軌跡〜ひとりからみんなへ〜   作:チモシー

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六話目です!
今回は本編で彼との絡みがゼロのあの人達もちょこっとだけ出てきます!



前回までのあらすじ『これからランチタイム』


第六話『また一緒に…』(くるみ)

 

 

 

胡桃「ふぅ…外暑かったから、涼しくて気持ちいいな」

 

木製の丸いテーブルをはさみ、彼と向かい合うようにして座る胡桃。

彼女の言う通り店内は冷房が効いているらしく、日差しの強い外からやって来た身としてはかなり涼しかった。

 

 

 

胡桃「えっと、お前は何にする?」

 

テーブルに置かれていたメニューを二人一緒に見えるようにして開き、胡桃が尋ねる。彼はそれに目を通したが、思っていたよりもメニューが豊富だ…。このままではかなり長時間悩むことになるかも知れない…。

 

 

 

 

「…オススメってなんだろうね?」

 

胡桃「りーさんはケーキが美味しいって言ってたけど、それはデザートだしなぁ…。ん~……あたしはオムライスにする」

 

メニューの一部を指差しながら胡桃が告げる。

載せられていたそのオムライスの写真はかなり美味しそうで、彼もそれにしようかと頭を悩ませた。

 

 

 

 

「…同じのにしようかな」

 

胡桃「えぇっ!?二人で来てるんだし、別のにしようぜ?」

 

そっと呟くと胡桃に文句を言われたので、彼はオムライスとは別の目ぼしい品を探す…。だが真面目に考えてると日が暮れそうなので、彼はたまたま目についたカレーライスを指差した。

 

 

 

「…これ」

 

胡桃「おお、良いんじゃない?オムカレーに出来るし♪」

 

『するのかよ』と彼はツッコミかける。

…というか、彼女は二人で互いのメニューを分け合う気なのだろうか?そんな事を始めたらいよいよただのデートになるが…。

 

 

 

 

 

(まぁ…大歓迎だけどね)

 

ふふっと笑い、彼は店員が出してくれた水を飲む。

ヒンヤリとした水は外から来た彼にとってやたらと美味しく感じ、思わず一気に飲み干してしまう。瞬く間にグラスを空にした彼はそばにあったピッチャーを手に取り、二杯目を注いだ。

 

 

 

胡桃「あたしも~」

 

飲み干してしまったのは胡桃も同じらしく、空のグラスを彼に向ける…。彼は自分のグラスを満たしてから胡桃のグラスに水を注ぎ、軽くなったピッチャーを置いた。彼に水を注いでもらった胡桃は直ぐ様二杯目を飲み始め、それを飲み干す。そうしてから彼女は立ち上がり、どこかへ歩いていった。

 

 

 

 

「どこいくの?」

 

胡桃「…トイレ」

 

「ゲームセンターでも行ってたでしょ?水飲みすぎじゃない?」

 

胡桃「うるさいっ!」

 

微かに赤く染まった顔を彼に向けてから怒鳴り、胡桃は奥にあったトイレの方へと消える。一人残った彼は別に頼むわけでもないが、暇潰しにともう一度メニューを見ていた。

 

 

 

 

 

 

(…ほんとに品数が多いな。りーさんのオススメはケーキなんだっけ…。もし食べられそうなら、あとで胡桃ちゃんの分とセットで頼んでみるか)

 

所持金にもまだいくらか余裕がある…。

せっかくだし、このままケーキも奢ってしまおう。

そう思ってから視線を前に向けると、二階へと続く階段から一人の少女が降りてきた。

 

見たところ10才前後だろうか…。薄いベージュ色の髪をした、たれ目の少女。頭には茶色い髪留めを動物の耳のようにつけており、とても可愛らしかった。

 

 

 

 

 

少女「っ……ぅ……」

 

少女は一階に降りてきてからというもの、辺りをキョロキョロと見回している。その様子はどこか焦っているかのようにも見えたので、彼は心配になり、そばに寄って声をかけた。

 

 

 

 

「大丈夫?どうかしたの?」

 

少女「えっ…と……」

 

突然話しかけられた事に驚いたのか、少女があたふたとする。

その様子を見た彼は自分がいけない事をしている気になって焦るが、その時少女が声を震わせながら答えた。

 

 

 

 

少女「トイレ…探してて…。一階にしか、ないみたいだから…」

 

