軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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久しぶりの【いせかいぐらし!】です!
かなり間が空いてしまったので、前回までのあらすじを…。

魔法や魔物の存在する世界…"エテポロン"に学園生活部達が現れて一ヶ月…。彼女達はそれぞれ力を付けながら平和な暮らしをしていましたが、とうとうこの世界最大の脅威である"焔の王"の居場所が判明。この焔の王を倒すことこそが彼女らに与えられた使命なので、一行はその討伐に向かう訳ですが……その前にちょっと一波乱。




第四話『しゅっぱつ』

 

『"(ほむら)の王"…。これまでに確認したどんな人間や魔物よりも強大な力を持つ存在であり、ほんの数日の間に幾つもの国を滅ぼしたと言われている。あまりにも強すぎるその力に人類は希望を捨てかけていたが、焔の王はある日を境に姿を消した…。後々明らかになった事なのだが、勇気と力ある四名の人物が奴を封印したらしい。どのような方法で奴を封印したのかは不明だが、この四人によって世界が平和を取り戻したのは紛れもない事実である』

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

美紀「じゃあ、一回は封印出来たんだ」

 

真冬「そういうことだね…」

 

室内の中央に置かれている横長のソファーに真冬と座り、美紀は読んでいた本のページをペラペラと捲る。これは近くにあった図書館から借りてきた物なのだが、彼女達がこれから戦う事になるであろう"焔の王"についての情報がいくつか記されていた。

 

 

美紀「この四人がいれば、焔の王をもう一度封印出来るかも知れないけど…」

 

真冬「その本が出たのは今から四十年も前…。例の四人が生きているのかどうかも分からないし、仮に生きていたとしても、多分お爺ちゃんお婆ちゃんになってるよ…」

 

美紀「だとしても、封印のやり方くらい聞けるかも」

 

真冬「…かもね。でも、その四人についての詳しい情報は無いでしょ?」

 

美紀「うん…。四人の中には屈強な戦士や美しい大魔法使いがいた…としか書かれてない…。ところで、この大魔法使いと真冬ってどっちの方が凄いのかな?」

 

真冬「…………さぁ」

 

真冬もこの世界では"大魔法使い"という異名を持っているため、この本の人物とどちらが上なのか気になる…。美紀は興味本意で尋ねてみたが、真冬は少しの間を空けた後に何でもない普通の答えを返すだけだ。

 

 

美紀「…けど、この人達が封印した焔の王は復活して、再びこの世に現れた…。でも、どこかの誰かが残した予言によると復活した焔の王は私達が倒すんだよね?」

 

真冬「うん…。予言に出ていたのは【五人の少女と一人の少年】だから、ボクと美紀…由紀と胡桃と悠里。そして彼を入れればピッタリ当てはまる」

 

美紀「確かに【五人の少女と一人の少年】ではあるよね…。けど、もし違ったらどうするの?ただ人数がピッタリ合ってるってだけで、予言に出ていたのは私達じゃないのかも…」

 

もしそうだったら、焔の王と戦っても勝てずに終わるかも知れない。

全員、その場で殺されてしまうかも知れない…。

こんな世界に来てまで、誰かを失うのだけは嫌だった…。

 

 

真冬「…いや、あの予言に出ているのはボク達だと思うよ。その証拠にボク達はこの世界にやって来てからみるみる強くなっていった…。きっと、この世界との相性が良いんだと思う」

 

美紀「強くなったっていう実感はある…。けど、少し狂暴な魔物が相手だと今でも結構苦労するよ」

 

真冬「ボクは全然平気だよ。ただの魔物じゃ物足りないくらいだもん」

 

美紀「それは真冬の成長速度が異常だからだよ」

 

由紀に美紀、胡桃と悠里も今となってはかなり強くなれたと思うが、それでも真冬の力には遠く及ばない…。彼女はこの世界にいち早く来ていたのでそれも少しは関係あるのかも知れないが、それにしたっておかしい成長速度だ。

 

 

 

真冬「でも、胡桃や彼もかなり強くなった…。焔の王がどれだけ強いか知らないけど、今のボク達なら絶対に大丈夫」

 

美紀「…だと良いんだけど」

 

読んでいた本をパタリと閉じ、美紀は数メートル先の床を見る。その上では彼が顔を俯けた状態で正座しており、目の前には両手を組んだまま彼の事を見下ろす悠里の姿が…。

 

 

 

