時刻は午前10時…
天気はこれ以上ないくらいの快晴…。
そんな中で彼は一人、公園のベンチに座っていた。
辺りにいるのは幼い子供ばかりなので、ちょっとしたアウェー感を感じざるを得ない……。
しかしそれでも、ここにいなければならない理由が一つ…
ここで胡桃と待ち合わせをしてしまったからだ。
昨日、彼が軽い気持ちで遊びに誘ったらそれを了承した胡桃だったが、彼女はまだ現れない。
もっとも、それは彼が早めに来てしまったからというだけで、まだ指定した待ち合わせ時刻にはなっていないから当然なのかも知れないが。
「…………」
「…………」
(…はやく来すぎてしまった。約束の時間まであと一時間もある…)
公園の隅にたてられた大きな時計を眺めて、彼は思った…。
待たせては悪いと思ったからこその行動だったが、それにしたってはやく来すぎてしまったかも知れない。
(仕方ない…。なにかそばで暇を潰せる場所は…)
彼はこの近くであと30分ほど時間を潰そうと考え、ベンチから立ち上がろうとする…。
ガサガサッ…
だがしかし、ベンチのすぐ後ろの茂み…彼はそこに潜む何者かに声をかけられ、立ち上がることを止めた。
???「怪しいヤツめ…そこを動くな…」
その人物は背後から彼の後頭部に何かを突き付け、少し低めの声で警告する。彼はその人物に従い、前を向いたまま、背後に立つその人物に返事を返した。
「いやその…僕はただ人と待ち合わせしているだけなんですが…」
???「ほぅ…それは本当か?」
「はい、本当に…」
???「信じられん、怪しいなぁ…ほんとは目の前を駆け回る子供たちを誘拐して、犯罪に手を染める気だったんだろう?」
一体なにを言い出すんだ…。
ベンチに座っていただけの健全な少年にいきなり声をかけてきたあんたの方が、どうみても怪しいだろう…。彼は背後の人物に対して心の中でそんな事を言いながらも、目線を前に向け続けた。
「ほんとですって…あと一時間もしたら待ち合わせ相手が来ますから、なんなら一緒に待ちますか?」
???「…それはなんだ、デートかなんかなのかぁ~…?」
なぜそんな事を聞いてくるんだ…。
頭の中でそう思いつつ、彼はにやりと照れたような笑みを浮かべる。
「いや、もしかしたらそうなのかなぁ…。…どう思います?」
???「絶対に違うぞぉ…ただ、暇だから遊んであげることにしただけだぁ…」
「…………」
その発言を聞いた直後、彼はため息をついてその人物の名を呼んだ。
「…胡桃ちゃん、なにしてんの?」
そう言われてから、その人物は彼の前へと回り込む。
見たことのあるツインテールを揺らしながらニッコリと笑うその人物の正体は、予想どおり…『恵飛須沢胡桃』だった。
休日なのでいつもの制服ではなく、下は茶色の短パンを…上は白いシャツの上に紺色のパーカーを上着として羽織っている。その格好はなんとも動きやすそうで、彼女の活発なイメージをそのまま表しているようだった。
胡桃「よくわかったな?けっこう本気で声変えてたんだけど…」
「暇だから遊んであげることにしただけ…とか言われたら嫌でもわかるでしょ」
胡桃「事実だからな。そこはキチンと伝えてあげないとと思って」
「んー…男女が二人きりで遊ぶのはデートなのでは…」
胡桃「違うって!遊びは遊びだ!!」
「…なるほど、僕とは遊びの関係ってわけか…」
胡桃「引っかかる言い方だけど…まぁそうだな」
そんな事を呟いてから、胡桃は右手の腕時計を見つめる。
すると彼女はおかしそうに笑いながら、彼の顔を覗きこんだ。
