軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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前回までのあらすじ『こっちの世界のシャベルはキーホルダーとしてご主人様(くるみちゃん)のそばに』


第五話『明るい未来』(くるみ)

 

公園で待ち合わせをしていた彼と胡桃は街へと出かけ、昼食までの暇潰しとしてゲームセンターへと足を踏み入れた。そこにあったクレーンゲームで彼が手に入れた『シャベルのキーホルダー』を貰った胡桃はどこか少し上機嫌な気がして、それをプレゼントした彼も自然と笑顔になる。

 

 

その後も彼と胡桃は辺りにあった幾つかのゲームで遊び、二時間近くの時間が経過…。そろそろお互い空腹になってきたのでどこかで昼食をとろうと考え出した時、胡桃が最後にコレをと一つのゲーム筐体を指差した。

 

 

 

 

「…あれやるの?ほんとに?」

 

胡桃「いーじゃん、せっかくだしやってこうぜ」

 

「んん、まぁ良いけどさ…」

 

テンション高めの胡桃とは違い、彼のテンションは今一つ…。

何故ならば胡桃が最後に指定したゲームは大きなモニターの前に銃を模したリモコンの置かれている、いわゆるガンシューティングゲームだからだ。

 

 

 

(こういうのやったことないしなぁ…。どうせなら一緒にプリクラでも撮った方がデートっぽいのに…)

 

そんな事を思う彼だが、これはただの遊びだという事をすぐに思い出す。そばにいる胡桃が楽しそうに笑っていたりと良い雰囲気だったので、つい勘違いしそうになってしまうのだ。

 

 

 

(まぁ…一緒に遊べるなら何でも…)

 

『一緒に遊べるなら何でも良い』…そう前向きな考え方をし始めた彼が顔を上げ、そのゲームのモニターを見つめる…。モニターにはデモムービーらしきものが流れており、ゲームの内容がそれとなく分かるのだが、その主人公達の戦っている敵は……。

 

 

 

 

『グァ…ァァッ…!!』

 

恐ろしい呻き声をあげながら主人公らに襲い掛かる人型の化け物。

腐りかけているかのようにボロボロの手を伸ばし、人に噛み付こうとするそれはゾンビ映画に出てくるゾンビそのものであり、彼は言葉を失った…。

 

 

 

 

「…………」

 

胡桃「ここはあたしが奢るからさ、一緒にやろうぜ!」

 

キラキラした目で彼を見つめる胡桃だが、肝心の彼の目は死んでいる…。それこそ、ゲームに出ている化け物にも負けないくらいに暗い目をしていた。

 

 

 

胡桃「おい…どうした?」

 

心配になり、そっと声をかける。彼は顔を静かに胡桃の方へと向け、ゲームのモニターを指差しながら言った。

 

 

 

「これ、ホラーゲーム?」

 

胡桃「ん~…まぁ、ちょっとだけ?大丈夫大丈夫っ!あくまでシューティングゲームなんだし、適当に銃撃ってればなんとかなるから!」

 

笑顔で答えながらコインを入れ、銃の形をしたコントローラーを手にゲームをスタートさせる胡桃…。本当に二人分の料金を払ったらしいので、彼も渋々コントローラーを手にしてモニターを見た。

 

 

 

 

胡桃「一応言っとくけど、すぐに死んだりするなよ?せっかく二人分払ったのに即ゲームオーバーとかシャレにならんからな」

 

「はいはい、がんばりますよ」

 

胡桃「まぁ、あたしがカバーしてやるからある程度は大丈夫だと思うけどな。これ、二人で同じライフを共有してるから、死ぬときは一緒だ」

 

始まったゲーム画面の下の方を見てみると、確かにライフゲージは一本しかない。つまり彼がいくら足を引っ張っても胡桃がどうにかしてくれたりもする訳だが…彼はそんな情けない展開を胡桃に見せる気はなかった。

 

 

 

 

「死なせないさ。絶対に君を守ってみせる」

 

少し気取った台詞を吐き、モニターに現れた最初の敵目掛けて銃を向ける。彼は敵に狙いを定めて引き金を引いたが、記念すべき初弾は見事に外れた…。その瞬間に彼は銃を下げ、恥ずかしそうに顔を俯ける。

 

 

 

 

胡桃「…不安しかねぇ」

 

呆れたように呟きながら胡桃も銃を撃つ…。彼女の放った弾は見事に敵の頭を撃ち抜き、画面に記載されている得点が微かに増えた。

 