彼に怯えているのか、単純に人見知りなのかは分からない。

ただ少女はあまり長く彼と話している事は出来なさそうだったので、彼は先程胡桃が向かった方を指差して言った。

 

 

 

「トイレならあっちだよ」

 

少女「あ……ありがとうございます」

 

ペコッと頭を下げ、少女はトコトコと駆けていく。

それを見届けた彼は静かに席に戻り、胡桃の帰りを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「……ただいま」

 

「おかえり」

 

少しして、胡桃が席に戻る。

その顔はどこか青ざめているようにも見え、彼は心配そうに聞いた。

 

 

 

 

「顔色悪いけど大丈夫?調子悪い?」

 

胡桃「いや……違うけど……その……」

 

席についた胡桃は辺りを見回してからそっと顔を伏せ、気配を殺す。

まるで何かを警戒しているかのような彼女を見て、彼は苦笑いした。

 

 

 

 

「……どうしたの?」

 

気になって尋ねる…。すると胡桃はテーブルに頭を伏せたまま上目遣いで彼を見つめ、小さな声で答えた。

 

 

 

 

胡桃「トイレで…りーさんの妹に会った…」

 

「りーさんの妹?」

 

胡桃「うん……今、りーさんもここにいるらしい。きっと二階の席だ」

 

怯えた様子で胡桃が言う…。だが、何故悠里がここにいるだけでそんなになるのかと思い、彼は首を傾げた。

 

 

 

 

「…何か問題があるの?」

 

胡桃「あるよ…!あたし、今日は家族と買い物に行くって言ってりーさんとの勉強会を断ったんだぜ!?それなのに、お前なんかとこんなところでランチタイムを…なんてのがバレたら………」

 

タラタラと冷や汗を流す胡桃…。ちょうどその時、先程彼と話していたあの少女がトイレから出てきて胡桃の元へと歩み寄ってきた。胡桃はそっと顔を上げ、少女の方を見る。

 

 

 

 

少女「くるみ、話ってなに?」

 

少女の第一声はそれだった。恐らく、トイレで会った時に『後で話がある』とでも言って呼んでおいたのだろう。

 

 

 

(っていうか、この子がりーさんの妹なのか…。)

 

先程トイレの場所を教えてあげた少女が悠里の妹だと知り、彼はそっと微笑む。この街は広いように見えるが、意外とそんなことはないのかも知れない。

 

 

 

 

胡桃「るー、あたしがここにいるのはりーさんに内緒だぞ?」

 

るー「うん、わかった。でもどうして?」

 

『るー』と呼ばれたその少女は小さく頷き、不思議そうな顔をする。胡桃は相変わらず冷や汗を流しながら目を細め、向かいに座る彼の事をそっと見つめた。

 

 

 

 

胡桃「勉強会サボってコイツと一緒に出掛けてるなんてことがバレたら…あたしはりーさんに怒られる。怒った時の姉ちゃんの怖さはお前も知ってるだろ?」

 

るー「りーねー怖くないよ。優しいもん」

 

胡桃「あぁ…妹には激甘だったな…。とにかくっ!お前は何も見なかった!!あたしがここにいるのも、コイツの存在も、全部忘れろっ!」

 

ビシッと彼を指差し、るーに告げる。

るーは胡桃に指差された彼をじっと見つめ、胡桃に尋ねた。

 

 

 

 

 

るー「…かれし?」

 

るーが両手を合わせ、ニコッと笑う。

当然、胡桃はそれを即否定した。

 

 

 

胡桃「違うっ!!ただの友達っ!けど二人だけでいるこの状況を見られたら誤解されそうだから秘密にしたいんだよ!」

 

るー「そっか、わかった。じゃあくるみ、お兄ちゃん、またね♪」

 

 

 

胡桃「今度お菓子持っていってやるから、内緒だぞ~?」

 

「またね」

 

二階に戻る少女をお菓子で買収する胡桃と、手を振る彼…。るーは二人の方に振り向いてニッコリ微笑み、手をパタパタと振り返した。

 

 

 

 

 

胡桃「くそ…予想外の出来事に出くわしたせいで疲労が…」

 

バタッとテーブルに倒れ、胡桃が呻く。

一方、彼はグラスに注いだ水を飲みながら呑気に笑っていた。

 

 

 

「妹さん、可愛い子だね」

 

胡桃「……犯罪に手を染めるなよ?」

 

ただ思ったままの感想を言っただけなのに、胡桃はまるで彼がいかがわしい事を考えているかのような言い方をする。思わず飲んでいた水を吹き出しそうになるが、彼は堪えて咳をした。

