことにした。

 

 

 

 

圭一「しっかり鍛えてるからな…それだけだ」

 

知花「それだけですか?ほんとに?」

 

穂村「おう、本当本当…」

 

圭一と穂村が答えると、知花はその視線を狭山へと向け、彼女の体をジーっと眺めた…。男二人の体は確かにガッシリしているように見えるが、彼女の体…その手足は細く、お世辞にも鍛えているようには見えない。

 

 

 

知花「お二人はともかく、真冬ちゃんは見た目も華奢で鍛えてるようには見えないけどなぁ~」

 

狭山「………」

 

 

 

知花「まぁ、別にいっか♪そんなこと、気にしたって仕方ないもんね!」

 

穂村「こっちからすりゃ、アンタの方が謎だぜ…。その拳銃とか、どこで拾ったんだって話だ」

 

知花「これ?これは…まぁ、拾い物ってことで♪それで納得して♡」

 

穂村「…へいへい」

 

 

 

知花「にしても、有馬さんのとこに来たのはなんだかんだで正解だったかなぁ…。そのおかげであなた達に会えたんだもんねぇ♡外にいるあのゾンビ達の他にも、面白いものはいっぱいあるんだなぁ。飽きさせないねぇ♪」

 

そう言って、知花は本当に嬉しそうに微笑んだ。

彼女のようなタイプの人間には今まで出会った事がなく、さすがの圭一達もどこか引き気味になっていく。

 

 

 

知花「でも、私と有馬さんを見逃したのはちょっと期待外れだったなぁ…。あそこで二人共殺そうとしてきたら、本当にゾクゾクしたのに…。圭一さんだっけ?あなた、20点減点ね」

 

圭一「なに?」

 

ナイフを持っている右手で圭一をビシッと指さし、知花は告げる。

彼女が何を言っているのか少しも理解できず、三人は戸惑った。

 

 

 

 

知花「あなた達三人がもっと残酷で…もっと強ければ面白かったのになぁ……。三人ともけっこうボロボロだし、銃なんかなくても勝てるかも…。私、結構強いんですよぉ?」

 

穂村「へぇ?じゃあ…やってみろよ?」

 

 

 

知花「…ふふっ、それはまた今度ね?今日のところは見逃してあげる。さっき私を見逃してくれたお返し♪」

 

狭山「じゃあ…また会うのを楽しみにしとく」

 

 

 

知花「そうだね、私も楽しみにしとくよ♪ほんとは…この場で一人くらい殺しておきたいけど……」

 

知花はそう言いながら銃口を穂村、圭一、狭山の順に向けていき、ニヤッと微笑んだ。

 

 

 

 

知花「今日は有馬さんに一発使っちゃったし、弾は節約しないと!ってわけで、また今度ね~」

 

三人に銃口を向けながら、知花は後ずさりしていく…。

そうして曲がり角の向こうに消える寸前、彼女は思い出したかのように告げた。

 

 

 

知花「あっ、まだちゃんと名前言ってなかったよね?知花(ちばな)(さき)…それが私の名前だよ。ちゃんと覚えといてね~♪」

 

 

自らの名を三人に名乗った後、知花は駆け足で曲がり角の向こうに消えていった…。穂村は彼女が去ったのを確認して一息つくと、横たわっている有馬の死体を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

穂村「結局…コイツはモテ男なんかじゃなかったんだな…」

 

狭山「そこはどうでもいいと思う……」

 

穂村「よくねぇよ。あの知花って女は、コイツやその仲間をいいように利用して自分が楽しむ事だけを考えてた。つまり、コイツはモテ男どころかただのピエロだったわけで…」

 

ただのモテ男だったら殺してやりたい程に気に入らないが、そうでなかったとなると途端に同情してしまう…。穂村は有馬の死体を見つめ、切なそうな表情をした。

 

 

 

 

穂村「こんなふうに、信じた女に騙されて死ぬのは絶対に嫌だなぁ…」

 

狭山「大丈夫大丈夫、穂村はボクが殺してあげるから」

 

穂村「それもそれで嫌なんだが…」

 

 

圭一「おい、いつまで話してる。帰るぞ」

 

穂村「あっ…わりぃわりぃ」

 

 

敵を倒し終えた三人は図書館を出て、外に停めていた車へと向かう…。

少し早足で向かえば知花に追い付けるかとも思ったが、彼女はとっくにここを出た後らしく、車を停めていた外の駐車スペースには大量の感染者が侵入していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圭一「あの女…門を開きっぱなしにして出ていきやがったな」

 

狭山「まぁ、ボクらの事を気づかって閉める理由はないもんね…」

 

穂村「なんて嫌な人でしょう!!」

 

 

外は既に日が暮れており、明かり無しでは停めた車がどこにあるかも分からない。狭山はポーチにしまっていたライトを右手に持ち、10mほど先に停めてある自分達の車を照らした。

 

 

 

狭山「さて…帰ろっか」

 

圭一「だな」

 

穂村「邪魔な感染者は出来るだけ俺がどけるから、狭山と圭一さんは先に乗ってよ」

 

車までの道には数体の感染者がおり、簡単には通れそうもない…。

仕方なく、穂村は二人の先を走って道を阻む感染者の前へと駆け寄った。

 

 

 

「グァ……ァァッ…!!」

 

穂村「ほっ!」

 

穂村は目の前にいた感染者の手を引っ張り、二人の邪魔にならない場所に倒す。ただ投げ倒しただけだが、起き上がるまで遅いので十分だった。

 

その後もそうやって道を阻む数体の感染者をどかしていき、圭一と狭山は車へと乗り込む事に成功した。穂村は感染者の相手をしている為、車に乗るのが二人よりも遅れている。

 

 

 

狭山「圭一さん、はやくエンジンかけて。穂村おいてっちゃお…」

 

圭一「まぁ待て。車の鍵が見あたらなくて……お、あったあった」

 

狭山「はやく。穂村が来た…」

 

 

バタンッ!!