悠里「さて、もう反省したかしら?」

 

「ええ…。この説教が始まった瞬間にしてました…」

 

事の始まりは先日、彼が悠里達に何も言わぬままこの借家を買い取った事から始まった…。この家は国の中心地にあり、買い物するにも何をするにもかなり便利だが、その立地の良さゆえ月に一度の支払い額も高い…。そんな家を彼が丸々買い取ったとあればこれから財政難を迎えるのは必然であり、それに怒った悠里の説教はいつもより長めの二時間越えコースとなっている。

 

 

 

悠里「本当に反省しているの?」

 

「してますとも…。でも、りーさん…一つ聞いてく――」

 

悠里「でも?でもって何?あなた、自分が何をしたのか分かってるの?」

 

「くっ……」

 

終わりかけた説教が彼の『でも』という発言で再燃し、悠里の目付きがまた鋭くなる…。このやり取りももう三回は繰り返しているだろう。部屋の隅にいる由紀は気まずそうに笑っているし、胡桃に限ってはそれを見物するのにすら疲れて昼寝している。

 

 

 

真冬(…もういいかな)

 

これだけ説教されたら彼も懲りただろう…。

真冬はソファーから腰を上げると悠里のそばへ立ち、その肩を叩く。

 

 

 

真冬「悠里、あのね、この家を買い取った代金だけど…。それはこの国の王様が払ってくれたから、ボクらのお金は減ってないよ」

 

悠里「えっ?どういう事…?」

 

真冬「まだ言ってなかったけど、この国の王様はボクらが言えば大抵の物は用意してくれるの。悠里、ここの家賃が高いって悩んでたでしょ?それを見てた彼は王様に相談して、この家をタダで貰ったの」

 

悠里「タダ…?無料(むりょう)って事…?」

 

真冬「うん、無料って事。これからは家賃の支払い無し。全部王様が肩代わりしてくれたから…」

 

この時、悠里は【タダ=無料】という簡単な事すら分からなくなる程に混乱していた。自分達の生活資金が減っていなかったのは喜ばしい事だが、それを肩代わりしていたのがこの国の王だとは…。

 

 

 

悠里「その…王様は何でそんな事をしてくれたの?」

 

真冬「ボクらが焔の王を倒してくれると思ってるから、その為の援助というか…報酬の先払い、みたいな?」

 

悠里「…なるほど、それだけ期待されてるって事ね。じゃあ…もういいわ。余計なお説教しちゃってごめんなさい」

 

「……いえいえ、お気になさらず」

 

長かった説教からようやく解放された彼はゆっくりと立ち上がり、正座を続けていた事で痺れていた足をプルプルと振る。真冬はそんな彼を見つめると、おかしそうに『ふふっ』と笑った。

 

 

 

真冬「王様の事、悠里に早く伝えれば良かったのに…」

 

「伝えようとしてたさ…。けど、それを伝えようと口を開く度にりーさんが不機嫌になって…」

 

真冬「それで伝えられなかったと…」

 

「そういうこと…。ったく、焔の王ってのがどれだけ恐ろしい奴なのか知らないが、りーさん程ではないだろうな」

 

悠里「…ねぇ、それってどういう意味かしら?」

 

小さな声で呟かれたその言葉を聞き逃す事なく、悠里は彼の背後へと立つ。彼女はニコニコと微笑んでいたが、その裏に激しい怒りが込もっているのは言うまでも無い。彼は額に冷や汗を浮かべながら振り返り、咄嗟に出任せを言う事にした。

 

 

「いや…りーさんもかなり強くなってきた事だし、相手がどんな奴だろうと楽勝かなぁ~って…」

 

悠里「へぇ…今の言葉にはそんな意味が込められていたの?」

 

「まぁ……はい」

 

悠里「……そう。ならいいわ」

 

上手く誤魔化せた……ようにも思えるが、恐らく悠里はわざと見逃してくれたのだろう。彼女が向けた余裕ありげな笑みにはそう感じさせるような何かがあり、彼はただただ苦笑いした…。やはり、どんな世界に来ようと彼女には敵わない。

 

 

「……何にせよ、まずはその焔の王を倒す事から始めないとな。ヤツの居所は分かってるんだろ?」

 

美紀「ええ、この街から北に行った場所にある古城で発見されたそうですが、少し前の情報なので今もいるかどうかは……」

 

「ま、とりあえず行ってみれば分かるだろう…。真冬!」

 