 

 

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!!し、失礼なことを…」

 

胡桃「いや、てっきりロリコンの気があるのかと思って……」

 

「そこまでヤバい男じゃないっての。まぁ、るーちゃんがあと五~六年分成長したら考えるけど…」

 

胡桃「五~六年ねぇ……。その頃にはお前も二十を越えてるってことを考えると、やっぱり危ないよな…」

 

呟く胡桃の発言を聞き、彼も苦笑いする。

五~六年というのは冗談のつもりだったのだが、胡桃はそれに気づいてくれたのだろうか?いや……この様子だと気づいてないだろう。

 

 

 

 

その後一人の女性店員が二人のそばに歩みより、注文していた二つの料理を順にテーブルへと置いていく。どちらもメニューの写真で見るより美味しそうに見えたが、今の胡桃はそれどころではない…。

 

 

 

女性店員「ごゆっくりどうぞ~」

 

料理をテーブルに置いてから軽く頭を下げ、女性店員は二人から離れていく。彼はテーブルにあったスプーンをさっそく手に取り、注文したカレーライスを食べる…。真っ白なライスにかけてあるルーは少しピリッとするが、ただ辛いだけでなく深みがあってとても美味しかった。

 

 

 

 

 

「……うま」

 

胡桃「そう…よかったな」

 

死んだ目をしながら胡桃が言う…。

彼女もスプーンを片手にオムライスを食べているが表情は曇ったまま…。

美味しくなかったのだろうか?

 

 

 

 

「マズイの?」

 

胡桃「へっ?いや…うまいよ。凄くうまいけど…味に集中できない」

 

スプーンで取ったオムライスを口に運ぶと、それをモグモグ噛みながら胡桃は振り向く。どうやら、二階から悠里が来るのではと不安らしい…。

 

 

 

 

「内緒にしてくれってるーちゃんに言ったんだから、そこまで警戒しなくても……」

 

胡桃「っ!?静かにっ!頭を下げろっ!!」

 

胡桃が彼の頭をガシッと掴み、無理やりに下げさせる。

勢いあまって顔面をカレーライスに突っ込みそうになるが、彼が首に力を入れる事でそれはギリギリ避けられた。

 

彼と胡桃が出来るだけテーブルに顔を伏せて気配を殺していると、聞き覚えのある声が二階から一階へと降りてくる…。

 

 