 

 

 

穂村「いよしっ!帰ろーぜ!」

 

狭山「…ちっ」

 

どうにか車に入れた穂村は笑顔で助手席に座り、二人に告げる。

後部座席に座っている狭山は彼をここに置いていきたかったので、小さく舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

柳「まぁ、三人とも無事でなによりだ」

 

狭山「無事じゃない…。左手、痛い…」

 

 

あの後、三人は車で屋敷へと戻り、地下に身を潜めていた柳を一階の広間へと呼び出した。柳は三人が無事で良かったと喜んだが、狭山はボロボロになった左手を上げてムスッとした表情を見せる。

 

 

 

柳「おおっ…けっこうな怪我だね。見たところ…狭山君が一番重傷かな。よし、とりあえず手当てしようか…」

 

柳は彼女をそばにあった椅子に座らせ、医療品を取りに別室へと向かった。少しして彼は救急箱を手にしてそこに戻り、狭山の手当てをしながら三人の報告を聞く。

 

 

敵の人数がどれほどだったか…。

 

その連中とどんな戦いをしたか…。

 

報告は大体が柳の予想通りのものだったが、最後に三人が出会った『知花咲』という女…その存在は予想外だった。

 

 

 

 

柳「なるほど…その知花咲って女、かなり危ない人みたいだね」

 

圭一「ああ、猫かぶるのが随分と上手いし…拳銃まで持ってやがる」

 

狭山「ほんと、撃たれなくてよかったよ…」

 

 

柳「いくら君達でも、拳銃と真っ向勝負は出来ないからね。」

 

穂村「見た目だけなら可愛らしい女だったのに、わかんねぇもんだな…」

 

穂村がそんな事を染々思っていると、柳が狭山の左手の手当てを終える。手当てを終えた狭山の左手首には包帯がしっかりと巻かれており、完全に治るのは少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

柳「よし、とりあえず左手はこんなものだろう。他に痛むところは?」

 

狭山「あとは…たぶん大丈夫。何日か寝ればその内治る」

 

柳「本当かい?無理してないね?」

 

狭山「してない…。大丈夫」

 

そう言って狭山は立ち上がり、一人部屋を出ていった。

恐らく、自分の部屋で休むのだろう。

柳、圭一、穂村はそう考え、静かに彼女を見送った…。

 

 

 

 

 

 

…バタン

 

自室に戻った狭山は血に汚れた服を脱ぎ、綺麗な服へと着替える。本当はシャワーでも浴びに行きたかったが、思っていたよりも疲労していてそれすら面倒だった。

 

 

 

狭山「………」

 

狭山はベッドに横たわり、そのまま眠りにつこうとするが、ふと…あの時に如月とその仲間が言っていた言葉を思い出す。如月達は狭山達がなんとなく追っている少女らの一人、"丈槍由紀"の事を知っていた。話によれば、丈槍由紀は如月の知り合いに捕らえられているらしいが…。

 

 

 

 

 

 

狭山(たしか…境野とかいったっけ。また……調べて…みよ…)

 

激しい睡魔に襲われ、これ以上目を開けていられない…。

狭山は重たいまぶたを閉じ、静かに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、最後の最後に新キャラを登場させてしまいました(汗)


知花(ちばな)(さき)…年齢(?)

目が悪いのかはたまた伊達なのか、黒ブチ眼鏡を着用し、茶色い髪の毛を肩まで伸ばしています。体も比較的小柄で、パッと見では大人しそうな印象なのですが、『他人を利用して自分だけが楽しむ』をモットーにこの世界を生きている危険な人です。どこで手に入れたのかは不明ですが、拳銃を始めとする武器をいくつか隠し持っています。

有馬のグループには数週間前に加入しましたが、武器の事や自分の戦闘能力などは全て隠しており、完全な無能を装っていました。その可愛らしい見た目や仕草・発言(演技)などで有馬のお気に入りとなり、特別な役目無しにこのグループに居座っていたようです。

彼女がこのグループに居座っていたのは『何か面白い事があるかもしれない』という理由からなのですが、実際はあまり楽しめなかったようですね。

有馬が圭一に殺されそうな時にわざわざ演技をしてまで出ていったのも、圭一ら三人の対応を見て『良い遊び相手になるか見極めたかった』からというだけなのです。なので、圭一が自分や有馬を見逃したのは少し期待外れだったようですね(汗)

しかし、それでも圭一達は彼女に一目置かれる存在にはなったので、また会うかも知れません。
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