今回の更新も異世界編の続きとなっています!
前回は真冬ちゃんに焦点を当てた話を送りましたが、今回は彼と胡桃ちゃんのお話です。
「よっ…と!!」
とある町から少し離れた場所にある森の中……自分目掛けて振り下ろされる大きな腕をギリギリのところで避け、彼は目の前のそれへ剣を振る…。目の前にいるのは彼よりも一回り大きくて、絵本に出てくる鬼の様にガッシリとした体系の魔物。筋肉質な体と鋭い爪だけを見ればとてつもなく手強そうだが、この世界に来てから真冬と訓練し、経験を積んできた彼の敵ではない。
それにこの魔物は見た目ほどの強さは無いらしく、彼が一太刀浴びせただけで後方によろめき、そのまま倒れるとすぐに動かなくなった。
胡桃「んっ、終わったか?」
「ああ、とりあえず」
そばの木の陰から現れた胡桃は彼の前に倒れてる魔物をじーっと見つめ、持っていたシャベルでその体をツンツンと突く。魔物は彼の攻撃を受けて完全に倒されているのでもう動かない。
胡桃「なんていうか、やたらと怖い見た目したヤツだな…」
「見た目はね。けど、強さ自体は大した事なかった。動きは遅いし、知能も大したことない。この世界にやって来てばかりの頃の胡桃ちゃんでもあっさり倒せる相手だったと思う」
以前、真冬に教えてもらった事がある…。
この世界にいる魔物の中には人並み、もしくはそれ以上に知能のある者がいて、人間の言葉を話すような者もいるらしい…。真冬曰く、そういうタイプの魔物には手強いものが多いらしく、ある程度の注意が必要なようだ。…とは言え知能が低くて手強い魔物もいるにはいるらしいし、その逆…知能があっても戦闘能力の無い魔物も稀にいるようので一概には言えないが。
胡桃「…けど、普通の人からしたら十分危ないんだよな?」
「それはそうだね。実際、この魔物による被害とか結構出てたみたいだし…。まぁ何はともあれ無事に倒したんだから、とっとと帰って報告して、報酬貰おう」
戦いの中で切り落とした魔物の角を証拠代わりに持ち、彼は胡桃と共に町へと戻る。城下町に住む由紀達と別れてから役半年………彼と胡桃は離れた場所にある小さな町を拠点に暮らし、そこに住む人々の害となる魔物を倒しては報酬を受け取って生活をしていた。
胡桃「ただいま〜」
森を出て町に戻り、倒した魔物の報酬を受け取ってから宿へと入る…。この町に来てからというもの、二人はこの二階建ての宿に泊まり続けていた。もう結構長い間泊まらせてもらってるだけあって、宿で働く人々ともかなり親しくしている。特に、受付で働く少年は二人が戻ってくる度にそばへと駆け寄り、笑顔で挨拶してくる程だった。しっかり聞いたわけではないが、少年の年齢は胡桃達より二つか三つ下くらいだろう。
「お二人とも、お疲れ様です!」
「ああ、そっちもお疲れさん」
彼は少年に対して笑顔で返事を返してから、二階にある部屋へと向かう。胡桃も少年に返事をして、そのまま彼のあとに続こうとしたが…。
「あっ、あの…くるみさん!
少し…良いでしょうか?」
胡桃「んっ?ああ、別に良いけど」
少年に呼ばれるがまま、受付所の隅へ行く…。
何事かと不思議そうにする胡桃に対し、少年は一度辺りをキョロキョロと見回すと、近くに誰もいない事を確認して彼女と向き合った。
「あの……俺、くるみさんの事が前から気になってたっていうか………その…くるみさんの事を一人の女性として、好きになったみたいで……」
胡桃「え……!?あ、あたしを…っ!?」
覚悟を決めたような表情で告げる少年と、その言葉を聞いて大いに戸惑う胡桃。これまで、異性に告白なんてされた事なかったからか、胡桃の頬は一気に赤くなり、視線は落ち着きなくあっちへこっちへと泳ぎだす。
「くるみさん、俺なんかよりずっと強くて…それなのに可愛くて、髪とかも綺麗で……」
胡桃「っっっ!!そ、そんなことはっ…!」
「そんなことありますよ!この町で、くるみさん以上に素敵な女の人なんていない!!まるで、どこかの国のお姫様みたいで―――」
胡桃「わっ、わかったわかった!!