 

~~~

 

悠里「ふぅ…美味しかったわね♪」

 

由紀「ほんとにご馳走になって良かったの?」

 

悠里「これくらいいいわよ。その代わり、午後からの勉強も頑張りましょうね?」

 

由紀「うっ……らじゃ~……」

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

胡桃「くっ!ゆきのヤツもいんのかよ!!」

 

「そう言えば、一緒に勉強会するって言ってたもんな…」

 

頭を胡桃に押さえられながら彼が呟く…。

鼻にカレーがつきかけているのでもう少し力を緩めてほしいと願う彼だが、胡桃は決して力を緩めない。

 

 

 

 

~~

 

女性店員「では、お会計の方が――――」

 

悠里達がレジの前に立ち、店員が会計を始める…。

るーが由紀とじゃれる中、悠里は財布を取りだして会計を済ませ、二人を連れていった。

 

 

 

悠里「ゆきちゃん、るーちゃん、いくわよ」

 

由紀&るー「は~い」

 

 

 

 

…チリリンッ

 

扉についていたベルの音が店内に響く…。

どうやら、三人は行ったらしい…。胡桃はそっと顔を上げてそれを確認すると、安堵のため息をついた。

 

 

 

 

 

胡桃「ふぅ……これで一安心」

 

言いながらスプーンを手に取り、当たり前のように彼のカレーライスを一口食べる胡桃…。あまりに自然な流れだったのでツッコミ忘れたが、カレーを食べる彼女の笑顔がとても幸せそうでツッコむ気も失せる。

 

 

 

胡桃「おっ、本当にうまいな♪」

 

「でしょ?」

 

悠里達を警戒する必要もなくなったところで、彼も改めてカレーを食べ進めていく。すると胡桃がスプーンをくわえながら、食べていたオムライスの皿を彼の方へと寄せる。

 

 

 

 

胡桃「こっちも食べる?」

 

「…いいの?」

 

胡桃「お前の一口もらっちゃったし、別にいいよ」

 

 

それは彼にとって、とてもありがたい申し出だった…。

と言っても、別にオムライスが食べたかった訳ではない。ただ、胡桃の方からそう言ったことを提案してくれたのが嬉しかった。

 

その喜びを噛み締めながら、彼は自分が使っていたスプーンを胡桃に渡し、あるお願いをする。ハッキリ言って断られると思っているが、ダメで元々だった。

 

 

 

 

 

「あーんしてもらって良いですか?」

 

胡桃「……はぁ?」

 

蔑むような目を向ける胡桃…。

まぁ当然の結果だなと思い、彼はスプーンを引っ込める。

だが意外な事に胡桃はそのスプーンを彼から奪い取り、目の前のオムライスを一口分すくった。

 

 

 

 

 

胡桃「今回は奢ってもらったからな…特別だぞ?」

 

オムライスの乗ったスプーンを持ち、胡桃が言う。

彼女は頬を赤く染めながらチラチラと彼の事を見つめており、恥じらっているのが伝わってきた。

 

 

 

 

「ありがとうございますっ!」

 

胡桃「そういうのはいいからっ!ほら、あ~ん」

 

その言葉を合図に彼が口を開ける…。

胡桃は周りの視線を警戒しながらもそれを彼の口に運び、オムライスを頬張らせてからスプーンを引き抜いた。

 

 

 

 

胡桃「はい終わりっ!もうやんないからな…」

 

引き抜いたスプーンを彼の皿に戻し、胡桃は自分の食事を再開する。

一方、彼は胡桃にもらったそれをニコニコしながら噛み締めていた。

 

 

 

 

「ヤバい…今までで一番美味しいオムライスですよ、これ」

 

胡桃「はいはい…そりゃよかったな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

それから約30分後…食事を済ませ、更に食後のデザートにケーキを食べた二人はその店をあとにし、再び街中をぶらついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「わるかったな、ケーキまで奢ってもらっちゃって」

 

「別にいいよ。せっかくの機会なんだし…」

 

 

彼は胡桃と並びながら気の向くままに街を歩き、気になった店に立ち寄っていく。書店や雑貨屋…更には女性向けの衣服店も見て回ったが、彼も胡桃も特別気に入ったものはなかったらしく、何かを買うことはなかった。

 

気に入った物がないんじゃ胡桃も退屈だろうと思う時もあったが彼女は終始ニコニコしており、彼との外出を楽しんでいるようだった。彼もまた胡桃との外出が楽しかったため、何時もより笑顔でいる事が多かった。

 

 

 

 

 

 

そうして二人が遊んでいると、次第に日が暮れ始める…。

もうそろそろ帰らなくてはいけないので、二人は街の中心から自分達の家の方向へと歩き出した。

 

 

 

~~~~

 

胡桃「ん~、思ってたよりは楽しめたな!」

 

「それはよかった。なら後日、またご一緒してくれますか?」

 

胡桃「うむ、考えておいてやろう」

 

会話を交わしながら歩いていると、行きに入ったゲームセンターの前を通り過ぎる。胡桃はそのゲームセンターをチラチラと見つめ、前を歩く彼の手をガシッと掴んだ。

 

 

 

 

「ん?なに?」

 

胡桃「最後にあと一個だけやりたいのがあってさ…いいかな?」

 

「うん、別にいいよ」

 

特に断る理由もなかったので、彼はそれを了承する。

胡桃は嬉しそうに笑いながら彼の手を引いてゲームセンターの中へと入り、その奥にある一つの機械の前に足を止めた。

 

 

 

 

 

「…これ?」

 

胡桃「そう、これ。いいでしょ?」

 

胡桃が彼を招いたのは大きなプリクラ機…。

彼も心の中で胡桃と撮れたらなぁ、とは思っていたが、まさか本人から誘われるとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

「胡桃ちゃんがいいなら…構わないけど」

 

胡桃「よしっ、じゃあ入ろう!」

 

彼の背を押しながら胡桃もその中へと入る。

プリクラ機の中は軽い個室のようになっており、狭い空間に胡桃と二人きりになった彼は緊張を隠せないものの、意識を強く持ってコインを入れた。

 

 

 

 

チャリンッ!