真冬「うん、もう準備は出来てる…」

 

彼の呼び掛けに答えた真冬は羽織っていた黒色のコートを揺らしながら側へと寄り、小さく頷く。彼はそんな真冬と共にゆっくりと歩き出し、今からその焔の王とやらを倒しに行こうとしたが……

 

 

悠里「ちょっと!今から行くつもりなの?」

 

「ええ、危ないヤツは出来るだけ早い内に倒しておきたいんでね」

 

真冬「悠里達は留守番しながらのんびりしていて良い。焔の王はボクと彼だけで倒す……」

 

美紀「いやいやっ、危険ですよ!?真冬だって私と一緒に情報集めとかしたんだから分かってるでしょ?もしも焔の王が情報通りの強さだったとしたら、二人だけじゃとても―――」

 

「大丈夫大丈夫、今の僕らはかなり強いから」

 

ヘラヘラと笑いながらそう告げるが、悠里達は決してそれを許そうとはしない。ここにいる全員がもうこの世界にある程度慣れ、戦う力も身に付けてきた。特に真冬、胡桃、そして彼の戦闘能力はかなりのものだが、それにしたってたったの二人で"焔の王"という強大な敵に挑むのは無謀でしかない。

 

 

悠里「こればかりは見過ごせないわ。倒しに向かうというのなら、私達全員で行かないと…。あなた達二人だけを戦いに向かわせて、もし帰って来なかったら私達はどうすればいいの…?こんな世界に来てまで誰かを失うなんて…絶対に嫌よ」

 

元いた世界は、あまりにも過酷な世界だった…。

この世界にも"魔物"という危険な存在がいるので決して安全とは言えないが、それでもこの世界には大勢の優しい人々がいるし、自分達も魔法などの力を使えるようになったので自衛がしやすい…。だからこそ今日まで楽しく暮らしてこれたが、ここで彼と真冬が死んでしまったら……明るさを取り戻していた皆の心がまた沈むだろう。

 

 

悠里「あなたと真冬さんがいなくなったら、みんなが悲しむ…。だから、危ない存在と戦う時はみんな一緒に行きましょう?もし、みんなで戦っても勝てないような敵だとしたら……その時はもう諦めるしかないけどね」

 

「………」

 

敵はどれだけ強大な存在か分からない…。

だからこそ、皆はここに残して自分と真冬だけで戦いを済ませたかったが、悠里はもちろん由紀も美紀も折れるつもりは無いようだ。

 

 

真冬「……ねぇ、もうみんなで行こうか?」

 

「…ああ、そうだな…。よし、じゃあとっとと出発するか」

 

どれだけ恐ろしいヤツが相手でも、皆となら…彼女達とならどうにかなりそうな気がする。彼は微かな笑みを浮かべると、部屋の隅にあるソファーの上で眠っていた胡桃の頬をペシッと叩き彼女を起こす。

 

 

「ほら、起きろお姫様」

 

胡桃「んぁ…っ?お、お姫さま…?……誰のことだ?」

 

「当然、胡桃ちゃんの事だよ」

 

しれっと囁くと、寝起きにも関わらず胡桃の顔が赤く染まる。

彼はここ何日かの間、真冬と二人だけで外へと出て行動していた。つまり胡桃達とこうして会うのも数日ぶりの事であり、久しぶりに見る彼女の赤面につい頬が緩む…。やはり、胡桃をからかうのは面白い。

 

 

真冬「さて、じゃあとっとと終わらせてこよう…」

 

真っ赤な顔で何かを叫ぶ胡桃と、それを見て楽しげに笑う彼…。真冬はその二人や由紀達を見回してそっと微笑んでからそう告げ、皆と共に出発の時を迎える。目的地はそう遠くもないそうなので、大した準備は必要無い…。必要なのは勇気と覚悟だけだ。外へと出た一行は、由紀の元気な声を合図として歩き出す。

 

 

由紀「よしっ!では、しゅっぱ~つ!!」

 

 

 

 

 

 




彼もかなり強くなったハズですが、色々な意味でりーさんには敵いません…。
この【いせかいぐらし!】は元々短編作扱いでしたが、書いてみたい話が幾つか思い浮かんだので今回より別枠として章分けさせてもらいました。たぶん、かなり長くなるかと思うので……【本編】や【どんな世界でも好きな人】と共にのんびりお付き合い下さいませm(__)m
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