 

 

胡桃「こりゃ、あたしがお前を守ってく感じになりそうだな……」

 

「……お世話になります」

 

彼は開幕早々にこのゲームの難しさを悟り、諦めモードになる。

気持ちで負けてるのがいけないのか、彼はその後もミスを重ねていき、胡桃の足をこれでもかという程に引っ張っていった…。

 

だが胡桃はこのゲームをやり込んでいるのか、はたまた才能の違いなのか…彼という足枷をつけながらも次々と難関をクリアしていく。二人でプレイしているにも関わらず、実質胡桃の一人プレイだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「くっ…!うわっ!!」

 

そんな胡桃も終盤に差し掛かると苦戦を強いられ、遂にゲームオーバーに…。画面にはこれまでの結果が大きくが表示され、1P・2Pの個別撃破数が明らかになる。

 

 

 

『1P…撃破数85体』

 

『2P…撃破数5体』

 

 

 

言うまでもないが、胡桃が1Pで彼が2P…。

彼はそっと銃を元の位置に戻し、深くため息をつく…。

胡桃も彼がここまでとは思わなかったらしく、気まずそうに苦笑いをしながら手元の銃を弄っていた。

 

 

 

 

胡桃「あはは……ドンマイ」

 

「…んん」

 

気にしてないと言わんばかりに答える彼だが、明らかにテンションが下がっている…。このままでは気まずい展開になってしまうので、胡桃は銃を置いてここをあとにしようとした。

 

その時…ゲームのモニターがピカピカと光り、ある文字が大きく表示される。それを見た胡桃は置いた銃をもう一度手に取り、嬉しそうな表情を見せた。

 

 

 

 

胡桃「おおっ!見てよこれ!ランキング入ったぜ!!」

 

彼もそっと画面に目を向ける…。

画面には大きく『5』の数字が表示され、その下にある空欄への名前入力を待っていた。つまり、彼と胡桃はこのゲームのランキングにて五位になったのだ。…まぁ、実質胡桃が一人で取ったようなものだが。

 

 

 

 

 

胡桃「この店舗内だけのランキングだけど、それでも五位はスゴいだろ!これが全国ランキングだったらもっとテンション上がったんだけどな♪」

 

「んん…そだね」

 

胡桃「暗い顔すんなって!ほら、名前どうする?」

 

キラキラした顔を彼に向けながら胡桃が尋ねるが、今回の功績はほとんど胡桃一人によるもの…なので彼は彼女に全てを任せた。

 

 

 

 

「なんでもいいけど…普通に『くるみ』とかじゃダメなの?」

 

胡桃「いや…一応二人でやったんだし、それは味気ないっていうか…」

 

 

「…任せるよ」

 

胡桃「う~ん……りょーかい」

 

少し考えた後に胡桃は銃を構え、モニター上のキーボードを撃ち抜いて文字を入力していく。何発かの銃声が響いた後に入力されたその名前を見て、彼は首を傾げた。

 

 

 

 

『くるみん & シャベルマン』

 

 

 

 

 

「…どういうことなの?」

 

胡桃「いや、キーホルダープレゼントしてくれたから…」

 

「それはそうだけど……」

 

入力を終え、表示された名前…。これが彼と胡桃のユーザーネームとしてこのゲームのランキングに載る訳だが…。シャベルマンは恥ずかしい…。出来れば直して欲しかったが、胡桃の足を引っ張り続けた彼はそれを言えなかった。

 

 

 

 

「ってか、くるみんって何さ」

 

胡桃「本名書くのもアレだし…なんか可愛いじゃん」

 

「…ふむ」

 

『可愛いのだろうか?しかもほとんど本名のままじゃないか…』そんな言葉が口から出そうになる彼だったが、グッとこらえて頷く。モニターには今入力してばかりの二人の名前を含めた、五組のプレイヤーの名前が表示されていた。

 

 

 