 

 

胡桃「あっ!あたしが払うからよかったのに」

 

「いえ…ここは払わせて下さい…」

 

胡桃と二人きりでの撮影など願ってもない機会。

たかだか数百円の出費など痛くも痒くもない。

 

 

 

 

胡桃「…ありがと。んじゃ、まずは背景だけど…」

 

撮影前にまずは背景を決めるらしく、胡桃がタッチパネルを操作しだす。彼はそれを横から見ていたが背景の種類は中々多く、胡桃も悩んでいるようだった。

 

 

 

胡桃「…一応聞くけど、どれがいいとかある?」

 

彼の方に目線を向ける胡桃…。尋ねられた彼は迷うことなくハート型の背景を選択し、満足そうな表情をした。

 

 

ピッ…

 

 

 

 

胡桃「そうだろうなと思ったよ。今日一日でお前の行動もだいぶ読めるようになってきたな…」

 

背景選択を終え、胡桃が小さく呟きながら残りの設定を終わらせにかかる。すると彼女はタッチパネルを弄りながらチラッと彼を見て、真剣な表情をしながら言った。

 

 

 

 

胡桃「あたしたちさ、どっかで会ったことある?」

 

「…なにそれ、口説いてる?」

 

胡桃「んなわけないだろ…。なんかお前のことさ、けっこう前から知ってるような気がして…」

 

言いながら胡桃はタッチパネルから離れ、彼の横に立つ。どうやら設定が終わったらしい。あとは撮影を待つばかりだ。

 

 

 

 

『ゴー……ヨン……サン……ニイ……』

 

撮影までのカウントダウンが始まり、二人はモニターに映るように肩を並べる。いよいよカウントが終わりかけ撮影だというその刹那、『どこかで会ったことあるか』という胡桃の問いに彼は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕もそんな気がしてた」

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「…そっか」

 

 

 

パシャッ!!

 

シャッター音が鳴り、一枚目の撮影が終わる。

その後、二枚目・三枚目と撮影は続き、全てを撮り終えた二人はプリクラ機の外へと出た。どうやら撮影の後、外にあるパネルを用いて写真に好きなように落書きが出来るらしい。

 

 

 

 

 

胡桃「さて…落書きはあたしがやっておくからさ、飲み物頼んでいい?」

 

「了解、何がいい?」

 

胡桃「あ~……お茶とかそんなのでいいや」

 

「…わかった」

 

胡桃に差し出された小銭を受け取り、彼は自動販売機を探しにいく。

それを見届けた胡桃は一人残って写真に落書きを始め、写真が完成するのを待つ…。そうして出来上がった写真を取り出した胡桃はその出来に満足し、にっこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「さて、ここまででいいよ」

 

「うん、お疲れさん」

 

ゲームセンターから出た彼と胡桃は夕暮れの中を並んで歩き、遂に胡桃の家の前へとたどり着く。送ってもらった胡桃はポケットからあるものを取り出し、それを彼に手渡した。

 

 

 

「これって…」

 

渡されたのはさっきゲームセンターのプリクラ機で撮った写真のようだが、裏返しにされていてどんな具合に撮れたかが確認出来ない…。彼はそれを裏返してみようとしたが、胡桃がそれを慌てた様子で止めてきた。

 

 

 

 

胡桃「うわぁっ!?まてまてっ!確認はあたしが家に入ってからにしろ!」

 

「?……わかった」

 

何故そんな事を言うのかは分からないが、とりあえず頷いておく。胡桃は彼の返事を聞いてから自らの家の扉を開け、パタパタと手を振った。

 

 

 

 

 

胡桃「今日はありがと!わりと楽しかったぜ♪」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

胡桃「…またな!」

 

 

バタンッ

 

家の扉が閉まり、彼は道路に一人たたずむ…。

辺りが次第に暗くなってゆく中、彼は自分の家に向けてのんびり歩きながら受け取った写真を裏返し、どんな感じかを確認した。

 

 

 

 

 

「……ははっ」

 

一枚の紙に分割するかのように、小さな数枚の写真が載っている。

そのどれにも胡桃の落書きが施されており、色々な言葉が書かれていた。

 

 

 

 

一枚目…星形の背景に写る二人の内、彼にのみ矢印が伸ばされていた。その矢印の根本には『変なヤツ!』と、ただ一言だけ大きく書かれていた。

 

 

二枚目…写真の額縁のようなフレームに写る笑顔の二人の上の方、そこには今日の日付が書かれており、その下に『なんだかんだで楽しかったり?』という文字がある。

 

 

そして次の三枚目が最後になるのだが、この写真は彼が選んだハート型の背景のやつだった。大きなハートの中に収まるように肩を寄せた二人の下…そこに書かれていた真っ赤な文字を見た瞬間、彼の表情が固まる…。