胡桃「約束した時間は11時だぜ?あと一時間もあるじゃん、少し早く来すぎじゃないか?」
「あ、あの~…待たせたら、悪いと思って…」
本人の顔を見ながら言うのは少し恥ずかしいものがあるが…、正直に告げることにする。やっぱり…一時間以上前に来るのはさすがに早すぎだったかも…。そんな事を考える彼に、突如一つの疑問が浮かぶ…。
(あれ?でも…胡桃ちゃんも…)
「胡桃ちゃんも、ずいぶん早いよね。…どうして?」
その問いを聞いた胡桃は少しだけ顔を赤くして、一瞬目をキョロキョロと泳がす…。だがすぐに落ち着いた態度を装い、軽い咳払いを一つしてから彼に答えた。
胡桃「あ、あたしは…このそばに用事があったから、だから少し早く出てただけだっ!」
「…へぇ、用事は済んだの?」
胡桃「あ、あぁ…。用事済ませて…その帰りにお前を見かけたから、声をかけたんだよ…」
「…そう」
胡桃「うん…とりあえずそういうわけで……あっ、そうだ…これやるよ」
「えっ?これ…」
彼女は手に持っていた一本の缶ジュースを彼に渡し、照れくさそうに笑う。受け取ってみるとそれはとても冷たく、買ってばかりのようだった。缶には無数のオレンジが並んだ画像がプリントされている…ということは、これはオレンジジュースなのだろう。
胡桃「女性を待たせないようにって気配りがちゃんと出来てたお前にご褒美だ!さっき買っておいた。ほらその…今日、ちょっと暑いしな?」
「………」ジ~ッ…
胡桃「……なんだよ?」
じっ~と顔を見つめてくる彼にそう尋ねる胡桃。
彼はジュースと胡桃の顔を交互に見てから、ボソッと呟く。
「…やっぱり、これはデートなのでは…」ボソッ…
胡桃「ちっ、違うって言ったろ!!…あぁもうっ!めんどくせぇっ!!」
胡桃は顔を真っ赤にしながら声をあげ、彼からジュースを取り上げた。
「うわっ!なにすんの!?」
胡桃「下らないこと言ったから没収だ!これはあたしが飲むっ!!だからお前は一人で干からびてろ!」
「ああ、もう…悪かったよ!謝るから、謝るから許して!!喉、乾いてるんですっ!」
そう言って懇願する彼の顔を横目でチラッと見つめると、胡桃はそれを返してあげるための一つの条件を提示した。
胡桃「もう今日一日、これがデートとか言うなよ?」
「わ、わかりました…」
胡桃「いいか、これはあくまでも…友達同士の遊びでしかないからな?そこのあたり、変なふうに思い上がるなよ…」
「りょ、了解です…」
胡桃「…ふむ!」
彼の返事を聞いた胡桃は満足したようにうなずくと、持っていたジュースを彼の額にペシッと押し付け、ニッコリと微笑んだ。
胡桃「じゃあ、返してやろう♪」
「…どうも…」
そう礼を言ってから彼は改めてそれを受け取り、それを開く。
まだ先程、缶を押し付けられた際の冷たさが額に残るなか、彼はそれを一口だけ飲み、そばに立つ彼女を見つめる。
彼女は彼が飲み物を一口飲むのを見届けてからゆっくりと歩き出し、笑顔で告げた。
胡桃「じゃ…"遊び"に行こうぜ!」
「はい、行きますか」
彼は歩き出した胡桃の後に続き、その公園をあとにした。
これが"デート"ではなく"遊び"であることを…少しだけ残念に思いながら…。
少し短かったかもですね…すいませんっ(汗)
次回、彼は胡桃ちゃんとのデート…ではなく、遊びに街へとくり出します。
二人がどんなふうに遊び回るのか、ご期待下さい(ノ´∀`*)
このストーリー…『どんな世界でも好きな人』は、毎週水曜日の更新となっています!(こうやって断言してしまえば、もう更新も止まらなくなるハズっ!!)