悠里「そこ、転ばないようにね」
胡桃「ああ…分かってる」
平原でテントを張ったその翌日、目を覚ました一行は朝食を済ませるとテントを片付け、再び歩を進めた…。平原を抜け、小さな森を通り抜けていく。途中、細い川が目の前を流れていたが、所々にある岩の上を渡ってそれを越えていく。まず先頭を進んでいた彼が渡り終え、続けて悠里が……その次に由紀と胡桃が、最後は美紀と真冬が川を渡り終え、一息つく…。目当ての古城はまであと少しだ。
美紀「もうすぐ…ですね」
真冬「うん……」
この世界にやって来て、"焔の王"の存在を知ってからというもの…真冬は必死に魔法を学び、力を身に付けてきた。後々、大切な皆が…学園生活部がここにやって来ると知っていたから。皆を守るその為に力を身に付けてきたが、その皆も強くなった。今なら、どんな相手だろうと絶対に……。
「…胡桃ちゃん、体の具合は?」
胡桃「全く問題なし、絶好調だ!」
手元に出現させたシャベルをクルクルと回し、最後にパシッ!と掴んでから肩へと乗せて胡桃は笑う。どうやら本当に絶好調らしい…。元気な彼女を見ているとこちらまで元気になれる気がして、彼は同じ様に笑顔を浮かべる。
「元気なら良かった…。あとは、この世界を平和にするだけだな」
川を渡り終え、木々の間を進んで森を抜ける…。
辺りにある木の数もだんだんと減ってきて、いよいよ森を抜けられそうだという時、一行の前に女性が現れた。肩まで伸びた茶髪に白いワンピース…背中に小さなカバンを背負ったその人は見た感じ二十代半ばくらいであり、一行と目が合うなり慌てた様子で駆け寄ってくる。
「皆さん、この先は行かない方が良いですよ!最近、怪しい人がこの先にある古城の中にいるのですが……その人物はどうもあの焔の王らしいと言われているので」
悠里「やっぱり、本当にいるのね……。私達、その焔の王を倒すためにここまで来たんです。あの、もし焔の王に関する情報があるのなら聞いても良いですか?」
この先の古城にいるのはやはり、焔の王らしい…。
現れたこの女性は近くの村に暮らしているらしく、今日はここの辺りにある山菜を取りに来ていたようだ。女性は悠里の言葉を聞いて彼女らが"予言の人"であると知り、安堵したように語りだす。
「あなた達が予言の人達なら、焔の王を倒せるのかもですね…」
美紀「はい、絶対に倒します…。ですので、何か情報があれば是非」
「すいません…戦いの役に立ちそうな情報は無いのです…。しかし、ここ最近起きた事…焔の王がしてきた事についてなら、お話出来ます」
戦う上でのヒントにはなりそうにないが、どんな情報でも聞いておいて損は無い。一行は静かに口を閉ざし、女性の語りに聞きいる。
「焔の王がこの先の古城に現れたのは、今から二ヶ月くらい前でしょうか…。奴は突如として現れ、たまたま辺りを見回りに来ていた王国の騎士達を蹴散らしました。幸いな事に、騎士達は誰一人として命を奪われなかったようですが…その際、奴は自分から名乗ったそうです。自分が"焔の王"だと…」
真冬「……騎士達は何人くらいいたの?」
「私も他の人からこの話を聞いたのでしっかり確認した訳では無いですが、恐らく10人はいたと思います…。王国の騎士とあれば、それなりの鍛練を積んだ方々でしょうに…それがたった一人に負けてしまったのです」
ここにいる全員が王国の騎士や兵隊達とは少なからず交流があるため、彼等がただの雑魚でない事はよく理解している。定期的に城へと招かれ、兵隊達の訓練を手伝っていた胡桃は特にそうだ。
胡桃「10人か…。どんなヤツが来てたかにもよるけど、あたしの知る限り国の兵隊達はみんなある程度強い…。それが束になっても敵わなかったとあれば、相手は明らかに普通の人間じゃないな」
「ええ…。そう言えば奴はその騎士達を蹴散らして名乗った後、騎士の一人に目的を聞かれてこう答えたそうです…。『美しい女が欲しい』と…」
美紀「美しい女…ですか?なんか、思っていたよりも
由紀「みーくん的にはそっちの方が良かったの?」
美紀「別に、良かったって訳では…。ただ、少し期待外れな感じがして」
思っていたのとはどこか違う要求にがっかりしたのか、美紀は残念そうにため息を吐く。そんな彼女を横目に見て、彼は苦い笑みを浮かべた。
「魔王的ポジションのヤツに何を期待してるんだ……」
美紀「まぁ、そうなんですけど…なんかがっかりしません?美しい女が欲しい~なんて、魔王っていうよりただの山賊じゃないですか」
「…ま、言いたいことは分からないでもない。それより、マズイ事になったな…。焔の王の望みが美しい女だというのなら、少し危なくないか?」
美紀「えっ?何がですか?」
彼はゆっくり辺りを見回し、そばに立つ少女達を順に眺める…。
美紀、由紀、胡桃、真冬、そして悠里……皆、タイプは違えど美少女に入るであろう容姿をしている。焔の王の好みがどんな女性かは知らないが、これだけの女性がいれば一人くらい気に入られてしまうかも知れない。
「みんな、わりと可愛いからな…。もし戦いに負けたらそのまま焔の王に捕まって、あんな事やこんな事をされるかも……」
由紀「あ、あんな事やこんな事……?」
由紀は今一つイメージ出来ていないのか、『うーん』と唸りながら首を傾げる。彼は敢えてぼやけた物言いをしたのだが、由紀に危機感を持たせるべく口を開けた。
「ああ、焔の王はきっと、気に入った娘を捕まえて服を引き裂き、そのまま魔王の子を孕ませ――――」
悠里「なっ!?なんて事を言うのよっ!!!」
バシンッ!!!