ありがとう…!ほんとにありがとうっっ!!」
異性から褒められる事に慣れてないのに、これ以上あれこれ言われたらパニックでおかしくなる…。胡桃は少年の言葉を遮るように手をバタつかせ、十数秒の時間をかけてゆっくり呼吸を整えて心を落ち着かせていく……。
胡桃「……ほんと、凄く嬉しいよ。
気持ちだけ、受け取っておくな?」
照れ笑いしながらそう答えると、少年の表情がほんの少し暗くなる。
自分は振られたのだと、理解したのだろう。
「好きな人とか…いるんですか?」
胡桃「え、ええっと………」
「…いや、こんな事を聞くのは悪いですね…。気にしないで下さいっ、俺は気持ちを打ち明けられただけで満足なので!」
何かを察したのか、少年は頭を掻きながら笑う。
胡桃はまた恥ずかしげに照れ笑い一つ浮かべると少しの間だけ少年と何気ない会話を交わし、彼の待つ二階の部屋へと戻る事にした。
「遅かったね。下で何かしてた?」
部屋の奥、ソファに座って一休みしていた彼が尋ねる。胡桃は『う〜ん』と言って苦笑すると、その隣にゆっくりと腰を下ろした。
胡桃「ちょっとだけ話してたんだよ」
「話?何の?」
胡桃「おっ?なんだ、気になるのか?」
「………いや、別に」
ニヤニヤと微笑んできた胡桃から顔を反らし、彼はつい先程買った新聞を読み始める。この世界の新聞にはその地方の店の特売がどうとかって情報の他、どこに危険な魔物が出た〜とか、どこぞの騎士が活躍してる〜とか、元いた世界では絶対に見れない様な情報が多く載せられている。最初は暇つぶし程度にそれを見てるだけだったのだが、少ししてある一面が目に止まり、彼はニコッと微笑んだ。
「“学園生活部”、頑張ってるみたいだ」
胡桃「えっ、載ってんの?ちょっと見せろって」
新聞を奪った胡桃は彼が見ていた箇所を読み、同じ様にニコッと微笑む。そこに載っていたのはあの城下町で暮らす由紀・悠里・美紀の三人がやっている【学園生活部】という名の便利屋についてだった…。【学園生活部】の三人は日頃から町の人々のちょっとした仕事を手伝ったり、魔物退治を請け負ったり、色々と活躍して少しずつ有名になってるらしい。その中でも、彼と胡桃が驚いたのは………
胡桃「おい…由紀のやつ、『魔術学校の特別臨時教師に』…とか書いてあるんだけど…。な、なんだよ、魔術学校って?」
「えっと、確か若い子に魔法を教えてる学校じゃなかったかな。
あの町にある学校は結構大きくて、卒業生には有名な魔法使いがいっぱいいる……みたいな事を真冬が言っていた気がする」
胡桃「そんな学校で由紀が教師をやるのか?あの由紀が??」
「ああ、そうみたいだね。
ほら、ここにも書いてあるけど、由紀ちゃんって怪我を治す魔法とか使えるから……学校からすると是非とも欲しい人材だったのかも」
これまた真冬から聞いた話だが、魔物だの魔法使いだのが沢山いるこの世界でも、由紀のように怪我等を治す魔法を使える人間はかなり珍しいらしい。なので恐らく、あの学校は由紀を教師に迎えてその指導を受ける事で同じ様な魔法を覚える人材の発掘を目指しているのだろう。
胡桃「あいつが教師とか……想像つかない」
「……だね」
由紀が生徒らに向けて魔法を教える光景…少し見てみたい。
二人揃ってそんな事を思いつつ、新聞を置く。するとその後、少ししてから胡桃は彼の肩をポンと叩いた。
胡桃「なぁなぁ。あたしの髪って綺麗か?」
「へっ?なんでまた突然」
胡桃「いいからどう思う?綺麗…かな?」
「………そりゃまぁ、綺麗だと思いますが」
突然聞かれると反応に困るというか、答えるのもちょっぴり恥ずかしいと言うか……。なんて事を思いつつ、彼は思っている事を正直に言う。胡桃の髪は長くて綺麗だし、近くを通ると良い匂いがする。綺麗かどうかと聞かれたら間違いなく『綺麗だ』と言える髪なのだが……
胡桃「へぇ………そっか、綺麗…か……」
自分から聞いておいて照れ始める胡桃…。
そんな反応をされると彼の方も何とも言えなくなり、少し気まずくなる…。由紀達と別れ、二人だけでの暮らしをして半年……。同じ部屋に二人だけで住んでるといっても当然ながら寝室は別だし、特別親しい関係になった訳でもない。いつも通り……いつも通りの二人だ。
みんなと離れて半年…彼と胡桃ちゃんは相変わらずです。
今回も前回と同様、話に登場したメンバーのプロフィールを紹介していきます!
“主人公(彼)”
この異世界へとやって来た時期は学園生活部と同じ。
ここへ来た際、行動を共にしていた真冬がふざけて彼の名前を【ナナシ】と言って辺りの人に紹介してしまった為、今も殆どの人を相手にその名前で通っている。魔法は殆ど使えない。武器は剣。
“恵飛須沢胡桃”
半年前、一人旅に出ようとする彼をそのまま見送ろうとしたが少しだけ心配になったらしく、結局同行する事にした。それからは二人で旅をしてるが関係性の進展は特に無し。魔法は殆ど使えない。武器は元の世界と同様、シャベル。
次回は由紀ちゃん達のお話をお見せしたいと思っていますので、楽しみにしてもらえたら幸いですm(_ _)m