 

 

 

 

 

 

『もうデートでいいや♪』

 

 

胡桃の文字でハッキリと書かれており、シャベルの落書きも添えられていた。あれだけデートではないと言っていた彼女がこんな事を書いていたと思うと胸が無性に高鳴り、テンションが上がる。

 

彼は軽い足取りで自分の家に戻り、すぐさまベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

ベッドに顔を埋めながら、遅めの挨拶をする。

今現在、彼は一人で暮らしているので返事を返す人間はいないのだが、その声を聞いてからそばに寄ってくる者はいた。

 

 

 

「今日は楽しい一日だった…。どう楽しかったか聞きたいか?」

 

茶色い毛を纏ったその子はベッドに寝そべる彼の頭にのし掛かり、短い尻尾をパタパタと振る。彼とこの家で暮らすもう一人…いや、一匹の住人。茶色い毛が大体を占めていながらも口周りや腹部などの毛は白いその犬の犬種は柴犬であり、彼はこの犬の事をこう呼んでいた。

 

 

 

 

 

「よし、じゃあそこに座りな。太郎丸」

 

 

 

太郎丸「わんっ!」

 

太郎丸と呼ばれたその犬は小さな体で跳ね回り、今日一日の思い出話をする彼の前へと座った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

一方その頃…胡桃は自らが帰宅した事を家族に知らせた後、自室へと戻ってベッドに倒れ込んでいた。ベッドに横たわった胡桃は着替えるのも後回しにして財布を取り出し、その端に付いているシャベルのキーホルダーを見つめる…。

 

 

 

胡桃(変なキーホルダーなのに…なんか落ち着くんだよな…)

 

揺れるキーホルダーを指先でつつき、にっこりと微笑む。

彼に渡されたその瞬間では微妙な表情をした胡桃だが、時間が経つにつれてこのキーホルダーを気に入ってきていた。そして、このキーホルダー同様に気に入っていている物がもう一つ…。胡桃は財布をベッドの上に置いてから上着のポケットに手を入れ、中にしまっていたそれを取る。

 

 

 

 

 

胡桃(結局、一緒に撮っちゃったなぁ…)

 

手に取った一枚の写真…それは彼と共に取ったプリクラの物であり、彼に渡したのと同様の物だった。自分用にもと思い二枚印刷したのだが、改めてそれを眺めているとなんだか気恥ずかしくなってしまう。

 

 

 

 

胡桃(デートでいい…ってのは書かなくてもよかったかも…。あぁ…なんであたしはこんなことを書いてしまったのか……)

 

自分の文字で書かれたそれを見て胡桃は一人顔を赤く染める…。

今回の外出はデートじゃないとあれだけ自分で言っていたのに、最終的に認めてしまった…。それほどに彼との時間が楽しかったから…。

 

 

 

 

胡桃(知り合ってばっかなのに…ちょっと一緒に出かけただけなのに……なんで、こんなにドキドキすんだろ…)

 

そばにあった枕を胸に抱え、その写真を…そこに写っている彼を見つめる。本人にも言った事なのだが、やはり彼とは会ってばかりの気がしない。たとえ写真越しとはいっても彼を見ていると胸がギュッと痛くなり、顔が熱くなる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胡桃(やば……もしかして……あたし………)

 

 

 

 

胡桃「…はぁぁ」

 

深くため息をつき、ゴロンと寝返って写真から目を逸らす。

写真にあんな言葉を書いてしまい、彼と次に会った時にどんな顔をしようかとか色々と考える事はあったが…それでも今日は楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

胡桃「また……一緒に行きたいな」

 

 

 

 

 

 




今回は本編で彼と関わる事のなかったりーさんの妹の『るーちゃん』と『太郎丸』を登場させました。

この世界での『るーちゃん』は主人公である彼以外のメンバーとは面識がある設定なので、胡桃ちゃんとも仲が良さそうでしたね(*^^*)当初は登場させる予定はありませんでしたが、せっかくの平和な世界なので登場させる事に!


『太郎丸』…こちらも登場させる予定はありませんでしたが、この世界での主人公くんは一人暮らし…。となると帰宅した時が少し寂しいので、場を和ませる為に登場させる事となりました!(一人と一匹暮らしです)


今回で胡桃ちゃんとのデート(公認)は終わったので、次回からはまた別のヒロインとのイベントです(彼がプレイボーイみたいになってますね)
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