と激しい音を立てて悠里の平手打ちが炸裂し、彼はそのまま数メートル後方へと飛ぶ。宙を舞い、地面に背中から落下した彼はすぐに起き上がると、ジンジンと痛む頬を撫でながら元の位置へと戻る。
「いてて……可能性の一つを言っただけなのに…」
悠里「そんな可能性は絶対にありません!!」
美紀「け、けど…分からないですよ?綺麗な女の人を求めているくらいですから、先輩の言うような可能性もあるかも………」
胡桃「うぅっ……そんな訳の分からないヤツに襲われるのは嫌だなぁ…」
今回の戦いで負けた場合、命を取られるだろうという事は覚悟していた…。しかし、彼の発言を聞いていたら何だか怖くなる。当然、命を取られるのだって怖いのだが、彼の言うような展開はもっと怖い…。
由紀「りーさんナイスボディーだから、狙われちゃうかも…」
悠里「もうっ!!由紀ちゃんまでそんな事言って!」
真っ赤に染まる悠里の顔を見た由紀は楽しげに微笑み、それと同時に真冬も笑う…。しかし、彼女の微笑みは由紀のような楽しげなものではなく自虐的なものだ。
真冬「悠里みたいなナイスボディーが狙いなら、ボクは大丈夫そう…」
黒いコート越しに自身の胸を撫でてヘラヘラと笑う真冬は見ているだけで痛々しく、悠里や美紀達は何の言葉もかけられない…。しかし、彼は違った。
「大丈夫だよ。もしかしたら焔の王は貧乳好きかも知れないから、真冬みたいなペッタン
真冬「…………」
美紀「せ、先輩っ…!」
彼が真冬の肩をバシバシ叩いて笑みを浮かべると、真冬の表情がだんだんと冷たくなっていく…。皆、彼のデリカシーの無さに呆れ、美紀は慌ててフォローしようとしたが、もう遅い…。
「ほら、真冬、元気だそ――――んぐっ!!?」
急に息苦しくなって視線を後ろへ向けてみると、後方の地面から木の根っこのような物が伸び出てきて首へと巻き付いてきていた…。恐らく真冬の魔法だろう。ぐるりと巻き付いて首を絞め付けるその根を解こうとして右手を使う彼だが、根は予想以上に硬く中々解けない。
「ぐぐ…っ…!く、苦しい…」
真冬「…ああ、そう」
"貧乳"とか"ペッタン娘"とか言われたのが悔しかったのか、真冬の瞳には微かに涙が浮かんでいた…。根っこに首を絞められている彼を睨みながら真冬がそっと右手を捻っていくと、その根はより強く彼の首を絞めていく。
美紀「ま、真冬…そのくらいにしておかないと……」
真冬「……わかった」
これ以上やると、本当に彼を殺してしまうかも知れない。
美紀は涙ぐむ真冬をなだめ、魔法を止める。美紀に説得された真冬が右手をフッと軽く振るうと、木の根はシュルシュルッ!と勢いよく地面の中へと戻っていった。彼は少し苦しそうに咳き込んでいるが、まぁ無事なようだ。
「ゲホッ!ゴホッ!!あ~…死ぬかと思った」
真冬「うん…殺そうと思った……」
相変わらず、真冬の言葉は冗談なのか本気なのか分からない…。
しかし何にせよ、これからは彼女の胸についての話題は出来るだけ避けようと彼は決めた。多種多様な魔法を使いこなすこの世界での彼女を敵に回したら、命が幾つあっても足りない。
「はぁ…何はともあれ、焔の王はすぐそこか…」
胡桃「気合いを入れていかないとな」
出会った女性に別れを告げ、一行は森を抜けていく…。
そしてとうとう目的地である古城の前へと立ち、その異様な雰囲気を前に気を引き締める…。その城は大きくて立派だが、かなりの間放置されてきたらしく外壁の所々に傷があってボロボロだ。周囲には魔物らしき大きな鳥が飛び交い、『ガァ!ガァッ!!』と耳障りな鳴き声をあげている。
悠里「あら…大きな鳥…」
由紀「なんか、お化け屋敷みたいだね…」
美紀「そうですか?結構良い雰囲気のお城だと思いますけど…」
胡桃「いや、良い雰囲気ではないだろ…。いかにも何か出てきそうな感じがして、出来るなら入りたくない……」
動くヨロイとか、笑い声をあげる絵画とか、そんなのが出てきそうで少し怖い…。ようやくたどり着いた城の雰囲気があまりに異質だったので由紀と胡桃は臆しているようだったが、他の者はスタスタと歩を進める…。
「ほら、二人は来ないのか?」
真冬「嫌なら待っていても良いけど……」
胡桃「っ…うぅっ…。い、行くって!」
由紀「もう、待ってよ~!」
恐ろしい雰囲気の漂う城だが、ここまで来て帰る訳にはいかない。
胡桃と由紀は少し遅れて中へと入り、悠里達と合流する…。
倒すべき相手は……焔の王はすぐそこだ…。
次回、一行はいよいよ焔の王と出会います。
ご期待下さいませ~!