 

~~~~

 

 

1.『まふー & カナン』(総撃破数300体)

 

2.『家賃滞納者』(総撃破数230体)

 

3.『対ゾンビ精鋭部隊』(総撃破数136体)

 

4.『りー & るー』(総撃破数112体)

 

5.『くるみん & シャベルマン』(総撃破数90体)

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

 

胡桃「三位の人の名前がめっちゃ本気っぽいのに一位と二位がゆるゆるで笑っちゃうな。対ゾンビ精鋭部隊がただの家賃滞納者に負けんなよ…」

 

「一位は僕らの三倍以上のスコア…やっぱり上には上がいますな」

 

胡桃「これ、100体越すのも難しいみたいに言われてたのに…すげぇ人はいるもんだなぁ。勝てる気しねぇ」

 

他のプレイヤーとの実力差を痛感した二人はその場をあとにする…。

ゲームセンターの外に出た二人は昼食をとる場所を決めるべく、街中をぶらぶらと歩くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「いやぁ~結構楽しめたなぁ♪」

 

歩道を歩きながら胡桃が笑う。暇潰しに立ち寄ったわりには充実した時間を過ごせたので、彼も満足だった。強いていうなら、最後のゲームで胡桃の足を引っ張ってしまった事は心残りだが…。

 

 

 

(まぁ、次までに練習しておこう…。次があるかどうかは知らんけど…)

 

またあそこに胡桃と来れるのかは分からないが、とにかく練習する事は決めた。心の中で彼がそう決意すると、不意に胡桃が話しかけてくる。

 

 

 

胡桃「…なぁ?」

 

「ん?」

 

 

 

胡桃「もしも…もしもだぞ?あのゲームみたいな化け物だらけの世界に生まれたら、お前はどうする?」

 

突拍子のない質問をぶつける胡桃…。

あんな化け物だらけの世界など想像するだけで恐ろしいが、彼は彼なりに自分がどう動くかを想像してみた。

 

 

 

「たぶん…どうにも出来ないかな。適当に逃げ回って…何日かした後に殺されて終わりだと思う」

 

胡桃「諦めるの早いな…。もうちょっと明るい未来を見ようぜ?」

 

「って言われてもねぇ…。」

 

あんな化け物を前にしてずっと生き延びる自信などない。

現実的な言葉を放つ彼だったが、胡桃はそれをつまらなそうに見ていた。

 

 

 

 

胡桃「あたしは…あんな世界でも出来るだけ明るく生きていたいな。確かに毎日生き抜くことで精一杯になっちまうだろうけど…それでも、可能なだけ楽しく生きていたい」

 

「……じゃあ、僕はそれに手を貸す。君が毎日笑って過ごせるよう、全力を尽くしてあげよう!」

 

拳を握りしめながら彼が言う…。それを見た胡桃はおかしそうに笑い、彼の頬をペシペシ叩いた。

 

 

 

 

胡桃「よしっ!じゃあ、あたしの為に犠牲になってくれ!!」

 

「ん~。捨て(ごま)になるのは嫌なんだが、まぁ…胡桃ちゃんの為ならそれも良いかな……」

 

胡桃「従順な部下を持つことが出来てあたしは幸せだよ…。もしもの時の対策はこれでバッチリだな♪」

 

胡桃がニコニコと微笑みながら彼の背を叩く。『あたしの為に犠牲に…』それが本気なのか冗談で言っているのか、彼には分からない。だが、今はこうしてふざけあうのが楽しいので良しとした。

 

 

 

 

二人じゃれ合いながら歩いていると、小さな喫茶店の横を通り過ぎる。

すると胡桃はピタッと足を止め、その店の方へと振り向いた。

 

 

 

 

胡桃「あっ…昼はあそこにしようぜ。オススメだって教えてもらったんだ」

 

「へぇ……誰に?」

 

まさか男ではあるまいな…。

胡桃の彼氏でもなんでもないのに、彼はそれを気にして尋ねる。

問われた胡桃は彼の顔を見つめ、それに答えた。

 

 

 

 

胡桃「りーさんだけど?」

 

「…そう。じゃあ、入ろっか」

 

胡桃を連れてそこに向かい、茶色の扉を引く…。すると扉の上に付けられていたベルが揺れ、チリンチリンという音を響かせた。店内はそこまで広くない感じだが、どうやら二階にも席があるらしい…。だが一階の席がいくつか空いていたので、彼と胡桃は一階…その隅の方にある席へと座った。

 

 

 

 

 

 

 

 




そういうわけで、彼とくるみちゃんは喫茶店にてランチタイムです。
(これはどうみてもデートだ。とか言っちゃダメ)

次回は本編で彼との絡みがゼロだった人も登場しますので、その辺にもご注目下さい(*´-`)

くるみちゃんとのデートは次回で終わりとなりますがまた後日、別の人物ともこうしたイベントをする予定です。
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